プレスリリース配信サービスを運営するPR TIMESでは、7月27日に「飲食業界におけるブランドコンセプトを体現する広報活動」をテーマにしたユーザー会を開催しました。
第一部では、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」を展開する株式会社スープストックトーキョーの蓑毛萌奈美さんが、「記念日に関する広報活動」をテーマに登壇。
第二部では、アメリカ・サンフランシスコ発の話題のコーヒーショップBlue Bottle Coffeeを日本で展開するBlue Bottle Coffee Japan合同会社の吉田恵さんを迎え、「店舗オープンと想いを込めたプレスリリース」について話を伺いました。
株式会社スープストックトーキョー
大学卒業後、設立3年目のPR会社へ入社。ベンチャーから大手まで、さまざまなクライアントを担当する。その後インテリアデザイン事務所に入社し、秘書兼広報業務を担当。2013年にフリーランスのPRコンサルタントとして独立。2015年、株式会社スマイルズ入社。現在は株式会社スープストックトーキョーと株式会社スマイルズの両方に在籍し、各事業ブランドのPRからスマイルズのクライアント案件のPRに従事。
Blue Bottle Coffee Japan合同会社
東京都出身。大学卒業後、アパレルで海外ブランドの国内営業や買い付けなどを経験後、PR会社に入社。化粧品、観光、飲食などライフスタイルの領域で、日本市場での展開やブランディング・PRを担当。2019年にBlue Bottle Coffee JapanにPRとして入社。現在はBrand Marketing ManagerとしてPRを含むコミュニケーション全般を担当。
第一部 Soup Stock Tokyoに学ぶタッチポイントが光る記念日の広報活動
母の日や父の日、七草の節句など、記念日に合わせた期間限定商品を提供するSoup Stock Tokyo。オリジナリティあふれる記念日に関する企画の数々は、タッチポイントが緻密にマッピングされた広報活動によって商品の魅力が効果的に発信されています。
ここからは、株式会社スープストックトーキョーの蓑毛さんに、記念日の企画について大切にしているポイントを詳しく伺いました。
記念日を通じて「何を届けたいのか」を明確に
──記念日の企画を考える際、どのようなことから始めればよいのでしょうか。
記念日はPRを訴求しやすいタイミングのひとつですが、闇雲に記念日に合わせて商品を展開すればよいということはしていません。大切なのは「その企画を通して誰に何を届けたいのか」という部分。私たちも毎回記念日の企画を考える際に相当な議論を重ねています。
例えば、母の日や父の日は毎年決まった時期に来るわけですが、「今年はこんな思いを届けたいからこの方向性で」ということを意識して、ポスターのキャッチコピーや店頭でお客様にかけるひと言まで考えます。
去年もやったから今年もやるというルーティンにするのではなく、「なぜ自分たちがやるのか」「その記念日にSoup Stock Tokyoとして何を届けたいのか」ということを明確にすることが重要。そのうえで、「自分たちが描きたいシーンは何か」を考えることが大切だと思います。
──描きたいシーンを考えることで、記念日の企画がより具体的にイメージできそうですね。
シーンを具体的に考えることによって、届けたい相手が変わってくると思います。例として、Soup Stock Tokyoを出た後にお客様が母の日であることに気がつき「久しぶりにお母さんの声を聞いてみよう」と電話をかけるシーンなんてすてきですよね。私たちが考えた企画によって、どんな思いを抱いてもらいたいかを想像することが大切。そのうえで、どんな店内のディスプレイにするかを決めていくのが理想的だと考えています。
実際に、母の日に店内の席を少し減らして、メッセージカードを書くスペースを設けたこともありました。座席数を減らすということは売り上げの減少につながる可能性もあるけれど、お客様が来店をきっかけに記念日を思い出して、母親とのコミュニケーションを取るシーンが生まれてほしいと思ったからです。
──店舗のディスプレイなど、クリエイティブな部分まで広報PRとして関わっているのでしょうか。
どこまでを広報PRの業務にするのかは、会社ごとに立場や状況が違ってくると思いますが、私たちの場合は、自分たちの業容や役割を決めないというのが企業の全体的なスタンスとして浸透しています。「描きたいシーン」を実現するために、やるべきことを考えるというのが大前提としてあるので、お客様の体験設計からコミュニケーションツールはもちろん、リリースのメインビジュアルのディレクションなどあらゆるところに関わっています。
