小田急百貨店で、この春から始めたのが、自主編集ショップ「クリエタリエ」と「ベッピンデコ」、そして、サテライトショップ「小田急百貨店あつぎ」での「OCA Creator‘s Collection」の取り組みです。担当しているのは、小田急百貨店事業創造部小型店担当のメンバー。統括マネジャーの草柳了が、この取り組みがスタートするまでの道のりや、今後目指していくことについて紹介します。

■テーマは「クリエーターとの共生・共創」

アクセサリーや服飾雑貨、アパレルなど大人に向けて高感度ブランドを編集したショップ「クリエタリエ」と、ハンドメイドアクセサリーを集めたショップ「ベッピンデコ」は、2019年8月に小田急百貨店新宿店内にオープン。どちらも日本人クリエーターの作品にこだわり、「クリエーターとの共生・共創」をテーマに掲げています。これまで、クリエーターによる対面販売イベントや、オンラインオーダー会、ライブコマースなど、あらゆる手段でお客さまとの接点づくりを行ってきたほか、小型店事業として、外部商業施設への期間限定出店などにも挑戦してきました。

＜クリエタリエ＞

＜ベッピンデコ＞

サテライトショップ「小田急百貨店あつぎ」は、2015年９月に商業施設「本厚木ミロード２」にオープン。ギフトのほか食料品、雑貨など、地域のお客さまのライフスタイルを支える商品を取り揃え、常に新しい発見を提供するイベントスペースを展開しています。

＜小田急百貨店あつぎ＞

■新たなクリエーターを発掘したい！

「ベッピンデコ」「クリエタリエ」で取り扱うブランドは、通常、展示会などを通じてバイヤーが独自にセレクトしていますが、オープン2年目を迎え、クリエーターの個性が詰まったものが徐々に少なくなるとともに、展開してもすぐに他店と同質化してしまったり、また、SNSの活用により月間100名超の新規顧客を獲得できてはいるものの、再来店に繋げられていなかったり。そういった課題もありました。

今後当社が生き残っていく上では、ただ販売するだけでない“リアル店舗ならではの楽しさや新しい発見”を提案したい。そして、お客さま、クリエーター、当社の三者にとって、もっと愛着のある店（MD・サービス・環境）にしたい。そんな想いがあって、新たなクリエーターの発掘を模索していたのです。

■小田急沿線のクリエータープラットフォームとの出会い

そんな時に出会ったのが、小田急沿線のクリエータープラットフォーム「Odakyu Creative Alliance（OCA）」でした。「クリエイティブのチカラで小田急沿線をより魅力的な沿線にしていくこと」を目指し、クリエーターと仕事とのマッチングだけでなく、新たなプロジェクトを創出する取り組みで、運営はグループ企業である小田急エージェンシーです。

この取り組みを知った時は、「小田急沿線で活躍しているクリエーターの作品だからこそ当社で展開する意味と価値があり、他社には模倣し難いはず」「小田急グループ内の企業が連携することで新たなシナジーが生まれ、未来に向け新たな商業を構築していく上での大きな一歩になるのではないか」と思いました。そこで、帰属クリエーターと当ショップでコラボレーションしたいと当社から提案したのです。昨年の秋頃のことでした。

両社のビジョンが一致することから、すぐさま協業が決定。新進クリエーターの斬新なアイデアでショップを活性化することができるのはもちろん、コロナの影響でイベントやワークショップが中止となっていることを背景に、販路を求めているクリエーターの皆さんのお手伝いができる。素晴らしい関係を築きながら、小田急沿線の価値向上にも寄与できる。そう考えて、2021年春の売場展開スタートに向けてプロジェクトが始動しました。

■予想以上の反響に驚き。募集人数の10倍以上の応募が！

当初は、「Odakyu Creative Alliance（OCA）」にすでに登録しているクリエーターとのコラボレーションを計画していました。ところが、一口に「クリエーター」といってもジャンルは幅広く、デザイナーやカメラマン、ライターなど、作品販売でコラボレーションできそうなクリエーターの登録は、そう多くありませんでした。そこで、2020年12月、当社でアクセサリーや衣料品、雑貨を販売することを目指すクリエーターを募集するところから始めることにしたのです。

