SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回は、2020年8月11日に発表された株式会社ユーグレナさんのプレスリリースをご紹介します。
創業15周年を迎え、CI(コーポレート・アイデンティティ)刷新 | 株式会社ユーグレナのプレスリリース
「ミドリムシ」で有名なバイオベンチャー、ユーグレナ。同社の新CI(コーポレート・アイデンティティ)は、ユーグレナ・フィロソフィー &今後の事業方針という構成で発表されました。
自社表記を英語からカタカナに変更したり、ビジョン、スローガンを廃止したりと、大々的なCI刷新に挑んだ同社。コロナ禍で社内外のステークホルダーの理解や協力を得ながら進めたというその裏側を取材しました。
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社内公募制度で声をあげた、入社4ヶ月目の広報担当者
ーそもそも、今回のCI刷新に至った背景をお聞かせいただけますか?
北見:ユーグレナは8月9日に創業15周年を迎えました。昨年発足した社内公募制度の中で、「15周年に向けてグループの一体感を高め、よりよくしていくためにできること」というお題が出たんです。そこに、今年の1月に私が持ち込んだ投書が全ての発端ですね。
ユーグレナには、これまで「ユーグリズム」という行動指針や、「ミドリムシ無限大カンパニー」をはじめとするタグライン、様々なキャッチコピーがあったんですが、制定された時期がバラバラで、それらに対する愛着も人それぞれ異なっていました。
私自身は当時、入社4ヶ月目。少しずつ馴染んできたところでしたが「自社に染まり切る前の、新鮮な視点を持ったメンバーが進めるべき」という上司の後押しもあって。そこで「今、改めて自社に愛着を持つために、今いる人たちと一緒に新しい価値観を確認しよう」と投げかけたんです。そこからプロジェクトが始まりました。
ータイムラインとしてはどんな風に進んだのでしょうか。
まずはチームづくりですね。副社長の永田を中心に、経営戦略やマーケティング、食品ブランドなど各チームのトップが集まりました。1月から3月頃までは、方向性のディスカッション。当時から、15周年の創業記念日に合わせて8月に発表するということは決めていたのですが、議論を重ねるなかで「とてもじゃないけど半年じゃ間に合わない!」となり、最初はミニマムにロゴだけ変えようとなりました。
ー新しいロゴはカタカナで、より親しみやすい印象です。どんな経緯で決まったんですか。
4月上旬の全社総会で、夏までにロゴの改定を行うことを発表しました。私たちは社員を「仲間」と呼ぶのですが、全社会の場で仲間たちが今のロゴにどんな愛着を持っているのか知りたい、と伝えたんです。仲間全員をプロジェクトチームとして巻き込んでいく、という決意表明でもありました。その時は旧ロゴを作った執行役員にロゴへの思いをプレゼンしてもらったほか、他社のロゴ分析や、当時のロゴの弱み分析も発表。オンラインのアンケートツールを使って全仲間からの意見を募りました。
ロゴをカタカナにするということも、そうしたプロセスで寄せられた意見を元に決めました。ミドリムシの学名である「ユーグレナ」はラテン語(「美しい瞳」の意)で、日本のみならず英語圏でも読まれにくい、という声があって。海外展開も進む中でのカタカナ表記は勇気が要りましたが、英字に逃げずに視認性があって覚えてもらえるロゴを作ろう、ということで現在の形になりました。
ービジョンやスローガンを廃止してフィロソフィーを制定することは、どのように決まったのでしょうか。
ロゴの完成が見えてきた6月中旬ごろに、プロジェクトチーム内で「経営理念はこのままでいいんだっけ?」という話になったのがきっかけです。その頃、ロゴ制作にあたって行ったワークを通じて、CI刷新に関する2つの方向性が見えていました。
ひとつは、創業時から続いてきた、サステナビリティやSDGsを核にした会社であるというメッセージをCIを通じて表現するということ。もうひとつは、新事業や、ユーグレナ以外の素材の事業にも違和感なく使えるメッセージを打ち出す、ということでした。
冒頭で申し上げた通り、これまで当社には様々なキャッチコピーがあって、広報の私たちでも覚えきれないくらいでした。それぞれ作られた時期も異なり、企業のフェイズも今と違う。私たちは「ミドリムシの会社」から「サステナビリティの会社」に進化するのだ、ということを再確認し、今のフィロソフィーに一新することに決めました。
ロゴに向き合い続けて生まれたシンプルなメッセージ
ーシンプルながら力強さを感じるフィロソフィーですよね。限られた時間の中で、どのようにアイデアが生まれ、決定されたのでしょうか。
これ、意外とあっさり決まったんですよ。「なぜこのロゴにするのか」を代表の出雲(いずも)と議論していたときに、彼が自然と発した言葉なんです。「ユーグレナは、ミドリムシの会社から『サステナビリティの会社』になる。そのことをこのロゴはどう表しているの? サステナビリティファーストになってるの?」と。
その指摘を聞いた全員が「サステナビリティファーストって、いい言葉ですね」と、しっくりきた。無意識に出た言葉だったようですが、出雲本人も気に入って。このときのやりとりが元となり、フィロソフィーはすぐに決まりました。
そうして、新ロゴに先駆けて7月初旬に社内で発表したんです。一般の方々に発表する前に。フィロソフィーを社内で発表してからがもうひとつのスタートだったとも言えます。
ーそもそものプロジェクトのゴールは「自社に愛着を持ってもらうこと」でしたね。
