2021年にプレスリリース発信文化の普及と発展を目的として始まった「プレスリリースアワード」。2024年10月28日に、2481件のエントリーの中から10部門の賞に決定した11社を讃え、授賞式が開催されました。
本記事では、独自の視点で社会課題の解消に取り組む自治体と企業の受賞プレスリリースをピックアップ。岐阜県飛騨市の土田治昭さん、上田昌子さんと株式会社LIFULLの田中賢也さんに、プレスリリースを配信した背景や目的、受賞に対する想いや周囲の反響などを伺いました。
岐阜県飛騨市:「寄り添う」想いを伝え地域ブランド向上を目指す
地域ブランドの向上や移住・定住、観光、企業誘致促進のためのシティプロモーションとして、広報PR活動に取り組む自治体が増えています。岐阜県の最北端に位置する飛騨市もそんな自治体のひとつ。プレスリリースを積極的に活用し、同市の取り組みや魅力を市内外に向けて丁寧に発信しています。
今年7月に配信された、思春期健診「ヒダ×10代ケンシン」の実施を伝えるプレスリリースは、発信と活用により地元の魅力を内外へ広げることにもっとも貢献したプレスリリースに贈られる「ローカル賞」を受賞。「飛騨市のことをもっと広げたいという想いが伝わるプレスリリース」として評価されています。
【受賞プレスリリース】【岐阜県飛騨市】「なんとなく不調」から人間関係・家庭・性の悩みなど11~18歳の思春期の「もやもや」に寄り添います
【受賞理由】
11~18歳の思春期の「もやもや」に寄り添うために「ヒダ×10代ケンシン」を伝えるリリース。見出しも目を引くもので、内容も担当の想いがギュッと詰め込まれており、さらにグラフを活用し、事業内容がスッと頭に入りやすくなる、共感できるような内容となっており、動画も埋め込み、そこで丁寧に解説しているので、中身の濃いリリースだと感じました。飛騨市はこのリリース以外でも、自治体としてはPR TIMESでもリリース頻度が多く、かつ一つひとつを手を抜かずに「伝わる」ことを意識して配信していると思います。地域のことを多くの人に知ってほしい!飛騨市のことをもっと広げたい!そんな想いが伝わるリリース。やはり自治体のPRの本質は「人」なんだと改めて感じる素敵なリリースでした。(審査員:佐久間 智之 PRDESIGN JAPAN株式会社)
岐阜県飛騨市 企画部総合政策課 課長補佐
岐阜県飛騨市出身。大学卒業後、民間企業勤務を経て、2002年に当時の神岡町役場に入庁。2004年の市町村合併による飛騨市誕生後、基盤整備部や商工観光部、市民福祉部などを経て、2017年から企画部総合政策課に配属。市役所全体の政策調整業務のほか、飛騨市の最上位計画「飛騨市総合政策指針(第Ⅰ期)」を策定。2023年からは広報広聴を担当し、市民への情報発信に加え、市外への政策広報やシティプロモーションの強化に努めている。
岐阜県飛騨市 企画部ふるさと応援課 主査
岐阜県飛騨市出身。大学卒業後、飛騨市役所に就職。現在はふるさと納税や企業連携、関係人口事業を担当。2017年「飛騨市ファンクラブ」、2020年「ヒダスケ!」を立ち上げ、さまざまな切り口から地域の宝物や資源を掘り起こし、発信し、地域のファンを増やす取り組みに力を入れている。また、山口大学、京都府立大学、大阪大学、楽天グループ等のメンバーで構成する「未来のコミュニティ研究室」では関係人口創出のメカニズムや地域活力、地域愛着に関する研究を行っている。
──受賞プレスリリースは、「11〜18歳の思春期の『もやもや』に寄り添う」という目を引く見出しも好評でした。今回のプレスリリースはどのような背景や目的で配信されたのでしょうか。
土田さん(以下、敬称略):飛騨市は、人口減少率が日本の30年先を行く「人口減少先進地」として、未知の課題に対する新たなチャレンジを率先して実施してきました。今回の「ヒダ×10代ケンシン」も、飛騨市を実装検証のフィールドとして実施する新たな試みで、全国的にも先進的な取り組みです。
この事業の対象となる市民には広報紙や学校などで周知をしていますが、それだけではなく、プレスリリースを配信してこうした取り組みを全国に広くPRすることで、飛騨市の認知度向上を目指しました。
──審査員からは「グラフや動画を活用した担当者の想いが伝わる中身の濃いプレスリリース」という評価もありました。作成するうえで何かこだわった点などはありましたか。
