1年間で1,900件以上。
この数字は、農家・漁師から旬の食材やお花などを直接取り寄せられる通販サイト「食べチョク」を運営する株式会社ビビットガーデンの、直近のメディア露出数です。社員数20名の少数精鋭チームが手がけるサービスは、飛ぶ鳥を落とす勢いでメディアに取り上げられています。
そんな同社で広報を担当しているのが、下村 彩紀子さんです。2019年10月にひとり目の広報担当者として入社した彼女は、当時、未経験で広報畑に飛び込んできたそう。
華やかに映る露出実績のウラには、泥臭くトライアンドエラーを続けるなかで見いだした、戦略的な発信術がありました。
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1年間でメディア露出数1,900件以上。ビビットガーデンの広報の仕事
──ビビッドガーデンでの下村さんの役割を教えてください。
広報・PR全般を担当しています。業務の8割ほどがメディアリレーションズで、メディアとのやりとりや取材対応をしていますね。あとは、生産者や消費者、採用候補者など、ステークホルダーの方々に向けて、情報発信を行っています。
広報担当の社員はわたしのみで、実務ベースで動いているのはインターン生とわたしの4名ほどです。
──会社として、どのような目標を設けていますか?
代表とマーケティング担当者と会議をしながら、「結果指標」「露出指標」「行動指標」の3つを設定しています。結果指標はGoogleの指名検索数、露出指標は注力したいメディアの掲載数。そして行動目標は、プレスリリースやニュースレターの本数、メディアとの新規リレーション数です。
──とくにコロナ禍になってから、テレビや新聞、雑誌、Web記事などで「食べチョク」が取り上げられているのをよく目にします。
ありがたいことに、露出の機会はかなり増えています。2020年5〜7月までで、テレビや雑誌など1,000件以上、2020年の1年間で1,900件以上のメディアに掲載されました。
そして、2019年12月に650軒ほどだった登録生産者数が、2020年12月には3,300軒を超えています。
今こそ多くのメディアに取り上げていただいていますが、ビビットガーデンに入社した2019年10月のわたしは広報未経験者でした。広報・PR職に就く前は、人事として新卒の採用担当を2年半していたんです。
アイデンティティに導かれて、ここに来た。人事から広報になったワケ
──人事だったのですね! なぜ、第一次産業の分野で事業展開するビビットガーデンに広報として入社することに決めたのでしょうか?
ビビットガーデンに興味を持った理由は、地域経済を回す仕組み作りをしたいと思ったからです。
わたしのアイデンティティは、新潟県魚沼市のユリ農家の孫として生まれたこと。地方には、伝統工芸品や農作物、独特の文化など、まだ全国に広まっていない価値あるものがたくさんあります。そうした地方に眠っている宝を引き出し、世の中に伝播していき、経済が回る仕組みを作れたらすてきだと思いました。
そう考えていたとき、ちょうど実家に帰る機会がありまして。ユリ農家のいとこから「ユリ農家はユリを作るプロだけど、販売のプロではない。」と話を聞きました。
今、スマホなしでは生活できないくらいインターネットが普及していて、外に出なくても買い物が完了するくらい生活のあり方が変わっています。そんな世の中だから、ユリをはじめとして、地方の価値あるものの魅力を伝えていく手段はもっとあるはず──。
そう考えていたとき、わたしの頭のなかを絵に描いたような事業を展開する会社に出会ったんです。それが、当時10名ほどしかメンバーがおらず、広報担当すらいなかったビビットガーデンでした。
──自分のアイデンティティをたどっていった先に、ビビットガーデンにたどり着いた、と。職種として広報を選択されたのはなぜでしょうか?
「より多くの人の心に届ける仕事にチャレンジしてみたい」と思ったのが理由です。もともと最初のキャリアは営業をしていて、「目の前のひとりの心とどう向き合うか」を大切にしていました。
次に、営業から人事の仕事をするようになって、ひとつの施策で多くの人に影響を与えられることに気づいたんです。たとえば採用ホームページをゼロから作ったり、採用イベントを企画したり。こうした施策によって、複数の人の心に届き、行動変容につながっていくのがおもしろいと感じまして。
そこで、「利用者やメディア、採用候補者など、多くのステークホルダーと関わりをもち、より多くの人に影響を与える仕事がしたい」という思いが芽生え、広報に興味をもちました。
情報は立体的に組み立てるもの。ターニングポイントとなったあの言葉
──広報未経験で、しかもひとり目の広報として新たなスタートを切ったんですね。露出がひんぱんな今を見ていると、出だしから順調だったのではないかと感じます。
いやいや! まったくです。
入社した当初は「広報って何をするの?」「プレスリリースって何?」というレベルでした。もう、「今日も1日8時間、何をしたらいいんだろう……」と右も左もわからない赤ちゃん状態(笑)。入社後1カ月ほどは、広報に関する記事を読み漁ったり、勉強会に参加したり、とにかくインプットに充てる時間を意図的に多く設けていましたね。
それから、やってみないとわからないということで、まずは行動目標を設定し、メディアへのアプローチやプレスリリースの執筆など、がむしゃらに手を動かしました。
わたしの広報としてのターニングポイントになったのは、記者からのフィードバックです。
──フィードバック、ですか?
はい。プレスリリースを発信し、メディアにアプローチをかけると、興味をもってもらえる情報もあれば、興味をまったくもってもらえない情報もあります。そこで、リレーションを築けてきた記者に、興味をもった理由やもたなかった理由を聞き続けました。
「この情報を出すタイミングは今ではない」など、いただいたフィードバックを吸収し続ける毎日。そして、広報になって半年後、トライアンドエラーを繰り返すうちに、興味を惹く情報発信の感覚が掴めるようになってきたんです。
──とくに今の発信を形作っていると思うフィードバックはなんですか?
