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「面白い」を考え抜く。自由・自走型組織でユニークな話題を生み出すワークマン広報の裏側

1979年創業以来、高機能・低価格の作業服で職人の現場仕事を支えてきた株式会社ワークマン。プロ向け作業服の確かな品質を生かした、一般客向けの高機能ウェアを取り扱う新業態「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」が2018年9月にオープンしてから、若者や女性からの支持が厚くなっています。職人をメインターゲットにしたビジネスモデルから一般客層をも取り込むワークマンの魅力は、商品だけにとどまりません。「過酷ファッションショー」や「#ワークマン女子」、アンバサダーを起用したキャンプグッズ製作など、思わずメディアが取り上げたくなってしまうユニークな企画を次々に生み出しています

今回は、ワークマン広報部の林部長と伊藤さんにお話を伺い、ワークマンのブランディングを担う広報部の裏側を取材してきました。

株式会社ワークマンの最新のプレスリリースはこちら:株式会社ワークマンのプレスリリース

株式会社ワークマン 役員待遇 営業企画部(兼)広報部 部長

林 知幸 (Hayashi Tomoyuki)

1973年生まれ。岐阜県岐阜市出身。大学卒業後、1996年にワークマン入社。スーパーバイズ部、開発部を経て2020年4月より現職。2018年のワークマンプラスの立ち上げや、多くのメディアに取り上げられ話題となった「過酷ファッションショー」の企画や演出に携わった。現在ではSNS等のオウンドメディアやアンバサダープロジェクトなどのマーケティング戦略や広報・PR戦略を担当。宣伝会議主催の2021年第13回販促コンペ最終審査員を務め、2021年第61回ACCクリエイティビティアワードのマーケティング・エフェクティブネス部門でゴールドを受賞した。

 

株式会社ワークマン 広報部(兼)営業企画部 

伊藤 磨耶(Itou Maya)

1991年生まれ。福岡県出身。東京女子大学卒業後、2014年ワークマン入社。直営店店長に配属、新店の立ち上げを担当。九州エリアのスーパーバイザーを歴任、品質管理部を経て、2019年から本社広報を務める。社外向けに商品のPRなどを行っている。

メディア露出多数のワークマン。広報部設立は約2年前

── ワークマンさんといえば、“作業服屋さん”のイメージから固い雰囲気があるのかと思いきや、近年はユニークな話題を次々と出されていますね

林さん(以下、敬称略)広報PRに力を入れ始めたのは、結構最近のことなんです。「広報部」として部署が設立されたのは2020年4月ですし、そもそも本格的に力を入れ始めたのも2018年からなんです。

ワークマンが創業以来取り扱ってきた作業服の市場自体が飽和してきていたので、新たな市場開拓を始めました。そして、2018年9月に「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」をオープン。この新業態が話題を呼び、そこから様々なメディアから取材依頼をもらえるようになりました。

当時はまだ「営業企画部」がメディア対応をしており、僕ともう一人で対応していました。はっきりと広報担当と任命されたわけではなかったですが、ほかに担当者もいない状態だったので、流れで対応していった感じはありました。

そんな中、広報担当者としてテレビに映る自分をみた時に、これは自分じゃないほうがいいなと思ったんですよ

ワークマンインタビュー01

── どういうことでしょうか?

林:「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」は、一般客をターゲットにした新業態です。カジュアルなデザインを取り入れた商品を取り揃えているのですが、それを40代半ばのおじさんが話しても説得力が無いなと感じてしまったんですよね。

それで、営業企画部にきた伊藤さんに、テレビや雑誌で取材を受ける際の手伝いをお願いするようになったんです。ターゲット層の女性が語った方が魅力的に映りますし、消費者もスムーズに受け入れてくれると思ったんですよね。何を伝えるかはもちろん大事ですが、それを誰が伝えるかによって、伝えたいことをきちんと伝えられるかどうかが変わってくると思います

── たしかに話者も含めてどう伝えるかは非常に重要なポイントになりますね。ただ、突然の依頼に驚きませんでしたか?

