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【後編】テレ東BIZ編集長・小林史憲氏が考える広報PRの役割と期待。企業の「問い」をメディア、その先の社会へ

【後編】テレ東BIZ編集長・小林史憲氏が考える広報PRの役割と期待。企業の「問い」をメディア、その先の社会へ

プレスリリースの可能性拡大に貢献した企業と担当者を讃える「プレスリリースアワード」で2023年より3年連続で審査員を務める、小林史憲さん(テレビ東京 報道局『テレ東BIZ』編集長)へのインタビュー企画。

「Best101に選出されたプレスリリースの改善点」を解説いただいた前編に続き、本記事では「『読まれる』プレスリリース執筆のポイント」をお届けします。

前編:【前編】審査員・小林史憲氏が徹底解説。プレスリリースアワード2025「Best101」の改善例と受賞につなげるポイント

テレビ東京 報道局「テレ東BIZ」編集長

小林 史憲(Kobayashi Fuminori)

立教大学法学部卒業。1998年テレビ東京入社。「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」のディレクター、プロデューサー、北京支局特派員などを歴任。2024年4月からテレ東の経済メディア「テレ東BIZ」編集長。学生時代はバックパッカーで世界を放浪。趣味はキャンプ。BBQインストラクター中級。ほめる達人検定2級。著書に「テレビに映る中国の97%は嘘である」(講談社+α新書)、「騒乱、混乱、波乱!ありえない中国」(集英社新書)

取材者の視点で社内の価値を発掘し、発信する

──小林さんは仕事柄、プレスリリースから情報収集されることも多いと思いますが、「取材したくなるプレスリリース」にはどのような要素が必要だと感じますか。

私に限らず、メディアの人が大切にしているのは、自分たちの読者や視聴者にとって「価値のある情報かどうか」だと思います。メディアによって読者や視聴者のニーズは異なりますから、それぞれのニーズにあう、価値のある情報かどうか。その前提の上で、伝える意義があると感じられるプレスリリースかどうか、ということになります。

一方で、読者や視聴者は宣伝色の強いものを好みません。それは私たちメディアも同じで、記事の本文で企業のPRや宣伝に加担することはできない、という前提があります。新聞や雑誌、テレビも本編と広告欄やCMを区別していますよね。取材した内容が結果として宣伝につながることはあっても、宣伝そのものを目的にしているわけではない。そのため、見出しだけで宣伝色が強かったり、自社目線で一方的に伝えていたりするプレスリリースは、ついスキップしてしまいます。

だからこそ「伝え方」がとても重要で、単に情報を並べるのではなく、「世の中の人が何に関心をもつのか」「どうすれば関心を持ってもらえるのか」という客観的な視点が必要です。それはプレスリリースだけでなくメディアにも通じる部分で、私たちも日々試行錯誤しながら、時代に合わせてブラッシュアップしています。

審査で見えた「読まれる」プレスリリースの条件

──今回の「プレスリリースアワード2025」は、4573件という過去最多の応募数がありました。審査を通して小林さんが感じた「読まれる」プレスリリース、「メディアに刺さる」プレスリリースに共通していたポイントを教えてください。

1.タイトル:本文の価値や魅力を凝縮する

私たちメディアは、新聞・雑誌・テレビ・YouTubeでも、タイトルを考えるのに最大限の時間とエネルギーをかけています。本文や本編の内容がどんなに素晴らしくても、見てもらえなければ始まらないからです。それと同じで、プレスリリースもやはりタイトルが勝負だと思います。テレビのニュース番組には、1日あたり数百本のプレスリリースが届きます。その中からニュースになりそうなものを拾い上げるわけです。送られてきたプレスリリースすべてに目を通す時間はないので、まずはタイトルで取捨選択をするのが実情なんです。

もちろん「プレスリリースアワード」の審査員としては、タイトルだけでなく中身もしっかり目を通します。それでもやはり一番気になったのは、タイトルにどれだけキャッチーな言葉やニュース性が盛り込まれているかという部分ですね。応募されたプレスリリース全体のレベルは上がっているとお伝えしましたが、正直なところ、タイトルはまだまだ工夫の余地があるものが多かった印象です。本文には熱量があり、読み進めると素敵なストーリーが広がっているのに、「このタイトルで読みたいと思うだろうか」「もう少し練ってもよかったのに」と感じたものも少なくありません。忙しい読み手にとって、びっしりと文字が詰まった本文を開くのは心理的なハードルが高い。だからこそ、最初の入り口であるタイトルが重要です。

