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人口減・車社会の地方で公共交通の未来を創る。家族を巻き込むバス事業者のユニークな企画|両備ホールディングス株式会社

2024年8月、岡山県の企業である両備ホールディングス株式会社と菅公学生服株式会社、青木被服株式会社の3社は共同で、制服やデニムの制作過程で排出される残布を使って装飾したアートバス「AOHARE号」企画を実施。この「AOHARE号」に関する広報PR活動について、それぞれの企業がかける想いをレポートしていきます。

第一弾は「岡山デニムをデザインとPRの力で全国へ。デザイナー自らが挑むブランド価値向上|青木被服株式会社」、第二弾は「岡山の企業3社で実現したPR。広報担当者がゴールから逆算して企画した『AOHARE号』とは|菅公学生服株式会社」を公開。そして最後に、本企画実現の根幹となったバス事業を行う両備ホールディングス株式会社の平本清志さんと嘉悦登さんのインタビューをお届けします。

両備ホールディングス株式会社は、岡山では知らぬ人はいない、県を代表する企業。バスや電車などの交通事業から不動産や商業施設の運営まで、生活に関連する事業を幅広く展開し、今年で創業115年目を迎えます。これまでもバスの乗客数を増やすためのさまざまな施策を行ってきましたが、なぜ今回のコラボレーションという形に至ったのか、どのような効果を期待して実施したのかなど、事業と広報PRそれぞれの視点でお話いただきました。

両備ホールディングス株式会社(岡山県岡山市):最新のプレスリリースはこちら

両備ホールディングス株式会社 バスユニット統括カンパニー 乗合バス統括部シニアマネージャー

平本 清志(Hiramoto  Kiyoshi)

2008年4月に両備ホールディングス入社。「宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」の企画バスすべてに関わり、2022年1月からのおよそ1年は毎月毎月、知恵と工夫を凝らした企画バスを記者発表していました。そのため、バスの企画なのに自転車操業の日々でした(笑)。しかし、毎回の社長へのプレゼントと記者さんへの対応で話術が鍛えられ、あれこれ汗をかくことがお客様やスタッフの笑顔につながることを身をもって体感しました。バスの様々な可能性に確信が持てたことが大きな収穫です。

両備ホールディングス株式会社 執行役員 両備グループ経営戦略本部両備グループ広報部部長

嘉悦 登(Kaetsu Noboru)

2022年2月に前職を定年退職し、両備グループの一員となりました。ちょうど「宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」が始まったばかりの時期で、最初に参加した記者会見は、その企画のひとつ「正念場ッス(※)」のお披露目でした。両備のことは、岡山のお隣の兵庫県在住にも関わらず、全く知りませんでした。入ってみると、100年を超える歴史があるにも関わらず、新進のスタートアップにも似た元気の良さとチャレンジ精神にびっくり!その事業領域の広さと深さにものすごい可能性を感じました。まだまだ広報もプロモーションも、その可能性を伝えきれていないと痛感する毎日です。※参考:公共交通の窮状と利用促進を走るバスで訴求 岡山発 宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクトの「正念場(バ)ッス!」ついに発車

「進(シン)・宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」で実現した岡山発のPR

──まずは御社の事業と、広報PRの体制について教えていただけますでしょうか。

嘉悦さん(以降、敬称略):当社は1910年に創業し、今年で115年を迎えたところです。鉄道事業から始まった会社ですが、その後バスやタクシー事業も加わり、交通事業を主軸としながら幅広く展開してきました。グループ会社は50社ほどあり、私たちの部署でほぼすべての広報PR活動を担当しています。昨年は年間250本ほどのプレスリリースを配信、さまざまなイベントの企画やプロモーションを6名のメンバーで行っています。

そして今回の「AOHARE号」の企画は、バス事業を受け持つ部署が行っている「進(シン)・宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」の一環として実施したものです。

──「進(シン)・宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」について、詳しくお聞かせいただけますか。

平本さん(以降、敬称略):このプロジェクトはバスの利用促進を目的としたプロモーション施策で、社長自ら立ち上げた「宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」が元になっています。バスの乗客数の減少を背景に、従来の手法から大きく方針転換する必要があり、月に1回面白いバス企画をつくるということを始めました。例えば、子どもたちが降りたくなくなる『「レジャーバスポット」企画』や、『地元のサッカーチーム・ファジアーノ岡山と一緒に行った地域を盛り上げるための企画(降車ボタンを押すと「ゴーーール!」と鳴る仕掛け)』など、全12回を社長主導でやってきました。翌年からは私たち現場の人間が担当することになり、プロジェクト名も「進(シン)・宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」に変えて再始動したという経緯になります。

