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コンビニに通いつめ、ユーザー像を尖らせる! パッケージ上の「おかんのメッセージ」に込められた想い

SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回はX(旧Twitter)を中心に拡散された、「メンズビオレ SMART」のパッケージデザインを紹介します。

花王株式会社「メンズビオレ SMART」

同商品は、花王株式会社が手がけるスキンケアシリーズ。働く男性の“速攻スキンケア”をコンセプトに、忙しい朝や仕事の合間にスピーディにケアできる3アイテム(洗顔料、化粧水、洗顔シート)がセブン&アイ・ホールディングスとの共同企画により誕生しました。

店頭に並んだのは2019年6月。その3ヶ月後に購入者によるX(旧Twitter)投稿が話題となりました。注目されたのは「パッケージの英文」。洗顔シートのものをよくみてみるとこう書かれています。

花王株式会社「メンズビオレ SMART」のパッケージの英文

“あれ! よう見つけたな。スラスラ読めるやろ。これ、日本語やねん。毎日忙しいメンズにリラックスの時間とリフレッシュの気分をお届けするスマートスキンケアやで。たまには嫌なこともあるやん。出かけたくない日もあるやん。そんな時もがんばるアンタが好きやで。好きやけど、休んでもええねん。逃げてもええねん。ちゃんとごはん食べて、顔洗って、それだけで立派なことや。なんかオカンみたいになってもうたけど、言いたいことはこれだけ。がんばらんでも、ええんやで。”

瞬く間に拡散された「隠れメッセージ」。担当された石井さんに開発秘話を聞くと、同社異例の、新しいチャレンジの数々が見えてきました。

花王株式会社
ビオレ事業部 マーケティング担当 
石井 嗣人(いしい つぐひと)

2006年に花王株式会社に入社。グループ会社の花王カスタマーマーケティングでドラッグストアをはじめとする小売チェーンの営業を5年間担当した後2011年にホームケア事業部でマジックリン・ハイター・クイックルブランドのマーケティングを担当。2018年よりビオレ事業部でメンズビオレのマーケティングを担当。1982年生まれ。趣味は野球。

花王株式会社の最新のプレスリリースはこちら:花王株式会社のプレスリリース

「ダブルチョップ商品」だからこそできたチャレンジ

ーーはじめに、石井さんのお仕事について教えていただけますか?

メンズビオレブランドのマーケティングを担当しています。一人でも多くのお客様に使っていただき、生活を豊かにするお手伝いをしながらブランドを強く大きく成長させていくのが僕の仕事。商品企画から販促まで幅広く手がけていて、社内でも他部署とのやりとりがかなり多いですね。

ーー「メンズビオレ SMARTシリーズ」は企画段階から担当されたと伺いました。どのように生まれた商品だったのでしょうか。

当社初の「ダブルチョップ商品」(※)で、私が2018年に着任した時にはすでに企画が始まっていました。当時はターゲットや詳細な商品は決まっておらず、ほぼゼロから関わりました

セブン-イレブン様の本部にも何度も通い、バイヤーさんと知恵を出し合いながらの開発でしたね。

(※)メーカーと流通業者(小売チェーン)が共同で構築・開発するブランドのこと

ーーダブルチョップ商品! 制約も多そうですが、その分やりがいも大きそうですね。

そうですね。結果的に新しいチャレンジができたと自負しています。

花王は、誠実で真面目な会社だと僕は思っていて、今回のように遊び心を取り入れた施策は社内でも前例があまりありませんでした。

例えばパッケージの色一つ取っても、通常はどんな売り場にも馴染みやすく清潔感のある白色を採用することが多いですが、今回はコンビニの商品群に埋もれないようにあえてライムグリーンを使ったり。作成部のデザイナーやコピーライターをはじめ、たくさんの人の力を借りました。

白を基調とした通常のメンズビオレシリーズのパッケージ
白を基調とした通常のメンズビオレシリーズ

でも最初は戸惑いがあって……というのも、僕自身コンビニで男性用化粧品を買ったことがほぼ無かったからです。

そこで、まずは徹底的に来店者をウォッチすることから始めました。調査結果から、平日、就業後の時間帯に来店する男性は、お酒や栄養ドリンクなどを購入する傾向が高いことがわかって。そこから、彼らは仕事後の息抜きのためにコンビニを利用していることに気付いたんです。ならば今回の商品も忙しい男性ユーザーの「精神的な支え」になれるような位置づけがいいのでは、と考えました。

店頭に陳列された花王株式会社「メンズビオレ SMART」
ライターが実際にセブンイレブンで見た陳列の様子

コンビニで、ユーザーが一つの商品を選ぶのにかける時間はたった数秒。だからメッセージを尖らせて「素早く効率的」という価値を最大限に伝えることを大切にしました。

でもそれだけだと「精神的な支え」になるには足りません。そこで情緒的な価値を加えたんです。香りやデザインなど、スキンケアの時間が少しでもリラックスにつながるように。

ーーここで話題になった「関西弁のメッセージ」が生まれるわけですね。これはどなたの発案だったんですか?

