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AI普及で変わるメディアの記事づくり。企業のみが知る一次情報の価値が高まる|PR TIMESカレッジVol.10 メディア講演

AI普及で変わるメディアの記事づくり。企業のみが知る一次情報の価値が高まる|PR TIMESカレッジVol.10 メディア講演

株式会社PR TIMESは、2025年10月21日に学びとつながりの広報・PR担当者向けコミュニティイベント「PR TIMESカレッジVol.10」を全国5都市およびオンラインで開催。東京会場の交流会の時間には日経クロストレンド副編集長の高田学也さんがゲストスピーカーとして登壇し、記者の仕事の変化をテーマにお話いただきました。

2018年の創刊以来、マーケティング業務に携わるビジネスパーソンに向けて、事業創造や商品開発、マーケティングの最新トレンドと実践知を発信する『日経クロストレンド』。その編集現場では日々どのように情報が集まり、どのような基準で記事が生まれていくのでしょうか。

「記者の仕事は最近どう変わったか、いや変わっていないのか。」と始まった講演。AIの普及で揺れ動く編集現場の「優先軸」や、メディアに届く情報発信のポイントなど、メディア側の視点が語られた講演の様子をレポートします。

株式会社 日経BP 日経クロストレンド 副編集長

高田 学也(Takata Manabu)

早稲田大学高等学院を経て、1995年早稲田大学理工学部機械工学科卒業。同年、日経BPに入社。「日経コミュニケーション」「日経NETWORK」「日経パソコン」の各編集部で、通信がワイヤードからワイヤレスへ、デバイスがパソコンからスマートフォンへと激変していく過程で、暮らしや社会がどうアップデートしていくのかを様々なアングルで長年取材。2011年日本経済新聞に出向し、テクノロジーに加えて、音楽・出版・広告・放送といったメディアの変革を追う。15年4月に日経BPに戻り「日経コンピュータ」を経て、16年4月「日経FinTech」創刊に参画。その後、取材対象を消費トレンド全般に拡張すべく19年4月「日経クロストレンド」、20年4月「日経トレンディ」と渡り歩き、再び23年1月に再び日経クロストレンドに出戻り、今日に至る。直近数年は、「食品や酒類飲料、日用品の最新トレンド」「コンビニやスーパーなど小売流通の変革」「新規オープン施設による街の変容」まで、面白いと思ったらノンジャンルで追いかける日々を過ごす。

高田さんにとって記者のお仕事とは?

ご登壇前の高田さんに伺った5つのことを紹介します。

──高田さんが記者を目指した理由は?

とにかく新しいモノが好きで、日々ワクワクする話題に出合い続けられなければ、きっと仕事にすぐ飽きてしまうのではないかと感じていました。そんな折、たまたま出会ったのが今の会社の募集案内で、「これは天職になるかも」と直感しました。

──記者をしていて苦労したことは?

「苦労」というより、記者会見後のぶら下がり取材や立食形式の記者懇親会は、ライバル記者に手の内を明かさず、本当に知りたいことを聞き出すという意味で、記者の技量が大きく問われる場だと思っています。そのため、毎回ワクワクしてしまいますね。

──記者をしてやりがいを感じることは?

メディアの誰もが見落としている新鮮でホットなネタを発掘するのはもちろんですが、自分の取材を起点に、相手の取り組みが波紋のように社会へ広がっていく瞬間に触れられると、「この仕事をしていてよかった」と心から感じます。

──今気になるテーマは?

昨今の生活者の変容ぶりを行動経済学の理論に当てはめたとき、何か重大なファクトが浮き彫りになるのではないか──。そんなことを最近よく考えています。

──絶対に外せないメディアフックは?

新規性/独自性、話題性、意外性。

1日700本以上のプレスリリースが届く編集現場

『日経クロストレンド』では、1日に7〜15本の記事を公開。編集部ではデスクを含め全記者が執筆を担当し、記事の公開は0時、メルマガ配信は翌朝6時、翌日掲載分のネタ締切は前日16時というタイムテーブルで制作を進めているそうです。

編集部に届くすべてのプレスリリースはジャンルを問わず全員に展開されるそうですが、その数は1日あたり700本以上にのぼることもあるとのこと。それぞれの領域に長く携わる記者も多く、広報PR担当者と長期的な関係を構築しながら情報のやりとりをしているとはいうものの、やはり数ある情報の中から選ばれることは、メディア掲載の最初の関門です。