上田さん(以下、敬称略):今回は事業を担当する福祉部局と何度も打ち合わせを重ね、PR TIMESで配信するプレスリリースだけではなく、広報紙やホームページ、動画撮影までを広報チームが全体的に関わりました。この取り組みに実際に携わる医師やスタッフのみなさんの「寄り添う」という想いを伝えることを大切にするとともに、受診してもらう子どもたちや保護者の心理的ハードルも下げたいと思っていたんです。そのため、全体の構成や動画の見せ方、わかりやすい言葉遣いなどに特に気を使いました。
──プレスリリースを配信後、どのような反響がありましたか。
上田:プレスリリースの配信後、1週間で3,200PVを記録しました。また、実際に「ヒダ×10代ケンシン」を受診した方のアンケートでは、「受診してよかった」と思うお子さんが100%という結果となり、自己の健診に対する認知度や援助希求力が高まったと考えられます。
実際の声としては、やはり「親や友達にあまり悩みを相談することがない」「人には話せないようなことも話せたのでとてもすっきりした」という意見が多く、中には「自身の思春期特有のこころやからだの状態を聞けて安心した」「恋愛のことや大学受験のことなど幅広く相談ができてよかった」という声もありました。
──最後に、受賞が決まってからの想いや周囲の反響をお聞かせください。
土田:飛騨市ではこれまで、「市の取り組みを全国に向けて発信する」ということをそれほどしてこなかったこともあり、市長からはその部分の強化を厳命されていました。
そのような中で、今回受賞した「ローカル賞」の「発信と活用により地元の魅力を内外へ広げること」の部分をご評価いただき、実際に事業を推進している担当者をはじめ、広報に携わったメンバーは大変喜んでいます。今後の広報PR活動に対する自信にもつながったのではないでしょうか。
株式会社LIFULL:不動産業界の課題「おとり物件」の実態とは。業界への不信感解消を図る
次に紹介するのは、『あらゆる「LIFE」を、「FULL」に。』をコーポレートメッセージに掲げ、約60の国と地域に展開する事業を通じてさまざまな社会課題の解決を目指す、株式会社LIFULL。「利他主義」を自社の根幹に据え、経営理念である『常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る』ことに取り組んでいます。
昨年12月から今年1月には、「おとり物件」に対する不動産会社の対応実態調査と消費者への認識調査を実施。その結果を伝える調査リリースは、情報の平等と信頼を実現することにもっとも忠実なプレスリリースへ贈られる「パブリック賞」を受賞しました。
【受賞プレスリリース】新生活シーズンを前にLIFULL HOME’Sが「おとり物件」に対する不動産会社の対応実態調査&消費者への認識調査を発表
【受賞理由】
このプレスリリースは、不動産業界の課題ともいえる「おとり物件」を取り上げ、生活者と不動産会社の両者における認識を、調査したことに特徴があります。
調査結果がわかりやすくまとめられ、情報伝達における視覚的表現も工夫されています。文末には責任者のコメントもついており、調査の趣旨や、目指すゴールなどが述べられているのも印象的でした。今回の調査とプレスリリースの公開を通じて、不動産業界全体への呼びかけとなり、「おとり物件」の改善に向けて、共通認識が深められることを、期待しています。(審査員:河 炅珍 國學院大學 観光まちづくり学部 准教授)
株式会社LIFULL クリエイティブ本部 PRユニット PR1グループ
新卒でPR会社に入社後、事業会社でのPRやコミュニティ運営業務を経て、2023年にLIFULLに入社。現在はLIFULLのブランドコミュニケーション領域のPRや、グループ各社のPR支援を主に担当。
──受賞したプレスリリースは、不動産業界の課題ともいえる「おとり物件」を取り上げ、生活者と不動産会社の両者における認識を調査した点が評価されました。このプレスリリースを配信した背景や目的をお聞かせください。
「おとり物件」は不動産ポータルサイト等に掲載されている入居者募集の広告のうち、故意・過失に関係なく「存在しない物件」や「存在するが取引対象にならない、あるいは取引の意思がない物件」のことです。気に入って問い合わせをしたのがおとり物件だった場合、住まい探しにかけた時間や不動産会社への訪問が無駄になってしまうだけでなく、不動産業界への不信感にもつながりかねないため業界の課題となっています。
その一方で、おとり物件の多くは「悪意を持って掲載されたもの」ではなく、募集が終了した物件情報の更新にタイムラグがあったり、掲載情報に誤りがあったりして生じてしまう「意図しないケース」です。しかし、こういった背景はあまり伝わっておらず、不動産業界への漠然とした不信感や、住まい探しをされている方の不安につながっていることを課題に感じていました。
