PR TIMES MAGAZINEは、広報PR活動に課題を感じている企業・団体向けに、日本全国の地域ごとにサービス導入の成功事例を紹介するインタビューを実施。
本記事では、タカラベルモント株式会社の広報PR担当、石川由紀子さんにお話を伺いました。同社は生活者と直接やりとりすることが少ないBtoBメーカーでありながら、創業100年の節目に広報PRを強化。社内外でパーパスを浸透させるための工夫や、広報PRの今後の目標などについて語っていただきました。
タカラベルモント株式会社(大阪府大阪市):最新のプレスリリースはこちら
タカラベルモント株式会社 広報室 マネジャー
大学卒業後、銀行やFMラジオ局での勤務を経て広告代理店に勤務。トイレタリーメーカーの営業担当としてCM制作に携わる。その後、2020年4月にタカラベルモント株式会社に入社し、現職。
BtoB企業が、創業100周年を経て広報PRを強化
──タカラベルモントは2021年10月5日、創業100年を迎えました。御社の沿革と事業について教えてください。
タカラベルモントは、1921年に鋳物工場としてスタートしました。創業当初は、炭火の上に設置して、鍋やヤカンなどを置くための器具の五徳やマンホールなどの鋳物部品を作っていましたが、1931年から、理容椅子の製造を開始しました。現在は、理美容室、エステやネイルサロン、歯科・医療クリニックの業務用設備機器の製造販売や化粧品、店舗の空間デザインまで手がけるBtoB企業です。髪を切るとき、診察のとき、私たちの椅子に座ったことがある生活者の方もきっと多いのではないでしょうか。
──100周年の節目の前年、広告業界から転職して入社されていますね。
広告代理店でのキャリアが最も長く、主体性を持って発信できる広報職に魅力を感じて入社しました。アラフィフの転職だったため勇気が要りましたが、タカラベルモントは創業の節目に広報PR活動を強化しようとするビジョンがあったことと、BtoBの企業で発信するチャレンジングな環境であったことから、ぜひ挑戦したいと思って応募しました。
──BtoB企業ならではのチャレンジングな広報PRの課題は、どのような部分にあると思いますか。
生え抜きの社員ではない視点で見ると、特定の顧客と取引することで収益を生むBtoB企業は、BtoC企業の広報PR活動と比べて頻度・内容などあらゆる要素において「弱い」実感があります。これは、世間一般に知られずともビジネスモデルとして成立し、従業員もお客様以外に情報を伝える必要性を感じにくいという事情があるためです。BtoB企業であれば、どの業界でも当てはまる傾向でしょう。
タカラベルモントは創業100年を経て、これからの100年を考え「美しい人生を、かなえよう。」というパーパスを策定しました。いままで弱かった広報PR活動を補強しつつ、パーパスを含む社の取り組みを世界に広めていくため、今できることを模索しています。
社内で「美しい人生」のつながりを生むための発信とは
創業100周年を起点に、パーパスである「美しい人生を、かなえよう。」の発信に注力するようになったタカラベルモント。あらゆる職場で従業員が美しい人生をかなえるために、どのような発信をしているのでしょうか。
「社内:社外=7:3」のバランスで取り組む
──社内広報と社外広報はどのようなバランスで取り組まれていますか。
従業員のエンゲージメント向上を大切にしていて、比率としては「社内:社外=7:3」くらいです。広報室のメンバーは私を含めて6人。1人当たり最低でも月3本、社内報やイントラネット向けに社内ニュースを執筆、配信する目標を立てています。社内広報に注力する理由は3つありまして、
- 社内広報で生まれたコネクション・情報が外部取材で活きる
- 社内のトピックについて記事を執筆すると、ニュースを見極めて情報を整理するスキルがつく
- 従業員のエンゲージメント向上がよりよい社外広報につながる
と考えているためです。
──従業員のエンゲージメント向上を重要視するのはなぜでしょうか。
お客様が「美しい人生」をかなえるためには、従業員一人ひとりが「美しい人生」を追求することが重要だからです。そもそもBtoBでものづくりの会社だと、Cの声(生活者の声)を聞いてやりがいを感じるタイミングが少ないです。
だからこそ、例えば当社の椅子を使用しているお客様・患者様・生活者がどういう気持ちでいるか、ものづくりを通じて美しい人生を実現するためには何ができるか、ということを想像できるようにする仕掛けづくりが肝要です。
