近年急成長している「ゲーム実況」は、アニメやお笑いと並ぶ存在の新たなエンタメジャンルのひとつとなっています。
株式会社PR TIMESは、2025年2月18日に学びとつながりの広報・PR担当者向けコミュニティイベント「PR TIMESカレッジVol.9」を開催。第一部では、YouTubeチャンネル登録者数200万人を超えるゲーム実況グループ「ドズル社」のリーダーであり、経営者でもあるドズル氏をゲストに迎えお話を伺いました。
「ドズル社」が結成からわずか4年で、多くのファンに支持されるようになった背景にはどのような理由があるのでしょうか。ドズル氏がコンテンツづくりで大切にしていることや、共感と愛着を育むコミュニケーションのポイントなど、コアファンの獲得をめざす起業の広報PR担当者にとって参考になるポイントが満載です。
- YouTubeチャンネル|https://www.youtube.com/@dozle
- 公式サイト|https://www.dozle.jp
人を惹きつけるカギは「新しい体験」の提供
エンターテインメントの歴史というのは、テクノロジーの進化と切り離すことができないものだとドズル氏は言います。映画がモノクロからカラー、さらには4Dになったように、技術の発展により提供される「新しい体験」が人々を惹きつけ、エンタメ市場は大きく拡大しました。その中で、「YouTube」と「ゲーム」という2つの掛け合わせによって誕生したのが「ゲーム実況」です。
- YouTube:サーバー技術の発展により、世界中から投稿された映像が保存・配信可能に。その結果、世界中の人がさまざまなデバイスからアクセスでき、好きなときに好きな映像を楽しむことができるようになった
- ゲーム:技術の向上により高画質化が進み、多人数での同時プレイも可能になった
「新しい体験っておもしろい」と思ってもらえるような価値を提供し続けることが、ドズル社のコンテンツで大切にしていることのひとつ。サンドボックスビデオゲーム『マインクラフト(マイクラ)』の中にクイズ番組など独自開発した新たなゲームを実装し、マイクラの世界の中で「別のゲームで遊ぶ」という新しい体験を提供しています。中でも、「ドズル社ランド」と呼ばれる遊園地では、実際にチケットを購入してプレーヤーが入場し、アトラクションを楽しめる仕組みを構築。参加・体験型のオンラインイベントとして大きな話題を集めました。
参考:『ドズル社ランド2024』今夏、開催決定!ドズル社と世界旅行に出かけよう!

ドズル社が企画づくりで大切にする3つのキーワード
YouTubeが主要メディアのひとつに成長したことで、生活者のコンテンツに対する受け止め方はどのように変化したのでしょうか。
現代のコンテンツ消費のカギは「共感」
1990年代のテレビ全盛期、生活者にとってコンテンツとは「楽しむために消費するもの」でしたが、YouTubeが一般的に視聴されるようになった2010年代からは、「共感するためのツール」へと変化します。他者と意見を共有するという体験により、他者が「どのように感じているのか」を知れることに価値が見いだされるようになりました。
YouTubを視聴する際にコメント欄とセットで見たり、映画を観る前にあえて感想やネタバレをチェックしたりする人が増えているのもその一例。人は共感することで幸せを感じる一方で、共感できる意見が見つからないと、自分が抱いた感情が正しいのか不安になってしまうというのがドズル氏の考えです。
信頼感や共感を育むのは「多様な意見」
ここでポイントとなるのが、良いコメントと悪いコメントの両方が必要だということ。自分が抱いた感想と似たようなコメントばかりだとかえって嘘くさく感じたり、つまらなく思えたりした経験が誰しもあるのではないでしょうか。
それは商品やサービスの広報PRでも同じで、自分と同じ立場の人が話題にしていると信頼感を抱きやすい。「生活者は自分の感情の答え合わせをしながらコンテンツを見る」「さまざまな声が可視化されることで共感が生まれ、価値のあるものになっていく」というドズル氏の解説が印象的でした。
ファンの心をつかむのは「参加している実感」
「共感するためのツール」としてのコンテンツを作るために、ドズル社が大切にしているのは「参加している実感」とのことです。コメント欄を活用しながら視聴者との相互コミュニケーションを積極的に取ることをベースとしながら、コンテンツの企画会議を生放送で毎週配信するなど、視聴者が企画づくりに直接参加できる機会も多く設けています。何千人もの視聴者が次の企画について話し合い、「それはおもしろそう!」「それって、見てるほうはつまらないよ」といった生の声を取り入れながらコンテンツを決めていきます。
ほかにも、「公開収録」として実際にコンテンツを撮影する様子を生配信することも。これは、自分たちも一緒にコンテンツを作っているという実感を育むことにつながります。この「参加している実感」が共感を生み出し、コアファンづくりにもつながっているのでしょう。
