「自社に広報PRの専任担当がいない」「どのように情報発信をすればよいのかわからない」と、悩みを抱える企業は多いのではないでしょうか。フルーツゼリーで知られる長崎の製菓メーカー・株式会社たらみでは、商品のPRを開発のメンバーが一貫して担当しています。
本記事では、同社のマーケティング部で商品開発を担当する田村枝美さんと脇阪美祐さんにインタビュー。2025年3月に立ち上げた新ブランド「たらみ Dessert」の事例をもとに、商品開発から発売に至るまでの流れ、顧客層を広げるための取り組みや、生活者に商品の魅力を伝えるための工夫について伺いました。

株式会社たらみ マーケティング本部マーケティング部 シニアマネージャー
現職で約13年にわたりマーケティング業務に従事。スーパーマーケット向けのカップゼリーやパウチゼリーの商品開発を中心に、ブランドや商品のプロモーションも幅広く担当。健康志向やナチュラル素材など、時代のニーズを意識した商品設計を心がけており、生活者視点を大切にしながら、日々の食卓に寄り添う商品づくりに取り組んでいる。

株式会社たらみ マーケティング本部マーケティング部 マネージャー
大学卒業後、2015年にたらみに入社。開発、品質管理、営業の部署を経験したのち、2022年より現職のマーケティング部に異動。スーパーマーケットを中心としたカップゼリーやパウチゼリーの商品企画・開発に携わる。日々のトレンドリサーチとこれまでの経験を活かし、おいしいものへの探求心を持って商品づくりに励んでいる。
株式会社たらみ(長崎県長崎市):最新プレスリリースはこちら
開発担当が商品PRを担う
──本日はよろしくお願いします。早速ですが、マーケティング部が商品のPRにも積極的に携わられているそうですね。
田村さん(以下、敬称略):はい、よろしくお願いします。まず、社長の直下に「マーケティング部」「開発部」「調達部」の3部署から成るマーケティング本部があり、新商品が市場に並ぶまでの企画・設計全般を行っているんです。携わる商品ごとに担当がいて、私と脇阪は、主にスーパーマーケットに展開する商品を担当しています。
脇阪さん(以下、敬称略):開発部と調達部は本社である長崎にあるのですが、時には郵送で試作品をやり取りしながら商品開発を進めています。また、コンセプトや味わい、パッケージデザインの検討まで私たちの方で進め、商品化が決定した後は、製造工場と生産方法を検討したり、営業部と商談資料の内容を考えたりと、さまざまな部署と相談しながら調整していきます。
──ここからは新商品開発についてお伺いさせてください。
脇阪:たとえば、「たらみ Dessert」の第1弾商品である「楊枝甘露(ヨンジーガムロ)ゼリー」と「桃香果茶(トウコウカチャ)ゼリー」は、「市場で流行っているデザートは何だろう?」と、トレンド調査から始めました。
──以前、私も試食させていただいたものですね!
はい。たらみとして新しいものを、「今、話題になっているデザートは何か?」という視点でリサーチを進める中で注目したのが、台湾スイーツブームでした。開発に向けて台湾料理店を多い日は3〜4軒巡り、豆花(トウファ)やタピオカ、お茶やフルーツなどを10種類以上試食。テイクアウトや取り寄せも利用し、とにかくあらゆるメニューを試しましたね。そうした中で、浮かんだのが「中国系のお茶とフルーツを組み合わせたゼリー」という方向性。どのお茶とフルーツにしようかはかなり迷いました。パイナップルと烏龍茶、桃とジャスミン茶など、さまざまな組み合わせを検討し、「おいしいけれどゼリーにすると甘すぎるかも」「この2つは相性がいまひとつ」と、何度も試作を繰り返しました。
「お茶系のフレーバー」は「フルーツフレーバー」と比べて知見が少ないということもあり、味わいのバランスを探るのに3〜4ヵ月間は検討しましたね。
──そうなると、製造工程で想定していなかった課題も出てきそうですね。
脇阪:そうですね。特に「蒟蒻タピオカ」は、普段当社が扱っているフルーツ素材とは異なるため、取り扱いや製造工程において課題がありました。
それでも「台湾スイーツらしさを出すために、なんとしても蒟蒻タピオカを使いたい」という強い思いのもと、製造現場と何度も話し合いを重ねましたね。結果的に、部署を超えた協力体制のもとでこの素材を採用することがかない、「たらみ Dessert」として新しい挑戦を形にできたんです。