伊藤さん(以下、敬称略):正直、とまどいはありましたね。そもそも、メディアに対して何を話してよいのか、よくないのかもわからなかったので。とりあえず、公に出ている情報は大丈夫だろうと思い、自社ホームページに掲載されている情報を話していました。また、上場企業なので、IRにも気を配り、数字の話などは控えるようにしていましたね

ワークマンインタビュー02

林:全社的に広報PRに力を入れはじめたばかりだったので当然マニュアルなどもないですし、各々の仕事がありつつだったので片手間で対応する感じでしたね。彼女が取材対応を手伝ってくれるようになったのは非常に助かりました。

これまでは、ターゲットが「職人」と限られていたこともあって、広報PRにそこまで力をいれなくてよかったという背景があります。ただ、新業態を発表し、客層が広がったことで、それに柔軟に対応できる体制づくりが迫られた感じでしたね

面白い企画は「雑談」で育つ

── ワークマンさんから出るプレスリリースは、ただ事実を列挙するのではなく「遊び心」が感じられますよね。

林:どうしたらメディアが面白いと感じて取り上げてくれるか、というのは常に考えています。例えば「対立構造」って面白いし、誰しも興味が湧くじゃないですか。ロボットvs人間みたいなものとか。そこから着想を得て、企画したリリースがあります。2019年3月に「WORKMAN Plus」の新店舗がオープンするのと同時期に、フランスのスポーツ用品メーカーであるデカトロン社が日本1号店を近距離にオープンすると知ったんです。そこで、「西宮戦争」としてワークマンvsデカトロンの対立構造をつくったプレスリリースを作成しました。これにはかなりの反響があり、テレビ東京系列『ガイアの夜明け』をはじめとしたテレビ番組や雑誌、webメディア合計160媒体に取り上げてもらいました

── 『ガイアの夜明け』といえば、「#ワークマン女子」についても取り上げられていましたね。伊藤さんが企画責任者として奮闘している様子が印象的です。

林:実は、あの時も対立構造を意識して伊藤に企画責任者を担ってもらった経緯があります。若い女性社員vs年上のおじさん社員達というような感じで。もちろん企画責任者になってもらった理由はそれだけではありません。女性をメインターゲットにした新業態「#ワークマン女子」を展開するにあたって、最初のプロジェクトメンバーは男性社員ばかりだったんです。そこで、考えた企画を女性社員に意見を聞きにいったところ、酷評を受けまして……。それから企画担当者を総入れ替えして、伊藤に担当してもらうことになりました。

伊藤:お客さまにInstagram投稿してもらえるような映えスポットを考えたということだったのですが、これじゃInstagramに投稿したくないなと思ったことを正直に伝えました(笑)。

ワークマンインタビュー03

林:この一連の事件についてはメディアも面白がってくれるんじゃないかと思って、「#ワークマン女子」1号店オープンを知らせるプレスリリースに参考として掲載したんですよ。そしたら、そのままテレビ番組で取り上げてもらえることになりました。私にとっては恥ずかしいエピソードではありますが、こういったリアルな裏側がメディアにとっては面白いと感じてもらえるネタであることを実感しましたね

── ほかのプレスリリースをみても、思わず取り上げたくなるネタが詰め込まれていますよね。こういった企画はどのように考えられているのですか?定例のネタ出し会議などで話し合うような感じですか?

伊藤:いえいえ!弊社の専務取締役である土屋の書籍『ワークマン式しない経営』でも書いているのですが、「価値を生まない無駄なことはしない」という方針のもと、そういった形式ばった会議は行いません。広報部の定例会議も実施していませんし、ネタ出し会議なども実施していません

林:現状、プレスリリースを書くこと自体は、僕と土屋専務取締役が担っているんですけど、書き進める前に、どうしたら面白がってもらえるかなというのはみんなで考えます。「これ、どう思う?」みたいな感じで、雑談の中で直接相談したり、意見を聞いたりすることが多いんです。その中で「もっとこうしたら面白くなるんじゃない?」という声を集めて、みんなで面白い企画を生み出していっている感じはあります。

伊藤:形式ばっていないからこそ、それぞれが自由な発想で意見を出し合えるんだと思いますね。

ネットワーク型組織が自律を促し、自由な発想が展開される

── お二人は営業企画部と広報部を兼任されていると思うのですが、なぜそのような組織形態になっているのでしょうか?

