日々、新たな製品が生まれては世の中に出ていく美容業界。製品を届けたい対象にその魅力が正しく伝わるよう、さまざまな施策に取り組まれている企業も多いと思います。昨年12月にローンチされた化粧品ブランド「UNLICS(アンリクス)」は、ブランドが発するメッセージを的確に伝えるPRが話題となりました。
本記事では、2023年5月19日に実施した「PRパートナーと未来をつくる会議」から、「UNLICS」PRの岩田さん「VOCE(ヴォーチェ)」ウェブサイト副編集長の渕さん、人気インフルエンサーの吹春さんによる鼎談をレポート。「UNLICS」の広報PR活動のポイントから、メンズ美容についてなどお話しいただきました。
花王株式会社「UNLICS」PR
2020年花王株式会社へ入社。メディア担当としてオンライン・オフライン関わらず、幅広くブランドコミュニケーションに携わる。2022年からUNLICS PR担当を兼務。発表会運営やリリース配信などを担当し、ブランドの立ち上げを推進。現在もSNSやメディアを通して、UNLICSの魅力を社外に発信する業務を担う。
株式会社講談社「VOCE」ウェブサイト副編集長
2005年株式会社講談社入社。
漫画誌や女性誌の編集部に在籍。日本初の美容誌として25周年を迎える美容メディアのパイオニア「VOCE」(講談社)のウェブサイト、SNSなどに2018年から携わる。美容情報を幅広く発信しながら、メンズ美容の提案にも取り組む。
ターゲットに「届く」「響く」デジタルコンテンツを展開
──複数のブランドを有するメーカーでは、ブランドごとにPR戦略を展開することが多いと思いますが、「UNLICS」の独自のPR戦略はどのようなものだったのでしょうか。
岩田さん(以下、敬称略):「UNLICS」は主に10~20代のいわゆるZ世代の男性をターゲットにしたブランドで、オンラインショップ販売のみです。ターゲット層に情報を届ける手段として、デジタルコンテンツを軸に展開することにしました。
動画コンテンツ
動画コンテンツ「HELLO NEW FACE」では、今話題の俳優や声優など、ターゲット世代の男性が「UNLICS」のアイテムを使ってメイクを体験し、外見はもちろん内面にどんな変化が起こるかを語ってもらっています。メイクによって表れる新しい自分を発見する様子を見せ、興味を喚起する企画です。
デジタルコンテンツ
デジタルコンテンツ「BEAUTY DIG‐TIONARY」では、26種類のメイクスタイルの使用アイテムの紹介や使い方のチュートリアルを公開しています。自分の顔を撮影して画面上でメイクを試すことができるなど、メイクのきっかけ作りになるメニューをそろえています。
インスタライブ
インスタライブ「BEAUTY LIVE」では、ターゲットと年齢の近いインフルエンサーやブランドメンバーによる定期的なライブ配信を実施しています。
また、オンライン販売のみであることから、実際に製品に触れる機会も提供しています。「b8ta」のような体験型ストアや美容室に製品を置き、訪れた人が試せるようにしています。こうしたリアルな展開は美容感度の高い男性が集まりやすい渋谷などの都市部を中心に行っています。
「話題化」を止めない継続的な情報発信
──デジタルコンテンツからのターゲットへの情報リーチをメインとしつつも、メディアに向けても積極的なコミュニケーションを行っている印象があります。デジタルコンテンツ以外の情報発信としてはどのような取り組みをされているのでしょうか。
岩田:「UNLICS」からは毎月1~2本のプレスリリースを発信しています。新製品情報だけでなく、デジタルコンテンツの紹介や製品の開発秘話など、さまざまな角度からの情報発信を心がけています。こうして頻繁に情報発信することでそれらが蓄積されるため、「UNLICS」を知ったメディア関係者が容易に情報収集ができ、記事化の機会創出につながっているのではないかと思います。また、すでに記事化してくださっているメディアから、さらに深掘りした記事を発信してもらえることもあります。かなりハイペースな情報発信ではありますが、「話題化」を止めない施策のひとつですね。
