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大学広報は、どこから整えるべきか。情報が分散した組織で広報を「機能」させる最初の一手|平田貴子

大学広報は、どこから整えるべきか。情報が分散した組織で広報を「機能」させる最初の一手|平田貴子

広報PRを強化したい。そう思っている大学は少なくありません。担当者の熱量もある。ツールも増えた。それでも、なかなか動かない──。

その理由を「担当者のスキルが足りない」「人手が足りない」と捉えているうちは、問題の本質には近づけません。大学広報が動かない理由の多くは、担当者の問題ではなく、組織の構造にあると考えています。

大学は今、大きな転換点を迎えています。18歳人口の減少、大学間競争の激化、社会人学習者の増加──「選ばれる大学」であり続けるために、広報PRの役割はかつてないほど重要になっています。

大学広報には、大きく分けて2つの種類があります。

「学生募集広報」は、受験生・保護者・高校教員に向けて入学を促すための、短期的・成果直結型の活動。オープンキャンパスの集客、入試情報の発信、受験生向けのコンテンツ制作など、数字として成果が見えやすい領域です。

一方、「広報PR」はより広い概念。大学のブランドイメージを社会に伝え、研究・教育・産学連携・地域貢献といった活動を中長期的に発信し続けることで、大学全体の価値を積み上げていく営みです。

18歳人口の減少が続くなか、多くの大学が学生募集の発信に注力せざるを得ない状況に置かれています。その結果、中長期のビジョン実現に向けた広報PRに十分なリソースを確保することが後回しになりがちです。これは特定の大学に限った問題ではなく、多くの大学が直面している現実ではないでしょうか。

本稿では、「大学としてのビジョンを社会に伝える広報PR」へと歩みを進めるために、「どこから手をつければいいかわからない」と感じている方の、最初の一歩を考えるきっかけになれば幸いです。

平田 貴子のプロフィール画像

株式会社PRorder 代表取締役

平田 貴子(Hirata Takako)

医療広報を経て、フランチャイズ本部にて経営支援から広報立ち上げ・新規事業まで幅広く担当。その後、総合PR会社にて上場企業を中心に多様な業界のPRを担当し、2022年に株式会社PRorderを設立。現在は、人的資本経営を支援する組織開発・エンゲージメント向上領域をはじめ、大学・教育機関、製造業、観光業、美容・ライフスタイル領域などに対し、ブランディングおよび発信戦略の設計を軸に、調査・白書設計などのファクト構築・コンテンツ開発・動画ディレクション・イベント企画設計、メディア戦略の設計・実装まで一貫して支援している。また、企業や教育機関に対する広報人材の育成・研修にも携わり、東京商工会議所をはじめ各種講座への登壇のほか、執筆活動も行っている。支援先である香川県の取っ手メーカーのプレスリリースにて「プレスリリースアワード2021」パブリック賞を受賞。株式会社PR TIMES公認プレスリリースエバンジェリスト。

大学広報が「動かない」構造を整理する

広報PRを「機能させる」ためには、発信そのもの以前に、いくつか整理しておくべき前提があります。

大学広報の難しさは、ほかの企業や組織の広報PRとは異なる構造的な特性に起因していると考えられます。私自身、大学広報の現場に伴走するなかで、個々の担当者の努力やスキルだけでは解決しきれない複雑さが存在することを実感してきました。実際、大学職員向けのPR研修でも、同様の課題があることが少なくありません。

まず、情報が組織全体に分散しています。学部・学科・研究室・附属施設・事務部門それぞれ独自の活動を持つ大学においては、「広報PR部門に情報が自然に集まる」という前提自体が成立しにくい構造になっています。発信できる素材が非常に豊富なはずなのに、手元に情報が集まらない、という状況は珍しくありません。

次に、情報を把握するための「機会」や「導線」が設計されていない場合も多いです。教員が学外で専門家として発言している、産学連携のプロジェクトが進んでいる、学生が賞を受賞した──こういった情報が、届かないまま埋もれてしまうことがあります。

さらに、発信の軸となるべき中長期の経営方針が十分に共有されていないケースも見られます。学長が交代するたびに方針が変わる、そもそも明文化された戦略がない、という状況では「何を優先的に発信すべきか」という判断基準が曖昧になり、広報PR活動が断片的になってしまう可能性があります。

そして何より、意思決定プロセスの複雑さも無視できません。多くの大学では合議制が採用されており、一定の合理性を持つ一方で、迅速な意思決定が難しい場面もあります。広報PRにおいても、複数部門の確認や承認を経る必要があり、結果としてタイミングを逸する、あるいは発信自体が見送られるといった事態が起こりやすい構造です。

