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「広報」とは何か?ど素人の部外者から見た天国と地獄|PR TIMESカレッジVol.6~第一部:成田悠輔氏~

ここ数年、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、オンライン開催の企業イベントが非常に増えました。参加者は時間や場所の制限が少なく、開催者はこれまで以上に幅広い層に訴求できるなど、双方にとってコミュニケーションの機会につながっています。一方で、オフラインコミュニケーションの機会を待っていた方も多かったのではないでしょうか。

そんな中、2022年5月23日(月)に東京と大阪のハイブリットでオフライン開催されたPR TIMESカレッジVol.6第一部は、イェール大学助教授の成田悠輔氏が登壇しました。

本レポートは、「言葉の力~伝えること、伝わらないこと、あえて伝えないこと~」をテーマにした成田氏自身初となる企業の広報PRの講演をレポートします。

成田悠輔氏登壇|今、企業に必要な広報PRを考える。

広報やPRの印象は「ウザい……」、講演を受けるのは「ツラい……」から始まった成田さんの講演。内容はストーリー性のあるものでなく、自身で考えた10の問いに即興で答える仮想問答というユニークなものでした。

広報とは何か、なぜ広報するか、なにを広報するのか

大きなテーマであり、参加者それぞれ異なる答えや感想が頭に浮かんだことでしょう。一方、日常の業務を進める上でつい忘れてしまっていることもあるのではないでしょうか。

広報とは何か。

戦前使用されていた単方向を意味する情報を発信するだけの「弘報」から、広く知らせる、理解が加わる双方向を意味する「広報」に変わった歴史。漢字の本質から、現在の「広報」について振り返る、考え直すきっかけになるものでした。

では、なぜ広報するか。

静かに楽しく暮らしていたいのであれば、広報しないほうがいいという考え方もあるが、なぜ。成田さんは「“下心”ד真心”のコラボ」と考えているそうです。伝えたい強い想いや伝えることで相手に変化を起こせる信念などの“真心”がある。一方で、数字なのか金銭なのか評価なのか、わかりやすい欲望、つまり“下心”が共存している。広報は外向きと内向きの両面をもつ複雑なものだろう、と結論付けています。

それでは、なにを広報するのか。

モノ・コト/商品・サービスだけでなく、イミ/価値(観)が重要になっている。そして、その価値(観)は今あるものでなく、未来がいかなるものよりも価値がある、と続けてます。早い、安い、便利だけが評価される時代は終わり、目に見えない未来に対する投資がされる。つまり、事業価値は幻想、幻想こそが事業価値になっている、とさまざまな例を挙げました。これまでは、誰もが知るグローバルな有名企業のみが未来に対する価値(観)を評価、投資されてきた。しかし、今すでにスタートアップやベンチャーなど企業規模にかかわらず評価、投資がされてきている、という発言には期待が膨らんだ方も多いでしょう。

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言葉はゆっくり想像させる、そのための余白

目(眼識)、耳(耳識)向けた広報が多いが、そのほかの「識」、つまり「心」に対して訴求することが大切になっている、と仏教で説かれた八識を用いた内容は成田さんらしく、かつ誰もが理解しやすい内容にまとまっていました。鼻(鼻識)や舌(舌識)、これからはメタバースのような新しい空間、反対に無人になった古い空間など空間を使用したPRなど、具体を交え五感全身に対するPRの可能性を語っています。

では、言葉を使った広報について。言葉はゆっくりと大きく豊かなものを創造させることができるにもかかわらず、マンネリ化し、プレスリリースも個性をつぶしてしまっている。最初の打ち合わせ時から発言していました。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」「古池や蛙飛び込む水の音」を例に、たった1秒程度ですべての光景を思い浮かべることができる。この二つの例を読まれたとき、参加していた人の多くが、列車に乗ってトンネルを抜け雪景色を思い浮かべ、閑かな池がある景色に蛙が飛び込んだ時の音、池の水面、その後すぐに閑かな池の様子を想像したのではないでしょうか。

言葉の情報量が少ないからこそ「余白」が生まれ、ゆっくり想像させることにつながる。動画など刺激が強いものだけではなく、情報量が少ない「≒余白がある」からこそ伝わる豊かさと共存が必要なのでしょう。

