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変革期の広報基盤づくりとは?守りから再成長に向けた攻めの広報|PR TIMESカレッジVol.6~分科会~

コーポレート・コミュニケーションは、エンゲージメント強化、企業価値向上、ブランド価値向上を目的にした活動。ステークホルダーとのエンゲージメントを強化し、事業価値を実証していくことで企業価値が上がっていく……最終的に個々のステークホルダーの方にパイオニアというブランドがようやく根付く、すごく地味で即効性はない長期的な目線での戦略。

そう語る、同社の広報業務に約10年携わる角谷朗子さん。

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来年で創業85年を迎えるパイオニア株式会社が長い会社の歴史の中で何度か迎えた転換期を広報がどのように支えたのか。

角谷さんの分科会の様子をレポートいたします。

パイオニア株式会社 コーポレートコミュニケーション部 部長

角谷朗子(Akiko Kakutani)

大学卒業後、新卒でパイオニア入社。営業からスタートし、商品マーケティング担当を経て2011年より広報業務に携わる。2度の社長交代、上場廃止、構造改革など多くの転換期を広報担当者として努め、現在は広報とWebの2部門10名をまとめるコーポレートコミュニケーション責任者。

パイオニア株式会社の最新のプレスリリースはこちら:パイオニア株式会社のプレスリリース

変革期の広報基盤づくりとは?

パイオニアにとっての変革期の広報基盤づくりとは、会社が大きな変革を迎えたとき、守りながらも攻める広報。パイオニアが長い歴史の中で、大きな転換期を迎えたときのエピソードとともに解説します。

会社の枕詞を変える「攻めの広報」

事業を展開していく中で、主力事業の軸足を変えるステージを迎える企業もあるでしょう。パイオニアは2000年代当時、プラズマディスプレイ事業に注力していましたが、規模がものをいうテレビ事業において苦戦し、2010年に事業から撤退。その後、広報部門の全員が退職するという事態を迎える中で広報メンバーとして参画したのが角谷さんでした。そして、2014年、創業以来の祖業であったホームオーディオとよばれる家庭用音響機器事業の譲渡を発表。日々の取材攻勢の中、守りながらも攻める広報で当時の会社のイメージを変え、新たなパイオニアのイメージを築いています。

攻めの広報ポイント1:重要な広報テーマをコンテンツ化

まずは、重要な広報テーマをコンテンツ化し良い露出を増やすこと。その中で心がけたのは「展開性と連続性」。重要な広報テーマに対するキーメッセージ、3つの視点を設定。それをベースにひとつのテーマで3つほどのストーリーを作り上げているそうです。

具体的には、「○○事業について、我々はこういう世界を作っていこう」というキーメッセージに対し、例えば「新しい市場の創造」「未来の価値を提案」「ほかにない優れた技術」という3つの視点を、そのときのトレンドとなっているキーワードと組み合わせる。記者の関心事もその時々で異なるので、3つのアプローチごとにストーリーを用意しておくことが攻めの広報、特にメディアの方へのアプローチにつながっています。

また、ストーリーに加えて、業界動向や市場データ、競合や異業種など他社の事例を2つ以上ピックアップしたものをまとめ部内で共有するという運用を取り入れたことで、メンバー誰もが同じレベルでメディアへの対応ができるように。このストーリー作りの手法は、広報部門の大小にかかわらず取り入れられそうです。

攻めの広報ポイント2:効率的な広報活動のためにツールを拡充

次いで、効率的な広報活動のためにツールを拡充すること。広報部門の人手が十分でなかったため、広報活動を効率化するためにTwitterやYouTubeなどの企業公式アカウントを通じて情報拡散手段を増やしたそうです。

PR TIMESの利用をはじめたのは2012年。プレスリリース配信が今ほど多くなかった時代、いかに効率的、かつ効果的に広報PR活動していくかというのがきっかけだったそう。

導入により、広報ネタを提供してもらうのに事業部や役員を巻き込みやすくなったこと、メディアの掲載報告やその結果をフィードバックすることで広報ポジションを上げていくことに随分活用させてもらった、と振り返りました。

攻めの広報ポイント3:メディアリレーションを強化

最後に、メディアリレーションを強化すること。2014~2015年にかけて家庭用音響機器事業とDJ機器を譲渡した際、メディアの方からの問い合わせはひっきりなし。一方でカーエレクトロニクス事業が主力事業となっている中、音響機器メーカーのパイオニアという枕詞を変えなくてはいけないという課題。加えて、予算が縮小する中でどう効率的に広報していくか。ここでいくつもの課題がアイデアにつながります。それは問い合わせ内容に対応しつつ、カーエレクトロニクス事業の広報PR活動につなげるということ。メディアの方からの連絡の機会を活かしたメディアリレーション強化につなげたのです。