こうした条件が重なることで、広報PR活動は「依頼されたものを処理する」受動的な運用に寄りやすくなります。担当者の意識や能力の問題ではなく、組織構造がそうした状態をつくり出している。 その視点に立つほうが自然ではないでしょうか。

いくつかの大学や海外事例を見ると、共通して「仕組みで補完する」という発想が重要になっているように見えます。たとえば下記です。

■情報を「集める」仕組みの設計

  • 各部門に広報PRと連携の役割を担う担当を設け、情報の一次集約を分散させる
  • 各部門との定期的な情報共有の場を制度化する

■情報に「アクセスできる」状態の設計

  • 学部長会議や経営会議などの議事録を、広報PRマネジメント層が定常的に把握できる状態を設計する
  • 全学的な情報基盤に広報PRが横断的にアクセスできる状態を整える

■意思決定と発信方針の設計

  • 発信判断の基準や承認フローを簡素化・明文化する
  • 経営方針と広報PRテーマを接続した年間計画を設計する

こうした取り組みは、「情報を取りに行く」負荷を下げるだけでなく、広報PRの関与タイミングを前倒しし、結果として発信の質やタイミングの最適化につながる可能性があります。

また、広報PRを「情報発信の機能」としてだけでなく、「組織内の情報流通を設計する機能」として再定義する視点も重要なのではないでしょうか。実際、近年の大学ガバナンス改革の議論においても、情報の可視化や意思決定の透明性向上が重要なテーマとして挙げられています。

「誰かが頑張れば解決する」という前提から一歩離れ、「構造をどう設計するか」という視点に立つこと。その転換こそが、大学広報を機能させるための出発点になるのではないかと感じています。

発信の前に「広報PRの目的」を定める

広報PR活動を行おうとするとき、多くの組織が最初に「何を発信するか」を考え始めます。しかし、その前に問うべきことがあります。「何のために発信するのか」です。

大学広報の目的は、大きく分けると次のように整理できます。

  • 学生募集(通学・通信、学部・大学院)
  • 大学ブランドの形成(社会的認知・イメージの確立)
  • 研究・教育成果の社会発信
  • 教職員採用
  • 地域・社会との連携強化(自治体・企業・団体など)
  • ステークホルダーとの関係維持(在校生・保護者・卒業生など)

これらは絡み合っており、どれかひとつだけを目的とすることはほとんどありません。しかし、「今この発信は、何のためか」を都度すり合わせる習慣がないと、発信の内容や粒度がバラバラになります

よく起きるのは、各学部学科や教員がそれぞれの思いで「出したい」と持ち込んでくる状況です。発信基準がないまま対応していると、プレスリリースの量産だけが進み、何が重要なのか伝わらなくなります。

まず整理すべきは、「今年度の広報PRにおいて、もっとも優先する目的は何か」という問いへの答えです。この答えが揃っていれば、「出す/出さない」の判断基準が自然と生まれます。

完璧な基準をつくる必要はありません。「これは学生募集に寄与するか」「大学として社会に伝えるべき意義があるか」といった最低限の問いを共有するだけで、発信の一貫性は大きく変わります。

発信ツールの役割を整理し、「受信」の設計まで視野に入れる

発信の目的が整理できたら、次は「どのツールで、誰に届けるか」を整理します。大学が持つ発信チャネルは多岐にわたります。プレスリリース、SNS、大学公式サイト、学内報・メールマガジンなど。それぞれがすでに存在していても、「誰に何を伝えるためのツールか」が曖昧なまま運用されているケースも見られます。

整理の軸はシンプルです。

  • 誰に届けたいか(受験生・保護者・メディア・在校生・社会人など)
  • 何を届けたいか(速報性のある情報か、ストック型の情報か)
  • どの段階で届けたいか(認知形成か、検討促進か、関係維持か)

この3軸で整理すると、「プレスリリースはメディアと社会一般向けの公式発信」「SNSは日常的な空気感の発信」「公式サイトは中長期的な情報資産の蓄積」といった役割分担が見えてきます。いきなり全体を再設計しようとすると動けなくなります。スモールステップで、まず一つのツールの役割を明確にするところから始めるのが現実的です。

【発信だけでなく、「受信」の設計も必要】

発信ツールの整理と同時に、見落とされがちなのが「自分たちがどう見られているかを把握する仕組み」です。教員が専門家としてメディアで発言している、SNSで大学の話題が広がっている──こういったことが、広報PRの把握していないところで起きているケースは珍しくありません。

さらに近年は、受験生や保護者がSNSや口コミサイトだけでなく、AIを使って大学を比較・検討するケースも増えています。「〇〇大学ってどんな大学?」という問いに対して、AIがどのように答えるかに影響するのは、大学自身が発信してきた情報の蓄積です。学生募集広報の文脈だけでなく、大学の活動を丁寧に発信し続けること。その積み重ねが、AI時代の「受信環境」をつくっていきます。

