本稿は、“広報の力で企業競争力をアップする”広報コンサルティング会社・LEAPFROG(リープフロッグ)代表を務める松田 純子(まつだ・じゅんこ)氏による寄稿です。
一般的に広報活動はBtoCよりもBtoBの方が難しいと言われます。BtoB企業の場合、情報を伝えたい相手(顧客になり得る一定領域の企業)の数が少なく、その領域の情報を扱うメディアの数が限られることも理由の一つです。なかでも、まだ知名度が低いスタートアップや中小企業の場合、プレスリリースだけでメディアに会社や商品の価値に気づいてもらうことは至難の業と言えるかもしれません。
今回は、そんなBtoB企業がプレスリリースを使って自社の取り組みや商品・サービスの価値をメディアに正しく伝え、記事として取り上げてもらうためのヒントをお伝えします。
BtoB企業のプレスリリースが記事になりにくい2つの理由
スタートアップなどまだ知名度の低いBtoB企業が、自社のビジネス情報(事業の動き、商品・サービスのローンチなど)をメディアに取り上げてもらうことは簡単なことではありません。多くの企業では「調査(市場の動向)」や「導入実績(顧客企業の動向)」など、さまざまな角度から情報発信を行い、自社の情報がさまざまな場面で取り上げられるように工夫しています。
※参考:「BtoBのプレスリリース事例10選【作成時の5つのポイント】」
しかし、そもそもBtoB企業のビジネス情報が記事になりにくいのはどうしてなのでしょうか? その理由は、主に2つ挙げられます。
1)ターゲットとなるメディアの数が少ない
ニッチなビジネスの場合、その領域を取材しているメディア(専門メディア)自体が少ないことがあります。メディアの数が少ないと、必然的に情報を扱ってもらえる可能性も下がります。
また、言うまでもなく、BtoB企業の重要なターゲットメディアある大手経済メディアは、大企業を中心に各業界のさまざまな情報を扱っており競争が激しい状態です。
2)商品・サービスの価値を伝える難易度が高い
メディアがプレスリリースの情報を記事にするのは、その情報が「読者にとって有益な情報」だからです。その意味では、各メディアの読者にとって、この情報がいかに重要かを記者や編集者の方に“プレゼンするための文書”がプレスリリースです。
限られたページ数の中で、同領域に造詣が深い、あるいは反対にあまり知らない記者、編集者の方に「社会・市場の動きや複雑なビジネス構造を分かりやすく説明し、そのなかで今回の商品・サービスにどんな価値があるのか」、「なぜ『今』この情報なのか」を伝えて“説得”する必要があります。この説得に失敗すると記事にはなりません。
これは自社の事業はもちろん競合企業や市場や社会全体の動きを把握していないと書くことができず、プレスリリース作成に慣れていない新人広報の方などには難易度が高い作業となります。
BtoB企業がプレスリリースに盛り込むべき2大要素
では、具体的にどんなプレスリリースを書くことで、BtoB企業はメディアに自社の取り組みや商品・サービスの価値を理解してもらいやすくなるのでしょうか?
先程も書いた通り、メディアが求めるのはメディアの「読者にとって有益な」情報です。これがどういった情報なのかは、さまざまな答えがあるはずです。筆者はこれを「読者の仕事や生活に影響を与える情報」と捉えています。つまり、プレスリリースの情報が、“いかに読者の仕事や生活に影響を与えるか”、“どんな影響を与えるか”をプレゼンすることでメディアに注目してもらいやすく(⚹)なります。
(⚹)前提として、メディアが扱うテーマ(国内外の社会情勢なのか、特定領域の技術の話題なのか、など)によって、求められる情報の種類は変わります。
上記を踏まえ、BtoB企業が自社の取り組みや自社のビジネス(商品・サービスなど)についてプレスリリースを発信する際、必ず盛り込むべき2つの要素は「背景」と「影響」です。
この商品は、「どのような顧客ニーズ、あるいは市場や社会課題を背景に開発されたのか?」、この商品が出ることによって「自社や顧客、市場、社会はどう変わるのか?」。その影響が大きければ、大きいほど注目される可能性が高まります。
それは、社会の動き(トレンド)と自社の動きがいかにリンクしているのかということであり、まとめると以下のような情報です。
商品・サービスなどの価値を理解してもらうために「背景」と「影響」を説明する
