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わたしだってできるのにと、嫉妬したあの日。私を広報責任者にしたのは「箱」だった──リスト広報・田尻有賀里

「“自分”よりもあの人の方が結果を残していて、悔しい」
「なかなか思うような成果が出せず、“自分”がもどかしい」

そんな奥歯をかみしめる経験を経て、時には枕を濡らし、人は成長していくもの。しかし、マネジメントをする立場になると、自分よりもチームのことを考えて動かなければなりません

15年間、広報PRとしてキャリアを積んできた田尻有賀里さんは、総合不動産企業のリスト株式会社で広報部の責任者をしています。前職まではプレイヤーでしたが、リストでは一から広報部を立ち上げてチームをまとめる立場に。

求められる役割が変わった田尻さんは、どのように自身の広報スタイルを構築されてきたのでしょうか。

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リスト株式会社 社長室 次長 PRSJ認定PRプランナー 日本広報学会理事

田尻 有賀里(たじり ゆかり)

京都府出身。化粧品会社でのweb兼PR担当を経て、2007年4月にグリー株式会社にて広報機能を立ち上げ。企業広報からイベント運営、社内広報まで幅広い広報業務に従事し、東証マザーズ、東証一部と株式上場を経験。2012年6月、マガシーク株式会社経営企画室に広報責任者として入社し広報機能を立ち上げる。2015年7月、リノベる株式会社入社。2018年9月、リスト株式会社入社、広報部次長に就任。

悔しいと嫉妬したことも。“個人プレー”をまとめ、“チームプレー”にする広報責任者

──今日は、「広報責任者としての在り方」をテーマにお話をうかがえればと思っています。

まず前提としてお話ししたいのが、広報の真髄は「企業価値を上げること」です。従業員や従業員の家族、お客様、採用候補者、投資家など、それぞれのステークホルダーに企業の価値を感じてもらうのが、広報の仕事だと思っています。

例えば、お客様だったら「リストで家を買ってよかった」と思ってもらいたいし、従業員だったら「リストで働いてよかった」と思ってもらいたい。そこで私たち広報部は、ステークホルダーに価値を届けられるように、「会社をどう魅せていくか」を日々考えています。

──確かに、企業価値を上げていくことが広報の本質的なミッションかもしれません。そのなかで、田尻さんは広報責任者としてどんな動きをしているのでしょうか?

責任者としての仕事は3つ。ひとつ目は、「企業価値を上げるために、どの数字を追いかける必要があるか」を逆算し、広報部としての短期的ゴールを設定して推進すること。ふたつ目は、効率的に業務を進められるツールを選定・導入するなど、チームの力を最大限に発揮できる環境作りをすること。3つ目は、広報部メンバーの育成をすることです。

私が広報部の向かうべき方向を定め、メンバーが一つひとつの施策を実行していく。この全体の流れのなかで、メンバーとコミュニケーションを重ねながら、部下のマネジメントをしています。

リスト株式会社社長室次長PRSJ認定PRプランナー日本広報学会理事田尻有賀里さん

具体的には、月1回の頻度で1on1をしてメンバーのキャリアビジョンを一緒に考えたり、プレスリリースの書き方や原稿校正などのアドバイスをしたり。「記者さんからこんな連絡が来たんですけど、どう返信したらいいですか?」といった細かな相談にも乗っていますね。

──実務をメインで動かすは部下に任せながら、必要なタイミングでアシストし、田尻さんはあくまでも目指すゴールまでメンバーを引っ張っていく、と。

そうですね。メンバーと向き合いながら、全体を俯瞰して見ることを大切にしています。

ただ、広報のキャリアが浅い20代の頃は、自分のことにだけ精一杯になっていました。現場で手を動かすなかで「自分がいかに成果を上げて、キャリアアップできるか」が最大の興味だったんです。同僚が結果を出したら、「え、悔しい。私だってできるはずなのに」と嫉妬してましたね。

リスト株式会社社長室次長PRSJ認定PRプランナー日本広報学会理事田尻有賀里さん2

そんな個人プレーだと思っていた20代から、責任者としてマネジメントをする立場になり、考え方がガラッと変わりました。メンバーの“個人プレー”を取りまとめ、広報部としての“チームプレー”にすることで「企業価値を上げる」という成果が出せるのだ、と。

今は、個人の技術を磨くことより、「メンバーの良いプレーを導き出すため、自分に何ができるのか」とチームとしての力をつけることに奮闘していますね。だから、広報メンバーの活躍が本当にうれしいし、成長を見るのが楽しくて仕方ないです。

フィールドなしにプレーはできない。広報の市民権獲得のために

──企業価値を上げるチームプレーをするため、どんなことを意識されていますか?