また、学生や保護者がどのSNSや媒体を見ているかを把握し、広報PR担当者自身が日常的にチェックする習慣を持つことも重要です。メディアモニタリングツールの導入も、「自分たちが社会にどう見られているか」を日常的に把握するための広報インフラとして検討する価値があります。

プレスリリース

完成形を待たずに動き、小さな成功体験を積み重ねる

ここまで整理してきた内容を一度に実現しようとすると、必ず止まります。大学広報の体制づくりにおいて、もっとも陥りやすい罠が「完璧な体制ができてから動く」という発想です。

現実には、広報PR単体で仕組み化や体制構築を完結させることはできません。他部署の協力、経営層の理解、予算の確保など、さまざまな条件が絡んでいます。だからこそ、「完成形を目指す」のではなく、「まず回る形をつくる」という発想が重要です。

基本的な方針と最低限の基準を持ったうえで動き始め、実際に運用しながら改善していく。体制は一度つくって完成するものではなく、常に更新されていくものという前提で捉えることが、結果として最短距離につながるのではないでしょうか。

そして、ここまで仕組みや体制について述べてきましたが、実務の現場において、それらと同じ、あるいはそれ以上に重要なことが別にあります。それは、広報PRを担う担当者自身が「大学のあらゆる情報に対して誠実な好奇心を持つこと」「学内の多様な教職員と関係性を築いていくこと」です。

最終的には、「広報PRと一緒に動くといいことがある(自分たちの取り組みをサポートしてくれる)」という実感を、学内の教職員に持ってもらえるかどうか、それが広報PR機能の浸透を左右するのではないかと感じています。そのための有効なアプローチが、学内の出来事に興味を持って自ら情報収集し、小さくてもよいので成功体験を積み重ねていくことです。

ひとつの取り組みを取材につなげることができた、アクセス数が伸びた、関連者がとても喜んでくれた──そうした小さな「結果」が、次の協力を引き出す。はじめから全体を巻き込もうとするのではなく、まずは前向きに動いてくれる個人や組織と動き、成果を可視化しながら徐々に広げていく。その積み重ねが、組織全体の広報力を底上げしていくのではないかと思います。

こうした発信における再設計を実際に進めている大学の一例として、京都芸術大学の取り組みを紹介します。

京都芸術大学の「大学広報の再設計」

京都芸術大学の事例とともに、学生募集の成果を土台に次のステージへ進む発信戦略について紹介します

京都芸術大学は、通学・通信の両課程を持つ国内最大規模の総合芸術大学です。在籍学生数は通学・通信合わせて23,000名を超え、産学連携プロジェクトも年間100件以上にのぼるなど、発信可能な素材が豊富な大学です。一方で、多彩な取り組みや教育の魅力が社会に十分に伝わっていない側面もありました。大学が持つ豊かな活動の全体像が、外に向けてうまく伝わっていない状態だったのです。

新入試制度の導入や時代にマッチした学びの提供など、さまざまな取り組みと発信の連動によって学生数は増加し、学生募集としては好調に成果が出ていました。しかし、大学のビジョンや社会的価値を伝える発信には、長らくリソースを割き切れていなかったのです。現在、同大学は広報PRのあり方そのものを見直す取り組みを進めています。

伴走支援で見えてきた3つの「混線」

広報PRの伴走を始めて最初に見えてきたのは、「3つの混線」でした。

①情報収集の混線──誰からどのような経路で情報を集めるかが曖昧で、情報が「たまたま拾われる」状態になっていました。会議体はあるものの、広報PRの実務との接続が不十分で、学内の活動を担当者が一覧で把握できていない状況でした。

②発信内容の混線──発信の基準が不明確で、依頼ベースの受け身型になっていました。「学生のためになるから」「昨年も出してもらった」といった理由で発信依頼が来るため、内容の粒度がバラバラになりがちでした。

③発信メディアの混線──発信ツールが追加されたり、デジタル化などの変遷があり、複数のオウンドメディアの目的や役割が曖昧になり、発信手段の選択・整理が属人的になりやすい状態でした。

この状況で発信量を増やすことを優先すると、メッセージの一貫性が崩れるリスクがあるため、まずは「情報が回る構造」を整えることを優先しました。具体的には、

  1. 情報収集の体制整備
  2. 発信基準の策定
  3. 各メディアの役割再定義

の順で整備を進めています。

なお、同大学はDXへの取り組みにも積極的で、Notionを活用した情報の一元管理や、Slackによるコミュニケーションが学内に浸透していました。こうした環境を早い段階から広報PRの情報収集や学内連携に活用できたことも、仕組みづくりや体制整備をスムーズに進められた一因だと考えています。