- なぜ今この商品を開発したのか(課題があったのか? ニーズがあったのか? など)
- この商品によって自社のビジネスはどう変化するのか
- 顧客のビジネスにどんな影響を与えるのか
- 市場にどんな影響を与えるのか
- 社会にどんな影響を与えるのか
「記事にならなかったプレスリリース」に最も多いパターン
逆に、記事にならなかったプレスリリースを見ると、上記2つの要素がいかに重要かよく分かります。筆者は企業の広報部門立ち上げ支援や広報人材育成を行う広報コンサルタントとして、さまざまな企業のプレスリリースを見る機会があります。
筆者が見た、記事化されなかったプレスリリースで最も多いパターンは、「自社が言いたいことを一方的に伝えている」プレスリリースです。
例えば、以下のようなことが書かれているプレスリリースです。
- 商品名など「商品の概要」
- 使い方や使用による効果など「商品・サービスの機能説明」
- 発売日、値段、対象顧客など「販売情報」
- 問い合わせ先 など
これはいわゆる「商品・サービスの営業資料」です。すでに該当する商品・サービスを探している顧客や潜在顧客向けの情報と言えます。広告向きの情報で、商品情報だけを元にメディアが記事で特定企業の商品宣伝をすることは考えにくいでしょう。
メディアに注目されるプレスリリースを書くための3ステップ
ここからは、メディアに注目され、掲載する価値を感じてもらえるプレスリリースを書くための3ステップをご紹介します。
1)プレスリリース配信の目的とゴールを整理
これはあらゆる広報活動に共通ですが、まずは活動の目的とゴールを整理します。プレスリリース配信の最終目的は記事化されることではありません。企業は、自社を取り巻くステークホルダーに適切な情報発信を行いながら、例えば、「顧客や社会から○○な会社だと理解される」という最終的な目標達成を目指しています。
各社の最終目標(KGI)とそれを達成するための中間目標(KPI、記事化など)を踏まえ、目的に合わせて「どんな読者」が読んでいる、「どんなメディア」に、「どんな形で取り上げてもらうことを目指すか」を整理します。
2)プレスリリースの訴求ポイントを決める
1)で設定した目的にあわせて、プレスリリースの記載内容、訴求ポイントを考えます。
本文の主要な構成要素
- どんな商品・サービスなのか
- なぜローンチするのか(背景)
- 顧客や市場や社会はどう変わるのか(影響)
例)
「新サービスAローンチ」のプレスリリースで、発信のゴール(KPI)が「経済メディア、業界専門メディアなどに取り上げられることで、サービスAが○○業界の○○課題を解決し、顧客の売上向上や働き方改革につながる有力な新サービスであることを潜在顧客に伝える」
「どんなサービスなのか」例
- ○○業界特有の大量の手作業をシステム化する、○○業務支援クラウドサービス
「サービスローンチの背景」例
- ○○業界には○○業務に関する課題を抱える企業が多数存在する
- 現状、○○課題を支援するサービスがなく新市場が形成できる
- 自社の既存サービスの技術を応用することで新サービス開発に成功 など
「影響」例
①社会、市場
- ○○業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)の先進事例となる
- ○○業界の働き方改革につながる
- クラウドサービスの活用で○○業界企業の従業員の新型コロナ感染対策になる
- サービス活用で業務の精度が上がり顧客企業の売上向上が期待できる
②自社
- 年間に○社へ導入予定で自社の売上が○%向上する見込み
- 今後、同様に○○業界へも事業領域を拡大する予定
例えば、社会の動き(トレンド)である「DX」や「働き方改革」、「感染症対策」と新サービスがどのように関係するのか、業界の課題とどう関係するのか、それらにどんな影響を与えるのか、あるいはこの新サービスは自社の今後のビジネスにどう影響するのか、などをプレスリリースで説明します。
3)メディアが記事を書く際に必要な情報を網羅する
ストレートニュース(速報ニュース)の場合、プレスリリースだけを参考に記事を書くWebメディアも少なくありません。メディアが記事を書く際に絶対に必要となる情報を忘れずに記載します。
商品ローンチの場合の必要情報・例 (=商品に興味がある読者が絶対知りたい情報)
- 商品の画像
- 商品の概要(商品名、仕様、値段など)
- いつ販売開始か?
- 対象顧客は?
