「いいものを作れば売れる」という前提が通用しにくくなっているいま、大切なのは「なぜこの事業をしているのか」「どんな思いで取り組んでいるのか」といった背景やストーリーです。こうした思いや背景に共感が生まれることで、企業や取り組みへの関心が広がり、情報が社会へ届いていきます。
プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは、2026年2月20日に神戸新聞社とアンカー神戸の後援を受けて、「広報PRで踏み出す最初の一歩 ~兵庫・関西から熱量を届けるストーリーの作り方~」をテーマにしたセミナーを開催しました。第一部に登壇した神沢鉄工株式会社の浅郷剛志さんが登壇。続く第二部ではPR Office D代表でプレスリリースエバンジェリストとしても活躍する堂阪陽子さんが講演しました。
ストーリーをどう見つけ、どのように発信すればよいのか。自社ならではの「強み」を見つけるポイントについて、当日の内容をもとにレポートします。

PR Office D代表 PRプロデューサー プレスリリースエバンジェリスト
堂阪 陽子主に関西で頑張る人や組織を応援。教育会社では13年間で206社を担当しながらISOの内部監査員や経営品質のアセスメント等にも従事。教育会社を退職後、多様な企業において教育プログラムの開発や研修講師等の人材育成、独自の制度整備、コールセンター開設、サービス品質の改善、中小企業の顧問などの企業経験を経てコロナ禍を機に独立。現在は「PR Office D」代表として、想いに寄り添う伴走型PRを進める。2025年よりプレスリリースエバンジェリストとしても活動中。
広報PRとは「宣伝」ではなく「共感づくり」
広報PRは、「単なる宣伝やプロモーションとは異なる」「社会との共感を生み、信頼関係を築くためのコミュニケーション」と説明する堂阪さん。広告のように企業が自ら魅力を伝える「自薦」とは異なり、メディアなど第三者を通して価値を伝える「他薦」のコミュニケーションです。だからこそ、共感を生むストーリーが重要なのだといいます。
例えば、単に「新しいサービスを始めました」と伝えるよりも、「お客さまの〇〇という課題をきっかけに、このサービスが生まれました」と背景を伝えるほうが、より関心や共感を集めることができるでしょう。取材の理由になるのは、その企業だけが持つストーリーや背景です。
- きっかけ:事業を始めた理由
- 続けている理由:困難があっても取り組みを続けている背景
- 誰の役に立っているのか:その取り組みが社会や人にどんな価値を生んでいるのか
たとえ大きな成功談がなくても、この3つの要素が揃うことで、単なる情報が「価値のあるニュース」になるのだそうです。
自社らしい強みを引き出す「3つの問い」とは
堂阪さんは、自社の強みとなる「ストーリー」を見つけるための方法として、次の3つの問いを挙げました。
1.何がきっかけだったのか
まず整理したいのが、事業や取り組みを始めた「きっかけ」です。例えば、「自身の経験がきっかけでこの仕事を始めた」「お客さまの声から商品やサービスが生まれた」「解決したい社会課題があった」といった理由が挙げられます。
ほかにも、「誰かを助けたい」「地元を元気にしたい」といった思い、違和感や悔しさから始まった挑戦がストーリーの源になることもあります。この「きっかけ」は事業の軸となる要素であり、商品やサービスが変わったとしても変わりにくいものです。ここを整理しておくことで、プレスリリースだけでなく、SNSや自社サイトなどさまざまな発信にも活用することができます。
2.どのような理由で続けているか
次に重要なのが、取り組みを続けている「理由」です。事業を展開したり、商品開発の段階では、「大きな課題に直面した」「途中で諦めそうになった」「思うように進まなかった」といった経験のある企業も多いでしょう。こうした困難にどう向き合い、どのように乗り越えたのかというプロセスこそが、共感を生むストーリーになるといいます。実際、メディアの取材でも「どんな苦労がありましたか」とよく質問されるそうです。
失敗談や苦労を語ることに抵抗を感じる人もいるかもしれません。しかし、順風満帆な成功談よりも、迷いや挫折を経験しながら挑戦を続けたストーリーのほうが、人々の心を動かすもの。そうした背景があるからこそ、「この会社を応援したい」「この商品を使ってみたい」と感じてもらえるのです。順調な結果だけでなく、困難に直面した経験やそれを乗り越えた過程も大切な要素になります。
3.どのような社会課題や人の役に立っているのか
最後に整理したいのが、その商品やサービスが「誰の役に立っているのか」という視点。「誰のどんな悩みを解決しているのか」「どんな人の生活をより良くしているのか」「どんな価値を社会に届けているのか」を明確にすることが大切です。
メディアが注目するのは、企業の主張だけではなく、「その取り組みが、誰にどのような価値を生んでいるのか」という点。そのため、実際に利用した人の声や具体的なエピソードを集めておくことも有効です。「この商品によって助かった」「生活が便利になった」といった利用者の声を示すことで、商品や取り組みの価値がより伝わりやすくなるでしょう。
「見過ごされていた課題」を伝えて大きな反響に
セミナーの最後に、大きな反響につながったストーリーを軸にしたプレスリリースを紹介しました。
