組織でひとつの節目を迎え、活動のフィールドをガラリと変える人は、次にどんな挑戦をするのだろう。
今回インタビューしたのは、5年3カ月で、60名の組織を1,800名の組織に成長させた、元メルカリ・人事の石黒卓弥さんです。現在は人事から枠を広げ、約30名のLayerXで「人事・広報」の執行役員を務めています。
「新たな挑戦をするため、人事に近い領域である『広報』を担うことにした」と石黒さん。人事のプロフェッショナルである彼は、広報についてどう捉えているのでしょうか? その疑問をぶつけてみると「広報は、信頼のチケットを集める仕事だと思う」と話してくれました。
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広報とは信頼の積み上げ。チケットがないと、舞台にすら立てない
ー石黒さんは「人事・広報の執行役員」というめずらしいキャリアを歩んでいますよね。そこで、日々どういった考えでお仕事されているのか、「広報」に軸足を置きながら話をうかがえたらと思います。
お声がけいただき、ありがとうございます。LayerXに入社した2020年5月から広報に挑戦するようになったばかりですので、私に話せることがあるかな、と不安ですが(笑)。
ーぜひ、深堀りさせてください!
ひとつ前提としてお話ししたいのは、広報とは信頼を積み上げていく仕事だということです。事業の成功のために、業界の方々やお客様となりうる方、どこかにいる未来のメンバーからの信頼を集めていかなければなりません。「パートナーシップを組みたい」「仕事をお願いしたい」「入社したい」と思ってもらえるように。
私たちが第一に信頼の積み上げを重視する理由は、まだ設立2年を迎えたばかりのスタートアップだから。規模が大きい企業や歴史が長い企業と肩を並べていくためには、信頼がないと舞台にすら立てないのです。
信頼は、自分たちが戦いたい舞台にエントリーするための「チケット」のようなものだと思っています。私は、LayerXの人事・広報の執行役員として、チケット(信頼)を各方面から集める活動をしています。
ー信頼を積み上げること、核心的で大切だと思います。……ただ、信頼を積み上げるといっても、どう動けばいいのかと悩んでしまう人も多そうです。
私たちが信頼を積み上げるための一つの取組みとして意識していることが、パーセプションチェンジです。「パーセプション(認識)チェンジ(変容)」とは、周りの自分たちに対する認識を変えていくこと。
現状、LayerXには「『グノシー』を作った福島良典が立ち上げた会社」「ブロックチェーンって難しそう」「いろんな事をやっていそうだけど、結局何しているのかよくわからない」というイメージがついているように思います。しかし根幹は、開発力や技術力が高く、各産業に関する知識ももっているし、メンバーは将来のブロックチェーン業界を支えるような精鋭がそろっていると自負しています。
だからこそ、今取り組むべきことの一つとして、私たちが実現したい世界の根幹を理解してもらうことで、これまで認知されていたイメージに変容を起こしていくパーセプションチェンジが必要。そこで、「この強みをもっと出していこう」と経営会議で舵を切る方向を話し合い、イメージに変容を起こしていくための発信をしています。
池に小さな石を投げ、何度もなんども波紋を起こす
ーイメージを変えるための発信とは、大きなプレスリリースを発表するなどでしょうか?
大きな石を投下するのは、パーセプションチェンジに一定の効果はあると思いますが、かなりのエネルギーがかかります。そもそも、信頼は簡単に得られるものではありません。池に一回石を投げるだけでは、伝えられる波紋に限界がありますしね。
だから私は、人事・広報としての発信を毎日地道に積み上げています。プレスリリースやホワイトペーパー、研究開発の論文、SNS、採用ブログなど、さまざまな大きさの石を投げて、池に何度もなんども波紋を起こしていくイメージです。
ーなるほど。信頼はすぐに集まるものではないから、コツコツと変容を起こすことが重要だ、と。
はい。人事・広報の私だけではなく、全社をあげた発信も活発です。なかでも、特に信頼の積み上げに役立っていると思うのは、ブロックチェーン基盤を比較した「ホワイトペーパー(※)」や、世界中のブロックチェーンに関するニュースを読める「LayerX Newsletter」。あとは、LayerXメンバーのブロックチェーン技術についての調査や考察に関するアクティビティを読むことができる「LayerX Research」もその一つです。
これらに共通するのは、濃い情報を無償で発信していること。「XX万円を出してでも、LayerXのホワイトペーパーを読みたい」と思う人もいるのではないでしょうか。
情報を無償で公開する理由は、何よりもブロックチェーンという市場の拡大・成長に寄与したいから。ブロックチェーンに対する理解を促進し、経済活動におけるその価値を上げるためにも、社会の共有資産を作りたいんです。
※ホワイトペーパーとは
企業が解決すべき課題と要因を分析し、解決を実現する自社ソリューションの紹介などをまとめた報告書のこと
ーそこまでgiveしてくれたら、情報を欲している人からすると、気付いたら無くてはならない存在になっていそうです。
そうなっていくと嬉しいですね。ただ、次々にコンテンツを発信していくだけでは足りないと考えています。広報活動は「たくさん発信しているから、最近露出が増えたよね」と、“なんとなく”で終わらせてはいけません。
人がいないところで叫んでも、誰も聞いていない
ー次々に発信するだけでは足りないとは、どういうことでしょうか?