こうした継続的な発信でメディアに取り上げられることも増え、SNS上でも大きな反応を得ることができました。情報を届けたいターゲット層をはじめ、男女ともに前向きに受け止めてもらえたことは非常にうれしい効果でした。友人や恋人など「ターゲット層の周囲の人」が誕生日プレゼントやバレンタインデーのアイテムとして意識してくれるなど、製品の活用シーンが拡がる新しい文化の醸成にもつながったのかなと感じています。
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親和性の高いインフルエンサーの起用
──ターゲット層に刺さるコミュニケーションの企画立案にインフルエンサーを起用されていると伺いました。
岩田:「UNLICS」では3名の「美容インフルエンサー」と共創しています。商品のアイデア出し、テスト、フィードバックなどの商品開発から、コミュニケーション施策の検討まで協業していて、どのようなアプローチがターゲット層に届くかをともに考えています。先ほどリアルな展開を渋谷などの都市部で展開しているとお話ししましたが、このエリア選定においても彼らの意見を活かしています。美容感度の高いZ世代男性がどのエリアに多いのか、どのメディアで美容の情報収集をしているかなど、意見交換をして施策に取り入れています。
インフルエンサーの起用については、「VOCE(ヴォーチェ)」ウェブサイト副編集長の渕さんも次のように話します。
渕さん(以下、敬称略):私は製品に関する情報収集時に美容系インフルエンサーの動画などを見ることもあります。誰かが実際に使っていいと思ったものを紹介するとき、メディアとしてはその熱量を伝えたいと思いますね。特に男性にはロジカルな情報が伝わりやすいと思いますので、「なぜ良いのか」というロジックをきちんと伝えることも大事です。そういう観点で、男性ターゲットの製品PRに男性インフルエンサーの知見が入ったり、彼らが自ら伝えたりすることはとても良いコミュニケーションだと思います。
「してみたい」を後押しするメッセージの波及効果
この数年で徐々に認知されるようになってきたメンズコスメ。渕さんは『特に1年前に「UNLICS」が出てきたことは、メンズコスメの位置づけを大きく変えた』といいます。メンズコスメ業界に「UNLICS」が与えた影響をお聞きしました。
美容本来の目的を訴求した「インプレスカラーウェア」
──「UNLICS」はこれまでのメンズコスメとどのように違うのでしょうか。
渕:メンズコスメが出てきた当初、その用途はビジネスユースでした。つまり、ビジネスマンが仕事の場におけるやらなきゃいけない身だしなみとして使用することがほとんどだったわけです。そういった「義務感」がベースになったものから、「したいからする」という本来の美容目的になった先駆けが「UNLICS」だったと思います。
画像引用:Kao Beauty Brands初の化粧品ブランド 「UNLICS(アンリクス)」12月1日に誕生。
渕:今年度のVOCEが選ぶコスメのルーキー賞として「UNLICS」の「インプレスカラーウェア」を選ばせていただきました。製品の良さはもちろんなんですが、審査員が高く評価したのはメッセージ性の強さです。メンズ美容が「しなければいけないこと」から「したいこと」になるきっかけとなったこの製品は、「隣にいる男性に使ってほしいアイテム」として注目されました。
──「UNLICS」が大きく評価されたことを受けていかがでしょうか。
岩田:あくまでターゲットは男性ですが、美容感度が高い女性にブランドを知ってもらうことも重要だと感じています。こうして多くの人に知っていただくと同時に、私たちがやらなければならないことは「やりたい人が周囲を気にせずにしたいことをできる環境作り」であると思っています。周りにやる人が増えたから自分もやらなければいけない、ということではありません。そういう意味では、受け手にとって強制にならないメッセージングになるよう常に心がけています。
