SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回は、2020年7月13日に発表された独立行政法人 国立科学博物館さんのプレスリリースをご紹介します。
【国立科学博物館】速報!各地で観測された火球が隕石であることを確認!
今回のプレスリリースの発端は、2020年7月2日未明に千葉県習志野市のマンションの敷地内に落下した「火球」でした。偶然発見した市民が落下物を回収。千葉県立中央博物館に持ち込まれた小さな破片を国立科学博物館で調査したところ、7月13日に隕石の一部であるということが判明。
しかしさらに驚くべきは、広報担当が研究者から報告を受けた当日の14時に「速報」としてこのニュースが発表されたこと。今回は、国立科学博物館の吉野さんと文化庁の細見さんにその裏側について聞くとともに、広報業務についても聞きました。
文化庁の最新のプレスリリースはこちら:文化庁のプレスリリース
独立行政法人 国立科学博物館 事業推進部 広報・運営戦略課長
筑波大学から2000年に文化庁に転任。芸術文化課、国語課、国際課に在籍し、各事業を担当。3回目の育休明けとなる2013年に国立科学博物館に出向、初めて広報担当に。2015年文化庁に戻り、政策課で4年間広報を担当し、2019年再び国立科学博物館に出向、現職。広報と法人の運営に関する計画・評価を担当。1973年生まれ。趣味は落語。
文化庁 政策課文化発信室 文化発信係長
2017年から文化庁で勤務。全国の小・中学校に文化芸術団体を派遣し、子どもたちに文化芸術を届ける事業や、文化芸術団体の活動支援を行う事業の担当を経て、2019年より文化庁の広報を担当。
調査結果を即日発表したのは広報戦略だった
ー 7月13日に調査結果がわかり、同日中に発表。このように「速報」として取り上げたのは、どなたの提案だったんですか?
吉野:私です。関係機関に確認を取らなければならない箇所は削除し、「なんとしても今日中に出しましょう」と本案件はスピード重視でいくのが広報効果が高いと判断し、強引に進めました。国立科学博物館では、広報チームは上野の国立科学博物館、研究広報は筑波研究施設と勤務地が分かれています。9時に筑波から情報がきて、そこから発表の準備を行いました。同時進行で私たちはプレスリリース資料を整え、筑波からZoomを繋いで上野にいる幹部にレクチャーを実施。12時すぎには幹部確認を終え、14時に発表するという異例のスピード感でしたね。
「速報」にしたのは、とにかく早く伝えたかったからです。火球の目撃情報はSNS上でも投稿されていて、リツイート数は19万件、いいね数に至っては48万件と(※)多くの反響があったことを把握していました。ですから一刻も早く、という想いで行動しました。
(※)記事執筆時の数字となります。
ー 失礼ながら、独立行政法人でそこまでのスピード感を持って情報発信するのは難しいのではという印象を持っていました。
吉野:とても有難いことに、国立科学博物館の幹部は情報発信に理解があります。幹部が情報発信に理解があるかどうかで、かなり変わる気がしますね。消極的な人もいますから。あとは日頃からの内部のコミュニケーションの積み重ねでしょうか。やはり上層部が「NO」と言えばどんなに価値あるニュースも発表できなくなるので、スムーズに「よし、それでいこう」と許可をもらうためには日々の信頼関係の構築が欠かせません。
ー 反響はどうでしたか?
吉野:すごかったです……(笑)。広報の仕事は予測できないことばかりですが、ここまで反響が大きいとは。結果的に新聞社とテレビ局に関してはほぼ全社が取材してくださいましたし、インターネット上でもSNSを中心にたくさんの方が拡散してくれました。
この発表を取り上げたツイートのインプレッションは690万件。いいねが5万6000件、リツイートは3万件以上でした。私たちはX(旧 Twitter)の運用を開始してまだ1年ほどで、通常、1日の平均インプレッション数が約10万件ほど。単純計算で約70倍近い反応があったわけですから、SNSからの反響だけでもお祭り騒ぎでした。
国立科学博物館では、主に3つのルートでニュースをお届けしています。まずは国立科学博物館のウェブサイトやSNS。次に、マスメディア向けには文部科学省記者クラブへの投げ込みを利用。そして、一般の方やウェブメディア向けにはPR TIMESを活用しています。このプレスリリースはその全てのルートで発表しました。
マスコミ各社の反応も早く、発表当日の夕方には筑波の担当研究者の元に取材が殺到。研究者が、遅くまで一件一件丁寧に対応してくれたことも功を奏し、たくさんの媒体や番組で取り上げていただけたことは広報冥利につきますね。
ー そこまでの反響につながった理由はなんだと思いますか。
吉野:速報性ももちろんですが、個人的にはコロナ禍で閉塞感があふれていた中での明るいニュースだったことも一つの要因だったのではないかと思います。
文化庁所管の施設がプレスリリースをインターネットで配信し始めた理由
ー PR TIMESでのプレスリリースは、文化庁のアカウントで配信されていますね。
細見:はい。文化庁はPR TIMESを使っていて、所管する独立行政法人のうち、国立科学博物館や国立劇場がニュース配信を多く利用しています。ちょうど2年目ですね。
ー 東京都など行政からのニュース配信にPR TIMESを利用しているところも増えてきましたが、文化庁さんは特に情報発信が多い印象です。