そこで、不動産業界の繁忙期となる2〜3月のタイミングで、おとり物件が生じる原因や対応実態に関する調査を実施。これにより、おとり物件の多くがやむを得ず生じてしまっているという実態を知っていただくとともに、削減にむけたLIFULL HOME’Sの取り組みも併せて伝えることで、不動産業界への漠然とした不信感や住まい探しの不安感の解消を図っています。
また、プレスリリースを通じて情報を発信することで、不動産業界に対しても当社のサービスを利用するメリットを伝え、ユーザーさま・不動産会社双方の実利用を増やすことを目指しました。
──配信後の反響、特に業界からのリアルな反応などがあればお聞きしたいです。
プレスリリースと併せて実施した記者向け発表会やインタビューを通じて、100件以上のメディア露出を獲得しました。
掲載された記事に対するコメントやSNSの投稿では、不動産関係の方と住まい探しをする方、双方からポジティブな反応があったと思います。特に、不動産関係者からは今回の調査やLIFULL HOME’Sがこれまで行ってきた取り組みを評価する声もいただきました。
また、不動産事業者が手動で物件情報の更新をしていることに対する消費者の認知度の低さは、不動産関係者にとっては意外な結果だったようで、驚かれる方もいらっしゃいました。
──審査員からは、「情報伝達における視覚的表現」に対する工夫や、調査の趣旨、目指すゴールなどがきちんと述べられている点が高く評価されていましたが、受賞プレスリリース作成の際にこだわったことなどはありますか。
おとり物件削減の取り組み担当者と連携し、実態に即した設問や選択肢をつくることを心がけました。また、新生活目前の2〜3月は不動産業界の繁忙期でもあるため、おとり物件が生じやすい時期であることや、おとり物件の大きな要因のひとつに人手不足があることなど、「業界の暗黙知」を明らかにすることを目指しました。
これによって、「おとり物件=悪意のある物件」というイメージが強いものの、実際はやむを得ず生じてしまっているという実態を明らかにすることができたと思います。また、調査リリースの配信だけでなく、同時期に実施した記者向け発表会においても、調査で明らかになった課題の解消につながる当社の取り組みを紹介。LIFULL HOME’Sを利用するメリットが伝わる発信を心がけました。
──最後に、受賞が決まってからの想いや今後の展望をお聞かせください。
今回、情報の平等と信頼を表現することにもっとも忠実なプレスリリースに贈られる「パブリック賞」を受賞したことを聞き、元々LIFULL HOME’Sが「情報の非対称性(売り手と買い手の情報格差)」を解消することを目指して始まったこともあり、こんなにピッタリな賞があるのかと思いましたし、社内でも同様の声が上がりました。当社がこれまでおとり物件に対して問題意識を持ち、削減に向けて着実に取り組んできたファクトがあってこそ、発信する妥当性や説得力が備わったと考えているので、社内の皆さんとともに喜びたいと思います。
そして、おとり物件に対してともに問題意識を持ち、記事を通じて世の中に情報を届けてくださったメディアのみなさまにもお礼を申し上げます。今回の受賞を励みに、LIFULL HOME’Sは「物件鮮度No.1の不動産ポータルサイト」として、今後もおとり物件の解決に向けた取り組みの推進とPRを両輪として、あらゆるステークホルダーに安心を届けていきたいです。さらに、検証を継続しているAIによるおとり物件検知の本稼働を目指し、多方面から物件鮮度向上に向けて取り組んでまいります。
まとめ:社会課題解決を軸に、興味・関心につなげていく
岐阜県飛騨市の土田治昭さんと株式会社LIFULLの田中賢也さんに、受賞プレスリリース配信の背景や目的、受賞の想いなどをお聞きしました。
今回の受賞プレスリリースに共通していたのは、難しくなりがちな社会課題解決に対する取り組みを、画像や動画などの視覚的表現を工夫することで、読みやすさのハードルを下げたこと。特定の生活者や業界が対象ではあるものの、それをあえて広く発信することによって課題に対する興味・関心を集めることに成功しています。このような情報発信の工夫、取り組みを考える観点は、すべての自治体や業界にとって参考にしていただける事例ではないでしょうか。
記事内の受賞理由は、プレスリリースより引用しています。
引用:過去最高2481件の応募から11件の受賞プレスリリースが決定。プレスリリースアワード2024受賞企業とBest101を発表
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