最高峰の日本酒で、世界中の人々の『心を満たし、人生を彩る』ことをブランドパーパスに掲げる日本酒ブランド「SAKE HUNDRED（サケハンドレッド）」は、2023年8月現在、全8種類の商品をラインナップしています。いずれも細部にまでこだわり尽くした至高の日本酒で、昨年は英仏米をはじめとする海外の日本酒コンペティションで合計20以上の賞を獲得しました。

これらの魅力的な商品は、どのように生み出されているのでしょうか。その開発の過程について、ブランドオーナー・生駒龍史氏に話を聞きました。

“誰が飲んでも美味しい”を目指した百光シリーズ

— SAKE HUNDREDの商品はすべてオリジナルですが、どのようにして生み出されているのでしょうか？

まずは、私たちがお客様にご提供したい価値や社会におけるその商品の存在意義など、抽象的なイメージをまとめるところから始めます。これが、SAKE HUNDREDの商品開発の第一歩にして、実は最も難しいところです。

例えば、SAKE HUNDREDのフラッグシップである『百光（びゃっこう）』のシリーズ。SAKE HUNDREDを体験するお客様が最初に触れる商品として、ブランドの象徴でいなければならない一本です。だからこそ、“誰が飲んでも美味しい日本酒”を目指しました。

また、日本酒産業に光をもたらす存在になることも意識しています。

2018年の創業当時、高価格帯に特化した日本酒ブランドはほとんど存在していませんでした。日本酒の消費量が1973年をピークに1/4にまで下がっている中で、2000年を超える日本酒の長い歴史に革新をもたらし、これからの未来に光を照らすような王道の日本酒を造ろうと考えたんです。

これらのイメージから商品のコンセプトを決めた後、“圧倒的な透明感”や“エレガントな香り”など、味わいの具体化を進めていきます。

— SAKE HUNDREDは自社の酒蔵を持たず、日本各地の酒蔵と共同開発をしています。パートナーとなる酒蔵は、どのように決めているのでしょうか？

自社の酒蔵を持たない理由は、2つあります。

1つ目は、自社の成長だけでなく、日本酒産業、ひいては社会をより良くすることに貢献したいからです。

私たちがすべての商品を自社の酒蔵で製造した場合、ブランドがどれだけ成長しても、その利益は自分たちにしか還元されません。一方で、全国の酒蔵とパートナーシップを結ぶことで、その利益は、酒蔵や酒米農家、そして関係する企業や個人にも還元されます。SAKE HUNDREDが日本酒のラグジュアリー市場を切り拓くことで、日本酒産業はもちろんのこと、それを支える農業をはじめとした一次産業など、日本酒に関係するすべてのサプライチェーンのサステナブルな成長に寄与したい。そんな想いが、ブランドの根底にあります。

2つ目は、日本酒の大きな魅力である「多様性」をお客様にお届けするためです。

日本全国には、さまざまな個性を持つ酒蔵があります。純米大吟醸酒を造るのが得意な酒蔵、スパークリング日本酒の製造に長けた酒蔵、伝統的な生酛造りにこだわる酒蔵など、製法だけを取り上げても、豊かな多様性に満ちあふれています。日本酒の魅力は、ひとつの酒蔵だけで表現できるものではありません。

造る商品のイメージが具体的になってきたら、そのイメージを形にするのに最も適した技術や個性を持つ酒蔵を検討します。

例えば『百光』の場合、「“圧倒的な透明感”を生み出すには高精白（※）の技術が必要だろう」「しかし、磨きすぎると淡白になりがちだから、旨味を上手く引き出せる技術も必要だな」などと考えていくと、いくつかの酒蔵が候補に挙がってくるんです。その酒蔵の商品をいくつも試飲し、酒蔵を絞り込んでいきます。

（※）高精白とは、米の外側の部分を大きく削り精米したもの。『百光』『百光 別誂』は高精白で、精米歩合（精米をして残った部分）は18%。

実際に酒蔵へ声をかけると「まさに私たちが適任だ」と興味を示してくれることもあれば、技術的な観点でご一緒することが難しいと判断されることもあります。

酒蔵との交渉の中では、SAKE HUNDREDの事業に共感してくれる挑戦心や革新性を持っていることなど、想いの面でも合致するかを大事にしています。現在は日本全国7蔵とパートナーシップを結び、共同開発をしています。

高い技術力と豊富な知見を持った商品開発担当が、細部にまでこだわり生み出す味わい

— 実際の酒造りはパートナーの酒蔵がすべて担うのでしょうか？

SAKE HUNDREDには、酒蔵の醸造責任者としての経験を持つ商品開発の担当者が在籍し、使用する酒米や酵母など、酒造りの詳細を酒蔵と一緒に決めています。実際の工程は酒蔵に委ねていますが、ときには具体的なコメントをすることもあります。

