うま味調味料『味の素®』や和風だしの素『ほんだし®』といった、数々のロングセラーブランドを持つ味の素株式会社。2023年4月にはマーケティングデザインセンター(MDC)を新設し、大幅な組織改編が行われました。これまでテレビCMをはじめ、マス型のコミュニケーションで成果を上げてきた同社が、大胆な方針転換を決めたのにはどのような背景があったのでしょうか。
本記事では、マーケティングデザインセンターで各ブランドの広報PR活動を担う、植野友生さんと山﨑誠也さん、青木小春さんにインタビュー。広報PR活動のターニングポイントや目的、成果につながっている活動についてお話を伺いました。
味の素株式会社(東京都中央区):最新プレスリリースはこちら

味の素株式会社 食品事業本部 マーケティングデザインセンターコミュニケーションデザイン部 コミュニケーション戦略グループ PRチーム長
PR会社にて、外資系メーカー、国内メーカー、地方自治体等のPRコミュニケーションプランニングを行い、日用消費財メーカーにて美容ブランドのIMC/PR戦略を担当したのち、現職に至る。

味の素株式会社 食品事業本部 マーケティングデザインセンターコミュニケーションデザイン部 コミュニケーション戦略グループ PR担当
2013年に味の素株式会社に入社。入社後、名古屋での家庭用営業を経て、事業部にて「勝ち飯Ⓡ」「丸鶏がらスープTM」「Cook Do®香味ペースト®」等のブランドマネージャーを経験。その後、現職に至る。

味の素株式会社 食品事業本部 マーケティングデザインセンターコミュニケーションデザイン部 コミュニケーション戦略グループ PR担当
2019年に味の素株式会社に入社。入社後東京エリアにて、「Cook DoⓇ」や「味の素KKコンソメ」といった家庭用商品を小売店に販売する営業を担当した後、現職に至る。
PRチーム新設。共感を重視したPESOモデルへ
──本日はよろしくお願いします。早速ですが、広報PRの組織や体制について教えていただけますでしょうか。
植野さん(以下、敬称略):はい、よろしくお願いいたします。味の素株式会社の広報PRを担う組織は、グローバルコミュニケーション部とコミュニケーションデザイン部の大きく2つです。
グローバルコミュニケーション部はコーポレート本部の中にあり、主に味の素株式会社を主語としたコーポレート広報を担っています。一方、コミュニケーションデザイン部は、2023年4月に食品事業本部に新設されたマーケティングデザインセンターの中にあります。広告・オウンドメディア・戦略PRの3つの部署を統合した組織で、その中のPRチームが商品やブランドを主語にした広報PR活動を行っているんです。
私たちPRチームは、実は2023年7月に立ち上がったばかりで、現在は私と山﨑、青木の3人ですべてのブランドの広報PRを担当しています。4月に1名、5月にさらに1名とこれから新しい仲間が増える予定です。
──新たな組織立ち上げは大きな改革ですね。組織改編以外にも広報PR活動におけるターニングポイントはありましたか。
植野:コミュニケーション戦略をマス型からPESO(ペソ)モデルに革新させたことが、転換点になっていると思います。当社はこれまで、テレビCMなど大勢の生活者に向けて情報を届けるマス型のコミュニケーションを得意としてきました。しかし、今はお客さまの興味や価値観が多様化し、誰もが情報を発信できる時代です。情報量が増えている中で、ブランド側の目線で語るだけではなく、「共感されて、どう語られるか」がより重要に。そのような変化に対応するため、「ペイド(有料広告)」や「オウンド(自社メディア)」だけではなく、第三者から取り上げてもらう「アーンド」やSNSなどで自然に広がる「シェアード」など、多角的なアプローチを組み合わせるコミュニケーションが軸になりました。
山﨑さん(以下、敬称略):その中でも特にSNS等のシェアードメディアは、僕たちがこれまでほとんど力を入れてこなかった部分です。第三者によって語られる力は年々強くなってきていて明らかに売り上げにも影響しているのを感じています。
植野:テレビの接触時間は減少傾向にありますが、それでもテレビCMのインパクトは依然として大きく、私たちにとって大切な存在です。そのため、マス型とそのほかの施策をうまく組み合わせて新しいコミュニケーションを生み出し、タッチポイントを増やしています。15秒のCMでは伝えきれない「想い」や「ストーリー」を伝えていくイメージですね。
「食を楽しむ」ウェルビーイングを創出する活動
社会・生活者・ブランドの3つの視点を大切に
──PRチームは立ち上がったばかりということですが、狙いは何でしょうか。
植野:中長期的な狙いとしては、やはり「ファンづくり」が一番だと考えています。一方的な情報発信ではなく、生活者やインフルエンサー、メディアの方々から「味の素っていいね」と自然と共感していただけるような土壌をコミュニケーションの力で育てていくことが、私たちPRチームの目指す姿であり目標です。
一方、短期的な目標には、商品の売り上げに貢献することもあれば、味の素株式会社だからこそ実現できる「新しい当たり前」を広げていくことも含まれます。当社は「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」というパーパスを掲げていますが、「食を通じたウェルビーイング」は一回の発信やコミュニケーションで達成できるものではありません。だからこそ、今の社会や生活者の課題に目を向け、「食って楽しい」「人と食べるご飯がおいしい」と感じてもらえるような体験を広げていく。それが、結果として味の素グループのビジネスにもつながると考えています。
──社会や生活者の課題に目を向けて伝えるということですが、広報PRやプレスリリースにおいてどのようなことを大切にしていますか。
植野:「社会」「生活者」「ブランド」の3つを軸にしたストーリーづくりを大切にしています。「社会」の視点というのは、今の世の中において、なぜそのブランドが必要なのか。社会全体の流れや課題と結びつけて語ることを意識していますね。一方、「生活者」の視点では、生活者の方々が日々の暮らしの中で感じている困りごとやニーズに注目して、そこに対して私たちがどのように応えられるのか。ここに伝えたい価値やメッセージなど「ブランド」の視点を加え、この3つが交わるアイデアを探しています。
『Cook Do®』オイスターソースの例でいうと、夏の季節ならではの社会と生活者の視点を交えて発信。社会の視点ではそうめんのフードロス、生活者目線で考えたそうめんの食べ方のマンネリ化を組み合わせて、本格中華や炒め物だけでなく普段使いできる手軽さを訴求したんです。
参考:藤原竜也さん全面協力、というより ”顔面”協力 !「そうめんを『Cook Do®』オイスターソースで食べるお店」6月19日(水)より渋谷で期間限定オープン
──ほかのブランドについても教えていただけますでしょうか。
山﨑:最近発表を行った、『ほんだし®』の「五季そうさまプロジェクト」があります。日本には四季がありますが、近年夏の暑い時期が長いですよね。そこで、夏と秋の間に「まだなつ」という季節をつくり、まだなつだからこそ楽しめる料理を提案していくプロジェクトです。今後も続くであろう暑く長い夏でも、楽しい食卓をつくっていただきたいという思いを込めて立ち上げました。さまざまな分野の専門家にもコメントをいただいて、しっかり裏付けとなる根拠を提示しながら進めています。
暑さ対策のほかにも、世間の見方を変えることも戦略のひとつです。『ほんだし®』はもともと「味噌汁のだし」というイメージが強かったのですが、味噌汁のだし以外にもたくさんある使い道を、実際に提案していくことにこだわりました。
参考:今年の夏も猛暑予報!日本は四季から「五季」へ。新しい季節「まだなつ」が出現 夏の長期化による暮らしのモチベーション低下や、料理のマンネリを解決!味の素㈱「五季そうさまプロジェクト」発足