とあるヘアサロンの事例です。美容院のシャンプー台は、上向きに寝た姿勢になる構造のため、高齢者や妊婦、血圧の変動がある人にとって大きな負担となることがあります。首を反らせる姿勢や首を圧迫する体勢が続くことで、「美容院でシャンプーができない」という悩みを抱える人が一定数いる一方で、こうした課題はあまり世の中に知られていなかったそうです。
そこで、座ったまま洗髪できるスチーム式のシャンプーシステムを導入。服を濡らさずに洗髪できる仕組みで、誰でも安心して利用できる環境を整えたといいます。その取り組みを紹介するプレスリリースでは、単に新しい設備を導入したという情報だけではなく、以下のような社会課題や背景を丁寧に説明しました。
- 美容院のシャンプー台で体調不良が起きる「美容院脳卒中症候群」と呼ばれる業界全体の課題
- フルフラットのシャンプー台でも完全な解決には至っていないという事実
- 座ったまま洗髪できる仕組みが、どのような人の役に立つのかを示した価値
その結果、このプレスリリースは新聞社の取材や多数のニュースサイトにも転載され、大きな反響を呼びました。特にYahoo!ニュースでは「美容院で気分が悪くなる理由がわかった」「同じ症状で困っていた」など、1,000件以上のコメントが寄せられ、社会的な関心の高さが可視化されたそうです。
反響を見たテレビや業界紙など複数のメディアでも紹介され、この仕組みは高齢者の多い地域の美容室にも導入されるなど、広がりを見せていったといいます。
このように、「共感を生むストーリーがあると、広報PRは大きな力を発揮する」と話す堂阪さん。商品やサービスのスペックだけでは広告のように見えてしまいますが、その背景にある思いやストーリーを伝えることで、企業の取り組みは共感を生む情報になります。
類似する商品やサービスでも、背景にあるストーリーは企業ごとに異なる。自社ならではの物語を言葉にして発信することが、他社との差別化につながり、選ばれる理由になるのだとまとめました。

【質疑応答】参加者からの質問に堂阪さんが回答
ここからは、当日セミナー会場で寄せられた質問の一部を抜粋し、堂阪さんの回答とあわせて紹介します。
──これまでプレスリリースでは概要のみを掲載し、興味を持っていただいた方に詳細資料をお送りしていました。最初から情報を網羅して掲載したほうがよいのでしょうか。
広報PRには、実は100%の正解ってないんですよね。扱うものも企業のスタンスもそれぞれ違うので、書き方もケースバイケースだと思います。
実際、記者さんからは「プレスリリースに全部書かなくていいよ」と言われたこともあります。情報を詰め込みすぎるとポイントがぼやけてしまうので、軸となる部分だけ伝えて、「もう少し知りたい」と思わせる余白を残すことも大切だと思います。
一方で、PR TIMESのようなWeb型のプレスリリースでは、写真や動画といった素材をたくさん掲載できますよ。こうした素材があると、Webメディアの方からは「記事をつくりやすくて助かる」と言われることもあります。実際に、取材が入らなくてもプレスリリースの素材をもとに記事が掲載されたこともありました。
ネットニュースの記者さんはすごく忙しい方も多いので、やり取りの時間が取れないこともあります。そういうときは、Googleドライブに写真や動画をまとめて、「自由にお使いください」とURLを共有しておくと、それがきっかけになって記事につながることもあります。
──プレスリリースでは、論理的で筋が通った説明や具体的な表現が重要なのでしょうか。抽象的な表現より、研究論文のように事実を示すことが大切なのではないかと感じています。
私が気をつけているのは、形容詞をできるだけ使わないことですね。これは記者さんから教えていただいたことでもあります。
例えば、「すごく人気」「とても大きな反響」といった表現は、発信する側の言葉になりがちなんですよね。でも、メディアの方が知りたいのは感想ではなく「事実(ファクト)」です。なので、具体的に伝えるためにも、数字を出すのが一番わかりやすいと思います。
「何人が並んだのか」「売上がいくらからいくらになったのか」「利用者が何%増えたのか」といった形で、根拠のある情報を示すことが大切です。「今人気」といった言葉だけだと、人気の根拠がわかりません。形容詞を重ねるよりも、数字や事実を添えることで、説得力のあるプレスリリースになるのではないかと思います。
まとめ:自社の原点を言葉にすることが広報PRの第一歩
企業の取り組みや商品・サービスは、スペックや実績だけではなかなか伝わりません。その背景にある「なぜ始めたのか」「なぜ続けているのか」「誰の役に立っているのか」といった背景や思いを言葉にすることで、初めて共感が生まれ、社会へと広がっていきます。
「どんな企業にも、その企業だけのストーリーがあります」と話す堂阪さん。大きな成功談でなくても、事業のきっかけや乗り越えてきた経験、誰かの役に立っている実感があれば、それは十分に発信する価値のある物語です。自社の原点となるストーリーを見つけ、言葉にして届けていくこと。それが、広報PRの最初の一歩になるのかもしれません。
続いて、神戸新聞社の大島光貴さんにご登壇いただき、「今メディアが求めている情報」についてお話しいただいた第三部をお届けします。
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