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社内の「当たり前」を社会に伝え続ける広報PR|タイガー魔法瓶株式会社

PR TIMES MAGAZINEでは、広報PR活動に課題を感じている企業・団体向けに、日本全国の地域ごとにサービス導入の成功事例を紹介するインタビューを実施。

本記事では、大阪府に本社を置くタイガー魔法瓶株式会社の広報宣伝担当、林優紀さんと玉矢賀子さんに、創立100周年を機に変化した広報PRの姿勢と成果、またPR TIMESの活用法などについてお話を伺いました。

 タイガー魔法瓶株式会社、(大阪府門真市):最新のプレスリリースはこちら

タイガー魔法瓶株式会社 ソリューショングループ 広報宣伝チーム

林優紀(Hayashi Yuki)

大学卒業後、2014年にタイガー魔法瓶株式会社に入社。テレビ・ラジオ・カタログ通販法人などを担当する営業職を経験後、2017年より広報宣伝チームにて炊飯器のプロモーションを担当。2021年よりSNS、企業PRを担当している。入社後も自社商品への愛着は大きく、プライベートでも家族や友達に勧めている。

タイガー魔法瓶株式会社 ソリューショングループ 広報宣伝チーム

玉矢賀子(Tamaya Noriko)

大学卒業後、旅行会社に入社し、WEBマーケティング担当を経て、2018年11月にタイガー魔法瓶株式会社に入社。PRや広告施策、WEBページ制作等、真空断熱ボトルの広報宣伝業務全般を担当。

「熱」にこだわり続けた100年の歩み

──タイガー魔法瓶は2023年2月に創立100周年を迎えました。発祥の地、そして現在の本社も大阪府ですね。

林さん(以下、敬称略):創業者の菊池武範が10代のころ、奉公に出た先が大阪だったんです。そこで、海外から輸入された魔法瓶を目の当たりにしたことが始まりでした。「故郷のお母さんが淹れてくれたような温かいお茶がいつでも飲めたら……」と常々思っていた武範は魔法瓶に将来性を強く感じ、1923年にタイガー魔法瓶の前身である「虎印魔法瓶製造卸菊池製作所」を創設しました。 

その後、卓上ポットや「炊きたて」ブランドで知られる炊飯器などの大ヒット商品を生み出す一方、海外展開も積極的に進めてきました。「熱を活かし、熱を操る」技術に磨きをかけ続け、近年では宇宙空間から物資を運ぶための真空二重断熱容器の開発などにも携わっています。そして2023年、おかげさまで創立100周年の節目を迎えることができました。

タイガー魔法瓶株式会社 1

真空断熱ボトルの「4つの約束」を宣言

──創立100周年を機に、広報PRとしての発信の姿勢に変化がありましたか?

玉矢さん(以下、敬称略):社内では2020年ごろから「NEXT100」というキーワードのもと、次の100年に向けての議論が活発になりました。なかでも、私たち広報宣伝チームは、真空断熱ボトルの「4つの約束」を宣言したことが大きなターニングポイントになったと思います。「NO・紛争鉱物」「NO・フッ素コート」「NO・丸投げ生産」「NO・プラスチックごみ」の「4つの約束」を打ち出したんです。

それまでは、軽さや保温性・保冷性など商品の機能を中心に訴求していましたが、各メーカーが技術開発を続けるにつれて、ボトル分野では機能面の差別化が難しくなってきました。そこで、プロダクトとは異なる視点からのアプローチとして、社会的な注目度の高いサステナビリティ、SDGsに着目して打ち出したのが「4つの約束」でした。 

「4つの約束」に盛り込まれた内容自体はすべて、弊社が以前から取り組んでいたものだったのですが、私たちにとっては当たり前のことだったため、Webサイトの一番下にお知らせとして小さく載せる程度で、大々的に広報することはありませんでした。当たり前であるがゆえにはっきりと言ってこなかったことも、社会に向けて発信してみよう、とスタンスを変えたんです。 

──「当たり前を伝える」ために、広報PRの手法はどのように変わりましたか?