はい。ですから、フィロソフィーを発表した7月から「自分にとってのサステナビリティとは何か」を考える全社向けのワークショップを複数回開催しました。
まずは、7月上旬にサステナビリティファーストという言葉をどう理解したかをディスカッションし、続いて中旬から下旬にかけて「my サステナビリティ(私の考えるサステナビリティ)」というテーマでワークショップを実施。ここでは「持続可能な社会、未来、環境を作っていくためには自分たちはどうあるべきか。何をしたくて、今ここにいるのか」を見つめ直しました。
そして最後に、まだ出来上がっていなかった行動指針(ユーグリズム)をどう一新していくかを議論するワークショップを開催しました。時節柄、全てオンラインでの進行だったのでなかなか骨が折れましたが、全社で5~6名の小グループに分かれて実施しました。そういう形でみんなでワークショップを続け、最終的になんとか、創業記念日に合わせる形で新ロゴも発表できました。
ー社内からの反応はどうでしたか。
「私『は』いいと思う」という声が多いんです(笑)。面白いですよね。
最初はみんな、カタカナのロゴに半信半疑だったんですよ。実のところ、推進していた中心メンバーの中でも、最後まで「カタカナはちょっと……」という声は根強くあって。ですが、実際に出来上がったロゴやフィロソフィー、そしてその説明を見て、感情的にも論理的にも受け入れてくれた仲間が多いのかな、と思っています。
創業時から出雲が抱いているのは「バングラデシュで目の当たりにした栄養問題を解決したい」という想い。みんなここに共感して集まった仲間たちだったので、今まであったキャッチコピーでは、その枠におさまりきっていなかったのかもしれませんね。
丁寧に言語化することで生まれる説得力と納得感
ーコロナ禍で、ほとんどの会議をオンラインで進めたそうですね。大変だったことはありますか。
全員の表情や空気を感じられなかったことですかね。コミュニケーションって、文字やことばに置き換えられるものだけではなくて、手触りで掴むものもありますよね。そうした部分がオンラインだと掴みにくくて。カメラオフでの会議だと特に「うーん」っていう声が聞こえても、そのうーんは「いいね!」なのか「しっくりこない」なのか、どっちなんだろう、って。
人それぞれ背景や感じ方が違うので、「一度じゃ絶対伝わらない」ということは分かっていました。だからこそ、全て言葉に起こして、理由を言語化していく作業を大切に、丁寧にやっていきました。
-理由を言語化していく、ですか。
はい。デザインの要素について、すべてをロジカルに説明できるように。なぜ片仮名なのか、なぜこういう「はらい」になっているのか、なぜタテ長なのか。他にもマークの位置をなぜ右上に変えたのか、とか……。ロゴデザインの候補は100以上あったのですが、作成してくれたデザイナーさんの考えをヒアリングして、みんなにわかりやすい言葉で一個一個定義して、全部、聞かれたら答えられるようにしました。
大きなプロジェクトに取り組むときのポイント
ー今回のプロジェクトのきっかけであり、ゴールでもあった「愛着」。北見さんにとって「会社に愛着を持つこと」はどんなことだと思いますか。
「この会社が好き」という感情を超えて「この会社を通して何かをしたい」と思える状態って、すごくいいなと思うんです。会社を通して社会や世間が変わっていくとみんなが信じている。だからこそ、ひとりひとりが「自分の行動がこの会社を代表している」と自然に思える。それが愛着に繋がるんじゃないでしょうか。
ー同じようなプロジェクトに携わる方に向けて、何かアドバイスするとしたら?
仲間に叩いてもらうことを前提に、とにかく早くたたき台を作る、ということでしょうか。特にテレワークメインの状況だと、たたき台がなかったら誰も発言しないままになっちゃうことも多い。「90%違うんだよね」と言われたら、「じゃあ10%はOKなんだ」と確認できるので、次のステップに滞りなく推進できます。
それから当たり前なんですが、人の気持ちに立って考え、相手の嫌がることをしない、ということ。
私、もともと情報システム部門がキャリアのスタートで、プロジェクトの進行管理を担うことが多かったんです。反対意見や思わぬ意見に対して「なぜそれが出てくるんだろう」とその人のバックグラウンドから考えると、確かにそうだよね、と納得できる部分が見つかりました。
相手の発言の意図を汲み取れると、次に何を発言するか、まで想像できるようになります。日頃から周囲の人を知るための努力を惜しまずにいれば、周囲を心地よく巻き込めるPRパーソンになれるはずです。
ーありがとうございました!
今回のPR事例ポイント
- 常に目的を意識して動く。手段を目的化しない。
- ワークショップを通じてインターナルコミュニケーションを活性化
- 一度では伝わらないと覚悟を決め、「伝わる言葉」で言語化する
企業ブランディングを再考する取り組みは、どうしても手段が目的化し「納得のいくロゴをつくること」などがゴールになりがち。しかしこのケースでは、CI刷新を契機に「現メンバーの自社への愛着を深める」という当初の目的が果たされており、最後までゴールを見据えて走り抜けたプロジェクトだったのだな、ということがよくわかります。
半年間という限られた時間の中で納得のいく判断をしていくためには、一つ一つのプロセスの密度をできるだけ高める必要があります。加えてコロナ禍におけるオンラインミーティングならではのもどかしさもあったでしょう。それらの制約を乗り越えるべく、北見さんがミーティング前に緻密な準備を重ねていたことが印象的でした。
(撮影:原 哲也)
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