渕:そこは強く共感します。そういう前時代的な感覚から、受け手も変わりつつあります。語弊を恐れずに言うと、男女を問わずメイクは「しなくてもいいもの」なんです。でも、男性だからしない、女性はしなくてはいけない、というのは、一昔前の前時代的な感覚だと思います。性別も年齢も関係なく、「美容」という共通言語の中でみんなが楽しめる。ポジティブな魅力をみんなで共有する。それを「UNLICS」が丁寧にメッセージングしてくれたと感じました。
今はユーザー側がメッセージを理解して、自分なりに取り入れる時代です。VOCEのコンテンツとしては、「やりたいけどどこから始めていいかわからない」という層を対象にしたメンズ美容のエッセイ漫画を掲載しています。メーカーもメディアも、やりたい人がやれる環境作り、誰も置き去りにしない取り組みというのは大事ですね。
吹春さん(以下、敬称略):年齢を重ねる中で、男性でも気になるところをケアできる手段や情報が入手できる環境になってきたと感じますね。若いころは美容に関心がある男子が少なかった。自分の経験でいえば、日焼け止めを使いたいと思ったときに家族や他人の視線が気になった覚えがあります。「UNLICS」のような製品やVOCEなどメディアの発信が増えることで、男性でも気兼ねなく美容ができる世の中に変わっていくと思います。
共感したメディアが受け手の気持ちや価値観を動かす
──VOCEでは男性向けの情報発信もされているということでしたが、成功したPR事例をご紹介いただければと思います。
渕:VOCEでは男性向けにコスメを紹介する場合、必ずしもメンズコスメとうたっている製品のみに限っていません。カネボウの「スイサイブラックパウダーウォッシュ」という製品は特に男性向けに販売しているものではありませんでしたが、皮脂アプローチにフォーカスした製品だったため男性にもニーズがあるはずだと思いました。そこでVOCEでは、メンズ美容家であり美容インフルエンサーの宮永えいとさんがエッセイ漫画の主人公(38歳男性)に、この製品の使い方をレクチャーするという企画を紙面とデジタルの両方で展開しました。
この製品は宮永さんが実際に使っておすすめしているものだったので、その熱をぜひ読者に伝えたいと思いながら企画しました。また、この製品開発者が男性だったことから、美容インフルエンサー(宮永さん)×開発者×サイエンティストの三人が製品の良さやその裏付けを話す記事も展開し、男性が理解しやすいようロジカルな要素も重視しました。
製品の良さやその使い方を伝えると同時に、読み手の気持ちや価値観を動かすことがメディアの大きな役割だと思っています。このエッセイ漫画の中では、読み手が自分を投影するであろう主人公が、このアイテムを使うことでメイクに興味を持つまでの気持ちの移り変わりに重点を置きました。そこにリアルな宮永さんがレクチャーする現実味ある演出で、自分事として受け入れてくれた読者が多かったのだと思います。この製品はもともと期間限定販売だったのですが、利用者の幅が広がり定番製品化しました。
吹春:プレスルームに呼んでもらったり、開発者の人に説明してもらいながら試すことができたりというような環境だと、ちゃんと理解できて取り入れやすい。もちろんリアルでそういう体験をできる場所も必要ですが、PRコンテンツでもそういう要素が取り入れられているといいかもしれませんね。
周囲の理解促進や始めるるきっかけを作る戦略を
さまざまなコミュニケーション施策を試みてきた「UNLICS」。岩田さんはローンチ半年を迎える今、さらなる製品の認知拡大に取り組みたいといいます。ここからは「インプレスカラーウェア」と「セラムme」の2つの製品の認知拡大を図るポイントについて意見交換しました。
──「インプレスカラーウェア」と「セラムme」をより認知拡大させるとしたら、どんなアプローチが考えられるでしょう。