 玉矢:一番大きな変化としては、私たちがものづくりに込める思いをお客さまにしっかりと伝え、ご理解いただいたうえで商品をご購入いただくために、「タイガーボトルサイト」を立ち上げたことですね(2022年、グローバルサイトの統一化に伴い吸収)。特定の商品だけのECサイトを設けるのは、弊社にとって初めてのことでした。

 また、プレスリリースの導入文に、環境配慮に努めているというメッセージを多く盛り込むようにしました。新商品のプレスリリースを出す際には「4つの約束」を盛り込み、単なる商品紹介ではなく、どういった思いで作られた商品なのかを理解してもらえる内容にする。細かいことですが、そうしたところで弊社の姿勢や取り組みを発信するようにしています。 

タイガー魔法瓶株式会社 2

──そうした手法を採るようになってからの周囲の反響はいかがですか? 

玉矢:まず、お客様からはTwitterなどのSNSを通じてたくさんのお言葉をいただきましたね。「4つの約束」を宣言するにあたっては、小難しい印象を与えてしまうかな、お客様の心までちゃんと届くかなという不安もありました。しかし、「こういうことを考えている企業から商品を購入したい」「同じような発信をする企業に増えてほしい」といったありがたいお言葉をいただいて、本当にうれしかったです。 

サステナブルな取り組みをご評価いただき、「コラボしたい」とお声がけいただく企業様が、これまで以上に増えました。例えば、2022年秋に福岡ソフトバンクホークスと実施した「環境に優しい野球観戦をしよう」という企画。マイボトル持参の野球観戦スタイルを推進するために、タイガーボトルを持参すると球場内でのソフトドリンクが500円で飲み放題になるイベントを3日間限定で開催しました。

京都にあるホテル「THE THOUSAND KYOTO」とのコラボでは、タイガーのボトルを宿泊者の方がレンタルできる取り組みをしているほか、ご家庭で不要になったステンレス製ボトルの受け入れ・再資源化に回収拠点として参画していただいています。いずれも先方からのお声がけによって実現したものです。

タイガー魔法瓶の広報PR体制

──広報PRの体制について教えてください。 

林:弊社の広報宣伝チームには8名が在籍しています。マネージャーとリーダーが各1名、そのほかの6名が各々の担当カテゴリーを持っている形ですね。例えば玉矢はボトルとコーヒーメーカー、トースターの3カテゴリーをカバーしており、PRだけでなくCMや宣伝も担当しています。私自身は個別の商品カテゴリーを持っているわけではなく、企業全般の戦略PRや公式SNSの運用などを担当しています。 

──創立100周年に関連して、プレスリリース配信の活用の仕方は変わりましたか? 

林:100周年を迎える3年ほど前、2020年あたりからガラッと変化しましたね。それまでは新商品のプレスリリースの配信が中心でしたが、「4つの約束」を発表したころからは、100年かけて培ってきた企業の人格を打ち出すような内容のものが増えてきました。 

実は、弊社のオフィスは、自動販売機も含めてペットボトルゼロなんです。社員は基本的に、皆マイボトルを使っています。そういったことも、以前は「興味を持ってもらえないだろう」と決めつけて表に出すことは少なかったのですが、あらためて発信するようになりました。内容の幅が広がってきましたし、プレスリリースの本数自体も2020年の29件から2022年の38件へと増えました。やはりお客様の目に触れることが弊社の商品を選んでいただくうえで大切だと思いますので、発信のボリュームを増やしています。

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配信の効果を実感したプレスリリース

──配信して効果があったと感じるプレスリリースを教えてください。

事例1.サーキュラーエコノミーのプレスリリースが配信から3か月後にアクセス急増

タイガー魔法瓶株式会社プレスリリース 1
参考:年末の大掃除におすすめ!回収ボックスに入れるだけで気軽&手軽にSDGsアクション。ご家庭で眠っているステンレス製ボトルが新たなステンレス製品に生まれ変わる!