まずやらなければならないのは、フィールドを作ることです。そもそも、メンバーが伸び伸びとプレイできる場所がなければ、良い結果は残せないので。

広報は自分たちでプロダクトを作っているわけではないし、セールスのように自分たちで売り上げを作るわけでもありません。そのため、リストに広報部を立ち上げた当初は、何のために広報担当者が存在するのかを社内全体に理解してもらう必要がありました。

──広報部の信頼獲得は、多くの広報担当者がぶつかる壁だとよく聞きます。田尻さんは、具体的に何をされたのでしょうか?

私がやったのは「広報部の市民権を得る」というフィールド作りでした。広報の意義や役割を伝え、「会社に広報がいてよかった」と思ってもらい、広報部の居場所を作る。すると、全役員や全社員の広報リテラシーが高くなり、広報部の味方になってくれるようになります。

2019年1月に広報部を立ち上げ、約1年半。まだまだフィールド作りの道半ばですが、広報活動がしやすい環境になりました。役員や社員が、広報担当者に好意的に協力してくれるようになり、会社としてのアウトプットの質も上がっていると感じます。

リスト株式会社社長室次長PRSJ認定PRプランナー日本広報学会理事田尻有賀里さん3

──市民権を獲得するため、どんな業務に落とし込んでいましたか?

主にふたつあります。ひとつ目は、取材を受けるとき、インタビュイーとなる人に「取材記事が出ることのメリット」をロジカルに説明すること。そして、記事が世に出たら「こんな反応が届いています」と結果をセットにして報告しています。

ふたつ目は、それぞれの事業会社の社長や役員に、業界関連のニュースをキュレーションし、毎朝メールで送ることです。効率的に必要な情報をインプットしてもらい「広報がいてくれて助かる」と思ってもらえたら、と。

この業務は、部下にやってもらっています。毎日なので地味に大変な作業ですが、社長や役員に広報部メンバーの活躍を知ってもらう機会になっているし、本人も不動産・建設業界周りの情報の目利きができるようになってきています。いま社会で活躍しているPRパーソンの多くも、共通して新米広報の頃にこの作業を日課とされていたようです

その仕事、なんのため? 原点に立ち返れば、道は拓けるだろう

──成果を上げるチームプレーをするため、マネジメントにおける信念はありますか?

責任者は、メンバーが良いプレイをして評価されるように導くことが仕事だと思っています。広報として評価されるような結果を残すためには、場数を踏むことが重要。なぜなら、経験した分だけ自信につながるし、スキルアップして気付いたらプロになっているので。

だから、メンバーにもどんどんチャンスを与えるように心掛けています。ゴールイメージの部分だけ握り、部下にはプロジェクトマネージャーとして、ゴールまでの道筋を自由に考えて実行してもらっています。

リスト株式会社社長室次長PRSJ認定PRプランナー日本広報学会理事田尻有賀里さん4

去年、会社概要の資料リニューアルという一大プロジェクトを部下に任せました。進行管理から社内外の関係者とのやりとり、予算管理まですべて。未経験から広報になったばかりの方だったのですが、プロジェクトは大成功。成果物のクオリティはすばらしく、コストは以前の約半分に下がりました。

改めて、私が教える広報のイロハよりも、仕事が人を育ててくれるのだと実感しましたね。

──インプット型の勉強ではなく、とりあえずアウトプットしてみるのが大事だ、と。とはいえ、田尻さんは指示を出されないのでしょうか?