今回の「AOHARE号」はSDGsをテーマに、菅公学生服さんの制服や青木被服さんのデニムの余り布を使用してお子さんがアート作品を作り、その作品で彩ったバスを走らせました。これまでも地元企業とコラボレーションしたことはありますが、企画の段階から最後走行するまですべてを一緒に行ったのは初めての経験です。

──3社、しかも最後まで一緒に進めたのは初めてなんですね。

嘉悦:もともとは、当社の呼びかけで始まった県内企業の広報PR担当者が集まる会があったんです。十数社が定期的に集まって交流しており、そこで菅公学生服さんと出会い、当社の「進(シン)・宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」の取り組みに興味を持ってくださって。菅公学生服さんが「一緒にやろう」と企画を提案してくださり、青木被服さんにもお声がけしてもらい話が進んでいったんです。

平本:当初は、公共交通の事業をいかに持続可能にするかという目的で始めたものなのです。それを認知していただいていたこと、プロジェクトに関心を持ってくださり企画を一緒にやりたいと言ってもらえたことは大変光栄でした。学生さん向けに事業をしている菅公学生服さんの、「お子さんが学ぶための機会を提供したい」という思いに共感したのも大きかったです。

提供:両備ホールディングス株式会社(ワークショップに参加たお子さんたちの声を使用した降車ボタンの「AOHARE号」)
提供:両備ホールディングス株式会社(ワークショップに参加たお子さんたちの声を使用した降車ボタンの「AOHARE号」)

参考:[岡山発] 進(シン)・宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト 新機軸は企業コラボ 制服やデニムの余り布で子どもたちとアート作品が彩るバスを作ります ワークショップ参加の小学生募集開始

参考:岡山発 進(シン) 宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト 乗って地球環境について思いをはせるバス「AOHARE号」登場 【両備グループ】

コラボで気づいたバスの新たな一面

──「AOHARE号」の企画は、どのようにして固めていったのでしょうか。

嘉悦:菅公学生服さんと青木被服さんが中心になって、余った布をどうしたら一番きれいに見せることができるのか、どうしたら子どもたちが作品づくりを楽しめるのか、ということを進めてくれました。実際にバスの中で議論されていたのですが、ディスカッション中も次々とアイデアやプランが出てきて、さすが職人だな、と思いましたね。準備期間が夏だったので、炎天下の中、バスに籠るのは体力的につらかった面は多少ありますが、ものづくりの大切なプロセスを踏んでいる場面を傍で見ることができたのは良い経験でした。

平本:難しかったのは、「進(シン)・宇宙一面白い公共交通を目指すプロジェクト」としての一貫性と、各社がPRしたいものを両立させることです。それぞれの企業でやりたいことや目的があるので、それを尊重しながら共通項を探していきました。

──イベント当日に参加されたお子さまたちの様子はいかがでしたか。

嘉悦:ワークショップの冒頭に菅公学生服さんから参加したお子さんに向けてSDGsに関するレクチャーがあって、仕事内容の紹介やなぜ余る布が出るのかなどを説明していただきました。みなさんが興味津々という顔で話を聞いていて、その話があったからか、布を選ぶときにすごく真剣でしたね。会場の中央に残反がどかんと置かれ、そこからお子さんたちが好きなものを取っていくのですが、なかには何回も何回も往復して吟味する子も。2社が提供してくださった布もバラエティに富んでいて、「本当にこれは残反なのかな」と思える質の良いものもたくさんありました。

平本:バスのイベントなので、乗り物が好きなお子さんが来るかな、と思っていたのですが、純粋にアート作品を作る活動を楽しみたいというお子さんが集まってくれたのが印象的でした。夏休みに開催したこともあり、ひまわりや海など夏をモチーフにした絵がたくさんあって、自由な感性で表現してくれていましたね。作品は実際にバスに貼られるので、良い思い出にしていただけたのではないでしょうか。