林:ひとつは使用済みステンレス製ボトルの回収実績を報告したリリースですね。弊社では2021年10月から、メーカーを問わず使用済みのステンレス製ボトルを回収し、再資源化する取り組みを行っており、1年間の実績をご報告したいと考えてこちらのリリースを配信しました。年末の大掃除が意識され始めるタイミングでもあり、「大掃除の際に不要なボトルが出てきたら回収ボックスをぜひご利用ください」というメッセージも込めました。 

私どもなりに工夫したのは、他社のSDGsアクションの事例も合わせてリリースに掲載したところです。パイロットコーポレーションさんのペンのリサイクル、ピジョンさん・赤ちゃん本舗さんの哺乳瓶回収、ユニクロさんの服のリサイクルといった取り組みを、各社にご相談したうえで弊社のリリースに盛り込ませていただいたんです。こうした横並びの情報を提示して露出を狙う手法は、今後もうまく活用していきたいなと考えています。 

──他社の情報をリリースに記載するのは珍しいケースです。SDGsというテーマだからこそ可能だったのかもしれませんね。 

林:確かに、各社のご担当者様に掲載について相談した際は「皆さん、同じような思いで取り組んでいらっしゃるんだな」と実感できました。こちらのプレスリリースの配信時はそれほど大きな反響を得られなかったのですが、2023年3月末になって急にリリースへのアクセスが大幅に伸びたんです。あるネットニュースサイトで取り上げていただき、その記事がYahoo!ニュースにも転載されたことがきっかけになったようですね。SDGsは今や普遍的なトレンドですし、情報を探して過去の関連リリースを遡っていく方も一定数いるということなのだろうと思います。すぐに反応がなかったとしても、やはりこうした発信を続けていくことは大事だなと感じました。

事例2.炭酸飲料用ボトルの年間売り上げ目標を3ヵ月で達成したことを発表

タイガー魔法瓶株式会社プレスリリース 2
参考:タイガー魔法瓶”初” 炭酸飲料が持ち運べるボトルが大躍進!タイガー真空断熱炭酸ボトル (保冷専用)年間目標の出荷本数10万本※1をわずか3ヵ月で達成

玉矢:炭酸飲料が持ち運べるボトルの出荷本数に関するリリースの反響は大きかったですね。2022年1月に発売された商品だったのですが、これが当初から大好評で、年間目標としていた10万本の出荷をわずか3カ月で記録したんです。増産体制が整い、市場に安定供給できるようになった4月に、こちらのリリースを配信させていただきました。ちょうど暖かくなってきて、ビールやハイボールなどのお酒も含めて炭酸飲料を持ち運べるこのボトルがさらに活躍してくれる季節でもありましたので、炭酸ボトルのさらなる盛り上げを狙って配信しました。発売から3カ月で出荷本数を報告するようなリリースを出したのは、初めてのことでした。

──どのような反響がありましたか? 

玉矢:各媒体で2022年上半期のヒット商品を特集する企画が進行していたタイミングにうまく重なりました。プレスリリース経由の問い合わせがかなり多く、結果的に、雑誌「日経トレンディ」の2022年上半期ヒット大賞(雑貨部門)、マーケティング専門紙「日経MJ」が発表する2022年上半期「ヒット商品番付」西の前頭3枚目に選んでいただきました。

──「年間目標を3カ月で達成」という情報も、もし100周年を機に発信を考え直すことがなかったら、社内で共有されるだけだった……そんな可能性もありますか?