＜募集ポスター＞

募集を始めたときは、「クリエタリエ」「ベッピンデコ」「小田急百貨店あつぎ」の計3か所で合計11組ほどのクリエーターを採用して、それぞれ3週間程度コーナー展開をしていただく予定でした。どのくらいの方が関心を寄せてくださるか。どんな作品が集まるのか…。小田急線の中吊り広告やSNSでの告知をスタートさせた当初は、応募数がなかなか伸びずに毎日ハラハラしていました…（笑）

ところが、情報がじわり広がり、1か月後の〆切では、なんと141組から応募いただいたのです！

■クリエーターの想いを伝えるのが我々の使命

驚いたのは、応募作品のクオリティの高さでした。どの作品も個性豊かで魅力的。甲乙つけがたく悩みながらも、こだわりや技術を表現している、背景に物語がある、伝統的な技法を現代の感性やライフスタイルとミックスさせているなどをポイントに選考。応募者との面談を進めていきました。その結果、当初の予定を大幅に変更し、最終的には42組を採用することとなりました。

採用クリエーターは、子育てをしながら夢を追い掛けている方や、ミュージシャンとクリエーターを両立している方など、ユニークな経歴を持つ方ばかり。それぞれのものづくりの姿勢や作品への想いを肌で感じ、そんな強い想いの詰まった商品をお客さまに届けることこそが我々小売の使命であり原点であると感じました。そうすることで、クリエーターの成長を後押しし、結果として我々の成長にも繋がる。そんな将来像が描けたのです。彼らから小田急線への愛着がひしひしと伝わってきたのも非常に印象的でした。

クリエーター本人からは、「百貨店で販売できるなんて嬉しい」「ハンドメイド商品の販売サイトに出品しても、掲載商品が多すぎて本人ですら自分の商品が見つけられない」「価格や商品バリエーションなど、百貨店スタッフの皆さんに指摘していただけたことで世界観が広がった」という声が聞かれました。この取り組みの重要性を再認識した瞬間でした。

この取り組みを通じて採用されたクリエーターのブランドラインナップを「OCA Creator’s Collection」と名付け、本年4月から、クリエタリエ、ベッピンデコ、小田急百貨店あつぎにおいて、ブランドを入れ替えながらコーナー展開を開始。ショップスタッフが、それぞれのクリエーターの想いを代弁するつもりで接客にあたっています。

＜クリエーターの個性豊かな作品の数々＞

■リアル店舗の存在価値とは

これまでも、外部の商業施設に出店したことはありましたが、新たな試みとして6月に、ベッピンデコの既存ブランドのクリエーターに加えて「OCA」のクリエーターの皆さんと共に藤沢の「ODAKYU湘南GATE」に期間限定出店し、週末に各ブランドのオーダー会を実施しました。

＜「ODAKYU湘南GATE」期間限定出店の様子＞

この出店は連日好評をいただき、我々小型店担当メンバーも大きな手ごたえを感じました。クリエーター本人も店頭に立って自ら接客することで、お客さまと直接的なコミュニケーションを図れることはもちろん、スマートフォンやPCの画面越しには伝えられない色や質感などに触れて確かめていただいたり、限定品などとの思いがけない出会いや気分が高揚するような新しい発見をご提供したり。そんな店頭では当たり前のやり取りを磨き上げ、将来的にはクリエーター達とスタッフ、そしてお客さまとが有機的に交じり合い、「いつ訪れても、誰が対応しても、スタッフがお客さま一人ひとりを深く理解し、心地よく過ごせる “家” のような存在」になることを目指しています。これこそがまさにリアル店舗の存在価値だと思います。

■今後は、新たなコンセプトショップ作りや外部出店を目指します！

今後も、このような店外イベントを活用し、お客さまとの接点を増やす取り組みをクリエーターの皆さんとともに計画･実施していく予定です。

将来的には、小型店の未来型ビジネス創造の一環として、このクリエーター、小田急百貨店、小田急エージェンシー3者の取り組みをベースとした「OCA Creator’s Collection」のコンセプトショップを作り、外部の商業施設への出店を目指します。さらに、リアル店舗ならではのマーケティングデータを出店者へ還元する仕組みなどを構築し、多様な収益獲得策を有した新しいショップづくりにも挑戦していきます！