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納得のいくまで、何度でも。共感者を増やすサービス背景の伝え方──クックパッド広報・牛山マーティン

広報PRといっても、やり方やこだわりはそれぞれ違うもの。広報PR活動をする中で、「私のやり方って正しい方向なの?」「広報PRに求められる役割って?」と悩むことも多いでしょう。

クックパッド株式会社の牛山マーティンさんは、約2年間広報として従事するなかで「私たちの思いに共感してもらうためには、サービスの背景から伝えるべきだと気づいた」と言います。

マーティンさんは、どのような経験を通して、今の広報スタイルに至ったのでしょうか? 

クックパッド株式会社 広報部 サービス広報グループ 

牛山 マーティン(うしやま まーてぃん)

1977年生まれ。IT関連企業数社でデザイナー、事業開発ディレクターを経て2015年10月にクックパッド入社、2018年4月より現職。男子二児の父で趣味は料理。生まれはドイツで育ちは長野

自ら巻き込まれにいくスタイル。新規事業の広報への挑戦

──まず、マーティンさんがクックパッドに入社したきっかけを教えてください。

30歳になって「趣味が欲しい」と思い立ち、クックパッドを見ながら料理を始めたことがきっかけです。それまでは一切料理をしたことがなく、母親に「米のとぎ方教えて」と電話するレベルで(笑)。

クックパッドにはレシピに写真付きコメントを投稿できる「つくれぽ」という機能があり、料理を習慣化するために投稿していました。もうね、最初の頃の写真なんて、悲惨すぎて見ていられないですよ。

美味しそうでないハンバーグ
こちらの写真、マーティンさんの同僚に「ハンバーグの死骸」と呼ばれていたそうです

──こ、これは……(取材班一同)

やばいですよね(笑)。でも、料理がうまくなりたかったので、とにかく作り続けました。

つくれぽに年間100回、次の年は200回……とハードルをあげながら投稿していくと、だんだん料理が楽しくなってきて。クックパッドの「毎日の料理を楽しみにする」というミッションにも共感し、ひとりのユーザーとしてサービスへの愛が深まっていったんです。

「いつかは入社したい」と思っていたところに、社員募集のタイミングが合って、運よく採用してもらいました。ディレクター職を経た後に今は、生鮮食品EC「クックパッドマート」や、スマートキッチンサービス「OiCy」などの新規事業の広報担当をしています。

美味しそうなハンバーグ
今ではすっかり料理上手なマーティンさん。見違えるような上達レベルです

──始まりはサービスへの愛だったんですね。広報担当者になり、仕事は順調に進みましたか?

本格的に広報にトライしたことがなかったので、「わからないけどとにかく走り続ける」という状態でした。

しかも、広報に就任して最初に担当したのは、当時これからリリースする予定の新規事業でした。これが、なかなかスムーズにはいかないんですよね。キーメッセージも決まっていなければ、サービス内で使う単語のセレクトもできていない。事業部と一緒にキーメッセージ決めたりしながら、同時並行で、広報の準備を進める状況でした。

リリース日は決まっていたので、とにかく間に合わせるしかなくて。ギリギリでしたね。

──広報のイロハがわからない中で、どう間に合わせたのですか?

広報担当として一線を引かずに事業部の中に飛び込んでいきました。広報のためのミーティングは開かず、事業ミーティングのなかに常に広報担当者がいる、みたいな。新規事業の部署の一員として溶け込むんです。

新規事業は、まだこの世に完成品がないもの。事業内容について、Webサイトや資料を見て理解したり、誰かが教えてくれたりするわけではありません。むしろ、広報担当者が先陣を切って伝えるためのメッセージを考えていかなければならない。

サービス内容を深く理解し、自分の言葉で表現するため、日に日に事業が形づくられる現場にいるべきだと思いました。これは今でも意識してやっています。

クックパッド株式会社-牛山 マーティン-20022401

サービスをやる背景から伝える。広報に求められる役割

──マーティンさんがクックパッドの広報担当者になって、約2年経ったと聞きました。最初の頃と比べて、広報に対する価値観は変わりましたか?