ベストなプレスリリースの配信時期
──プレスリリースを配信するタイミングに悩む方も多いと思います。記念日の企画の情報公開時期はどのようにして決めていますか。
プレスリリースごとに目的設定が違うため、一概にお話をするのは難しいですね。
一方で、母の日や父の日などの記念日には1ヵ月から1ヵ月半くらい前にはプレスリリースを配信しています。実際には母の日や父の日が近づいてきてから購入される方が多いのですが、少しずつ検討し始めるタイミングに情報を届け、実際ギフトを検討するタイミングでSoup Stock Tokyoを想起していただければと思っています。
また、新店舗がオープンするときには、弊社だけではなく出店するデベロッパー様側の情報解禁日も関わってくるので、弊社だけで決定はできませんが、新店舗の地域周辺の方々に知っていただきたいので2、3週間前の配信をひとつの目安にしています。目的に応じて適切なタイミングをその都度考えながら決めるのがよいと思います。
「世の中の体温をあげる」ことにこだわった記念日の広報PR
──毎年、「七草の節句」に絡めたお粥メニューが好評だそうですね。この企画をやろうと思ったのはなぜですか。
Soup Stock Tokyoは「世の中の体温をあげる」という企業理念を掲げていて、私たちの仕事はすべてそのために行っています。これは、1,400人ほどいるパートナー(アルバイト)を含めてみんなが理解しています。どんな企画を考える場面でも「誰の体温を」「どうやってあげるのか?」ということをしっかりと議論します。
「七草の節句」に絡めた七草粥も企画段階から「世の中の体温をあげるために私たちに何ができるのか」ということを考えました。日本のすばらしい食文化を継承するということもひとつですが、とにかく目の前のお客様一人ひとりの健康を願ってその想いをしっかりと届けることで、「今日、Soup Stock Tokyoに来て良かった」と思っていただきたい。そして、健康だけでなくお客様の心の体温をあげるということを続けていきたい、という企業理念にもマッチする企画だと思ったのです。
参考:Soup Stock Tokyoで味わう、日本の食の文化。七草の節句は、「瀬戸内産真鯛の七草粥」を2023年1月6日(金)、7日(土)の2日間、ご用意します。
──「七草の節句」をPRするうえで何か工夫したことはありますか。
これまで1月7日単日のみでの提供だったのですが、2023年は初めての試みとして、1月7日の「七草の節句」の前日である6日も含めて2日間で七草粥を提供しました。
Soup Stock Tokyoの店舗は、主に駅や商業施設、オフィス街などで展開しており、平日に来店される方も多いんです。ところが、今年の「七草の節句」は土曜日だったので、1日限定のメニューを土曜のしかも3連休の初日に提供するというのは大変悩ましい状況でした。
社内でも多くの議論を重ねた結果、平日に来店されるお客様にも健康を願いながら七草粥をご提供したいということで、今年は初めて2日間提供することにしました。もちろん、「七草の節句」は1月7日なのに、その前日に提供することはどうなんだろうかといういろいろな意見も挙がりましたが、私たちが本当に実現したいことは、お客様の健康を願い、その想いを丁寧に届けることで体温をあげることなので、そこを含めてお客様に伝えていくべきと考えました。
──売り切れなかった七草粥は翌日の8日にも販売したと聞きました。
期間限定のメニューというのは、その期間が終わった瞬間に店頭から下げられ、廃棄されてしまうことも少なくありません。私たちの場合、七草粥に使う七草は契約農家さんにお願いをして作っていただくのですが、ロスを出したくないのでギリギリの量で発注し、閉店前に七草粥が売り切れてしまうということがありました。
でも、やはり閉店ギリギリに七草粥を楽しみに駆け込んできてくださったお客様にもしっかり提供したいという思いがあったので、今年は例年よりもかなり多い数量の七草粥を準備しました。すべての店舗で売り切ることができなくても、「お客様に届けられないということは避けよう」と最初の企画段階で決めました。その結果、売れ残ってしまったとしても廃棄するのではなく、自分たちの思いをしっかりと伝えたうえで、翌日の8日にも販売しようとなったのです。
結果的にたくさんのお客様に七草粥をご提供することができ、ほぼロスを出すこともなく今年もご好評のうちに終えることができました。
メディアに圧倒的なファンになってもらう