PR TIMESカレッジVol.10 メディア講演01

検索流入が激変する今、記事化のカギは「独自の視座」

AIの普及により生活者の情報接点が大きく変化し、メディア側の企画・編集の基準も新たな局面を迎えています。ここでは、『日経クロストレンド』編集部で起きている変化を伺いました。

AIの普及で変化した読者との接点

編集部が現在、大きな課題として取り組んでいるのが、Googleが導入した「AIモード」や「AI Overviews」への対応。AIが自動生成した回答によって、リンクをクリックしなくても必要な情報が取得可能に。検索結果から記事へアクセスする機会が大きく変化しつつあります。

Google検索の上位表示を重要なKPIの1つとして設定していた『日経クロストレンド』では、強い危機感を持っているのだそう。また、メルマガや媒体トップページなど、これまで読者との接点となっていたさまざまな入口がAIにクロールされるようになり、読者に記事本体が届く前にAIの判断がワンクッション入る構造に。情報発信の前提が大きく変化したことを受け、編集部では記事の企画や書き方を根本から見直す議論が進んでいるそうです。

内容の濃度がより重要に。記事づくりに変化

特にAIモードの登場により、表層的な記事やPV獲得を目的とした記事は、AIにとっての表示対象として評価されにくくなっています。

こうした背景から、『日経クロストレンド』の編集現場でも「スピードより質」へと価値基準をシフトさせ、記事そのものの「質」を高めています。多少時間をかけてでも独自の視点や深掘りした内容を盛り込み、読者が「継続して読みたい」と思える深度のある記事が重視されるように。そのため、プレスリリースをベースとしたニュース原稿や、会見速報のように情報量が限られるこうした記事を『日経クロストレンド』で扱う機会は大幅に減少しているそうです。

大切なのは差別化を生み出す「自分だけの視座」

AI時代に記事が選ばれるためには必要なものとして、高田さんが挙げたのは「自分だけの視座」です。AIが情報を要約して提示するようになった今、単に検索で上位に並ぶだけでは差別化が難しく、「独自の切り口」があるかどうかがこれまで以上に問われるようになっています。

一方で、記者自身の仕事ぶりもAIで変わりつつあります。例えば、「ChatGPT」や「Perplexity」など複数のAIツールを使い、企画初期の壁打ちとして「ディープリサーチ」を行う記者も増えているそうです。短期間で企画立案ができるようになった一方で、視点が類似しやすいという課題も生じています。

AIが教えてくれることは、あくまでもスタートラインにすぎず、最終的に価値ある記事を生み、差別化につながるのは、取材経験や現場感覚にもとづいて磨かれた「自分だけの視座」であると語りました。

記者の情報収集の方法や記事化の基準が変わるなかで、広報PR担当者の方々にとっても、

  • どのように情報を届けるか(多くの情報から見つけてもらえるか)
  • どのような情報を届けるか(『これは独自視点の記事ができる』と思ってもらえるか)

という視点がいっそう重要になってくるでしょう。

メディアがうれしいのは「企業だけが知る一次情報」

情報発信のあり方を見直す必要がある今、変わらず重要なのは、メディアの特性を理解し、それぞれに最適化した仮説を持ち込むこと。例えば『日経クロストレンド』では、『日経トレンディ』や『日経エンタテインメント!』『日経デザイン』など姉妹媒体や日経新聞発行の「MJ」とも連携しており、記事が転載される可能性もあります。

こうした構造を踏まえたうえで、「クロストレンドならどんな切り口が響くのか」「ほかの媒体ならどの角度がよいか」といった仮説を準備しておくことが、メディア側にとっても独自の視座を磨くヒントになると高田さんは言います。

記者が価値を感じるのは、「どこにも出ていない情報」を「どこにも出ていないタイミング」で共有してもらえること。まだメディアに取り上げられていないスタートアップや地方の隠れた優良企業、普段は表に出ない社員のストーリーなど、深みのある一次情報は、メディアにとって受け取ってうれしい情報といえるでしょう。

情報開示に慎重な企業に対しては、「公開するメリットと、出さないことで取りこぼす機会のデメリットを比較し、前向きに判断していただけるとうれしい」との思いも語られました。