営業部と連携し、顧客の「これ何?」を解決
──「楊枝甘露ゼリー」と「桃香果茶ゼリー」ができた後、売り出す際にはどのような点を工夫したのでしょうか。
脇阪:情報を世の中に出すうえで特に工夫したのは商品写真です。どちらの商品も台湾で人気のデザートをイメージしていますが、多くの方は商品名だけではどのような味わいなのかわからないと思うんです。そこで、「楊枝甘露」と「桃香果茶」がどんなものなのか、わかりやすく伝えることを大切にしました。
ちなみに、プレスリリースで使用した写真は、実物と相違が出ないように実際の商品を使い、カップからグラスに移して撮影しているんです。

脇阪:「楊枝甘露ゼリー」は全体的に黄色っぽいため、ゼリーと素材の区別がつくように、光の角度や素材の配置を工夫しました。撮影は朝から夕方まで一日がかりで、素材がきれいに見えるように最後まで試行錯誤しましたね。
たらみ「たらみ Dessert」プレスリリースのポイント
写真へのこだわりはもちろん、「台湾で人気」「トレンドデザート」というキーワードで関心を引き、商品名だけではわからない「楊枝甘露とは?」「果茶とは?」を丁寧に説明することで、メディアが読者に説明しやすい構成になっています。「モノ消費からコト消費へ」という社会の背景を示すことで、単なる商品紹介ではなく、記事化しやすい内容となっている点も注目です。(PR TIMES 取材担当者より)
参考:プレスリリース:台湾で人気の「楊枝甘露ゼリー(ヨンジーガムロ)」と「果茶」をゼリーで再現!トレンドデザートを手軽に楽しむ「たらみ Dessert」が新発売
──これ本物なんですね!そのほかに、商品の魅力を生活者に伝えるために取り組んだことはありますか。
脇阪:パッケージデザインも検討を重ねました。商品名や素材の説明はもちろん、台湾らしさも表現したいなど、伝えたい要素が多かったのですが、限られた面積の中でごちゃごちゃしないよう意識して進めました。
また、私たちが企画した商品がお客さまの元に届くまでには、営業担当がバイヤーの方に商談へ行き、そこで採用されて初めて商品がスーパーやコンビニに並びます。だからこそ、営業担当に思いを丁寧に伝えることを大切にしています。
田村:そして、営業担当が同じ思いと熱量で伝えるための手段が商談資料なんです。商談資料はマーケティング部が作成しており、トレンドの背景からブランド立ち上げのストーリー、開発秘話まで丁寧に記載するようにしています。
バイヤーの方の中には、「『楊枝甘露』と『桃香果茶』って何?」という方だけでなく台湾スイーツ自体を「どんなもの?」と戸惑う方がいらっしゃいます。そこで、「なぜ台湾スイーツがトレンドなのか」「どのくらい台湾スイーツが注目されているのか」といった情報を商談資料に盛り込み、営業担当が説明しやすいようにしているんです。
また、商談での反響や「もっとこうした切り口でまとめてほしい」というリクエストを、必ず営業担当からフィードバックとしてもらっているので、作成後に手を加えることもあります。
脇阪:こうしたコミュニケーションを重ねることで、営業担当からバイヤーさま、小売店さま、そしてお客さまへと、商品の魅力が正確に伝わっていることを実感しています。