確実に変わりましたね。

最初、広報という仕事は「サービスを認知拡大するもの」だと思っていました。しかし今は、「なぜクックパッドがこの事業をやるのか」という背景を伝えていくことがとても大事だと考えています。

ーーなぜ背景を伝えるのでしょうか?

「毎日の料理を楽しみにする」という私たちのミッションを実現するためです。クックパッドは「ミッションを達成したら会社を解散する」と定款に書いてあるほど、ミッションドリブンな会社で。

そんな僕たちのミッションを達成するためには僕たちだけでは達成できません。より多くの人に「なぜこのサービスをクックパッドがやるのか」の部分に共感してもらい、サービスを使っていただく、一緒に事業を作っていく、一緒に働く、そういった関与する人を増やしていく要があるんです。

しかし現状は、“クックパッド=便利なレシピサービス会社”というイメージが強く、サービスの背景がなかなか伝わっていません。

クックパッド株式会社-牛山 マーティン-20022402

──言われてみれば、レシピサービスの印象ばかりが強いかもしれません。

そうですよね。僕自身、何度も「世の中にものすごく良い影響を与えるサービスなのに、根幹にある背景が知られていない」ともどかしい思いをしてきました。

しかし、あるとき気づいたんです。広報が注力するべきなのは、背景を伝わりやすいストーリーに乗せることではないかと。ストーリー化した背景を、世の中に伝える橋渡しの役割を担うべきだと。そこからは、背景の伝え方に一番、重きを置いています。

プレスリリースは納得のいくまで何度でも。サービス背景の伝え方

──マーティンさんは、サービスの背景をどんな手段で伝えていますか?

プレスリリースです。ブログや「note」など、企業の思いを伝える手段はいくつかありますが、僕はプレスリリースが好きなんですよね。

──なぜ、プレスリリースが好きなんですか?

……なんででしょう。企業として公式に出す文書だから、かもしれません。

クックパッド株式会社-牛山 マーティン-20022403

ブログは仕事のノウハウだったり、イベントレポートだったりプレスリリースより詳細な情報を伝えるのに適した場所だし、noteは法人というより個人がエモい思いやメッセージを伝えるのに適した場所です。一方でプレスリリースは、法人としての公式文書として重みもあり、論理的に背景にある思いを伝えられるツールだと思っています。

──ああ、確かにツールがもつ役割の違いはありますね。プレスリリースを書くときに心がけているポイントを聞いてみたいです。

大切にしてるのは、「誰のどんな課題を解決するのか、なぜやるのか」を論理的に伝わるストーリーを作ることですね。文章が得意ではないので、表現を変えたり、順序を変えたり、何度も書き直しています。「何でこの3行がうまく伝えられないんだ」と、納得できるまでとにかくもがく。ドラフト10まで書いたこともありますよ。

──ド……ドラフト10。

新規事業は最初こそ規模が小さいですが、いずれは社会に大きなインパクトをもたらすものであるはず。だからこそ、妥協はできない。サービスが成長した暁に「誰の」「何を」「どれほどの規模で」解決するかを、想像して、きちんと伝えなければなりません。

ポイントは、読み手の頭の中で映像が流れるようなストーリーにして伝えること。伝えるべき人を頭に思い浮かべてから初めて、文章を組み立てていきます。

ありがちなのは、「世界中の人を幸せにする」のようにざっくりした表現です。誰に向かって言ってるのか、ボヤけてしまう。「そりゃあ、世界中の人を幸せにできたら良いよね」で終わるリスクがあります。

──「できるだけ多くの人に届けたい」と、ざっくりした表現の落とし穴にハマってしまう広報担当者も多そうです。

あとは、繰り返し伝えられていない人も、意外といるのではないでしょうか。僕は、プレスリリースのたびに、背景やサービスの核心となる情報は必ず入れて繰り返し伝えるようにしています。