──最後に、メディアアプローチで意識していることを教えてください。
メディア関係者はもちろん、デベロッパーの担当者やお客様など、PR担当としてのステークホルダーというのはたくさんいますが、その一人ひとりに圧倒的なファンになっていただくことを目指しています。
「Soup Stock Tokyoが大好きなので取材させてください」という熱量の方の記事というのは、深みや温度感がまったく違うんです。読者の方にもその熱量は伝播すると思っています。そのような関係をつくるためには、ただプレスリリースを送るだけというのではなく、日ごろからのコミュニケーションを丁寧に重ねていくことが大切だと思います。
第二部 ブランドの飛躍を後押しするBlue Bottle Coffeeの広報PR
新店舗のオープンや新商品の発売など、飲食業界には認知拡大のきっかけとなる大切なタイミングが多数あります。その好機を逃さず効果的に広報PRするためには、どのようなポイントを意識すればよいのでしょうか。
第二部では、Blue Bottle Coffee Japan合同会社でBrand Marketing Managerとして活躍する吉田さんに、店舗オープンに関する広報PRのコツを伺いました。
客層を広い視野で想定したブランディング
──現在、世界で約100店舗を展開するBlue Bottle Coffeeですが、海外出店の1店舗目が日本だったそうですね。
Blue Bottle Coffeeは2002年にカリフォルニアのオークランドで誕生し、中国、香港、韓国など100店舗以上を展開しています。創業者のジェームス・フリーマンは日本が大好きで、日本の喫茶店文化に非常に影響を受けていたこともあって、海外出店の1店舗目を東京の清澄白河にオープンしました。
国によってブランドのフェーズが異なるので、ブランドのコミュニケーションはかなり違うのですが、その中で日本は「ブランドビーコン」と呼ばれています。ブランドが形成される中で日本の影響が大きいこと、また店舗数が24店と少ないので、新しい企画をスピード感を持って始められるため、日本から新企画がスタートすることが多いんです。
──日本のBlue Bottle Coffeeでは、どのような店舗を目指しているのでしょうか。
カフェということを考えると、一番はやはり地元のお客様に愛されるお店になるといいなと思っています。例えば、清澄白河の1号店では、店内に入ると新聞を呼んでいる方や、ママ会を開いている女性たちがおしゃべりに花を咲かせていたり、ラテの写真を撮ってSNSにアップしている方や仕事をしている方、読書をしている方など、みなさんが思い思いに自由な時間を過ごしていらっしゃるんです。それが私たちにとって理想的な姿ですし、実際にそうしたシーンを目にするとやはり嬉しいですね。
──店舗のブランディングではどのような点を意識されていますか。
ブランド的な観点からすると、Blue Bottle Coffeeが大切にしているのは「デリシャスネス」「ホスピタリティ」「デザイン」という3つの要素です。
コーヒーそのものの美味しさはもちろんですが、それをバリスタがどんなホスピタリティを持って目の前のお客様におもてなしをするのか、それをどのような空間で楽しんでいただくのかということを重視しています。
お客様やコラボレーション先、メディアもこの要素に共感してくださいます。Blue Bottle Coffeeのファンになってくださる可能性のある方々なのかなと思っています。
具体的には、毎日コーヒーを楽しまれている方々だけでなく、デザインや建築に興味のある方や、クラフトマンシップに興味のある方、素材や産地へのこだわりに共感してくださる方など、より層を広げた視点で考えるようにしています。
新店舗の広報PRは社内外のコミュニケーションを大切に
──実際に新店舗をオープンする場合、広報PRとしてどのように関わっていくのでしょうか。
最初に行うのは、新店舗オープンに関するさまざまな情報を共有するためのヒアリングシートを作成して社内に共有するということです。新店舗のオープンでは、この時点ですべてが決まっているということはほとんどないので、まずはヒアリングシートを配布して、各部署の情報を収集することが大切だと思います。
このような流れが築かれていなかったときは、担当者や必要なことがわからずコミュニケーションが錯綜していたこともありました。それがヒアリングシートを作ったことによって、社内全員が一度に確認でき、同じ情報を共有できるようになったと思います。
<ヒアリングシートの主な内容>
- 発売日や開店日、開始日、期間などのローンチスケジュール