新ブランド展開で顧客層の拡大を目指す
──新商品に関する情報発信に力を入れ始めていらっしゃると思いますが、方針が変わったのでしょうか。
田村:そうですね。当社はありがたいことに、全国で「ゼリー=たらみ」という認知はしていただいているのですが、商品ブランドまではあまり知られていないという課題がありました。そこで、商品ブランドを知っていただくためにテレビCMを行っていたことがあったんです。ただ、商品ブランドの認知を得るにはかなりの費用や労力がかかっていました。現在は、お客さまによりダイレクトに届けられるように、現在はSNSやプレスリリース配信などでのアプローチを始めています。
新しい訴求方法を試している段階ではありますが、試食イベントにもチャレンジしたんです。当社が展開している10種類以上のブランドの中で、唯一凍らせてもおいしい「とろける味わい」シリーズがあります。このブランドをリニューアルした際に、もっと多くの方に知っていただきたいと考え、冷やした状態と凍らせた状態の食べ比べイベントを実施しました。お客さまに「どちらがお好みですか?」と体験してもらい、さらにその声を商品開発に活かしていったんです。
たらみ「『とろける味わい』食べ比べイベント」プレスリリースのポイント
「あなたはどっち派?!」という問いかけで、読み手の関心を引きつけています。「限定600食」という数量限定で希少性も演出しています。商品のユニークな機能(凍らせても食べられる点)を実際に試してもらうことで、商品開発に活かすことに加え、伝わりにくい商品価値を伝えることができました。SNSキャンペーンの実施により、体験できなかった方にも生活者のリアルな声を通して認知を広めることに成功したイベントでした。(PR TIMES 取材担当者より)
参考:プレスリリース:『ジュレデザートとフローズンデザート。あなたはどっち派?!』2日間限定!たらみの「とろける味わい」食べ比べイベント、4月27日(土)・28日(日)大阪・名古屋で同時開催!
──確かに、私もたらみさんがゼリーの会社ということは知っていましたし、お店で見ると「たらみさんのゼリーだ」とわかりますが、ブランド名はぱっと想起できないかもしれません。ほかに、課題に感じていることはありますか。
田村:ずっと感じている課題ですが、ほかのデザートと比較したときのゼリーの立ち位置は悩ましいところですね。スーパーやコンビニのデザート売り場では、ゼリーの近くに、プリンやロールケーキなどの洋菓子、ヨーグルトが並んでいます。
洋菓子には「疲れたときの自分へのご褒美感」、ヨーグルトには「健康志向」などのイメージがあると思うんです。「じゃあ、ゼリーは?」と考えると、「食べても罪悪感がない」「風邪を引いたときに食べる」といったイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。ゼリーは「独自のポジション」にいると感じてますが、もっと日常的に食べていただきたいな、と思っています。
──なるほど、ゼリーならではの課題ですね。
脇阪:また、40代から50代の方にはゼリーを手に取っていただける機会は多いのですが、20代、30代の方は洋菓子のほうが好まれる傾向もありまして。「たらみ Dessert」ではそうした方々にも「台湾スイーツなら試してみたい」「目新しいものが出てるな」と、日常にゼリーを取り込んでもらえるよう、「トレンド感」や「贅沢な美味しさ」を伝えるようにと努めています。
──最後に、これからお二人が取り組んでいかれたいことを教えてください。
脇阪:「たらみ Dessert」はまだ立ち上げから約4ヵ月ですが、台湾スイーツに続く商品もすでに検討中です。より広く認知され、多くの方に召し上がっていただき、たらみの定番ブランドになることを願っています。
田村:「たらみ Dessert」で、幅広い年代の皆さんにゼリーを楽しんでいただきたいですね。「あ、ゼリーってこんなに美味しかったんだ!」と、ゼリーの新たな魅力を発見するきっかけになれたらと思っています。

まとめ:開発者ならではの視点で魅力を伝える
商品開発を行うマーケティング部が、商品のPRを一貫して行う株式会社たらみ。今回のポイントは以下の通りです。
- トレンド調査や現地取材で得た知見を、商品づくりと商品PRの双方に活かす
- 営業担当への丁寧な資料提供で、バイヤーの「これ何?」を解決
- 商品を開発した担当者ならではの情報を活かし、商品の魅力を伝える
- 自社商品の立ち位置や課題を理解し、常に顧客層を広げる意識を持つ
田村さんと脇阪さんのお話からは、お客さまに商品の魅力を届ける方法や、独自ポジションから脱却するための施策、そして業界自体の顧客層を広げることへの思いが伝わってきました。
限られたリソースで情報発信を行う企業にとっても、参考になったのではないでしょうか。また、開発過程を知っているからこその情報量、メディアフックにつながるような市場に対する意外性など、情報の質を活かした広報PRには、気づきがあったかと思います。
今、読んでくださっている方の中には、開発担当者自らが商品の広報PRに取り組んでいるという企業は多くはないかと思いますが、関係部署とのコミュニケーションの際、情報を知っていくうえでのヒントにしてみてください。
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