パーパスのキービジュアルをつくって社内報で伝える
──社内でパーパスを浸透させるために取り組んでいることを教えてください。
創業100周年を経て、「私たちはどこに向かって、何を大切にしていくのか」を従業員が想像しやすいコミュニケーションを心がけるようになりました。言葉も大切ですが、ビジュアルで伝えることも重視しています。今まで社内になかったパーパスという概念が生まれたので、まずは社内で広めるために、パーパスを落とし込んだキービジュアルをつくり、100周年記念の社内報に掲載しました。また、パネルも制作して各営業所、部署に掲示しています。
キービジュアルでは、椅子がお客様のもとに出荷されるのを待つ倉庫に朝の光が差し込んでいる様子を描いています。私たちはそういう存在でありたいと表現するためです。お客様が美しい人生をかなえるとき、もしかしたら苦難があるかもしれません。でもその傍らに差し込む光のような存在。「タカラベルモントがあってくれてよかった」「タカラベルモントは私たちにとっての光だよね」と言っていただけるような企業でいたい。そうした想いが込められています。
紙面づくりにこだわり「誰も置いてけぼりにしない」社内報
──季刊の社内報「宝箱」は紙媒体です。イントラネットにおけるニュース公開やSlack社内報などオンラインの接点がトレンドとしてある中で、紙面づくりにこだわっているのはなぜでしょうか。
もちろんWebでの発信もしています。ただ当社はものづくりの会社なので、工場のラインに立っている現場の従業員が見やすい形式を考えると、紙媒体は大切。製造現場では、パソコンを開けない従業員もいます。そのため、工場の掲示板で見やすいように見開きですこし大きめの掲示物として貼ってもらいやすいレイアウトにしています。もともと雑誌サイズだったものを、2022年からタブロイド判(縦406mm×横272mm)にまで大きくしてより見やすくしたのもこだわりポイントです。
──社内報のネタ探しをするときに心がけているポイントがあれば教えてください。
あらゆる現場の人を大切に、とにかくどこの会社よりも多くの従業員の笑顔が載る社内報を目指しています。そのため、どんなに些細なことでもニュースとして拾うのがモットーです。例えば「財務部がSDGsを考えるオンラインミーティングをやった」みたいなことでもニュースとして発信しています。
SDGsに関連するのは生産系の部署と思われがちです。でも会社がSDGsに取り組むときに、生産だけではなくていろんな部署の人が自分たちなりにちゃんと考え始めてるっていうことを社内に発信していかないと、一丸となって取り組むことはできないわけで。例えば、「サステナブルファイナンスとは」といった切り口で深掘りもできる題材です。
持続的なメディアリレーションズを構築するコツ
──BtoB企業として自社の魅力を存分に伝えるために、メディアリレーションズをどのように構築されていますか。
単発のパブリシティを狙うのではなく、タイミングよく必要とされる情報を共有することで、長期的にお付き合いいただける関係の構築を心がけています。例えば生活情報系のコンテンツをつくっているメディアであれば、歳時記のような季節のテーマがあると思います。
梅雨、真夏、水害の時期、空気が乾燥する時期。こうした歳時記に沿った情報をリサーチしているメディアの皆様に、自社以外の事例に加え当社の情報も織り込みながら3つ以上提案できるようにしています。担当者のニーズがわかっていない段階で「自社を取り上げてください」とアピールするだけでは、押しつけがましくなってしまう気がしていて。自社トピックのみの売り込みは、あえてしないようにしていますね。結果として、NHKや民放の情報番組などに取り上げていただいています。
加えて、徹底的な業界研究が大切です。自社の話だけでは、記者やディレクターとつながりを維持できません。当社では「美容業界は最近どうなっていますか?」「競合他社の動きは?」「現場のトレンドは?」「美容にまつわる統計データご存じですか?」という質問は日常茶飯事。メディアが求めているのは客観的な情報です。第三者目線で自社を語れると、何かあったら「あの人は情報通だから聞きたい」と思ってもらえて接点が増えるのではないでしょうか。これは業界紙の記者とのエピソードですが、「今、企画している特集についての意見を聞かせてほしい」というご相談を受けることも多々あります。