- 社内・社外への情報解禁日
- 正式名称・住所・価格・限定情報・販売チャネルなどの詳細
- 校正確認先など社外の関係者は誰か
- 企画概要、実施の背景や想い、サービスの特徴など
──ヒアリングシートで情報収集した後はどうしますか。
集まった情報を元にしてチームで会議をします。担当者が新店舗で出す商品の特徴などを書き出していますが、こちらがアピールしたいポイントというのが、必ずしもメディア側に刺さるわけではありません。PR的に掘り下げたい部分やブランドとしての想いをどのように伝えていくべきか話し合い、最終的にどういう形で対外的に伝えていくのかをまとめていきます。
場合によっては企画自体を提案していくこともあります。例えば、期間限定を企画する場合には、限定商品を出したほうがよりメディアに取り上げられやすいなど、メディアフックを意識したポイントを広報PR側から企画や運営の担当者へ伝えることもあります。
──新店舗オープンの際に心がけていることはありますか。
メディアの方とのリレーションも継続していくことが大切です。新店舗オープン後も、その店舗に関するニュースについては、メディア側が記事しやすいようにブランドの情報や想いを用意して、コミュニケーションを取っていくように心がけています。
メディアの視点に立ったアングルやフックを意識
──Blue Bottle Coffeeのプレスリリースは、ブランドの思いがかなりのボリュームで入っている印象があります。
その企画を行うことになった背景や、なぜその土地に出店しようと思ったのかなどは必ず伝えるようにしています。例えば、その土地が持つ歴史や特徴を反映したカフェのコンセプトやそこに対する想いは、しっかり伝えたい部分ですね。そうした想いを伝えるときも、できるだけメディア側の視点に立って、より伝えやすいアングルやフックなどを意識することを心がけています。
また、単発のニュースだけで終わらせないために、期間限定のトピックや新しい取り組みなど、どのような要素がメディアフックとなるのかを社内メンバーにも周知し、企画自体にPR目線を生かしてもらうようにしています。
想いやストーリーをプレスリリースに込める
──そのほかに、プレスリリースを作成する際に意識していることはありますか。
一歩引いた目線でPR的に魅力を分解し、まず何を伝えるべきかを考えたうえで構成してプレスリリースに載せていくことが大切なのかなと思います。
例えば、今年の3月に、京都の南禅寺にある「ブルーボトルコーヒー 京都カフェ はなれ」の2階に「Blue Bottle Studio -Kyoto-」がオープンしたことを伝えるプレスリリースを配信しました。
Blue Bottle Studioは予約制のコーヒーコースを提供するお店で、創業者のフリーマンが空間の演出からコースの内容はもちろん、そこでどのような音楽を流すのかまで、すべてを含めてプロデュースをした、今のBlue Bottle Coffeeの中で最高の体験をしていただける場所になっています。
実際にこうしたプレスリリースを作成する場合、そのコーヒーがどれほど希少なのか、1つひとつのメニューのマニアックさや技術的な話、素材的な話に偏ってしまいがちなのですが、それよりも「どういう想いでここを作ったのか」「どんな体験をしていただきたいのか」というところを丁寧に伝えることを意識しました。
参考:「Blue Bottle Studio – Kyoto -」オープン
共感と届けたい想いを大切にした広報PR
新商品の発売、季節のイベント、新店舗のオープンなど、飲食業界では広報PRに注力すべきタイミングが定期的に訪れます。こうした重要なマイルストーンは、ブランドの認知度を高めるだけでなく、生活者との関係を築く絶好の機会となるでしょう。
登壇者の方々が話した内容の中から、広報PR・情報発信に関する考え方のポイントを下記にまとめます。
- 記念日の企画は、「何を届けたいのか」、「どんなシーンを描きたいのか」を明確にして、内容や訴求するターゲットを決める
- 目的に応じてプレスリリース配信のタイミングを決める
- 新店舗オープンや新商品発売の際は、ヒアリングシートを作成し社内で共有する
- ローカルコミュニティを大切にしたリレーションづくり
- プレスリリースでは一歩引いた目線で想いやストーリーを伝える
これから情報発信に注力したい、記念日に絡めた広報PR施策を展開したいと考えている飲食業界の方々の参考になれば幸いです。
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