ドズル社から学ぶコアファンづくり
ドズル社が意識しているのは、「コアファンづくり」は時間をかけて行いつつ、「多くの人に触れる機会」を増やしていくこと。
どんなにおもしろいコンテンツを作っても、それがすべての人に刺さるというわけではなく、コアファンになるのはコンテンツに触れた人の1、2割程度という感覚だそうです。そのため、「コアファン獲得」にはコンテンツの作りこみを、「コアファンになる入り口」には、たくさんの人に見てもらう・触れてもらうためのダイナミックな動きを並行しているそうです。
また、従来の「作ってから売る」という順番では、今後は後れを取ることになるとドズル氏は指摘します。「どう届けるか」「誰に向けて作るのか」を戦略的に考えつつも、まずは売ってみてから反響をもとに改善していく、ということもコアファン獲得の重要なポイントかもしれません。

広報PR担当者からの質問にドズル氏が回答
ここからは、広報PR担当者からドズル氏へ寄せられた質問への回答をご紹介します。当日は時間の関係で回答いただけなかった質問に対し、追加でお答えいただきました。
──コンテンツが共感の手段になっている中で、「やってはいけないこと」は何でしょうか。
自分たちに都合の悪い意見を隠したり、誠実に向き合わなかったりすることだと思います。「共感」や「みんなの意見」が大切な時代なので、そこに対して発信者側やモノやサービスを届ける側はしっかり向き合っていかなければなりません。
クレームやいろいろな意見に対する企業の姿勢を生活者はよく見ています。悪いことを起こさないことに全力を注ぐのではなく、悪いことが起きてしまったときにどのように対応するのか。その企業の姿勢が生活者との信頼につながっていくのかな、と思います。
──YouTuberとしてリアルな人間からキャラ化したのはいつのタイミングですか。IP展開をするにあたって、ドズル社という世界観を守るために行っていることがあればお聞きしたいです。
キャラクターに切り替えて活動をするように舵を切ったのは4年前です。その際に意識したのは、キャラクターとしての人格やそこに対する愛着を持ってもらえるような魅力をつくること。ただ見た目が可愛いだけでは、人気は出ないと思ったのです。
また、ドズル社という世界観を守るために「言語化をしっかりする」ことも心がけています。ドズル社は200人近くの組織に成長して、多くの人がコンテンツづくりに携わるようになったため、「自分たちがやること・やらないこと」「大切にしていること」などを言語化して、それぞれが世界観をきちんと理解するようにしています。その中でも特に「やらないこと」を決めておくことが大切です。僕たちの場合は「アイドル売りはしない」と決めていて、いろいろなキャラクターの魅せ方がある中で、あくまでもゲームというところを主軸にして、アイドル的なところは本流にしていかないと決めています。
──コメント欄が重要だという話がありましたが、発信者側はコメントの一つひとつに返信すべきなのでしょうか。
可能なのであれば、返信したほうがよいと思います。ただし、コメントが少ない中で公式がコメントをしてしまうと、視聴者同士の交流が減ってしまうこともあるため注意が必要です。視聴者側が盛り上がることが理想的なので、「こういうコメントをもっとしてほしいな」という人たちに対して「いいね」などのリアクションをして「ちゃんと見ているよ」「こういうコメントをもっとちょうだい」というポジティブなフィードバックを返すようにしています。
──企画会議を公開されているということでしたが、社内ではどのようにアイデアを出されているのでしょうか。
うちは完全フルリモートで社員も日本だけでなく世界中にいる会社なので、企画会議はバーチャルオフィスを使って行っています。アイデア出しに関しては、とにかく数を出すことを意識して、100個ぐらい出たアイデアの中で掛け算や引き算をしていくんです。
みんなでいろいろなアイデアを出す中で相乗効果を狙うことを意識しているので、若手が意見を出しやすいようにゲームを取り入れながら会議を進めることもあるんですよ。例えば、ブレスト会議をするときには、警察役の人を立てて「ブレスト会議中は誰かの意見を批判してはだめです。批判をした人がいたら警察役の人がホイッスルを吹いてください」とルールを設けます。普段は先輩がルールを破っても指摘しにくいのですが、警察役であればホイッスルを吹くことができるというわけです。
僕たちの会社はコアバリューのひとつに「Enjoy」があるので、アイデアを出す際にも楽しく生み出すことを大切にしています。
──【追加質問】企画について:社内では「これはいける!」と思っていたものの、ユーザーからの反応はよくなく、早々に終了した企画はありますか。一方、「これは意外と伸びた!」という企画はありますか。それはなぜ当初の想定と異なったのか、どのように分析されているのかお伺いしたいです。
もちろんあります!