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ネガティブな状況にこそ真摯に向き合う「守りの広報」

一方、守りの広報についてはどうでしょう。同社は、2018年頃、先行開発投資が想定以上にかかり財務基盤が悪化し、2019年にファンドの支援を受けて非上場化します。そのような状況下でも冷静に、そして、“誰に”“何を”伝えるべきかを常に考え、ネガティブな情報であっても、相手に真摯に向き合う。そうやって乗り越えてきたそうです。

想定される事態に対する事前対応策

当時の広報部門は、この事態に際し事前に対応策を考えていたといいます。この「守りの広報」は具体的にどう進めたのでしょうか。

すべてのステークホルダーに対する対応計画

社員、株主、金融関係、メディア、取引先などステークホルダーを明確にし、それぞれにいつどのように情報提示すべきかを時系列にまとめていました。さらに、対応方法も、社員に向けてはビデオメッセージにする、メディアは個別取材なのか合同取材なのか会見なのかなど、その都度手段も検討していたと、角谷さんは振り返ります。

幅広いステークホルダーに対してさまざまな形で同時に対応していくことを前提として、会社として伝えるべきことを統一することにも注力。「そのときに伝えなければならないのは、その選択が我々として最善の策であったということ」。このメッセージには当時を知る角谷さんだからこその重みを感じました。ケースごとのQAなどをまとめて、メンバーが同じ内容で対応できるようにし、自身はファイルをデスクに置いて問い合わせに即対応できるようにしていたそうです。

発表前の報道に対する冷静な対応

いくら対応を計画していたとしても想定外のことが起こります。当時、パイオニアは上場企業。メディアが先んじて配信してしまったニュースに反応して東証から指導が入ったり、あらゆるステークホルダーへの対応が同時多発的に発生したりするという状況が起こりました。

既にニュースとして出てしまった誤った内容については一つひとつ丁寧に説明をし、記者の方と認識のすり合わせ、Web媒体などには記事を修正してもらうといった地道な対応。出てしまったネガティブな情報に対しても真摯に向き合い、時に相手の持つ思い込みを解消するためにこつこつと対話を続けることも必要だったと角谷さんはいいます。こうした広報の姿勢は、事態の悪化を最小限にとどめたに違いありません。

非上場、構造改革……新しいパイオニアにおけるコーポレート・コミュニケーション

その後、2019年に非上場化し、構造改革や社長交代など一気に新体制へ移行。「再生ステージ」から現在、「成長投資ステージ」へ新たな一歩を踏み出しているパイオニア。

新体制になり新たなブランド浸透を図っていく必要がありましたが、ブランディングというのはどの企業においても一朝一夕に叶うものではありません。そこで、すべてのステークホルダーに対してではなくパイオニアを中から支える社員のエンゲージメント強化から取り組んだそう。これが、前述にあるコーポレート・コミュニケーションとしての長期的な目線での戦略につながってくるのです。

2025年に向けた企業ビジョンとして掲げている「未来の移動体験を創ります」のもと、その達成のためにバックキャストで3つのステージ分けをしています。まずステージ1として「変革を予告する」、ステージ2として「変革を実証する」、ステージ3として「変革企業としてのポジションを獲得する」というものです。

3つのステージで、ステークホルダーごとにメッセージを落とし込む。例えば、社員であれば中期経営計画の理解と自身の行動への反映、メディア向けであれば枕詞を変えていくなど、具体を話してくれました。

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質疑応答|パイオニア株式会社 角谷氏

具体的な数々の取り組みのご紹介に、活発な質問が飛び交いました。

社内における広報の価値を高めるためにもKPI・KGIの設定と効果測定が重要だと感じたのですが、御社ではどのようにされているのでしょうか?

まず、コミュニケーション戦略については立案のタイミングで役員と共通認識を持ちました。中期経営計画にもとづいた計画の中で、「発信・露出の3割をソリューションサービスにし、2025年にはその比率を5割まで上げる」といった数字を共有します。実際の活動としてはマーケティングコミュニケーション部門と連携して、全体的に成果を見ています。

メディアでの掲出情報などを社員にリーチさせるのが難しいと感じています。社内共有はどうされていますか?

