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【スタートアップ向け】経営に機能する広報PRとは?事例に学ぶ、フェーズに合わせた戦略と実践|星 直人

【スタートアップ向け】経営に機能する広報PRとは?事例に学ぶ、フェーズに合わせた戦略と実践|星 直人

スタートアップの広報PRは、「余裕が出てから取り組むもの」「事業が軌道に乗ってから」と捉えられがちですが、実際は初期フェーズだからこそ、信頼や共感を積み上げるための戦略的な広報PRが不可欠です。

プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは、1月23日に「企業成長につながる、スタートアップの戦略的広報PR」をテーマとしたユーザー会を実施。投資銀行やスタートアップ取締役CFOとしての豊富な実務経験を持ち、現在は上場会社及び非上場会社のアドバイザーや一般社団法人インパクトスタートアップ協会の代表理事等を務める星 直人さんが登壇しました。

これまで約100億円の資金調達を主導してきた経験や複数の経営に関与する立場から、スタートアップが広報PRにどう向き合うべきか、その考え方と実践のポイントを解説していただきました。本レポートは当日のお話をもとに、事業成長・資金調達・採用といった観点でまとめています。

一般社団法人インパクトスタートアップ協会 代表理事 PIVOT株式会社 社外取締役 株式会社ヘラルボニー 財務戦略顧問 コクヨ株式会社財務戦略アドバイザー CPAエクセレントパートナーズ株式会社財務戦略アドバイザー

星 直人(Hoshi Naoto)

モルガン・スタンレー証券投資銀行本部に新卒入社。国内大型経営統合案件や1兆円超の大型クロスボーダーM&A案件を主導。アクティビスト対応を含む株主対応案件や企業価値向上策に関するアドバイザリー業務にも従事。東京・ニューヨークオフィスで約12年間勤務後、2019年にユニファ株式会社の取締役CFOに就任。約100億円の資金調達やセカンダリー取引を含む財務戦略や戦略的施策の立案と実行を牽引。

広報PRがスタートアップの最重要経営アジェンダである3つの理由

スタートアップの成長は、プロダクトやサービスのクオリティだけで決まるわけではありません。その成長のスピードや方向性は、「どう伝えているか」によって大きく左右されます。これまでに多くの企業の経営と向き合ってきた星さんならではの視点をもとに、スタートアップが広報PRに注力すべき理由を見ていきましょう。

1.限られたリソースで最大の効果を出せる

スタートアップは、広報の巧拙によって事業や組織の成長スピードや伸び方の角度が大きく変わります。そのため広報について、「苦手だからやらない」という判断は基本的に成立しないと、星さんは断言します。大切なのは「やるかどうか」ではなく、「どのように取り組むのか」。

事業の成長や採用・資金調達など、経営のさまざまな要素に影響を与えるからこそ、単なる情報発信ではなく経営マターとして向き合うべきテーマのひとつです。また、広報PRはスタートアップにとってレバレッジが効く戦略的な施策のひとつで、限られたリソースの中でも取り組み方次第で影響を大きく広げることができます。もちろん、大企業にとっても重要ですが、よりスピード感があり、経営全体に与えるインパクトが大きいのはスタートアップだといえるでしょう。

2.経営の3要素(事業・財務・組織)に効く

広報PRは、事業・財務・組織という「経営の3要素」それぞれに、異なる形で効果を発揮すると星さんはいいます。

「経営の3要素」事業

事業面では、BtoCを営む企業はメディア露出をきっかけに購買行動へ短期間でつながる場合があります。一方、BtoBを営む企業ではBtoCと比較し即効性は高くないものの、認知があることで信頼感が高まり、営業や事業活動を進めやすくなるという効果が期待できるでしょう。

「経営の3要素」財務

財務面では、最終的に事業計画の蓋然性等の数字面で投資判断されるものの、その前段階として、投資検討の対象に入るための認知形成や第一印象が重要です。多数の候補先がある中で、広報PRによって「話を聞いてみたい」「応援したい」と思ってもらえる状態をつくることが、投資検討の入り口につながります。

「経営の3要素」組織

また、組織面では人材獲得競争が激化する中で、まず存在を知ってもらい、「魅力的な会社だ」と感じてもらうことが欠かせません。社会的な認知やメディア露出は、入社後のエンゲージメント向上にも寄与します。