毎日その繰り返しです。自分の感覚と、求められていること(数字)の答え合わせを日々行っています。
具体的な例を挙げると、一瞬も目が離せないようなおもしろい企画を出したのに、あまり伸びなかったことが。集中して見続けなければならないコンテンツは、自分が思っているより需要がないことがわかりましたね。この経験から、YouTubeでは「気を抜いていても楽しめる」見やすいコンテンツが求められていることを学びました。
──【追加質問】企画について:視聴者のコンテンツのとらえ方の変化がよくわかりました。単なる「Watch」から「Join」に変容したと解釈したのですが、この先はどう発展していくと考えていますか。また、そのために検討している新しい取り組みはありますか。
今後は、よりリアルタイムで、より双方向のコミュニケーションが重要になってくると思います。
ゲームの世界でも、動画コンテンツよりも生配信の勢いが増しています。弊社でも、リアルタイムで参加できる生配信に力を入れています。
──【追加質問】企画について:「共感」を抱いてもらい、のめり込んでもらうために、コメント機能以外で工夫されていることを教えていただきたいです。子どもなどYouTubeをテレビで見ている人たちにとって、コメントによる共感は少ないのではないかと感じ、気になりました。
確かに年齢による興味の差はあると思いますが、具体的には10歳くらいを境に「周りの人がどう感じているか?」を重要視し始めます。
「周りから人気があるのか?」「他の人がどう感じているのか?」という共感を大切にしだすのです。
私たちの企画の中に、「小学生が考えたクイズ」とか「小学生が考えたボスが襲ってくる」といったものがあるのですが、これは小学生のみんなのアイデアをおもしろい企画に昇華しながら、参加できる形を実現しています。
──【追加質問】企画について:「皆さんの意見も聞かせてください」などと記載してもなかなかコメントがなく、一方的な発信になっています。コメントを促せる、双方向のコミュニケーションを図るためのコツを教えていただきたいです。
「意見を聞かせてください」だけでは弱い場合があります。ストレートに「AとBだったらどちらが良いと思いますか?」と質問形式にすると、コメントしやすくなります。さらに、コメントをくれた人に「ありがとう」と感謝を伝えることで、「コメントしてよかった」という成功体験をプレゼントしてあげてください。
──【追加質問】海外に向けて:配信では、どの程度海外の方も視野に入れていますでしょうか。視野に入れている場合、日本語でも響くものなのか、また強化するのであれば字幕と英語などでの音声、どちらが響くと思いますか。
字幕だけではなかなか広がりにくいと感じています。弊社では、AIを活用した自動音声翻訳の開発にチャレンジしています。
今後、YouTubeの標準機能として多言語翻訳が実装される可能性が高くなるのではないでしょうか。
──【追加質問】海外に向けて:「共感」が重要であることを再認識しました。同じ立場の人がどう感じているか気になるという点、とても日本人らしいと思いましたが、海外ではいかがでしょうか。ドズルさんが感じられていることを教えてください。
海外でも同じだと思います。SNSやYouTubeのコメント欄を見ても、それが証明されていると感じます。
これは民族的な差というより、人間の本能的な欲求に近いと思います。もちろん文化や背景による違いはありますが、本質的には人は「共感」したい生き物なのだと思います。
──【追加質問】社外コミュニケーションについて:企業の公式SNS同士のやり取りが話題になっていますが、コラボレーションした企業においてもフォローしていない理由や方針などあれば教えていただきたいです。
ドズル社の公式SNSでは、公式に「人格」を持たせていません。これは、所属しているメンバー自身が「人」として、直接メッセージを届ける役割を担っているからです。
ただし、公式アカウントの「中の人」や「人間味」を感じさせるコラボレーションは効果的だと考えています。どのアカウントに「人格」を持たせるかは、ブランドの一貫性を保つためにも、事前に明確に決めておくことが重要だと思います。