例えば、日本酒を搾った後の濾過（ろか）の工程。雑味や色味を除去するための工程ですが、より透明感のある味わいを実現するために、弊社の担当者からパートナー酒蔵に、新しい技術の提案をしました。従来は醸造酒用の濾過素材を使っていましたが、吸着力が高い蒸留酒用の素材を試してみたところ、より良い効果がみられたのです。それは一般のお客様が感じられるほどの大きな違いではありませんが、私たちは酒造りの細部にまでこだわり、最高品質の味わいを追求し続けているのです。

このように、専門的な技術を持つ商品開発の担当者が、酒蔵と共通言語を持ってディスカッションできる点が、SAKE HUNDREDの強みです。原料・製法・設備など、酒蔵と同じ目線で議論ができるからこそ、最高の酒質を実現することができます。

試作品ができると、本当にどきどきします。コンセプトの設計や味わいのイメージには絶対の自信がありますが、それを形にすることの難しさも知っているからこそ、試飲の前日は緊張で眠れません。試飲をして酒蔵にフィードバックをすることで、理想の形に近づけていきます。

この時、大事にしているのが「香りや味わいの最終決定を、私ひとりで決めること」です。お客様の要望に合わせるのではなく、ブランドオーナーである私自身が絶対の自信を持ち、たった1人の感性を研ぎ澄ませて追求するからこそ、SAKE HUNDREDの唯一無二の味わいをつくりあげることができるのです。

— ひとつの商品が完成するまでに、どれくらいの期間を要するのでしょうか？

商品によってさまざまです。創業と同時にリリースした『百光』は、以前からコンセプトをイメージしていたので、約1年と早かったです。『百光 別誂』は、私自身が2年間をかけて『百光』と向き合い思考し、2020年8月のリブランディングとともにリリースしました。

3〜4年と長く時間をかけて開発するものもあります。試験醸造まで進んだものの、イメージした味わいに至らずに頓挫してしまったこともありました。常にいくつものアイディアを持ち、産業の最新情報をキャッチアップしながら、中長期的な視点で検討しています。

最高峰の日本酒のみをつくるというのは、とても高いハードルです。短期間に何十種類もできるものではありません。これからも、お客様に最高の体験を届けられる商品のみを少数精鋭でラインナップしていきます。

最高の状態でお楽しみいただくための責任

— SAKE HUNDREDのすべての商品には、保管方法や推奨飲用期間が記載されているケアガイドが同梱されていますね。

最高の品質を維持することは、お客様の体験にダイレクトに紐づく重要なポイントです。最高の状態でSAKE HUNDREDを楽しんでいただけるように、同梱したケアガイドやブランドサイトで、ベストな保管環境などを丁寧にお伝えしています。

しかし、冷蔵保管をご案内していても、「誤って常温で保管してしまったが、大丈夫だろうか」などのご質問をいただくことがあります。そんなお客様の不安も拭えるように、常温保管でもどれくらいの期間であれば影響がないのか、温度別に味わいや香りがどう変化するのかなど、さまざまなシチュエーションを実際に検証してお伝えしています。

日本酒には消費期限はありませんが、温度・時間という2つの変数により、状態は変化していきます。この変化を、熟成として美しく辿った一例が『現外（げんがい）』です。

『百光 別誂』は、白桃や洋梨、百合の花、パイナップルのニュアンスを感じる華やかな香りが特徴で、すっきりとした透明感のあるバランスの良い味わいですが、14℃のワインセラーで1年ほど寝かせると、香りが少し落ち着き、苺のようなニュアンスとクリーミーさが現れます。『百光 別誂』を最高の状態でお楽しみいただくためには、5℃前後で冷蔵していただくのがベストですが、あえて変化を楽しむのも魅力の1つです。

以前、離島にお住まいのお客様からご注文の相談がありました。離島へのお届けはクール便が対応していないため、約1週間ほど、夏場には35℃を超える高い温度にさらされます。この状態でお届けした場合の影響を見定めるために、強制劣化試験を行いました。強制劣化試験とは、インキュベーターという一定の温度を保つことができる機械を用いて、高温下に日本酒を保管した状態をつくりだす検証方法です。その後、三点識別法という官能評価で日本酒への影響を計測しました。検証の結果、商品の品質懸念があり、一部地域のお客様には配送をご案内しないこととなりました。