3.ストーリーを語ることで企業価値を高められる

広報PRは、ファイナンスの視点から見ても重要な取り組みの一つともいえます。企業価値や株式価値は、将来生み出されるキャッシュフローをもとに評価されますが、その前提となるのが「エクイティストーリー(Equity Story)」です。投資家や株主に向けて、どのような「ストーリー」を語れているのかによって企業価値には大きな差が生じる可能性があります。

広報PRは以下の点からも、単なる情報発信ではなく、企業価値を構成する要素そのものに働きかける施策だといえるでしょう。

ユーザー会01

「One of Them」の中で想起されるためのストーリー

日本に約2万5000社(※)にもなったといわれているスタートアップ。世の中が情報過多の状態にある中で、どのように自社を知ってもらえばよいのでしょうか。星さんは、まず前提として自社が「One of Them(多くの中の1社)」であるということを認識するべきだと話します。

※経済産業省:第1回スタートアップ政策推進分科会

情報過多の時代、「ストーリー」で立体的な理解につなげる

では、数多くの企業の中でマインドシェアを取れる存在になるためには、何が必要なのでしょうか。鍵となるのは、「ストーリー」です。

商品や会社を断片的にとらえて点で伝えるのではなく、その背景にある課題意識や起業の理由、そこから生まれる価値やユーザー体験までを一本の流れとして立体的に語ってこそ、物事への理解が深まり、共感が生まれます。

ファイナンスの世界でも、投資家に対して企業の持続的な成長を説明する際には、「エクイティストーリー(Equity Story)」として、なぜこの会社が成長し続けられるのかを伝えます。同様に広報PRにおいても、新商品発売やオフィス移転を発表する際にストーリーがない断片情報だけでは、数多くのニュースの中に埋もれてしまう可能性が高いでしょう。だからこそ、広報PRでは、事実を伝えるだけで終わらせず、その背景や理由、そこに込めた意図まで含めて語ることが大切なのです。

「Why You?」「Why This?」「Why Now?」を語る

星さんは、ストーリーを整理するためのポイントとして次の3つを挙げます。

  • なぜ、あなたの会社なのか(Why You?)
  • なぜ、このプロダクト・取り組みなのか(Why This?
  • なぜ、今なのか(Why Now?

これらは、投資家へのエレベーターピッチで必ず意識すべきポイント。時間をかけて説明すること以上に、限られた時間の中で「本質をわかりやすく、シンプルに伝えられるかどうか」が重要なのだといいます。ごく短い時間で、骨太かつシャープに要点を伝えられるか。言語化、ストーリー性の工夫と努力があってこそ、相手に関心を持ってもらい、次の対話へとつなげていくことができるのだそうです。

「認知」で終わらせない。その先に進むストーリー設計

マーケティングの視点で見た人の行動は、「認知」「興味」「比較・検討」「行動」という段階をたどります。まず存在を知り、関心を持ち、ほかと比べたうえで、行動に移す。この流れは私たちが日常的に行っている購買行動と同じで、広報PRではこの最初のステップである「認知」を獲得するために欠かせない取り組みです。

ただし、背景や文脈が十分に伝わっていない場合、一時的に知られてもその先につながらないということも。だからこそ、認知を取るためのアクションとあわせて、「興味」や「比較・検討」の段階でも離脱されないためのストーリーを設計することが重要なのだそうです。

ユーザー会02

広報PRを経営インフラとした成功事例とポイント

保育や子育てに関する社会課題を、テクノロジーの力で解決するユニファ株式会社。星さんが取締役CFOとして参画した当初、経営上の一番の大きな課題と感じていたのが、組織、特に採用活動だったといいます。その経営課題を解決するために星さんが取り組んだのが、広報PRを経営インフラとして整えることでした。

ユニファ株式会社(東京都):最新プレスリリースはこちら

1.ストーリーの整理と磨き込み

ユニファの事業領域は保育関連であるため、発信の仕方によっては、保育に直接関心のある層にしか届いていませんでした。そこで星さんは、発信の前提となるストーリーを整理し、ターゲットに適切に届くメッセージへと見直していきました。

  • 事業の意義の再定義とリフレーズ:「保育」に限定せず、「子育て・家族」や「キャリアと子育ての両立」を軸に、サステナブルな社会づくりや女性の更なる社会活躍、ジェンダーフリーへの貢献まで含めて言語化
  • 社会性と経済性の両立を明確化:社会的意義だけにフォーカスするのではなく、スタートアップとして挑戦し、大きな成長を目指す企業であることを明確に打ち出す
  • キャリアの視点を追加:上場を目指すスタートアップで、多様な挑戦や成長機会が得られることを発信し、キャリア的にも「この会社で個人がどのように成長できるのか」を具体化