「広報のネタがあるから、コンテンツを発信する」のではなく、あと一歩深いところまで入り込んで「なぜその露出をするのか?」まで考えるべきだと思います。誰に届けたいのか・なぜ届ける必要があるのか・情報が届いた人にどうなってほしいのか、にまで思いを巡らす。すると、世の中に影響を与えられる発信のスタイルが自ずと見えてきます。
同じ発信内容で波紋をより広げるためには、時流に合わせたタイミングを意識すること。人っ子ひとりいないところでいくら叫んでも、誰も聞いていませんから。例えば、伝統的な企業に情報を届けたいのに、お盆休みが始まる前日にプレスリリースを打っても、深く読み込んでいただけるでしょうか。
ー渾身の発信をして、誰にも届いていなかったなんてオチは悲しすぎます……
勉強も兼ねて各社の発信をよく見ているのですが、意外とそういったポイントへの意識が弱く、もったいないなと感じることがあります。こうした「どんな発信が“イケてる”か、“イケてない”か」の感覚を磨くことも、広報には重要なんじゃないかと考えています。
私はこれまで、自分がいる業界も、隣接するような興味がある業界も、何百・何千本も記事や各社のブログを読んできました。人の手によって生み出された記事をたくさん読んでいると、「この発信は時流に合わせてきちんと設計されているな」「この書き方は不快感を与えるかもしれない」と自分の思考のトレーニングになります。
ー石黒さんの広報観は、何が起点となっているのでしょうか?
広報としての基盤は、メルカリ在籍中に学びました。私は人事領域を担当していましたが、広報チームとは机がずっと隣でしたし、メルカリはオープンな社内文化なので、小泉さんや広報チームの動きをSlackで間近に見ていられました。
メルカリでの5年3カ月は人生最高の意思決定のひとつだったし、今ももちろん変わらずに大好きな企業なので、引き続きメルカリの発信には注目しています。
メルカリが起こしたムーブメントのように、LayerXも応援される会社に
ー今回お話をうかがい、地道にコツコツと積み上げていくこと、市場に資する情報を共有することなど、誠実な広報スタイルが印象的でした。
私は、信頼を積み上げていき、LayerXが「応援される会社」になっていくと良いなと思っています。「日本からユニコーン企業を出そう」とメルカリが日本産業界全体をあげて応援されていたように。応援してくれる人が増えるほど、ムーブメントが新たなムーブメントを呼び、企業はその期待に応え、自ずと成長していきますから。
応援される会社を因数分解していくと「誠実である」「嘘をつかない」など、基本だけど大切なことにたどり着きます。企業も人間も、本質は変わらない。LayerXに新しい仲間が増えるとき、そのメンバーの家族やパートナーから「いい意思決定だね! みんなもその会社を応援してるよ」と喜んでもらえるような組織を目指したいです。
ー社員の家族やパートナーから歓迎され、多くの人に応援される。会社としてこの上ない喜びかもしれませんね。
そのためにもまずは、信頼を獲得して舞台に立つとともに、市場の拡大・成長に寄与していくことが優先事項です。ブロックチェーン業界は、いつ波が来るかわからない業界です。もしかしたら、かなり長期に渡り波が来ないかもしれません。
でも、私の性格上、不確実なものにチャレンジするほうが楽しいし、どうせやるからにはこの業界でLayerXの花を咲かせたい。そして、花が咲いた舞台で、私たちの事業を大きく実らせていきたいです。そう未来を描いたら今のポジションを全力でやり切るしかないな、とシンプルに思います。
信頼を積み上げたその先に待っているのは?
広報とは、信頼を積み上げていく仕事。地道に、誠実に──。
メルカリの人事をへて、LayerXで人事の隣接領域である「広報」にもキャリアを広げた石黒さん。彼の口から出てきたのは、「これさえやれば」を叶えてくれる魔法の杖はないんだ、と気づかせてくれる言葉たちでした。
舞台に上がるチケットを手に入れるために、舞台で大輪の花を咲かせるために。届けたい人の顔を浮かべながら、発信を続けてみてはいかがでしょうか? 信頼をコツコツと積み上げたその先には、あなたの会社の応援団が待っているかもしれません。
(撮影:原 哲也、取材はリモートで実施しました)
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