こういった検証は、お取り扱いいただく店舗での保管・陳列の基準を決めるためにも行います。SAKE HUNDREDの商品は、百貨店や免税店にも多く卸していますが、すべての店舗に冷蔵保管の設備があるとは限りません。『百光』や『百光 別誂』は常温下では品質が変化してしまうので、冷蔵保管の設備がある店舗のみで販売しています。

『白奏（はくそう）』や『天彩（あまいろ）』は検証の結果、一時的であれば常温下でも品質の差異がみられなかったため、常温保管の環境しかない店舗でもお求めいただけます。多くのお客様にお届けするには、幅広い店舗での取り扱いが必要ですが、SAKE HUNDREDの本来の体験が損なわれることがあってはなりません。お客様ご自身で意図して熟成を楽しまれるのは素晴らしいことですが、手に取っていただくまでは、ブランドの責任において、最高の状態でお届けできるように努力しています。

— 商品づくりだけでなく、商品の保管も徹底しているんですね。

品質へのこだわりは、倉庫での保管や発送の作業においても徹底しています。

2023年4月に、新しい倉庫を新設しました。マイナス5℃の保管倉庫で、これは非常に珍しい環境です。倉庫側と交渉し、品質最優先で独自の温度帯の設備を導入してもらいました。酒蔵から保管倉庫への輸送ももちろんマイナス5℃。梱包作業も7℃以下の環境で行い、お客様のもとへクール便で届けます（※）。特に冷蔵環境下での梱包作業は倉庫側にも負担をかけますが、ブランドのフィロソフィーやお客様へお届けしたい価値を共有し、相互に信頼関係を築くことで、同じ目線で強力なパートナーシップを結ぶことができています。

（※）一部商品の特性により、常温保管・常温配送しているものもあります。

光のオーラをまとう『百光』、穏やかな美しさの『百光 別誂』

— ブランドサイトを見ると、商品名やクリエイティブなど、一貫したイメージがあります。どのように決めているんですか？

商品名は、それぞれの日本酒に込めた想いを表現しています。時には100以上のアイディアを出して検討しています。『百光』と『百光 別誂』には、「100年先まで光照らすように」という想いを込め、 新たな挑戦や人生の祝福など、特別な瞬間にふさわしい“未来への光”を表現しました。

キービジュアル（商品を一番に表現する画像）は、商品のコンセプトを視覚的にご理解いただけるように表現しています。例えば、同じ『百光』のシリーズでも、それぞれの商品がもたらす体験は異なります。

『百光』は、日本酒としてのひとつの完成形です。付け入る隙がない、孤高の存在。親しみというよりは憧れに近い感情を抱く、圧倒的な存在感があります。飲んでいただくシーンは、特別な瞬間の乾杯や、日本酒そのものを愉しみたい時。圧倒的な透明感と完璧なバランスを持っているため、料理と交わることに対してのみ、改善の余地がありました。どんなに優れたお酒でも、料理と合わせることで変化するイメージが湧くものですが、百光は他者の入る隙のない孤高の存在であり、料理と合わせることすら野暮に感じてしまうお酒だったのです。

そこで、食中酒としてのポテンシャルを高めたのが『百光 別誂』です。原料米と酵母の比率を変えて、香りと酸味をコントロールすることで、お食事のシーンで花開くように設計しました。

まぶしい光のオーラをまとう『百光』に対し、『百光 別誂』は穏やかでいながら洗練された美しさや、懐に入る柔らかさを持ち合わせています。

— これから、どんな日本酒を造っていきたいと考えていますか？

SAKE HUNDREDが常に目指しているのは「SAKE HUNDREDを口にしたすべての人が感動できる美味しさ」です。

例えば、日本酒に馴染みがない初心者の方々にだけ気に入ってもらいたいのであれば、アルコール度数が低く、飲みやすい商品をつくれば良いでしょう。しかし、そうした日本酒は飲み飽きしやすかったり、料理と合わせるには物足りなかったりするかもしれません。

また、日本酒に詳しい玄人の方々からの評価を狙い、通好みの複雑な醸造方法を用いれば、専門的な視点で既存商品との違いを表現したものをつくることもできるでしょう。ただそれは、ビギナーの方にとっては、近寄りがたいほどに難解なものになってしまいます。

日本酒に慣れていない方が飲んでも、日本酒のプロフェッショナルが飲んでも、思わず笑顔がこぼれるようなわかりやすさと奥深さを両立させることが、SAKE HUNDREDの目指す「美味しさ」です。

これからも日々の研鑽を怠らず、SAKE HUNDREDを飲んだすべてのお客様が笑顔になるような、素晴らしい日本酒を提供できるよう励んでいきます。