SDGsやカーボンニュートラルといった話題が多く取り上げられるようになり、企業の環境活動にも意識の高まりが見られる昨今。こうした社会情勢になる以前よりマテリアルリサイクル事業に取り組んでいるのが、株式会社エコログ・リサイクリング・ジャパンだ。

マテリアルリサイクルとは、廃棄物を原材料として再利用するリサイクル方法だ。株式会社エコログ・リサイクリング・ジャパンでは1994年の設立以来、ずっとマテリアルリサイクル事業に取り組んできた。リサイクル意識が今ほど高くなかった時代の苦労を経て、現在では問い合わせが増加している。エコログ・リサイクリング・ジャパン設立からの歩み、事業について本ストーリーで伝えます。

繊維製品を回収し、再資源化。単一資材を活用し再商品化する事業を展開

エコログ・リサイクリング・ジャパンが手掛けているのは、繊維製品の回収循環型マテリアルリサイクル。衣類を中心とした廃棄される繊維製品を回収し、再資源化・再商品化して再び世に送り出している。

創業当初はポリエステル100％しか取り扱えなかったが、技術開発により、現在ではポリエステル綿やウール、ナイロンやアクリルなど幅広い素材を回収、リサイクルしている。

企業で不要となった古いユニフォームなどを回収し、再商品化したものを回収元の企業に戻すというサイクルが現在の基本スタイルだ。作られる商品はエコバッグやタオル、手袋、箸などさまざまであり、回収元の企業で使われるほか、ノベルティにも活用されている。

創業社長の先見の明から新会社の設立へ

エコログ・リサイクリング・ジャパンは、1994年に広島県福山市のアパレルメーカー（現在の株式会社ワッツ、弊社の株主）から生まれた会社だ。当時のワッツの社長であり、のちにエコログ・リサイクリング・ジャパンの創業社長となる和田敏男、自社商品のライフサイクルを調査したことが事業の着想に繋がった。創業の2年前、1992年のことだ。

この調査により、購入され着古された衣類の多くが、タンス在庫か一般廃棄物として廃棄されていることが判明する。この現状を見た和田は「メーカー責任として、自分たちが生産した製品を最後まで面倒を見るべき時代がくるのではないか」と考え、その未来に対応すべく、社内にアイディアを募った。しかし、そのときに良いアイディアが提案されることはなかった。現エコログ・リサイクリング・ジャパン取締役副社長の田邉和男は、「正直、彼が言っている意味がよくわからなかった」と当時を振り返る。

転機が訪れたのは、毎年行われていたヨーロッパ市場調査での出会いだ。93年、ドイツ南部で衣類をリサイクルしている企業があるとの情報を得、その企業を訪問。環境先進国ドイツへの訪問は1年間で5回に及び、ヨーロッパの環境問題への取り組みや考え方を学んだ。

（回数を重ね、環境先進国の取り組みを学んだ）

そこで出会ったのが、現在エコログ・リサイクリング・ジャパンが取り組むマテリアルリサイクルだ。当時の日本ではケミカルリサイクルに関する新聞記事が掲載されることはあったが、マテリアルリサイクルはまだ知られていなかった。

しかし、93年当時、すでにヨーロッパではマテリアルリサイクルが最も合理的であり、ケミカルリサイクルは主要なリサイクルの選択肢から外れていたという。ケミカルリサイクルはポリエステルを解重合するため、消費するエネルギー量が莫大になる。そのため、総合的に見たときにリサイクルの意味がないというのがヨーロッパの考えだった。

「合理性に加えて、リサイクルする企業側の事情もありました。ケミカルリサイクルは規模が大きすぎるため、中小企業が取り組めるものではない。中小企業が取り組むのであればマテリアルリサイクルのほうがいいと和田は考えた。」（田邉）

この回収循環型マテリアルリサイクルのシステムを日本国内にも広げたいと考えた和田。しかし、地方の中小企業だけで全国展開を実現するのは難しいという結論が出る。そこで、当時ワッツと取引の多かった東レ株式会社、伊藤忠商事株式会社、株式会社アイリスに構想を説明する。3社は「日本もいずれは企業も環境問題に対応しなければならない時代がくる」という和田の意見に賛同し、出資を決断した。

「和田敏男は、出資判断が下されなければ事業立ち上げを断念していたと話していました。ご協力をいただけたことで、一歩を踏み出せたのです」（田邉）

（当時の親睦会、会議の様子）

「取り組むべき事業だ」との強い信念が、苦難の時期を乗り越える原動力に

会社設立後もエコログ・リサイクリング・ジャパンの苦難は続いた。まずはリサイクル後に生み出すポリエステル100％原料を使った資材の開発だ。ボタンは出資元企業であるアイリスが開発に着手。不織布芯地は倉敷繊維加工株式会社に、織物芯地は東海サーモ株式会社に開発を依頼した。

着々と開発を依頼していくなかで、特に苦労したのはポリエステル100％単一素材によるファスナーの開発だった。YKK株式会社に依頼をしたが、ファスナーには製造者責任を負うべき品質基準が定められており、ポリエステル単一素材ではYKKの基準に満たなかったのだ。