渕さん:学生時代にメイクしていても、就活の時に化粧直ししづらい経験をしたり、社会人になったら周囲の人、特に上の世代がやっていないからと辞めてしまう人も多い。先ほども話に出ましたが、やりたい人ができる環境を作る、つまり「そうじゃない人」の理解を広めないといけないと思います。じゃあ、普段メイクをしない人がメイクをするのはどんなときだろうと考えてみると、写真を撮るときとかですよね。例えば「父の日」に「インプレスカラーウェア」をプレゼントしてみるとかいいかもしれない。「メイクして親子で写真撮影」みたいなキャンペーンを展開して、製品に触れてもらう・体験してもらう機会を作るのはアリじゃないでしょうか。
肌の悩みに合わせて選べる美容液「セラムme」は、より男性の共感を得られる人達に使ってもらうのがいいかもしれません。美容液ってちょっとハードル高い気がしますが、「セラムme」は一度使うと良さがわかる。例えば、メイクやスキンケアのイメージから遠い芸人やスポーツ選手に使ってもらうのはどうでしょうか。異なる肌質のスポーツ選手が控室でそれぞれ使う──。個人の肌質に合わせてタイプが選べるところなども訴求できますよね。
画像引用:欲望のままに美を追求する化粧品ブランド「UNLICS(アンリクス)」乳液と美容液の充実感を兼ね備えた5種類のミルクセラム「セラムme」を1月12日(木)新発売。
吹春:僕が「インプレスカラーウェア」に触れたきっかけは、「緑って塗るとどうなるんだろう?」というところから。ベージュやオークルなどの肌色に近いものはイメージできますが、緑とか青って手を出しづらいと思うんです。例えばパーソナルカラー診断をやると自分に似合う色、必要な色がわかりますよね。そういうものと組み合わせたリアルイベントとかいいと思います。「セラムme」は01の香りがすごく良くて気に入ってるんですが、香り推しにしたり、リラックスアイテムとして勧めたりするのも良いのではないでしょうか。これも体験ですよね。
メンズコスメは最初のハードルが高いと感じている人が多いので、手軽さも含めて触れてもらうことが一番だと思います。また、先ほどのVOCEの企画ではないですが、普段メイクをしていない男性をモデルにして変化を見せるのも新しい反応につながりそうです。
渕:緑や青の話にあるように、インフルエンサー(吹春さん)でも知らないことがあるということは、一般の人にはもっと丁寧に広めていく必要があるということですよね。男性はベージュをたくさん並べられても選べない。その点「インプレスカラーウェア」は4色展開でわかりやすいし、初心者が入りやすいブランドだと思います。
最後に岩田さんは、「とりあえずいろいろなことにトライしてきた半年間でしたが、お話を聞いていてまだまだ男性に自分事化してもらうことの難しさを再確認できました。選びづらさなど男性が壁に感じる部分がフォローできていないなと感じたので、もっと丁寧なコミュニケーションも必要だなと感じました。今後のコミュニケーション施策に活かせればと思います」と締めくくりました。
ターゲットを取り巻く環境も整えるコミュニケーション施策を
訴求したいことを明確に反映したメッセージやコミュニケーション施策は、ターゲットだけでなくその周囲の人を巻き込み、さらなる効果を生み出すことがあります。製品に込められたコンセプトや想いがターゲットに伝わることは、時にその人の生き方に影響したり、それが大きく派生して社会現象になったりする可能性も秘めています。
しかし、訴求するためにただ強いメッセージを発信すればいいというわけではありません。ターゲットではない人たちに不快感や違和感を抱かせないものにすることが重要です。そのためには、すべての受け手がどう感じるかを常に想像しながらコミュニケーションを取ることが求められるでしょう。
<セミナーのポイント>
- トピックスの定期発信で「話題化」の継続と豊富な記事ネタを提供する
- ターゲットと親和性の高い情報発出手段の選定がカギ
- ターゲットの「してみたい」を実現するために「そうじゃない」人の理解を促進する
- ターゲットが感じる「壁」を知ることがさらなる施策につながる
新たなコンセプトで話題となった「UNLICS」の広報PR活動。届けたい相手に合わせたコミュニケーションを図ることで、新たなファン層を獲得することにつながるかもしれません。
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