大学広報は担当部署だけで完結するものではなく、学内の情報共有のあり方や組織文化の影響を大きく受けます。DXの推進やオープンな情報共有を支える組織風土そのものが、大学広報を機能させる重要な土壌になるのではないかと感じます。

中長期ビジョンを「面」で伝える広報へ

体制を整えた先で、京都芸術大学が取り組んでいるのが「大学を面で伝える広報PR」への転換です。点(学生募集広報)から面(大学全体の価値)へ──その変化は、最近のプレスリリースにも表れ始めています。

以下の4件は、大学の中長期ビジョンである「藝術立国」と「社会と芸術の関わり」を社会に伝える発信事例です。いずれも個別の情報発信でありながら、「京都芸術大学とはどういう大学か」というビジョンを補強しています。

事例1.通信教育課程 10代入学者が5年で2.3倍(2025年11月)

“完全オンラインで学位を取る”大学進学が新たな潮流に 通信制高校10%時代、京都芸術大学通信教育課程の10代の入学者数が5年で2倍増

  • 通信制高校増加という社会トレンドと大学の変化を接続して発信
  • 学生募集(個別施策)の域を超え、新しい学びの潮流として位置づけた

事例2.アストラゼネカ社との治験理解領域での産学連携(2025年12月)

【京都芸術大学 × アストラゼネカ】産学共同コンテンツ マンガとアニメで「治験」の正しい理解を支援

  • 芸術×医療の異分野連携プロジェクトを発信
  • 「社会課題をアートで解決する」という理念を具体化

事例3.「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」新部門創設支援(2026年3月)

【学生クリエイターにスポットライトを】京都芸術大学、「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」新部門創設を支援

  • 国内最大規模の国際音楽賞における新部門創設に関与
  • 学生の才能を社会と接続する大学の役割を可視化

事例4.学習特化AI「Neighbuddy」で教育の個別最適化に挑戦(2025年7月)

利用継続希望85.9% ― 京都芸術大学、学習特化AI『Neighbuddy』で教育の個別最適化に挑戦

  • 独自開発AIと利用実績データを発信
  • 教育×テクノロジー領域での大学の先進性を提示

学生募集広報が入口を広げるとすれば、こうした発信は大学全体の「深さ」や「広さ」を社会に伝え、ブランドの土台を築いていきます。点の発信を面に変えていく──それが、中長期の広報PRが果たすべき役割ではないかと考えています。

参考

おわりに:機能する大学広報の進め方について

少し前まで、広報PRの強化やDX、採用・組織文化の見直しといったテーマは、変化を迫られた企業が先に取り組んできました。最近では、教育機関やインフラ組織でも、同じテーマが真剣に議論されるようになっています。時代の変化は、組織の種類を選びません

外からの変化に対応するだけでなく、それを内側の構造を見直す契機と捉えられるか。その違いが、じわじわと差になっていくのではないかと感じています。

大学広報の整備は、広報PR部門単体の課題ではありません。情報共有のあり方、発信への当事者意識、経営と現場の接続──それらが絡まり合い、組織全体の変化を生みます。

「わかってはいるけれど、どこから手をつけるべきか」と感じている方も多いかもしれません。各大学の事情は個別具体であり、一般論だけでは解けない部分も多くあります。それでも、考えることをやめず、変化を恐れず、小さくても動き続けること。まずはひとつ、情報が集まる仕組みを整える。あるいは一つの発信の目的を明確にする。その積み重ねが、大きな組織をも少しずつ動かしていくと私は思っています。

本稿が、その最初の一歩を考えるきっかけになればうれしいです。

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この記事のライター

平田貴子

平田貴子

株式会社PRorder 代表取締役。医療広報を経て、フランチャイズ本部にて経営支援から広報立ち上げ・新規事業まで幅広く担当。その後、総合PR会社にて上場企業を中心に多様な業界のPRを担当し、2022年に株式会社PRorderを設立。現在は、人的資本経営を支援する組織開発・エンゲージメント向上領域をはじめ、大学・教育機関、製造業、観光業、美容・ライフスタイル領域などに対し、ブランディングおよび発信戦略の設計を軸に、調査・白書設計などのファクト構築・コンテンツ開発・動画ディレクション・イベント企画設計、メディア戦略の設計・実装まで一貫して支援している。また、企業や教育機関に対する広報人材の育成・研修にも携わり、東京商工会議所をはじめ各種講座への登壇のほか、執筆活動も行っている。支援先である香川県の取っ手メーカーのプレスリリースにて「プレスリリースアワード2021」パブリック賞を受賞。株式会社PR TIMES公認プレスリリースエバンジェリスト。

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