しかし、最終的にYKKは基準を満たすエコログファスナーの開発を実現する。エコログ・リサイクリング・ジャパンがヨーロッパですでにある単一素材のファスナーを輸入し、再度挑戦を打診したことで上げられた成果だった。

回収した衣類によるリサイクル資材の開発目途が立った次に課題となったのは、マテリアルリサイクルの取り組みに参画してくれるモノ作り企業集めだ。

「当時はまだ今ほど企業の環境意識が高くはなかったものですから、リサイクルしている会社はおろか、検討している会社もほとんどありませんでした。良い取り組みだがビジネスになるのは思わないという反応が多く、様子見をしている状況が数年続きました」（田邉）

モノ作り企業の理解促進には、出資企業である東レや伊藤忠商事が力を貸した。高い信用力を誇る大手企業が共に営業することで、参画企業が徐々に増加していったのだ。

しかし、モノ作り企業が懸念したように、エコログ・リサイクリング・ジャパンの事業がビジネスになるまでにはさらに時間を要すことになる。背景には、エコログ・リサイクリング・ジャパンが資材開発や技術開発に資金を投入しており、製造されたエコログ商品の販売にまでなかなか注力できていなかったことも挙げられる。

1998年に京都議定書が結ばれ、環境意識が社会的に高まったことで、環境配慮の取り組みへの企業の意識が変わる。しかし、それでも利益度外視で事業を続ける日々が続いていた。諦めることなく突き進めたのは、ひとえに創業社長の「何が何でもやり遂げる」という強い思いとリーダーシップがあってのことだった。

そんな思いもあり、研究開発を進めながら、エコログ事業の立ち上がりも見せた。エコログ事業では、アパレル製品からスタートし株式会社アオキインターナショナル（現：株式会社アオキ）様の本店店舗でエコログコーナーを設けて商品発売。さらに、2000年には株式会社セブン-イレブン・ジャパン様の店頭ユニフォームにエコログ企画ユニフォーム第一号として採用いただくなど、事業として困難な状況が続くも明るい話題はあった。

（当時の株式会社アオキインターナショナルで並んだ様子）

しかし、そんな社長が2004年に急逝する。

「株主である東レ、伊藤忠商事側の責任者とお会いしたところ、『エコログ・リサイクリング・ジャパンの事業をどうするつもりなのか』と心配のお声をいただきました。我々の答えは『当然、継続する』。その言葉を受け、株主からの全面的なバックアップを継続して受けられることになりました。『わかった、全面的に協力する』という言葉は本当に心強いものでした」（田邉）

時代が変わり、企業・消費者の環境意識が向上。今後も技術開発への挑戦が続く

エコログ・リサイクリング・ジャパンでは、2004年から地元の学校向けの啓蒙活動にも取り組んでいる。現在行われているリサイクルに関する授業の先駆けとして、工場見学を実施。地元にマテリアルリサイクルに取り組む企業が存在していることを紹介している。

その他、2007年から4年間、福山平成大学の非常勤講師を田邉が務め、「企業が求める人間像」の講義を開講。2015年には鹿児島県の食品会社の制服からリサイクル箸を製造。食品会社が鹿屋市内の高等学校に寄付をするという取り組みも行われた。

残念ながら、コロナ禍の影響でこの2年は工場見学の取り組みが十分にはできていない。しかし、未来を生きる子どもたちにこそリサイクル知識を持ってほしい、資源を大切にしてほしいという思いには変わりがない。特に地元の子どもたちにとっては、身近にリサイクル事業に取り組む企業があることを知ることだけでも大きな意味を持つと考え、今後も取り組みを続けていく。

コスト面を考えると、リサイクルに回すより捨てたほうが安上がりになる。こうした排出者である企業の考え方も、時代と共に徐々に変化が見られる。約10年前にESG経営が求められ始め、2015年には国連サミットで「持続可能な開発目標（SDGs）」を中核とする「持続可能な開発のためのアジェンダ」が採択された。政府や自治体だけではなく、民間企業においてもSDGsへの対応の必要性が増しており、取引先から対応を求められることも今後ますます増えていくだろう。

「最近では、『サーキュラーエコノミー（回収循環型マテリアルリサイクル）』の概念が広まったことで、問い合わせが非常に増えています。地道に実践してきた結果が、ようやく実を結んできたといえるでしょう」（田邉）

企業ユニフォームを回収する従来の取り組みに加え、2021年には一般衣料品の回収リサイクルをイトーヨーカ堂の全店舗でスタート。リサイクル対象をユニフォームから一般衣料品、スポーツアパレル製品にも拡大することを目指している。

「繊維品だけではなく、PETフィルムやPETシート、PETボトルなど産業資材への問い合わせも増えています。要望にお応えすべく、産業資材に対応できる生産設備の整備、技術開発に注力し、オンリーワン企業・エクセレントカンパニーを目指してまいります」（田邉）

時代を先取りする形で始動したエコログ・リサイクリング・ジャパンのマテリアルリサイクルの取り組み。時代が追い付き苦難を超えたこれからも、新たなリサイクルニーズに応えるべく、挑戦し続けていく。