嘉悦:あと、参加してくれた保護者の方から「バスに乗っていると親子でゆったりしゃべることができる」と言われて、はっとしました。岡山は車社会なので、親子連れの場合は移動で車を使うことが多いのですが、バスであれば運転しなくてもいいので、親子で景色を一緒に見たり、話をしたりできるんですよね。これってバスのすばらしさのひとつだよな、と気づくことができました。それがヒントになり、「AOHARE号」には車窓から見えたものをつぶしていくビンゴカードを設置。「親子の時間をつくれる」という訴求をしたんです。そんな大切な気づきも得られ、その点でも今回の企画をやってみてよかったと思っています。

地元から全国へ、両備の名を広めたい

──会話をヒントにすぐにビンゴカードの設置を検討・実施しているとは、早いですね。それでは、最後にこれから両備ホールディングスさんとして目指していきたいこと、展望について、お聞かせください。

平本:岡山市内の交通手段の約60%が自動車で、バスはたったの2%しか使われていないんです。目標は、それを4%まで引き上げること。そのためにはこのバスの取り組みを広く知ってもらい、実際に乗っていただく必要があるので、プロモーションや広報PRの役割は欠かせません。これまでは「何をするか」を特に重視してきましたが、今後はさらに、「どう表現するか」をもっと考えないといけないと思っています。

嘉悦:地方のバス会社はドライバー不足や利用者減少に直面しているところが多いのですが、その窮状をネガティブに伝えるのでなく、それを逆手にとって、「大変だけど明るく元気に問題解決してみよう!」と始めたのがこのプロジェクトです。この取り組みを通して、バスが走っているという当たり前の風景が、実はとんでもない努力や手間が必要だということを知っていただけたらうれしいですね。

そして、私自身も入社する前は知らなかったのですが、当社は公共交通以外にもいたるところに事業、社員が存在しています。例えば、岡山桃太郎空港で航空会社の制服を着ている空港のグランドスタッフも当社の社員です。こんなに広く事業展開している面白い会社だからこそ、両備の営みを知っていただき、「こんなところまで両備やっているのか」という私自身が感じた驚きを、多くの方に感じてほしいですね。

──今年は創業115周年目ですが、そのための広報PRも強化されていますよね。

嘉悦:そうですね、まさに115周年企画の真っ最中です。周年記念の間にはいろんな挑戦をすることを掲げているのですが、最近この周年のタイミングで初めて会社のタグラインを決めたんです。両備は岡山県の中では知名度が高いのですが、全国ではあまり知られていないので、両備の名を広めるためには一般の企業が当たり前にやっていることをまずはきっちりやろうと。それから「Rちゃん」という企業キャラクターをつくりました。両備のイメージカラーはブルーなのですが、「Rちゃん」をあえてカラフルにすることで、バス事業だけでなくいろんなことをやっているというのを表現しています。どこの県の人に聞いても「両備ってこんな会社だよね」と言ってもらうために、これからも広報PRを強化していきたいですね。

両備グループ115周年を機に誕生したキャラクター「Rちゃん」記念バス

参考:両備グループ115周年を機に誕生したキャラクター「Rちゃん」記念バス運行開始 安全のために死角ゼロのAI機能搭載車内デジタルインナーミラーと衝撃吸収床材採用

まとめ:できることはすぐに着手。歴史に甘んじず基本も大切に

バス事業の課題を解決すべく、広報PRの力を使ってさまざまなアプローチを行う両備ホールディングス。とかくネガティブになりがちなテーマに対し、明るく楽しく元気に解決しようとする姿勢から、前向きな社風が垣間見えました。

「AOHARE号」企画や、両備ホールディングスの広報PR活動から見えたポイントは4点です。

  • ネガティブイメージを逆手に、ポジティブに解決する手法を採用
  • 地元企業とのコラボレーション企画で再認識できた「親子の会話が生まれる」バス時間
  • ヒントを得たら、すぐに新しいアプローチを検討・実施
  • 周年記念をきっかけに広報PRを見直し、基本的な施策にも着手

他社と共同で広報PR施策を行うのは、自社だけで行うよりも手間と時間を要することもあるでしょう。しかし、コラボレーションだからこその発信力で、メディアから注目されたり、これまでにはない視点を取り入れられたりするといったメリットもたくさんあります。

岡山県の企業3社の合同企画「AOHARE号」について、全3回にわたってお伝えしてきました。他の2社の記事もあわせてご覧ください。

参考:「岡山デニムをデザインとPRの力で全国へ。デザイナー自らが挑むブランド価値向上|青木被服株式会社
参考:「岡山の企業3社で実現したPR。広報担当者がゴールから逆算して企画した『AOHARE号』とは|菅公学生服株式会社

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