また、タイトルに社名を入れている企業も多く見られますが、これも一考する必要があると思います。例えば、誰もが知っている企業なら、「あの会社が新しいことを始めるんだ」と興味を持ってもらえるかもしれません。しかし、知名度の高くない企業の場合、「こんな新しい商品が生まれます」「こんな画期的なサービスが始まります」などと、社名よりも内容を打ち出した方が効果的でしょう。タイトルでは、商品やサービスのニュース性ある内容で興味を惹き、本文の中で企業について説明する。そのほうが読み手に伝わりやすくなるのではないでしょうか。

2.リード文:プレスリリースの内容がひと目でわかるように

リード文では、プレスリリースの内容を簡潔に伝えることが大切です。「新聞や雑誌を参考にする」のがよいと思います。例えば、新聞の一面。右上にトップニュースのタイトルが大きく書かれ、その横に数行のリード文があります。リード文を読めばトップニュースのおおまかな内容が理解できる。「なるほど、そういうことか」と受け止めたうえで、興味を持ち、もっと詳しく知りたい人が本文を読んでいきます。

だからこそ、「このプレスリリースで何を伝えたいのか」を、タイトルの次の数行でコンパクトかつ明確に伝えることが重要です。このリードがタイトルとほぼ同じだったり、企業の紹介だったり、抽象的な言葉の羅列だったりするプレスリリースが散見されます。タイトルの次に目立つ位置なので、効果的に情報を伝えられていないのはもったいないなと感じます。

3.本文:コンパクトにまとめて「問い合わせ」につなげる

プレスリリースは、コンパクトであることが「問い合わせ」につながる重要な要素のひとつです。一度書いたものをもう一度見直して、不要な言葉や要素を削っていく。その作業がとても大切だと思います。

プレスリリースは小説ではないので、「読み物として完結する」ことよりも「興味を持ってもらい、取材や問い合わせにつなげる」ことを目的に置いた方がよいでしょう。そのため、プレスリリースには必要な情報がコンパクトにわかりやすくまとまっていることが大事だと思います。詳しい話や細かい点は取材の際に聞けますし、そもそもそれが私たちメディアの仕事でもあります。「詳しくはお問い合わせください」でも、興味を持てる内容が伝わっていればよいと思いますね。表現はよくないかもしれませんが、「プレスリリースという餌をまいて、メディアという魚が飛びつくのを待つ」という感じでしょうか。

4.画像・動画:闇雲に盛り込まない

「読み手の負担を減らす工夫」があるかどうかでも印象が大きく変わります。新聞や雑誌を見てもわかるように、ページに写真やイラスト、図版が入っているだけで、全体が読みやすく感じられ、記事としての印象も残りやすいですよね。他にも、箇条書きや囲み、色付きのボックスなど、プレスリリースでも表現に工夫ができるのではないでしょうか。

また、最近はプレスリリースに動画を載せる企業も増えていますが、動画が必須かというとそうではありません。動画を開いて再生するのは手間がかかるので、闇雲に載せてしまうと、見る側の時間を奪うだけで逆効果になる可能性があります。動画を載せた方が伝わりやすいかどうかは、プレスリリースの内容次第です。審査をしていて、長い動画ではなく5秒ほどのGIFを活用したプレスリリースがあったのですが、短時間で内容がわかり、商品の魅力が直感的に伝わってきたので印象的でした。

もちろん、動画が効果的なケースもあります。例えば、今回受賞した能登の震災に関するプレスリリースです。これは「映像公開」自体を伝えるリリースなので、動画を載せるのは当然と思うかもしれません。それでも、伝えたい内容がクオリティの高い動画でしっかり表現されていたこと、またプレスリリース本文の構成やテキスト情報との相乗効果を出せたことで、非常に心が動かされるものでした。いずれにしても、テキストや写真だけでは伝わらない情報かどうか。動画を載せた方がより興味を持ってもらえるかどうか、という視点が重要だと思います。

参考:能登半島地震1年を越えて 復興へ歩む姿を映す 映像公開 株式会社スギヨ

写真についても同じで、たくさん載せることがマストではないと思います。大切なのは、その写真が効果的に内容を伝えているかどうか。多すぎるとインパクトが薄れますし、ページ数も増えて読みづらくなってしまいます。枚数は少なくても、「ここに取材に行くと、こういう映像が撮れそうだな」とイメージできる写真が載っていると参考になりますね。