──メディア理解に役立つ情報収集のノウハウなどはありますか。
テレビ番組のエンドロールは必ずチェックしますし、新聞の署名記事や記者のSNSアカウントは常に追っています。ご存じの通り、新聞社の記者の方はTwitterでの情報発信にも注力しています。SNSアカウントは、担当者が明確にわかる人事情報であると同時に、コンタクトを取るときのコミュニケーションでネタにもなるからです。加えて、基本的なことですが新聞を読んで、新聞社ごとのスタンス、ニュースを把握するようにしています。
企業の存在意義を高め、パーパスを伝えるプレスリリース
配信後に手ごたえを感じたPR TIMES STORYやプレスリリースの事例についてお聞きしました。
事例1.ロングテールでPVが伸び続ける、白髪染めブランドのSTORY
参考:人生100年時代、女性たちが続けられるグレイカラーを目指して
タイトルにあえて社名や商品名を入れず、「女性が普遍的に持つインサイトをどう捉えるか」という一点に着目して掲載したPR TIMES STORYがこちらです。おそらく「人生100年時代」「グレイカラー」などのキーワードも効いて、プレスリリースと合わせて累計20,915PVと、じわりと伸び続けるコンテンツとなりました。
ルビオナという白髪染めの開発者(プレスリリースの写真左)は、もともと大学院で加齢による疾患の創薬研究に取り組んでいましたが、タカラベルモントに入社しました。実は彼の入社理由から、タイトルを着想したんです。
「女性が100年生きる時代に、創薬と白髪染めの開発は自分にとっては同じ」と語ってくれた言葉が、心に刺さりました。新しい薬の開発で人が長生きすることも、染毛剤で髪を染めてその人らしくあり続けることも、「人が人らしく生きる」ための手段であり、そこに優劣はないんですね。彼は、人がその人らしく生きる手助けをするために、美容の領域に足を踏み出したそうなんです。このストーリーを紹介することでブランドのメッセージ、会社全体で打ち出しているパーパスの大きさが伝わればいいなと思っています。
事例2.廃棄レザーを活かしたものづくりで地域に貢献するプレスリリース
参考:プロフェッショナル用椅子の製造過程で生じる廃棄レザーを活かし、新たな価値を創造する自社工場発のプロジェクト「Re:bonis(リボニス)」を6月に発足
プロフェッショナル用の椅子の製造過程で生じる廃棄レザーをアップサイクルさせる取り組み「リボニス」は、テレビ局の取材もいただきました。取材を通して知っていただくことと同じくらい重要なのが、活動を地域や教育現場に広げていくことです。リボニスのワークショップは当社の職人が一緒に取り組むもので、中学校や高校などの教育現場から「授業に取り込みたい」という声も頂いています。
採用広報の視点からも、学生に「タカラベルモントってこんな企業なんだ」「モノづくりってかっこいいな」と思ってもらいたくて取り組んでいます。会社がある地域でSDGsの気運を高める企画を打ち出すことで、地域における存在意義を高めることにもつながるはずです。
今回の事例ポイント
「社内の人間がやりがいを感じる会社にならないと、胸を張って社外に発信できません」。そんな言葉とともに、石川さんはインタビューを締めくくりました。理美容業界で100年続くBtoB企業で、従業員やステークホルダーに企業の姿勢を伝え続ける広報PR。「美しい人生を、かなえよう。」というパーパスを軸に、一貫したメッセージを伝えるプレスリリースは、今日も読み手の心を動かしているかもしれません。
- パーパスをキービジュアルに落とし込むことで、社内理解を進める
- 社員の小さなニュースをひたすら拾った社内報づくりを心がける
- メディアリレーションは単発ではなく長期目線で考える
上記のように、これから広報PRに力を入れたいBtoB企業、メディアリレーション構築の在り方を考えている担当者にもヒントとなる点も語っていただきました。あらゆる人にパーパスを浸透させようとするタカラベルモントの取り組みから、今後も目が離せません。
なおPR TIMES MAGAZINEでは、顧客に寄り添った発信を行うノウハウやSDGsなどについての解説記事も公開しています。こちらもぜひ参考にしてみてくださいね。
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