社内の女性コピーライターです。実は、もともとどんな文章にするかは決まっていなかったんです。パッケージにスタイリッシュな英文を配置するというデザイン案は企画初期からありましたが、「英語版桃太郎」の文章が入っていたくらいで。

この英字部分を使ってユーザーとコミュニケーションが取れたらと考えた結果、上京して頑張っている息子に向けたメッセージ、という設定が生まれたんです。偶然、僕もコピーライターも関西出身だったので、自然と「大阪のオカン」が頭に浮かんで関西弁になりました。

花王株式会社_石井 嗣人_20052001

ユーザー視点と遊び心のバランス感覚が大事

ーーSNSで一気に話題となりましたが、こうなることはある程度見越していましたか??

いえ、全然。正直、一生気付かれないんじゃないかと思っていました(笑)。このデザイン自体、「洗面所やカバンの中など、陰から支えている」というコンセプトだったので、特にプレスリリースや広告も出しませんでした

でも、店頭やご自宅で商品を手に取ったときにふと目にした文章から、ユーザーの心が少しでもほっこりできたらいいな、とは思っていました。

ーー「大人の戦略」を感じました。ここまで細部を工夫していたら、PRの場面では発信したくなってしまいそうです。

そもそも、こうした遊び心のある企画自体が花王では珍しいですからね。

通常、フルチャネルの商品のマーケティングでは、共感してくれるユーザーの数を最大化することが求められます。お店の種類はドラッグストアからスーパーまで多様で、陳列方法も予測できません。ユーザー心理も読みにくいので、他社との違いにフォーカスを当て、機能性を伝えることを重視します。

一方、今回のチェーン共同企画では売り場も陳列方法もイメージできるから、どんな人がどんな気分で商品に接するかもある程度予測できる。だからこそできた新たな挑戦でした。店頭に並んだ時にはほっとして、しばらく関西弁のことは忘れていたほどです。

花王株式会社_石井 嗣人_20052002

ーー売り上げへの影響や、社内での反響はありましたか?

売り上げは一時的に3倍ほど増加しました。SNSで話題になったことで認知や購買につながったのだろうと思います。社内でもいろんな方から声をかけてもらいました。社長が関西人ということもあり、役員会議でも話題になったようです。

個人的にも、コミュニケーションまで一貫して設計できたことは大きな学びでした。

結局のところ、ユーザー像を見つめながら、提供価値とメッセージを熟慮した結果、それを受け取っていただけた、ということだと思います。関西弁はあくまでスパイス。ウケ狙いだったら滑っていたかもしれません。

ーー他社にアドバイスするとしたら?

難しいですよね。話題になれば嬉しいですけど、喜ばしい声ばかりではありません。僕も話題になってからネガテイブな声が寄せられてないかとヒヤヒヤしていました。「この関西弁、おかしいやろ」って言われたらどうしよう、とか。

良いご意見も辛辣なご意見も表裏一体で、コントロールできるものではありません。だからこそ、誰に何を届けたいのか、作り手側が一貫して信念を持っておくことも必要ですね。

あとは、個人的に心がけているのは「明るく楽しく仕事をする」ということ。作り手が楽しんでモノを作らないと、ユーザーさんが明るい気持ちになるはずがないと思いますから。これからも楽しみながら、モノを届けていきたいですね。

花王株式会社_石井 嗣人_20052003

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「日頃から他部署の動きを追っている」という石井さん。花王には化粧品・健康ケア品から洗剤・掃除用品にいたるまで多くの商品があり、「これだけ幅広い市場のマーケティングを間近でみれる会社は珍しい」と言います。

とはいえ、ユーザーとともに積み重ねてきた歴史が長い商品ほど、新しい挑戦に対するハードルは上がっていくもの。どんな規模の企業であれ、ユーザーの立場にたって、丁寧にコミュニケーションを設計することで「伝わる」メッセージが生み出されていくのだと痛感しました。

(インタビュー写真はすべて石井さまより提供いただきました)

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この記事のライター

青柳 真紗美

青柳 真紗美

ビジネス書の編集者から広報PRパーソンへ。AI系スタートアップや不動産テック企業のPRなどを経て、現在フリーランスで広報・PR支援をしています。メディアリレーションからオウンドメディアの編集まで「コミュニケーションを考える」のが大好物。特にニッチ領域のサービス・プロダクトが好き。「みんなが嬉しい広報・PR」をモットーにその企業の「らしさ」を届け、ファンを増やすお手伝いをしています。

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