 玉矢:あるかもしれませんね。「そこまで言わなくてもいいんじゃない?」といった控えめな社風でしたので……。どんどん発信をしていくことが大事なんだという社内の理解を得られたからこそ、このリリースを打ちやすかったという面はあると思います。

事例3.海洋ごみ削減を目指す地域連携にメディアから問い合わせ

タイガー魔法瓶株式会社プレスリリース 3
参考:タイガー魔法瓶が本社を置く「大阪府門真市」と連携し、海洋ごみ削減へ!マイボトルの普及と使用済みステンレス製ボトルの再資源化に関する協定を締結

玉矢:直近の例で言うと、2023年1月17日に、弊社が本社を置いている大阪府門真市と「マイボトルの普及及び使用済みステンレス製ボトルの再資源化の促進に関する協定」を締結したことをお知らせするリリースには、SDGs系メディアなどから複数のお問い合わせがあり、記事にしていただきました。このようなサステナビリティやサーキュラーエコノミーに関連した取り組みは一般ユーザーの立場からするとちょっと難しい話にもなりがちなので、メディアが間に入って、うまくかみ砕いて記事にしていただけるのは非常にありがたいなと思います。そうしたメディアに興味を持っていただくきっかけとして、PR TIMESでのプレスリリース配信を今後も積極的に行っていきたいですね。

今後も「幸せな団らんを広める」ために

──これからはどのような形で広報PR活動を展開していきたいとお考えでしょうか。

:弊社は企業理念である「世界中に幸せな団らんを広める。」というビジョンをとても大事にしています。製品づくりにおいても、広報PRにおいても、その軸に合致しているかどうかを常に考えながら一つひとつの施策を進めているほどです。次の100年においても、生活者に選ばれる企業であり続けたいと考えています。同時に「真空断熱技術」「熱コントロール技術」についても、やはり私たちの根幹の部分ですし、今後しっかりと伝えていきたいですね。 

さらにいえば、これだけたくさんの情報が溢れている時代ですので、「伝えないと伝わらない」ということは再認識しているところです。奥ゆかしい社風の企業として歩んできましたが、これからは企業としての姿勢をしっかり発信していく。そこは一つの課題として取り組んでいきたいと思っています。 

玉矢:私も同感です。どれだけ素晴らしい商品をつくって、どれだけサステナブルな取り組みをしていたとしても、それらをお客様に分かりやすくお伝えしないと広まっていかないので、その役目を私たちがしっかり担わなければならないと思います。SNSを通じてお客様の声をリアルタイムで拾うこともできるわけですから、日々チェックして、お客様が必要としている情報を分かりやすく伝えることにこれからも取り組んでいければと思います。

今回の事例ポイント

玉矢さんは「自分たちで言うのもおかしいですが」と前置きしたうえで、タイガー魔法瓶には「奥ゆかしさや謙虚さが風土としてあった」と話していました。品質や安全性へのこだわりは、声高に叫ばずとも消費者に伝わり、選ばれ続けるはずだ、との思いもあったのかもしれません。

ただ、100年の節目を迎え、自社のスタンスをあらためて見つめ直したことが、広報PRの姿勢に大きな変化をもたらしました。かねてからの取り組みが、SDGsの観点において先駆的であったことに気づいた今、タイガー魔法瓶はあえて発信を増やし、そのメッセージはさまざまなメディアやSNSを介して生活者に届いています。

「社内では当たり前のことが、社会では当たり前ではないこともある」。

タイガー魔法瓶の発信の姿勢を通して、広報PRの意義を改めて再確認できるのではないでしょうか。

なお、広報PR業務におけるSDGsやESGなどについては、こちらの記事も参考にしてみてください。

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この記事のライター

日比野恭三

日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。広告代理店等を経て2010年、スポーツ総合誌「Sports Graphic Number」の編集者に。種々の競技を取材し、企画編集ならびに記事執筆に従事した。2016年にフリーランスライターとして独立。著書に「最強部活の作り方 名門26校探訪」(文藝春秋)、「青春サプリ。」シリーズ(ポプラ社・共著)など。

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