2.パーパスとバリューの刷新

また、ストーリーの軸を明確にするため、経営を貫く考え方として、パーパスとバリューをあらためて見直しました。

  • パーパス:「家族の幸せを生み出すあたらしい社会インフラを世界中で創り出す」と再定義し、公共性・グローバル性を意識したメッセージを明確化
  • バリュー:「One More Step(もう一歩深く、もう一歩遠くへ)」「Play Fair(議論を恐れるな、未来が逃げる)」「Triple Win (ユニファ良しが、顧客良しで、社会良しへ)」という3つのバリューを設定し、スタートアップとしての覚悟やカルチャーが伝わる価値観を言語化。採用や評価の基準の一部にも活用

3.認知と信頼を高める多角的な取り組み

そして、対外的な認知と信頼性を高めるため、複数の施策を組み合わせて進めていきました。

まず取り組んだのが、コーポレートアイデンティティのリブランディングとWebサイトの刷新です。ロゴやデザイン、Web表現を見直し、「なぜこの会社が存在するのか」「何を大切にしているのか」が直感的に伝わるよう整備。パーパスやバリューで言語化したストーリーを、ビジュアルやUIにも一貫して反映させました。

次に注力したのが、アワードへの戦略的な応募・獲得です。自社発信だけでなく、第三者評価を得ることで信頼性を高め、コミュニケーションコストを下げる狙いがありました。実際に複数の受賞につながり、採用や事業面での接点づくりにも大きな好影響をもたらしたといいます。

さらに、社会的意義と事業広報を両立する取り組みも行いました。例えば、コロナ禍に実施した「保育施設向けのマスク提供を目的としたクラウドファンディング」もそのひとつ。主たる目標は保育現場への貢献だったものの、現場に寄り添った行動を通じて信頼を獲得し、「保育現場を本気で支える企業」としての認知と顧客接点を広げる結果につながりました。

4.広報PRは走りながら磨いていく

こうした取り組みを重ねた結果、ユニファでは採用力が大きく向上。認知度が高まったことで、より求める層の候補者からの応募が増え、内定受諾率も大きく改善したといいます。また、アワードの受賞は、外部評価につながっただけでなく、社内エンゲージメントの向上にも副次的な効果をもたらしました。

一方で、すべての施策が想定通りに機能したわけではなく、効果を生まなかった取り組みもあったそうです。スタートアップにおける広報PRは、やってみなければわからない側面も多いため、「まずアクションを起こし、結果を検証しながら改善を重ねていくことが重要」だと星さんは話します。仮説が外れることを前提にPDCAを回し、他社の事例からも学び続ける。そうした試行錯誤の積み重ねこそが、広報PRを機能させ、企業の成長につながっていくのだそうです。

【質疑応答】参加者からの質問に星さんが回答

ここからは、当日セミナー会場で寄せられた質問の一部を抜粋し、星さんの回答と合わせて紹介します。

──ストーリーの重要性は理解していますが、プレスリリースで何を配信すればいいのか悩んでいます。エクイティストーリーのような大きな軸は整理できても、代表の思想や技術など、発信の切り口が思いつきません。どう考えればよいのでしょうか。

この質問を聞いて、広報PRの目的と手段が少し逆になっていると感じました。広報PRはあくまで手段であって、目的ではありません。思いつかないのは、ネタがないからではなく、「まだ言語化しきれていないだけ」ではないでしょうか。

スタートアップの起業やプロダクト開発の背景には、必ず強い想いや情熱があるはずです。ただ、それを伝わりやすい言葉にするのは簡単ではありません。だからこそ、もっと深く考え、対話を重ねる必要があります。私自身、ユニファでロゴ変更を提案した際には一部から強い反対もありましたが、採用力やブランディングにはストーリーの再設計が必要だと信じて、学び、考え続けたからこその自信もありました。結果として、後に反対をされていた方からも「あのとき変えてよかった」と言ってもらえています。

だから答えはシンプルです。思いつかないのではなく、まだ考え切れていないだけ。語るべきストーリーは必ずあると私は思います。

──先ほどのユニファさんの事例では、採用面での効果はどのくらいで現れたのでしょうか。

効果がしっかりと実感できるまでには年単位の時間がかかりました。少なくとも1年以上続けて、2〜3年経った頃にようやく「ユニファは採用が強くなったよね」と言われるようになった感覚です。