伊藤:営業企画部は新商品の情報を集約し、市況を踏まえその時々に適したイベントなどの企画を担っています。なので、営業企画部に所属していることでメディアに伝えたいと思う情報が収集しやすく、営業企画部が考えた企画を正確にメディア発信できるというメリットがあります

林:営業企画部も広報部も私の管轄になるのですが、どちらも最終的にはUGCを追っています。

ワークマンインタビュー04

我々が実現したいことは、消費者の行動変化。自社発信する内容はもちろん、テレビやwebメディアなどを見た消費者がワークマンに行ってみたいと思う意識変化から、実際にワークマンに行ってみるっていう行動変化を生み出しますよね。で、“#ワークマン”とか“#ワークマン女子”などのハッシュタグをつけて発信されている方は、だいたいお店まで行っている、つまり行動変化のあった方達なんですよ。なので、UGCを最終的なゴールに設定していますね。

── 広報部と営業企画部が一緒ということは、売上が目標になっているからかと想像していたのですが、そうではないんですね。

伊藤:はい、部内では売上目標はありません。この商品を売らないといけないというような縛りもないので、自分たちで考えて、押し出したい商品を決めたり、広報PR企画を自由に考えることができていると思います。縛りがないからこそ、のびのびと発想を広げることができていますね。

林:あとは、全社的に「ネットワーク型組織」に実質的に近いことで、自分の頭で考えられる社員を育てることができているということも、自由な発想を展開しやすい社風につながっている気がしています。

弊社では経営陣で決め事をして、社員に対し上意下達的に情報を伝えてくる、ということは一切ありません。経営方針や推進プロジェクトなどを大々的に発表する機会とかもありません。でも、社員はちゃんとその情報を知っているんですよね。トップ層が何か号令をかけて動き出す方が、なんだかかっこよく感じますけど、ワークマンはそうではない。じわじわ全社に情報や経営層の考えが浸透していく文化があります。みんなが自分ごととしてその情報を受け止められるので、そんなネットワーク型組織が社員の自律を促しているところがあると思いますね。

── 文化として自然に自走が促されているというのは素敵なことですね。

林:やっぱり、上司や経営層が個別に相談にきてくれた時って、自分に期待をかけてもらっているのかなと思って自主的に頑張りたくなるじゃないですか。そうやって、つい自走したくなるような組織であることはとても良い文化であると感じていますね。

── ワークマンさんの強みの根源をみれた気がします。最後に、今後の目標を教えてください。

林:これまでは目立ってなんぼと思っていたところがありとにかく面白い企画を、と思ってきましたが、それだけだと消費者に飽きられてしまいます。もう少し顧客満足度を高められるような企画を打ち出していきたいなということはざっくりと考えていますね。例えば、ワークマンの商品を体験することができる場づくりとかですね。最近ではアウトドア製品の展開も始めたので、キャンプ場なども良いなと思います。

伊藤:ちなみに、「伊藤にはもっとこうなってほしい」みたいなことってあります?

林:現状では、ワークマンという会社自体が注目を集められているので、メディアからの取材依頼がくる状態ですが、やはりこちらからもっと戦略的に仕掛けていけるようになってもらいたいですね。僕たちでは思いつかないことも伊藤ならできると思うので、期待しています!

ワークマンインタビュー05

今回の事例のポイント

  • 話者も含め、伝わる伝え方を工夫する
  • いかにメディアがおもしろがってくれるかという視点で企画やプレスリリースを考える
  • 形式ばったものや縛りがないからこそ、自由で面白い発想につながる

今や、日本で知らない人はいないワークマン。そこにたどり着くまでには、伝わる努力を惜しまず、いかに面白がってもらえるかを考え抜いた広報PRパーソンの存在がありました

林さんと伊藤さんのお話される様子からは上司ー部下という堅苦しさはなく、お互い信頼し合っていることが伝わってきました。それは、形式張った会議をなくしたり、経営層との距離を感じさせるような号令などがないからだと感じます。

やることを決めたくなるところをぐっと抑えて、しないことを決めることでそれぞれの自律を促し、クリエイティビティが育つことで、結果的に多くの人から面白いと思ってもらえる企画が生まれてくるのかもしれません。

(撮影:原 哲也)

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この記事のライター

林 優

林 優

サイバーエージェント新卒入社、Makuake配属。イベント企画・運営を担当するとともに、ガジェット・ファッション・飲食店・日本酒…など、毎月数百件開始するプロジェクトの広報業務を担当していました。多岐にわたるジャンルのプロジェクトPRを担当する中で積んできた広報業務経験を活かしたコンテンツづくりに取り組んでいます。

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