細見:PR TIMESの利用は私が庁内で提案しました。2年前に人事異動で広報に配属されたとき、何をやればいいか暗中模索の日々が続いて……。当時はウェブサイトと記者クラブへの投げ込みが主な情報発信手段で、「すでに文化庁の取り組みに興味を持っている人」にしか届けることができていませんでした。でも、文化庁には国立科学博物館さんをはじめ、面白いコンテンツがたくさんある。まだリーチできていない新しい層に向けて、そうしたコンテンツをどうすれば届けられるか考えていた時に巡り合ったのがPR TIMESだったんです。
吉野:文化庁の御好意で、細見さんからお声がけいただき、国立科学博物館もPR TIMESを利用させてもらえることになって。今まで情報を届けることができなかった方々にも伝わっている実感があります。
ー 国立科学博物館さんの広報チームはどのような体制なのでしょう。
吉野:私は広報・運営戦略課長という立場で、広報業務の最終チェックやマネジメントを担っています。上野には私以外に、広報担当の常勤職員が2名、非常勤職員1名がいます。日々の業務内容は広報誌の制作、イベントなどの告知、FacebookページとX(旧 Twitter)の運用、取材やお問い合わせの対応など。特にお問い合わせ対応が多いですね。国立科学博物館には毎日100件以上の問い合わせがあり、それらに対応するだけでも1日があっという間に過ぎてしまいます。
ー 1日100件以上?!
吉野:中には研究者への問い合わせやテレビ局の情報番組からの事実確認などもあるので、そのような場合は研究者や担当者との調整役となることもあります。
ー プレスリリースはどなたが担当していますか?
吉野:研究者など現場の担当者が原稿を書き、広報チームがチェックするという役割分担です。現場とのやりとりは、上野のチームとは別に筑波に「研究広報」がいて、主にその職員が担当します。研究広報から挙がってきた原稿をもとに、上野の広報担当者がPR TIMESへの入稿やウェブサイトへの掲載、SNSでの発信などを行なっています。
ー それだけの対応を限られた人数で行うとなると、現場は忙しそうですね。
吉野:特にここ数年で情報発信のチャネルが増えたことで、より忙しさは増している気がします。手段は増え続ける一方なので「伝えたい」と思えば、キリがないですからね。ただ、働く人のワークライフバランスを崩さないために、いかに効率よく情報を伝えるかをいつも考えるようにしています。「独りよがりの、ただ忙しくなるだけの伝え方はやめよう」といつも話しています。
一人でも多くの人に伝えるための「心に残る」広報活動
ー 広報チームの目標やKPIなどもあるのでしょうか。
吉野:あります。例えばSNSでは、エンゲージメントの目標などを設定します。昨年度は「来館者数の増加につなげるための広報活動」を共通認識として持ち、各施策を実施しました。現在は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、この認識もアップデートしていく必要があると考えています。このような状況下だからといって活動をしぼませてしまうのではなく、オンラインを活用してどのように展開していくかを考えていこうと。国立科学博物館にある様々なコンテンツを通じて、今回のような明るい話題を一つでも多く提供できたら、と考えています。
施策を実施するにあたっては、効率だけを重視してしまうことのないように心がけています。それだと「心に残る広報活動」はできないと思うので……。
ー 「心に残る広報活動」、ですか。
吉野:はい。私は全く広報経験も知識もないなかで国立科学博物館に出向が決まり、広報に配属されました。正直な話、来場したこともなかったんです。でも初めてここにきたときに衝撃を受けたんです。「なんて面白い場所なんだ……! この楽しさを、一人でも多くの人に知ってほしい!」と。その時の気持ちを今でも大切にしています。
目標を決めて、誰に・何を・何のために伝えるのかを考えること。ただ淡々と情報を掲載するのではなく、自分の気持ちを込めたメッセージとして発信することを意識しています。そうすることで、ただ伝えるだけでなく、「伝わる」情報発信に繋げられるのかなと。
今回のPR事例ポイント
- 世の中からの「知りたい」の声には、タイムリーに応えていく
- 業務量が増えたときこそ、「誰に」「何を」「何のために」に立ち返る
- 自分の気持ちを込めたメッセージだと考えることで「伝わる」情報発信へ
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恐竜好きの間ではもはやテーマパークとして知られている、東京・上野の国立科学博物館。今回のインタビューはその中の「親子のコミュニケーションを目的とした展示室『親と子のたんけんひろば コンパス』」内で実施されました。凸版印刷とともに3Dプリンター復元を行ったという、子どものティラノサウルスに見つめられながらの取材はちょっとドキドキしました(笑)。
「伝えるだけでなく、『伝わる』情報発信を」という吉野さん。1日100件以上の様々な種類の問い合わせに応えながら、プレスリリースやSNSでも情報発信を行なっていく、という科学博物館の広報業務。「Public Relations」をもっとも体現する人々なのかもしれない、と考えさせられました。
(撮影:原哲也)
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