プレスリリースやメディアへの掲載情報、イベント告知などは週一回配信しています。配信方法はメールや動画などさまざまです。あとは、例えば2月に対外的な発表会を実施した際に、本番の動画はもちろんなんですが、リハーサルの様子も社内配信したりしました。直接参加しない社員も含めて「一緒にやっていくんだよ」というマインドチェンジを図るための施策です。Webサイトにその動画を公開していますので、社長の出方やQAなども垣間見られると思います。よろしければ参考になさってください。

会社として好調な時期を経て転換期を迎えたときに、社員の士気の低下に対して社内広報ではどのように活動されたのでしょうか?

非上場化は社員にとっても大きな出来事でしたし、やはり社内のモチベーションは下がりました。あのときはまず「社員ファーストにしましょう」と宣言しました。それまでは上場企業でしたから、社員ファーストで情報を伝えることは難しかった。でも非上場化したことで、社員に対して会社の状況を細かく説明したり、場合によっては事前に「こうします」ということを話せるようになりました。今いる人たちは、苦しいときにパイオニアを支える覚悟を決めているので、社内アンケートの回収率も高いんです。それらのサマリと寄せられたコメントはすべて役員に共有しています。こうすることで、経営層が社員の想いを肌で感じる。しいては社内の一体化につながるのではないかと思っています。

ネガティブな報道をポジティブに変えていくやり方を具体的に教えていただきたい

ネガティブな報道については本当に地道に対応していくしかないんです。一つひとつ丁寧に説明していくことが第一に挙げられます。例えば、事業譲渡が発生したときは、「我々はこれが最善と考える」ということをきちんと伝えることに注力。メディアに対してはマイナスイメージにふられそうな情報のときほど、隠さず話すという真摯な対応がものをいうと思います。信頼関係ができた記者さんからはこういう時はこのように伝えた方が良い、などアドバイスをいただいたりもしました。

ブランドコミュニケーションにおいては、最終的な理想像を掲げて活動されるのでしょうか?それとも、その時々に必要なメッセージを積み上げて醸成していくのでしょうか?

もともとパイオニアのDNAとして「“世界初””業界初”で感動を伝えていく」という考え方がベースにあって、時期によって明文化されていたりされていなかったりしました。今は経営企画部がCSRとブランド戦略を立てています。私たちはそれを意識しながらコーポレートコミュニケーション戦略の計画を立てます。時間軸のイメージでいうと、ブランドチームは10年位先、コーポレートコミュニケーションは5年位先、マーケティングでは1~2年位先に「パイオニアをこう思ってもらいたい」を明文化している感じです。時間軸で目指すブランドイメージがずれないよう、関係部署が密に連携することも大事だと思います。

現場からの情報をきちんと集約することも難しいと思いますが、どのように対応されていますか?

それはどの企業においても大きな課題ですよね。現状でいうとテレワークが増えたことで、いろいろな会議に参加しやすくなりました。そのため、それぞれの事業部などで設定されている会議に参加させてもらっています。すぐに形になるものではないですが、情報共有している中で広報のネタみたいなものを収集していって、それを基にストーリーを作り各事業部と相談していきながら進められないかと、まさに今チャレンジしているところです。

収集した情報を社内・社外のどの範囲で発信するかなどを決める基準はありますか?

今注力していることの優先順位で決めています。例えばここ1、2年は採用を強化していましたので、潜在的な転職者層に響きそうだなと思うものは採用チームと連携して収集、発信していました。現在だと、DX、やグリーントランスフォーメーションやSDGsなどのキーワードにつながりそうなものを関係部門と連携してストーリーを作っています。

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分科会まとめ|パイオニア株式会社 角谷氏

長い歴史を持つ大企業ならではの大きな変革を、広報という立場から支えてきた角谷さんのお話に参加者すべてが聞き入っていました。なかなか聞くことができない、会社の危機的状況における裏舞台の話は貴重だったのではないでしょうか。

「今、自分たちは“誰に”“何を”伝えるべきか」を常に考え、誠心誠意伝えていく。たとえネガティブな情報であっても、相手に真摯に向き合い根気強く伝えていく。

また、社内においては経営層と現場の社員の架け橋に、社外においてはあらゆるステークホルダーとの窓口となる存在なのは、常に会社にとっての最善を考え、信頼につながる地道な努力を積み重ねてきた証であると感じます。こうした姿勢は、企業の規模を問わず取り組めることでしょう。

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この記事のライター

戸所 奈央

戸所 奈央

新卒で大手人材サービスグループに入社、人材ビジネス以外の各種プロジェクトに参画の後、同グループの海外ブランドアパレルの輸入販売・外販部門にて広報を担当。1998年より同グループの技術系人材派遣・紹介を行う子会社に異動、広報として15年従事する。2015年よりフリーランスとして活動、若手広報担当者の育成や各種ライティング業務などを通じ、企業の広報活動を支援している。

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