事実だけを発信するのではなく、ストーリーとしてプレスリリースを打つことですね。
たとえば「この商品を発売しました」だけではなく「この商品を発売したことで、こんな声が生まれ、世の中にこんな影響を与えた」など。事実の先で紡がれる物語が、ニュースになることを教えていただきました。
そのフィードバックを受け、「情報を立体で作る」ことを意識しています。事実を軸として、サービスを作るにいたった背景や、サービスを提供することで作りたい未来、利用者の声など、より立体的に発信する情報を描いています。
──情報を立体的に作るようになり、何が変わりましたか?
プレスリリースの捉え方が変わりました。広報になりたての頃は「このプレスリリースで取材につなげなければ」と視野が狭くなっていて。しかし今は、「どういう構造で情報を組み立てるのがベストか」と考えられるようになったんです。
プレスリリースは、材料を組み立てて作るものだと思っています。手持ちの材料を、アプローチしたいメディアごとに、最適な構造に組み立てていくんです。農業系のメディアに興味をもってもらうには「A、B、C」と情報を組み立て、消費者系のメディアには「C、A」……といったように。
ひとつの情報を伝えるのではなく、さまざまな手札を使いながら、ビビットガーデン全体の魅せ方を考える。このマインドに切り替えられたのは、親身にフィードバックをくださった記者のおかげだと思います。
情報を届けたい人の脳内をのぞくには? 答えは人事時代の経験のなかに
──広報未経験者のぶつかる壁のひとつに、いかに世の中のトレンドを掴むか、があると思います。下村さんは、その筋肉をどう鍛えていったのですか?
とにかく妄想しています! 取り上げてほしいメディアの視聴者・読者の気持ちになって、その人が普段どんな視点で過ごしているのかを想像するんです。
その人を憑依させるイメージで、なじみのありそうなメディアの記事を読み込んだり、アプリを使ってみたりします。とくに雑誌は、読者に刺さるワード選定に長けているので勉強になりますね。
あとは、SNSもよく見ています。SNSは感情や意見、悩みが出やすく、人の輪郭が見えやすい場所です。そのため、X(旧Twitter)やInstagramで、アプローチしたいターゲット層のアカウントをフォローし、使っているワードやシェアしている記事などを勉強させてもらっています。
こうして情報を届けたい人を常に憑依させることで、「この人は次にこんなことに興味をもつのでは」と自然に仮説が生まれてきます。
あらゆる人の気持ちになって考える姿勢は、人事時代から変わっていません。たとえば、「この学生はどんな本が好きだろう」と想像して実際に読んでみたり、共通言語を作るべくSNSで情報収集をしたり。
──人事時代に積み上げてきたものが、今広報に活きている、と。
そうですね。人事は「優秀な学生を採用したい」と言うけれど、「そもそも優秀な学生ってどんな人?」を明確にしなければならない、と上司に教えてもらいました。
人物像をはっきりと浮かべるために、ペルソナを細かく設定しなければなりません。そこで「その人がどんな生活をしているのか」「どんな友人と一緒にいるのか」「どんなバイトをしているのか」「どんな夢をもっているのか」と深掘りしていきました。
相手の頭のなかを想像し、解像度を高めることを意識的に続けてきた人事時代の経験は、今の広報・PR活動に大きく活きていると思います。
──今後のビビットガーデンの目標を教えてください。
「食べチョク」のファンを増やすと同時に、生産者のファンも増やしていけたらと思っています。
そこで広報・PRとしては、さまざまな角度から生産者を紹介していくつもりです。野菜を育てるにいたった背景や、生産者が暮らす町、家族構成など、平面ではなく立体的に、人柄や表情が見えるように。
これまで食材はスーパーで購入するのが一般的でした。しかしこれからは、応援している生産者と直接つながる購買体験を、ひとつのエンタメとして提案し続け、その選択肢が当たり前になる世の中を目指しています。
──生産者のファンになれたら、購買活動がもっと楽しみになりそうです。下村さん個人として、今後のビジョンはありますか?
わたしはもともと、地域経済を回す仕組み作りがしたくて入社しました。なので、ビビットガーデンの夢はわたしの夢です。
まだマーケットが確立されていない分野で事業を展開するスタートアップに、最初の広報として入社した1年3カ月前。不安がなかったと言ったら、ウソになります。しかし「5年後、自分が笑顔で過ごせる選択は何か」と考えたら、間違いなくビビットガーデンで広報をすることでした。
何もかもが手探りで、壁にあたりながらも歩き続ける毎日をへて今、一歩ずつ夢の道を進んでいる感覚があります。目指すは、生産者の“こだわり”が、正当に評価される世界へ──。その実現に、広報・PR担当として一役買えたら本望です。
地道に種をまき続けた、広報未経験の仕掛け人
盛んなメディア露出で、右肩上がりに利用者数と登録生産者数を伸ばしている「食べチョク」。華やかな成長の陰で地道に種をまき、水を与え続けていた仕掛け人は、未経験から広報の世界に飛び込んだひとりの女性でした。
この記事を読んでいる方のなかには、「未経験だけど広報にチャレンジしたい」「広報初心者で何をするべきかわからない」と悩む方もいるでしょう。広報の知見や経験という武器をもたず、身ひとつで一から畑を耕した下村さんの姿勢は、あなたの道を照らしてくれるかもしれません。
(撮影:原 哲也、取材はリモートで実施しました)
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