伝えたい情報をいかに要点をまとめわかりやすく発信するか、常に考えている広報担当者にとってあえての「余白」は、新たな検討事項に加わったかもしれません。

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成田悠輔氏へ広報担当者から質問

ここでは、講演後の質疑応答と後日お答えいただいた質問に対する回答を紹介します。

講演後の質疑応答

PR TIMESカレッジを受けた理由は何ですか。

普段考えないことを考える場所の方がいいかな、と。同じことを何度も話してほしいと言われると疲れちゃうんですよね。どうせやるなら新しいことを知れたり考えたりするを好んでやるほうで、広報PRは考えたことないテーマだったので。なので楽しかったです。

メディアに広く取り上げられることが広報のひとつの目的としたときの質問です。メディアは特ダネを欲しがると思うため希少性が必要だが、PR TIMESのような一斉配信をした時点で希少性が落ちると思います。では、果たして配信する意味はあるのか、あるとすればその意味は何か。ぜひご意見をお聞かせください。

メディアに別枠で流す、というのでいいんじゃないでしょうか。PR TIMESで広く届けることと、特定のチャネルに届けるということは別と考え、同時にやればいいんじゃないかな、と思いますね。あとは、希少性高く特ダネを欲している、という点はそういう側面もありながら、一方で視聴者や読者がわかりやすく理解できるものを求めている側面もある。個人的な感覚では、希少性が高すぎたり、新鮮すぎたりするとメディアでは嫌われる傾向があると思います。特にマスメディアはそういう傾向が強いかな、と思いますね。

この質問に答えるとき、広報PRのひとつの役割を話しています。
“希少性が高い”“新鮮で新しい”“面白い”ものがあったときに、手あかがついて、つまらなくて、誰でも知っているものに変えていくのが大切。新しもの好き、αユーザー、β―ユーザーなどには嫌がられるが、嫌がられることが広い人たちに認知されることが役割かなと。

日本のメディアに出てもいいな、と思ったきっかけは何ですか。また、メディアに期待することは何でしょうか。

メディアにでる理由はさほどなく、社会科見学というか新しいものを知りたいという知的好奇心のようなものですかね。戦略もメリットもそんなにないです。

日本のメディアに期待することは、少数にしか刺さらない、届かないものをどう届けるか。例えば、現在の人類の1.0%(100万人)、0.1%(10万人)にしかかっこいいと思われないものを届けるとき。英語圏とは桁が違うが、日本のように大きくなくこれから縮小する社会では、多くの人に理解されないものは難しくなっている。(中略)ただ、そのような社会の中で大衆に受け入れられるものではなく、専門性が高い、とがったメディアは必要だと思います。それらを実現しようとするメディアを応援したいとは思うので購入したり、サブスクしたりですかね。

マスメディアを介さず、ほかのものが主流になると思いますか。

徐々に、ゆっくりは傾向としてあると思います。ただ、かつてのテレビのような国民の数十%にアプローチできるメディア、現在でもテレビのTOP番組は2桁の人にリーチしている、そのようなメディアは出てこないと思いますね。そのため、テレビのような存在が、ソーシャルメディア領域にできるのではなく、どのくらい多くの人たちに届けたいか、ターゲット外の人たち、潜在層にアプローチしたいかによるでしょうね。対立ではなく特性をいかに活かすかが重要かな、と思います。

広報の仕事はあと何年、人がやる仕事だと思いますか。

広報を構成しているパーツや、テンプレしている広報活動やリリースは自動化、機械化されるでしょうね。それは広報以外も同じだと思います。人間の癖や変な哲学、熱量、計測しがたい人間味が活かされてくると思います。(中略)これらはこれまでも同じで、人間が行っていたことを新しいものに置き換え、その分人間にしかできないことをやっていく。今ある技術をフル活用して人間でしかできないことをやっていくんだと思います。

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広報担当者からの質問10問に成田さんが回答

早い、安い、便利が求められているように見えて、価値観的には「未来の意味」にみんなが向かっているのは、なぜなのでしょうか?とても不思議です。

生存すること自体は十分に安くなって、これ以上安さを求めることの価値が落ちているからだと思います。

広報というものの本質的な意味、手法を時代の流れに沿って話されたので興味深かったです。違う観点では、情報受領者の質という観点では日本は低いレベルかと感じるのですが、成田さんはどう考えますか。