──青木さんはいかがでしょうか。今後、力を入れていきたいブランドなどはありますか。
青木さん(以下、敬称略):『Cook Do®』の中華シリーズですね。これまでは、ご家庭で本格的な中華を楽しんでいただけるということをマス広告を中心に多くの方に向けて伝えてきましたが、生活者のライフスタイルは変化し、情報を入手する方法も多様化しています。今後は、マス広告に加えてPR視点でも社会や生活者の悩みに即したコミュニケーションを行っていき、1人でも多くの方に『Cook Do®』のファンになっていただけるように尽力したいと考えています。
参考:「Cook Do®」<極(プレミアム)麻辣麻婆豆腐用>新発売~原料・製法にこだわり続けた「Cook Do®」45年間の集大成~
共創するパートナーのような関係を築く
──インフルエンサー施策にも注力されていると伺いました。そのひとつであるアンバサダープログラム「あじふれんず」について教えていただけますか。
植野:「あじふれんず」は、当社のさまざまな共創していただいているインフルエンサーさんのコミュニティです。皆さんとのつながりをつくり、コミュニケーションの共創を図るための取り組みをしています。
おいしさや世の中のトレンドに対する知見が深い方が多く、私たちが目指す「食を楽しむ」を実現するうえで欠かせないパートナーなんです。
山﨑:また、「あじふれんず」という名前のとおり、関係性は「友だち」をイメージしているんです。一緒に工場見学をしながら普段語られない商品の裏話や商品の良いところ、こだわりなどをお伝えしています。反対に「こうしたらどう?」と改善点などのアドバイスをいただくこともあって、本当に共創するパートナーのような関係を築けていると思いますね。
──ほかにも、インフルエンサー施策として取り組まれていることはありますか。
青木さん:「新商品試食会」もそのひとつです。私たちとしては生活者に近い方にしっかりと情報をお伝えしたいという思いがあり、2023年春夏シーズンの新商品からインフルエンサーの方に向けた新商品試食イベントをスタートしました。
実際に商品を開発した社員が開発背景や味わいの特徴などを説明して、インフルエンサーの方々に試食していただいています。味の素グループの社員とインフルエンサーの方、双方が直接コミュニケーションを取ることができるのが新商品試食会としてはユニークな点ですね。参加後に「これがすごくおいしかったから食べてみて」「こんなこだわりが詰まっているよ」ということを発信してくださることで、今まで届けられなかった情報がどんどん広く届けられるようになっているのを肌で感じています。