広報PRの難しいところは、短期間で成果が出にくいこと。これは経営全般にもいえることですが、燃えやすいものほど冷めやすい。じっくり熱をためたもののほうが、結果として持続可能になると思っています。発信も同じで、何かひとつやったからといって、すぐに大きな効果を生むわけではありません。数年単位でやり続けなければ見えてこない成果があると思っています。

──AI時代といわれる中で、組織への影響についてどう考えていますか。組織はいらなくなっていくのでしょうか。

今後は二極化していくと思っています。少人数や一人起業のように非常に小さな組織となる会社と、組織として多様な人を束ねていく大きな会社。そのどちらかです。

広報PRの領域でもAI活用は進むと思いますし、それ自体は悪いことではないと思います。ただし、いわゆる大規模言語モデルはその性質上、どうしても平均的な表現になりがちです。一方で、平均的なものは、基本的に人の心には刺さりません。競争戦略の本質は差別化だからこそ、AIはツールとして活用しつつも、何を語るのかという軸は人や組織が考え続けることが大切だと思っています。

──広報PRと実態のズレが、将来的な信頼低下につながらないか不安です。企業の成長フェーズを踏まえ、どのように向き合うべきか教えてください。

大前提として、企業経営も人間関係も、信頼がすべてです。だからこそ、できていないことを「できている」と伝えるような「嘘」は、絶対に避けるべきだと思っています。

その一方で、「今の状況」と「中長期で目指している姿」は、きちんと切り分けて伝えることが大切です。スタートアップであれば、オペレーションやプロダクトに課題があるのは自然なこと。「いつまでに、どんなプロダクトをつくり、どんな世界を実現したいのか」というビジョンを語ることも欠かせません。

スタートアップにとって本質的に問われるのは、目の前の完成度だけではなく、どんな世界観をつくろうとしているのか。そのビジョンを含めて広報PRを行うこと自体は、決して悪いことではないと思います。ただし、あくまで事実は事実として伝えること。「将来こうなりたい」という話と、「今すでにできていること」を混同しない。その誠実さがあってこそ、広報PRは信頼につながるものではないでしょうか。

──CFOや財務の立場から見て、従来の広報PRに課題を感じることはありますか。

私はCFOというファンクションというよりは、あくまで経営全体の視点で考えています。ファイナンスを管掌していますが、財務だけで経営的な物事を判断することはありません。重要なのは、広報PRの取り組みが企業価値や成長にどう結びついているのかです。

広報PRでよく見られる課題のひとつに、目的と手段が入れ替わってしまうということがあります。「認知を取りたい」「露出したい」という発想自体は間違いではありませんが、それが本当に意味のある施策なのかは見極めなければいけません。例えば、テレビCMやアワード獲得も、必ず効果が出るとは限りませんし、事業領域やその目的によっては、ROIに合わないケースもあります。だからこそ、「何のためにやるのか」「どこにつなげたいのか」を明確にすることが重要です。

当然アクションの数よりも大事ですが、一義的に大切なのは狙いと目的。広報PRはその目的がはっきりしていてこそ、価値を発揮するものだと思っています。

ユーザー会03

まとめ:企業の未来を伝えるスタートアップの広報PR

今回のユーザー会では、星さんから、スタートアップにおける広報PRの考え方と実践のポイントが語られました。限られたリソースの中で成果を求められるスタートアップの広報PR担当者にとって、日々の取り組みを見直すヒントとなったのではないでしょうか。

特に重要なポイントは、以下の4つです。

  • 初期フェーズこそ、戦略的な広報PRを:認知や信頼は一朝一夕では築けないため、事業が整ってからではなく、初期の段階から積み上げていく姿勢が重要
  • 広報PRは「やるかどうか」ではなく「どうやるか」:苦手意識や好みの問題ではなく、「経営にどう貢献するか」という視点で向き合うことが大切
  • ストーリー設計が、認知の先を左右する:事実を並べるだけでなく、「Why You / Why This / Why Now」を意識したストーリーが、共感の醸成や次の行動のきっかけに
  • 正解を求めすぎず、走りながら磨き続ける:スタートアップの広報PRは即効性のある万能な打ち手ではなく、仮説を立てて試し、振り返りながら継続することが成果につながる

広報PRは、企業の「未来の姿」を語る仕事でもあります。自社が目指す世界や価値をどう伝えていくのか。今回のセミナーで共有された考え方が、日々の広報PR活動を見つめ直すきっかけになれば幸いです。

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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