PR TIMESカレッジVol.10 メディア講演02

【質疑応答】参加者からの質問に、高田学也さんが回答

ここからは、参加者から高田さんへ寄せられた質問への回答をご紹介します。当日お答えいただけなかった質問についても、追加でコメントをいただいています。

──AIを活用した情報収集が進むなかで、企業が情報を発信する際はテキストと動画のどちらが適しているのでしょうか。

テキストは量が多くても問題ありません。ただし、内容が複雑で文章だけでは理解しづらいものは、操作方法や要点を短い動画で補足していただけると、視覚的に把握しやすくなるため大変ありがたいです。

──どういった情報提供やコミュニケーションがあると取材につながりやすいのでしょうか。また、一度取材された企業が再び取り上げられるためには、どのような工夫が必要でしょうか。

「他社が取り上げられたこういう特集で当社も紹介してほしい」というご依頼をいただくことがありますが、こうしたアプローチはタイミング的に難しい場合が多いです。ほかの媒体で盛り上がっているテーマを追うよりも、まだどこにも出ていない角度や取り組みを、雑談ベースでも共有していただけると記事の種になります。

また、過去に取材した企業が再び取り上げられるには、前回とは異なる新しい話題を提供していただくことが重要です。

──ほかの雑誌がすでに取り上げているテーマは掲載しにくいと伺いましたが、その一方で「AI」のように必ず扱うべき大きなテーマを、『日経クロストレンド』らしい切り口に調整するにはどのような工夫が必要でしょうか。

広報PR担当者の方がテーマを検討する際は、各媒体のランキングが大きなヒントになると思います。他社の人気記事ランキングを見ると、その媒体の読者層がどのようなテーマに反応しているかがわかり、どの角度が求められているのかをつかむ手がかりになるからです。

『日経クロストレンド』の場合、週次や日次、月次でランキングを公開していますので、そこから「どの切り口が読まれているのか」「どんなネタの組み合わせに需要があるのか」といった傾向を把握できます。例えば、「生成AI × 〇〇」のようなテーマは媒体ごとに相性のよい切り口が異なるため、ランキングを参考にすることで、どの角度が私たちに合うのかが見えてくるはずです。

──広報PR担当者とメディアの最適な距離感や関係構築の方法を教えていただきたいです。

私が信頼している広報PR担当の方々に共通しているのは、会社の内情や温度感をこまめに共有してくださることです。売り込みの連絡だけではなく、「今、社内ではこういう状況になっています」「このテーマは3ヵ月後ならお話しできます」といった少し先の情報を内々に教えていただけると、こちらとしても企画を考えるうえで非常に助かりますね

当社はコンフィデンシャルな情報の取り扱いを厳密に行っていますので、オフレコの内容であっても適切に管理できます。そうした前提があるからこそ、正式発表前の兆しや小さな動きを共有していただけると、記者としてはとてもありがたいですし、結果として双方にとってよい関係を築きやすくなるのではないでしょうか。

──毎日700本以上のプレスリリースが届くとのことですが、その中でも「思わず開きたくなるタイトル」にはどのような特徴がありますか。

タイトルに「発表会」というキーワードが入っているものは、必ずチェックしています。私たちは食品ジャンルも扱っていますので、「試食会」のキーワードも見落とせないポイントです。

また、検索していてヒット率が高いと感じるのは、「取材案内」というキーワード。記者会見自体は行わないことが多いのですが、「個別にこういう取材ができます」といった具体的な案内がタイトルに入っていると、興味を惹かれます。

──BtoB企業はKPIの設定が難しいです。掲載数やプレスリリース本数では実態と合わないと感じることも多いのですが、どのようなKPI設定がよいでしょうか。

日経BPは、BtoC向けとBtoB向けとで媒体を明確に分けているわけではなく、業界横断のテーマを扱うことが多いんです。例えば「BtoBのマーケティング大賞」のような企画もありますので、厳密に区別しすぎなくてもよいと思います。

とはいえ、BtoB領域のプレスリリースはテクノロジーや事業発表が中心になるため、どうしても記事にしづらい場合もあるでしょう。その場合は、「BtoB × マーケティング」や「BtoB × 営業」など、別の文脈と掛け合わせていただくと企画につながりやすいです。

1つのKPIとして、そうした「掛け算の文脈」での発表や情報提供を定期的に行うことを設定してみてもよいのではないでしょうか。必ずしもプレスリリースとして配信しなくても個別の案内で共有していただければ、クロストレンドだけでなく、同じ視点を求めるメディアにも届きやすくなると思います。