──【追加質問】社外コミュニケーションについて:企画会議などの生配信において、炎上リスクを避けるための対策はどのようにされていますでしょうか。誰もが自由に発信できるようになっていますが、個人で発信する際に気を付けられていることもあればあわせて教えてください。
社内でも社外でも、外に出してはいけない内容は話さないようにしています。社内の企画会議をそのまま生配信しても問題がない状態なので、炎上につながることはほとんどありません。
ただし、炎上リスクを完全にゼロにすることはできません。どんな企業も、どんな人も目立てば炎上します。炎上した際こそ、企業や個人の本質が見える場面になると考えています。炎上への対応をどうするかは、会社の経営陣は真摯に向き合わないといけない時代です。
──【追加質問】社内コミュニケーションについて:従業員に向けたインナーブランディングにも活かせるヒントを得られました。従業員が会社のいちファンとして携わってもらうために、大切にしている社内でのコミュニケーションはありますか。
一貫性です!
外向けの発信と社内向けの取り組みで、同じ価値観を大切にしています。弊社であれば「人生というゲームをもっと楽しく」というテーマがあり、コンテンツ作りも社員のキャリア相談も大切にしていることが同じです。常に同じ価値観を大切にし続けることで、「この会社は本当にこれを実現しようと本気なんだ」という信頼感や共感が生まれると考えています。
──【追加質問】社内コミュニケーションについて:YouTubeを運営していますが、視聴数、平均再生率、コメント数などの指標以外に着目した方がよい項目やKPIはありますか。
いただいた3つ(視聴数・平均再生率・コメント数)は、やはり重要な指標だと思います。あまり多くのデータを追いすぎると焦点がぼやけてしまうため、シンプルに視聴数を中心に追うのが良いと思います。
ただし、ターゲットを広げすぎないことも大切です。例えば、「再生数が簡単に増えるから」とインドネシアで広告を打つような施策は、結果的に良くない影響を及ぼす可能性があります。これは極端な例ですが、最終的に定着する可能性がある潜在顧客にきちんとリーチしていくことが大切です!

まとめ:「新しい体験」と「共感」を大切にしたドズル社のコンテンツづくり
YouTubeチャンネル立ち上げからわずか4年でチャンネル登録者数200万人を達成したドズル社。多くのヒットコンテンツを創出し、たくさんの視聴者と間近でコミュニケーションを重ねてきたからこそ語ることができる、生活者側の視点やファンとの関係構築のためのヒントが詰まった講演会だったのではないでしょうか。
- 「新しい体験」を提供し続けることが人を惹きつけるカギ
- 「良いコメント」と「悪いコメント」の両方が共感や信頼感の獲得につながる
- コアファンになるのは全体の1~2割のため、多くの人に触れる機会を増やすことが重要
- 生活者が参加できる企画を実施し、一緒にコンテンツを作る実感を提供する
- 「作ってから売る」のではなく、売ったあとの反響を反映する
今後の広報PR活動に取り組むうえで、新たなアプローチのヒントとなれば幸いです。
【PR TIMESカレッジVol.9ダイジェスト】
【PR TIMESカレッジについて】
日本国内で10万5000社超(2024年11月時点)にご利用いただくプレスリリース配信サービス「PR TIMES」が開催する、”学び”と”繋がり”を提供するイベントです。
広報PR活動の価値を感じていただく、仕事そのものを充実させていく起点の場を目指しており、2018年2月よりスタートし過去9回実施。PR TIMESご利用の企業さまを無償でお招きし、累計約4,500名の広報・PR担当者はじめ情報発信に携わる方にご参加いただいております。
次回10回目については、プレスリリースと公式ページで発表いたしますので今しばらくお待ちください。
PR TIMESカレッジ公式ページ:https://prtimes.jp/college/
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