過不足ない情報を提示したうえで、あとは「詳しくはお問い合わせください」と余白を残す。取材や問い合わせがあれば、より詳しい説明をしたり、追加で写真や映像を送ったりする。そうしてメディアと個別のやりとりにつながっていくのが理想だと思います。

5.追加要素:プラスアルファの取材で立体感のあるプレスリリースに

プレスリリースを書く際には、「プラスアルファの取材」をすることも検討してみてください。社内の関連部署からもらった情報だけでプレスリリースを書くのではなく、広報PR担当者の視点で以下のような問いを立ててみるとよいかもしれません。

  • 今、世の中で起きているニュースとどう関係するのか
  • この新商品は、どんな場面で役に立つのか
  • どんな社会課題を解決できるのか
  • このサービスによって、どんな人が助かるのか
  • 業界全体の流れの中で、この商品はどんな位置づけなのか

このような視点を持って、一段深く取材をして背景を書き加えるだけで、プレスリリースに膨らみや立体感が出てくるでしょう。取材は大がかりなものである必要はありません。社内の担当部署、地元の人、同じ業界の人、役所の関連部門などに連絡をして話を聞き、コメントを数行書き足すだけでもプレスリリースの印象は大きく変わるはずです。プラスアルファの取材があることで、プレスリリースは単なる情報発信ではなく伝わるコンテンツになっていく。その積み重ねが、読まれて取材につながるプレスリリースを生むのだと思います。

企業の「問い」を社会に届けるプレスリリース

──最後に、プレスリリースの役割も変化する中で、広報PRはどのような意識を持って情報発信に向き合うとよいでしょうか。

広報PRに携わる方の中には、プレスリリースで情報発信はしているものの、実はその役割や重要性を明確に理解できていない方も多いように感じます。私たちメディアは、企業が配信するプレスリリースを見て、「これは自分たちの媒体に合うな」と感じたら記事に仕上げ、読者や視聴者に届けます。その際、私たちが追加の取材をしたり、編集を加えたとしても、世の中に届く情報のベースはプレスリリースです。

特に今は、メディアに取材されなくても、PR TIMESをはじめオウンドメディアやSNSなどを通じて、プレスリリースそのものを直接生活者に届けられるようになりました。インターネット検索の結果にもプレスリリースが表示される現代においては、「プレスリリース自体がひとつのメディア」だと言っても過言ではないと思います。

つまり、広報PRの仕事は私たちメディアの記者や編集者と同じだということです。例えば、単に新商品発売の案内を出すだけなら、「新しいカメラを発売します。価格はいくらです。新機能はこれです」で終わってしまいます。でも、「このカメラの何がすごいのか」「なぜこの機能を付けたのか」「世の中でこのカメラがどう役立つのか」という視点を持って、社内の各部署や業界内を取材したり、世の中のトレンドやニュースを調べたりして書くことで、単なるPRが「普遍的な価値」を持つ情報に変わり、プレスリリース自体がひとつのメディアとして機能していくはずです。

また、プレスリリースは自社の答えを発表する場ではなく、自社の取り組みを通じて「私たちの会社は、これでよいのでしょうか?」とメディアや世の中に「問いかける」コミュニケーションの第一歩にもなりえます。その「問い」の質が高ければ高いほど、私たちメディアはニュースとして取り上げたくなります

来年のプレスリリースアワードでも、皆さんの「最高の問い」に出会えることを楽しみにしています。

まとめ:プレスリリースの先にあるのは「社会との対話」

今年、5回目を迎えた「プレスリリースアワード」。回を重ねるたびに応募数は増え、切り口や表現もより豊かになり、プレスリリースという手法の可能性が確実に広がっていることを実感させられます。

情報を届ける手段が多様化した今、広報PRが担う役割は単なる情報発信にとどまらず、より大きく奥行きのあるものへと変化しています。その中で、小林さんの言葉から浮かび上がるのは、プレスリリースが単なる告知文ではなく、企業の「問い」を社会に投げかけ、対話を生み出すメディアになり得るという事実です。

タイトルやリード文の設計をはじめ、コンパクトな情報整理やプラスアルファの取材による立体感など、一つひとつの積み重ねが、問いを強くし、伝わる力を高める。派手さやわかりやすい感動がなくても、事業や社会に向き合いながら問いを立て続けた先には、取材につながるプレスリリースが生まれていくという可能性を強く感じられるお話でした。

本記事が、日々の広報PR活動を振り返り、次に配信するプレスリリース一本を「もう少し磨いてみよう」という行動につながれば幸いです。

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この記事のライター

PR TIMES MAGAZINE執筆担当

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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