あくまでも、プロジェクトの主役はメンバーだから、私は相談されたらアドバイスをするだけです。なぜなら、私が過去に進めてきたやり方が今の世の中で最適なのかはわからないし、苦労しながら悩んだ分だけ自分の力になるからです。

ただ、ひとつだけずっと言っていることがありまして。それは、「広報部の利益を見るのではなく、会社全体としてどんな決断をするのが最善か」を考えて行動することです。

リスト株式会社社長室次長PRSJ認定PRプランナー日本広報学会理事田尻有賀里さん5

──主語を「広報部」ではなく「会社」にして、視座を高めるんですね。

そうです。例えば、サービスリリースのタイミングでプレス発表をするのが一般的に広報として一番効果が高かったとしても、会社としてはそのタイミングで発表することがリスクになる場合もあります。広報の本質的な目的は露出を増やすことではなく、会社の価値を上げることです。企業広報である以上は、常に会社の全体最適を考えて意思決定をする必要があります。

このように会社全体の最適解を見つける視点を養ってもらうため、部下には「一つひとつの業務に対して『なんのためにやっているのか』と本質的な意味を考えて」と伝えています。言われたからやるのではなく、自分のなかで常に意味を問い続ける

やる理由が見つからなければ、長い期間続けている業務だとしてもやめていい。やる意味を見つけられたら、ゴールにたどり着くためにするべき判断や手段がおのずと見えてきます。

もともとふさわしいわけではなかった。私を変えたのは“箱”と“ポジション”

──田尻さんは、どのようにして広報責任者としての視点を持てるようになったでしょうか?

リストに入社して、部署を持ったことが大きいと思います。以前も広報チームを統括していたのですが、独立した部署ではありませんでした。リストで初めて部署を持ち、「広報部の責任者」という目で見られるようになって意識が変わりましたね

もともと責任者としての器やスキルを持ち合わせていたわけではありません。他部署の責任者の行動やふるまいを観察したり、他社で広報の管理職をしている方に相談したり。上下ではなく、横の人を見ながら勉強してきました。

人は、先に箱とポジションを与えられれば、自然と見合った人間になっていくのではないでしょうか。与えられれば見合うように努力するしかないですから。

リスト株式会社社長室次長PRSJ認定PRプランナー日本広報学会理事田尻有賀里さん6

──「箱とポジションがあるからこそ成長できる」、キャリアに悩んでいる人に響く言葉だと思います。

「私にはまだ早い」と思わず、とりあえずチャレンジしてよかったです。未熟な私を受け入れて見守ってくれた、社長や役員に感謝しています。

実は、リストに入社を決めるまで、独立しようか悩んでいました。でも、一人ひとりの力を掛け合わせ、チームで大きなことを成し遂げたかった。「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」ということわざがあるように、ひとりでできることは限られてるけど、チームなら可能性が大きく広がりますから。

「広報部」というチームを持った私が今やりたいのは、メンバー個人の成長と会社の成長を結び付けられる組織にすること。自分が目指すところと会社が目指すところが同じであれば、大きな原動力になるでしょう。

部下のキャリアプランも、会社の目標も、広報ミッションも変わっていくもの。だから、ズレないように時々検証しながら、チームメンバーとともに大きな絵を描いていきたいですね。同僚に嫉妬していた頃の私が見たら、今の私にびっくりすると思います(笑)。

リスト株式会社社長室次長PRSJ認定PRプランナー日本広報学会理事田尻有賀里さん7

箱とポジションを受け取ったあの日から、広報責任者としての冒険は続いていく

かつてプレイヤーだった田尻さんは、広報の仕事を“個人競技”として捉えていました。しかし、「広報部」という箱と「広報責任者」というポジションを受け取ったあの日から、確かに考えが変わったのです。

部下の“個人”プレーをまとめ上げ、“チーム”を主語にするマネジメント。会社の価値を上げることを追求しながら、部下の成長に真摯に向き合っていました。

もし今、目の前に箱とポジションが用意されたら──。あなたなら、どうしますか?

(撮影:原 哲也 ※取材自体は遠隔で実施しました)

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この記事のライター

kashimin

kashimin

1994年生まれのライター・編集者。BtoBメディア運営会社とWebコンテンツ制作会社をへて、フリーランスに。企業の経営者や担当者を取材して約4年、ビジネス系の記事を中心に執筆しています。“働く人”のウラ側にあるストーリーを伝えていきたい。人生のBGMはサザンオールスターズ。散歩の時間と眠りにつく瞬間がだいすきです。

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