クックパッド株式会社-牛山 マーティン-20022404

──伝わるまで繰り返す、ですか。私だったら「同じ内容ばかりだと思われないかな」と不安に思ってしまうかもしれません。

情報過多の時代で、新しいお知らせがどんどん流れてくるので、自分たちの情報は思ってるより届いていないものです。僕も以前までは、一回伝えただけで満足していました。

「クックパッドマート」のサービス提供時に、プレスリリースから取材依頼がたくさん届き、さまざまなメディアで報道してもらったんです。しかし、今でも取材依頼をもらうときに「初めてサービスの存在を知った」と言われることがけっこうあります。

「日経(日本経済新聞)に乗ったし」「ニュース番組で報道されたし」は自己満足であることに気づきました。時に切り口や伝える媒体を変えながら、背景や思いといったサービスの核心となる情報を必ず入れ、伝える努力を怠らないよう肝に銘じています。

良いサービスのために忖度しない。事業サイドに立つ広報スタイル

──今回マーティンさんと話してみて、芯がある考え方をもった方だなという印象を受けました。

確かに僕、やや頑固で言いたいことははっきり言うタイプです(笑)。

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「このサービスすごい好きだけど、この部分が微妙」「このサービスはこうあるべきだと思うだ」と、客観的な視点で感じたことは事業部のメンバーにもはっきり言うようにしています。

本気でサービスのことを考えて意見をぶつけることで、なぜそうなっているかも教えてもらえます。「理想はマーティンが言うとおりだけど今は理由があってこの形にしている」など理由を聞ければ納得できます。自分の認識が誤っていれば正すことができ、サービスへの理解も深まります。

広報するからには本気でサービスを成功させたい。疑問があれば忖度せずにちゃんと伝えます。

──広報担当者もいっしょに事業を作ってくれているようで、事業サイドにとっても心強いことだと思います。先ほども「新規事業チームの一員として溶け込む」というお話がありましたが、なぜそこまで事業サイドの目線をもてるんですか?

以前ディレクターをしていたときに、自分自身が広報担当者を遠い存在に感じていたからです。プレスリリースの時だけ関わってきてサービス理解してなかったり、広報向けの説明資料を作らされたりした経験もありました。

正直、現場でリリースを控えていると「同じ会社なんだから、もっと自分からサービス理解しようとしてよ」と疑問に思ってしまうこともあって……念の為、現職の話じゃないですよ。(笑)

だから、自分が広報担当者になったからには、事業サイドに立とう、と。広報部に所属していますが、気持ちは事業部に所属していますね。

──事業部出身のマーティンさんだからこそできる、広報スタイルですね。

ただ、広報担当者になってまだ約2年なので、経験不足を痛感する場面もたくさんあります。今まではプレスリリース一本攻めだったので、広報担当者としての打ち手が少ないんです。

広報の仕事は深みがあって面白いので、もっと本質を探っていきたい。広報担当者としてレベルアップして、サービスの背景をより多くの人に伝え、共感してもらいたい。そして、世界77億人の人々が、毎日の料理を楽しみに生きる未来を見てみたいと思っています。

生鮮食料EC・クックパッドマートの商品受け取り場所「マートステーション」

広報の仕事は、企業の思いをストーリーに乗せ、世の中に橋渡しすること

30歳で料理にトライしたことをきっかけに始まった、マーティンさんの広報担当者としてのキャリア。サービスへの愛を起点とし、表現や伝え方などを試行錯誤しながら走り続けていました。

サービスの背景にある思いをストーリーに乗せて、広報が世の中に橋渡しをする。「広報とはどう在るべきか」と迷ったら、マーティンさんのこの言葉を思い浮かべてはいかがでしょうか? 広報PRとして進むべき道のヒントを与えてくれるかもしれません。

(撮影:原 哲也)

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この記事のライター

kashimin

kashimin

1994年生まれのライター・編集者。BtoBメディア運営会社とWebコンテンツ制作会社をへて、フリーランスに。企業の経営者や担当者を取材して約4年、ビジネス系の記事を中心に執筆しています。“働く人”のウラ側にあるストーリーを伝えていきたい。人生のBGMはサザンオールスターズ。散歩の時間と眠りにつく瞬間がだいすきです。

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