プレスリリースは社会や生活者の課題解決が軸
──ここからは、プレスリリースについて詳しく伺えればと思います。これまでに配信したプレスリリースで反響が大きかったもの、反対に思っていたような結果につながらなかったものを教えてください。
植野:やはり社会的関心の高いテーマを軸にしたプレスリリースは、反響が大きい印象です。例えば、昨年11月に発表した「音飯プロジェクト」は、多くのメディア掲載につながりました。食事本来のおいしさを楽しんでほしいという思いから、「スマホを置いて、音でご飯を楽しもう!」をコンセプトに始めたプロジェクトです。「10〜20代の8割がスマホを見ながら食事をしている」という調査結果をあわせて発表したプレスリリースは、多くの人がスマホを見ながらの食事を課題と感じていたことを可視化できました。このように、社会的関心が高いテーマというのは、大きな反響につながることが多いですね。
参考:10〜20代の約8割が「スマホを見ながら食事をしている」と回答!味の素㈱スマホを置いて“音”で食事本来のおいしさを楽しむ「音飯プロジェクト」を始動。
『Cook Do®』オイスターソースで展開したレタスに関連付けたプレスリリースも、反響が大きかったリリースのひとつです。レタスは鮮度が落ちるのが早く、出荷量がもっとも増える10月、11月に廃棄量も多くなるんですよね。そのタイミングに合わせて、農家の方々の顔が載ったレタス保存用新聞を使ってレタスを包んだ「生産者の顔が見えすぎる野菜」、レタスの食べ方を提案するレシピサイト「瞬間消滅レタスクラブ」を展開。食材の廃棄という社会課題を軸にしたことで、多くのメディアに取り上げていただきました。

参考:生産者の顔が見えすぎる「レタス保存用新聞2」と農家から生まれたレシピ満載サイト「瞬間消滅レタスクラブ」を「Cook Do®」オイスターソースが展開
──結果につながらなかったものはいかがでしょうか。また、それはなぜ結果につながらなかったと思いますか。
植野:イベント開催後の事後リリースは、どうしても反響がわかりにくいと感じています。イベント開催時にもプレスリリースを配信し、興味を持ってくださったメディアの方は足を運んでくださり、イベントの内容を取り上げていただくことも多いんです。すでに報道済みのものをレポートとして出しても記事化されにくいため、露出を増幅させるという意味では効果は少ないと思います。
──では、配信されている目的はどのような点にあるのでしょうか。
植野:当日ご来場いただけなかったメディアの方に対して知っていただく機会にはなりますし、PR TIMESは検索エンジンの結果にも表示されるので、興味を持った生活者の方が情報にたどりつけるという点でも配信する意味はあると思っています。
──最後にPRチームとして、これからのミッションや考えている展開をお伺いできればと思います。
植野:ブランドのファンづくりに尽きると思います。今の時代だからこその困りごとなど、世の中の時流を汲み取ったブランドの視点や解決策などの提案で、ストーリーをつくっていった先に、共感していただける方やファンになっていただける方がいたら嬉しいですね。
山﨑:PRチーム自体がまだ立ち上がったばかりなので、チームとしてのスキルをしっかりと上げていくことが必要です。そうすることで、事業貢献、そして生活者の食卓を豊かにすることにつながると思っています。
青木:会社のパーパスである「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」という中で、一番生活者の方に身近な「食」での生活者のウェルビーイングの提供に貢献していきたいと思います。まだまだ食に関する課題や生活者がモヤモヤを感じていることは有象無象にたくさんあると思うので、それをひとつでも減らして、より食が豊かになるような社会をつくっていきたいです。
まとめ:社会・生活者の視点で「語りたくなる」ブランドを目指す
従来のマス型モデルから、生活者とのタッチポイントを増やすPESOモデルへとコミュニケーションのスタイルをシフトした、味の素株式会社。「共感され、語ってもらう」ことを重視し、社会・生活者・ブランドの3つの視点を大切にした広報PR活動は、ブランドロイヤリティの向上を目指す多くの企業にとって学びの多い事例でした。
今回のポイントは以下の通りです。
- ペイド(広告)とオウンド(自社メディア)だけでなくアーンド(第三者発信)とシェアード(SNSのシェア)も重視
- 「あじふれんず」の活動や試食会の実施など、直接やり取りをすることで自らが「発信したくなる」ことを目指す
- 社会課題や生活者のニーズ、困りごとを軸に広報PR活動を展開する
食品メーカーに限らず、多数のブランドを展開する企業の広報PR担当の方、これまでの広報PRの取り組みを見直したい・振り返りたい方にとって参考になったのではないでしょうか。
今後も広報PRを強化していくという味の素株式会社のプレスリリースの配信は、2023-2024年でおよそ1.5倍。2025年も社会・生活者・ブランドの3つの視点が交わった広報PR活動、プレスリリースが楽しみです。
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