──プレスリリースのタイトルは文字数が決まっていますが、知名度のあまり高くない企業の場合、社名は必ず入れるべきでしょうか。

そうですね。検索でキーワードを見るときには、社名を最初に見ます。会社の知名度よりも「この会社ってなんだろう」と興味を惹かれることがポイントなので最初に社名を入れるというのは守ったほうがよいのかなと個人的には思います。

特にアウトルックとかだと左枠が狭いので、最初に社名を短くでも入れていただいたほうがヒット率が上がりますね。イベントの告知をされる場合は、「社名と発表会」や「社名と取材案内」といったタイトルをつけるイメージです。

──【追加質問】東京以外の企業が、高田さんに発表会やイベントにお越しいただきたいと思った際、どのくらい前に提案したらよいでしょうか。検討するにあたって欠かせない情報や条件があれば合わせて教えてください。

ときどき1ヵ月以上前のご案内がありますが、最近の大半のWeb媒体の仕事の時間軸を踏まえると、早すぎるご案内は「まだ検討しなくてよいか」と思われがちです。適切なのは2〜3週間前ではないでしょうか。もちろん緊急性の高い案内は、情報性の高さはわかりますのでその限りではありません。

1つだけ個人的な希望があるとすれば、2〜3週間前に発信されてから、頻繁に同じリリースを送られるのは避けていただきたいことです。お伝えしたように大量のプレスリリースが毎日届きますので、以前チェックしてカレンダーに入れた会見情報と同じものが何度も届くと、チェック済みなのかいちいち照合する手間がかかり、業務効率が著しく低下してしまいます。

デイリーで届くなど、あまりにも頻繁ですと、その企業さまへのイメージが悪くなる可能性もあるでしょう。同じく、会見直前になって何度も出欠確認のお電話をいただくのも最近はストレスを感じることが多いです。内容に興味がある記者は自身の判断できちんと参加申し込みをしますので、それが直前までないのは見送りの判断をしていることが多数です(この直前の矢継ぎ早の電話連絡については、他社を含めて多くの記者と話すと「仕事に支障があり困っている」という声が多数です。考慮していただけるとありがたいです)。

──【追加質問】翌日掲載のネタの締切は前日16時とのことでしたが、16時の締め切りまでに高田さんはどのようなタイムスケジュールで動いているのでしょうか。

正確には、16時に全体ミーティングで翌日公開の記事のラインアップを確定させて、記事タイトルを決めます。記事は、公開日の2日前までに仕上げる部内ルールなので、公開前日は12時ごろまでに校正さんや編集長からのリクエストを反映したらそれで作業終了です。ですので、午前や午後はほぼほぼ取材先企業に出向いてインタビューをしているか、社内や在宅で記事をひたすら執筆しています。

──【追加質問】プレスリリース内の情報は「①すべて開示したほうがよいのか」「②余白を残したほうがよいのか(取材を受け付ける旨を記載)」どちらのほうがよいでしょうか。独自の記事化が重要となる中で、①のほうが興味を持ってくださるメディアが増える可能性を感じています。一方で、②のほうが独自で特別な情報を得られると感じていただけるのではないか、とも感じています。

取材したくなる内容にできるよう精緻に詳しく情報公開されることを望みます。ただ、できれば冒頭にコンパクトに要点だけを3から4つに箇条書きにしていただけると助かります。これは記事の書き方に通じるものがあり、記者という職業柄、なんでも論理的思考で「大切なことは先に」「要するにこういうこと」というのをパッと理解したいためです。経緯などはできるだけ後回しにしていただくのがベターです。

PR TIMESカレッジVol.10 メディア講演03

まとめ:AI時代を生き抜く情報発信とメディア連携を

AIの普及によって、情報の届け方も受け取り方も、かつてないスピードで変化しています。こうした状況のなかで高田さんが強調したのは、表層的な情報では届きにくい時代だからこそ、「自分たちだけが持つ視点」や「今話すべき理由」をどう伝えるのかという本質でした。

広報PR担当者がメディアごとの特性を理解し、最適なタイミングと文脈で情報を届ける。そして記者は、その情報にもとづいて独自の視点を重ねながら、読者の心に届くストーリーへと昇華していく。双方の歩み寄りによって、はじめて価値ある記事が生まれるという視点は、今後の情報発信において欠かせない示唆といえるでしょう。

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この記事のライター

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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