マスというか平均的消費者はどの国でも大して賢くないんじゃないでしょうか。大して賢くない人を相手にするのがビジネスというものだと思います。

過去に作成されたプレスリリースで、独自に工夫された事例があれば教えてください。また、プレスリリース以外で価値観を伝えるために行った施策があれば教えてください。

直接のお答えにはなりませんが、Twitterのようにキツい分量制限があると言わない・言えないことの方が多くなって空白が生まれます。その空白が余韻を生んで読者の想像が掻き立てられることがあると思います。リリースでもあえて超短くしてみるのはいいかもしれません。

最近では個人による口コミ、SNSでの拡散効果のほうが発信力があるケースも見受けられます。そんな社会の中で今後もプレスリリースのニーズは存続していくか否か、あるいは変容していくと思いますか。

拡散やPRは個人的に、製品やサービスの開発は組織的にという二分化が進むのかもしれませんね。いい製品を作るにはますます強く大きなチームが重要になってきていると思います。

BtoC企業の広報とBtoB企業の広報の違いはどの様な点だとお考えになりますか。

多数の人をちょっと動かすか、少数の人を大きく動かすか。BtoBの場合はひとりの強大な意思決定者を動かせればそれで成立するというのが違いでしょうね。

未来×意味を伝える企業が多くなると、一方で「なんとでも言えてしまう」状況も生まれ、受け取り手が「企業の発信は信憑性がない」と思う未来もありえるのではないかと思います。そんな時の裏付けとして実際のアクションやデータなども必要かと思いますが、未来を語るときに必要だと考えているものがあれば教えてください。

必要なのは癒着でしょうね。価値があるのかどうかわからないものに価値があると信じられるために事業者・投資家・メディア・政治行政などが癒着すると強力です。アメリカのスタートアップ産業などは癒着そのものとも言えます。

情報がとめどなく生み出される時代に一つひとつの情報に接触する時間が短くなっていると思います。そうすると言葉よりもまずは映像、ハマった人には言葉と言うように話を聞いて理解しました。あってますか。

普通に考えるとそうですが、同時に短い言葉も巨大なインパクトを持ちえます(例:講演で話した松尾芭蕉の俳句)。TikTokの動画と同じくらい簡潔で強烈な言葉が穴場だと感じます。

【感情vs理性】プレスリリースで商品リリースを配信する際、感情的に訴えたらいいのか、淡々とスペックやメリットを書いて理性に訴えるのか、どちらの方がいいでしょうか。

場面ごとに使い分けるのがいいんじゃないでしょうか。

文字や言葉から想像を膨らませる体験が少ない年代もいると感じているのですが、言葉から想像を膨らませる自由さや楽しさは伝わるでしょうか。

最近のAIが言葉から絵を描くのを見たりすると子供にも言葉の凄さが伝わるんじゃないでしょうか?
参考:https://openai.com/dall-e-2/

価値観の揺さぶりというお話しがありましたが、衣食住などのわかりやすいテーマではない業界、どちらかと言えば人生の終焉に向かうような業界で広報をする場合に、どんな視点を持てたら良いか?ヒントを頂けませんか。

「人類は近い未来に滅亡する」という運命を感じさせることで心の平穏をもたらす。瞑想のような価値を提供できるのではないでしょうか。

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さいごに|成田悠輔氏講演

これまでの時間軸とは全く異なる時間軸。場所としてのPR 、言葉の力。新しい価値やその価値を測るための価値観を伝える。価値や価値観を揺さぶっていくということが大事になってくると語った成田さん。

“すぐに役立つスキルではなく、部外者だからこそ俯瞰的で視野が大きすぎて抽象的なものを”とお話されていましたが、まさに「広報とは」から立ち止まり考えるきっかけになったのではないでしょうか。

短い言葉だからこそ、余白を埋めるように人は想像でき、余白があるがゆえのリッチ性を感じることができる。プレスリリースも言葉だけで、動画で伝わらないものを伝えられる可能性がある。この点はプレスリリース配信の可能性を感じることができました。

PR TIMESカレッジの最新情報は、公式ページをご確認ください。
https://prtimes.jp/college/

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この記事のライター

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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