- どんな効果があるのか、どんな注意点があるのか
- 問い合わせ先
- 商品紹介ページのリンク
さまざまな種類のプレスリリースにおける必要な記載要素、書き方のコツについては下記の記事などを参考にしてみてください。
プレスリリースの書き方の参考
「【BtoB企業向け】プレスリリースの書き方5つのポイント」
「【現役広報が教える】プレスリリースの書き方10のコツ・基本の5構成」
参考になるBtoB企業のプレスリリース例
株式会社スタディスト
ウィズコロナ時代に、チェーンストアにおける販売促進施策を革新!小売業向け「売上が上がる」 クラウドサービス「Hansoku Cloud」を11月24日より提供開始! (2020年11月18日)
業務の「作業手順」を分かりやすく従業員に伝えるクラウドサービス「Teachme Biz」を展開するスタディストが、ドラッグストアなどのチェーンストア向けに販促施策の管理用クラウドサービスをローンチした時のプレスリリースです。チェーンストアの多くでは、これまでスーパーバイザーと呼ばれる担当者が膨大な数の店舗を回り、紙の資料を使って商品の説明や商品の並べ方などを従業員に直接指導していました。本サービスによって、それらの作業がオンライン化されました。(詳細はプレスリリースをご覧ください)
このプレスリリースの訴求ポイントは以下の点です。
- ウィズコロナ時代に合ったサービス(非対面、非接触)である
- チェーンストアを展開する小売業界共通の課題を解決する新しいサービスである
- (業界ですでに認知されている)「Teachme Biz」で培ったノウハウを生かした新サービスである
どんなサービスなのか?に加えて、サービス開発の「背景」とサービスによって業界や顧客、自社にどんな「影響」があるのかをしっかりと伝えています。
特に、このプレスリリースの説得力を高めているのが、見込まれる導入効果についての定量的な表現です。
- 実証実験の結果、(1店舗当たりの)販売点数が平均27.7%増加 など
カラクリ株式会社
ECサイト利用者の70%以上が該当するサイレントカスタマーの行動予測サービス「KARAKURI rescue」を提供開始 (2021年3月22日)
疑問や不満を抱いても問い合わせをせずにECサイトでの買い物を諦めてしまう「サイレントカスタマー」の行動を予測し、サイトからの離脱を防止するサービスのプレスリリースです。(詳細はプレスリリースをご覧ください)
このプレスリリースの訴求ポイントは以下の点です。
- コロナ禍で小売業にとってECサイトの重要性が増すなか、ECサイトでは7割もの顧客が利用方法に戸惑いながら何も言わずに離脱している。離脱の要因となる疑問・不安を解消するサービスである
- EC利用時の疑問・不安を解消することで、苦戦する小売業のECサイトの売上増を支援する
先程と同じく、このプレスリリースの説得力を高めているのもサービスの有効性を示す定量的な説明です。
- 70%以上の顧客が「サイレントカスタマー」
- 29.2%の顧客は競合サイトで購入している
上記2本のプレスリリースは、大手経済新聞をはじめさまざまな経済メディア、IT、小売などの業界メディアに取り上げられています。
プレスリリースに「背景」と「影響」を的確に盛り込むための方法
最後に、「プレスリリースの書き方」からは話がそれますが、「背景」や「影響」などの重要情報を的確にキャッチアップしてプレスリリースに盛り込むための方法について触れたいと思います。
広報担当者の方は、企業トップや部門長から情報をヒアリングしてプレスリリースを書くことが多いと思います。しかし多くの場合、担当者が率先して語ってくれるのは自社の情報(「営業資料」に当たる情報)です。状況に応じて、広報担当者側から「背景」や「影響」に関する情報を引き出すことが必要です。
これには日々の地道な勉強と情報収集がカギとなります。
1)企業トップ、部門トップなどからの情報収集
「背景」や「影響」を広報が語れるようになるためには、自社の事業や商品について理解するだけでなく、自社を取り巻く環境を理解する必要があります。
できれば定期的に企業トップや営業、テクノロジー部門のトップなどとミーティングを行い、自社の動きのヒアリングに加えて、業界や市場における自社の位置づけ、強み、弱み、他社との違い、市場の歴史、将来予測など、さまざまな角度から自社の置かれた立ち位置を確認してみましょう。
2)メディアが求めている情報を知るためにメディアを読む!
メディアが求める情報を知るために、まずは自社にとっての重要メディアを決めてしっかりと読みましょう。「媒体資料」(⚹)も参考になります。
(⚹)媒体資料とは
広告料金などが記載されている媒体の紹介資料で、多くの場合「媒体名+媒体資料」でGoogle検索すると見つけられます。
メディアが「今、報じたい世の中の動き」が把握できれば、自社の動きがそことどう関連しているのか説明することができます。もし記者や編集者と繋がりがあれば、媒体の特徴や今探している情報を定期的にキャッチアップすると有効です。
以上、まだ無名のスタートアップや中小企業を含めてBtoB企業がメディアに注目されるプレスリリースを書くためのヒントをお伝えしました。
この考え方は、プレスリリースの書き方だけではなく、各メディアに自社の情報を取り上げてもらうための売り込みをする際に使えます。「なぜ、今、この情報を取り上げるべきなのか」、トップインタビューや事例紹介などさまざまな角度からメディアに自社を紹介することができます。
本稿をヒントに、ぜひ自社の取り組みや商品・サービスの価値を的確にメディアに“プレゼン”していただければと思います。
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