中小企業では広報PRに時間を割くことができず、プレスリリースもなかなか配信できないという声を聞きます。
プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESでは、8月23日に「中小企業における効果的な広報PR活用」をテーマとしたユーザー会を実施。イラスト入りはんこ「ずかんシリーズ」が大人気の株式会社岡田商会常務取締役の岡山耕二郎さんに登壇いただき、ヒット企画の背景にあるプレスリリース活用について伺いました。また、プレスリリースを作成する際のポイントでは、実際に配信された岡田商会のプレスリリースだけでなく、岡山さんが広報PR活動のサポートをしている企業の事例も交えて解説。当日、お話いただいた内容を元にまとめています。
株式会社岡田商会 常務取締役
大阪のハンコ町工場の二代目。独自の商品企画とプレスリリースを活用し1200以上のメディアで紹介、累計15万本以上のヒット商品に。2021年より中小企業にPR活用の有用性を広めたいという想いからPR事業部を設立。これまで100社以上のサポートを行う。2023年10月よりPR TIMES公認プレスリリースエバンジェリストとして活動。
どん底からの起死回生。実感した広報PRの力
本日は、倒産危機だったわが社がプレスリリースの力で赤字から脱出し、ヒット商品を生みだした経緯とともに私自身が実感した広報PRで大切なポイントについてお話しします。みなさまに持ち帰っていただけるようなヒントを、できるだけたくさんお伝えできればと思っています。
注文殺到、たった4件から5000件へ
岡田商会(大阪市)は、1980年に私の父が創業した会社です。現在は販売累計15万本以上の「ずかんシリーズ」など人気商品が生まれていますが、8年前(2015年当時)までは業績が低迷しどん底の状況でした。社内の雰囲気も暗く、離職者も続出。いよいよ倒産が現実味を帯びてきたときに、できることはなんでもやろうと考えていたんです。そんなとき、たまたま友人が経営する保護猫カフェに遊びに行き、そこで出会った一匹の猫を引き取ることになりました。猫好きの友達も増え、彼らに喜んでもらえる商品を作ろうと、当社にとっては初めてのオリジナル商品となる猫のイラストが入ったハンコ「ねこずかん」を開発したんです。
今振り返ると、以前は私自身が「ハンコには付加価値をつけられない」と思い込んでいたせいで、お客さまの本当のニーズに気づけなかった。どのような事業であっても、まずは当時の私のような「付加価値をつけられない」という思い込みを捨てて、差別化や付加価値によって強みを創出することが一番大事です。
ただ、みんなで渾身の力を込めて作った「ねこずかん」でしたが、発売後フタを開けてみたらたったの4件の注文しかありませんでした。
そんな状況を見た私の妻が、プレスリリースを配信してはどうかと勧めてくれました。妻は別の仕事でプレスリリースの効果を実感したとのこと。見よう見まねで、PR TIMESから1本プレスリリースを配信してみました。するとその日の夕方から注文が入り始め、なんと3日間で5000件を超える注文が殺到。本当にたくさんのメディアで取り上げていただき、テレビや新聞などの取材依頼も舞い込みました。プレスリリースの威力に驚くとともに、もっと広報PRに注力しなければいけないと実感したんです。
プレスリリースから得た新たなチャンス
プレスリリースを配信することで認知度が上がったり、売り上げにつながったりするのはもちろんですが、ほかにもメリットはたくさんあります。例えば弊社の場合、メディアに取り上げていただくことで人気キャラクターとのコラボレーションの提案をいただいたり、自店舗で販売したいという依頼をいただいたりなどといったビジネスチャンスが広がったのは大きな効果です。
さらに採用面でもメリットがありました。「ずかんシリーズ」の認知度が上がったことで、商品に共感してくれた方が入社を希望してくれるようになったのです。
そして何より、既存社員のモチベーションが上がり、社内が活気づいたことが一番うれしかったですね。付加価値がないと価格競争するしかなく、社員もせっかく作った商品がたたき売りされているのを見るのはつらかったと思います。今は、商品がメディアで紹介されたり、SNSにお客さまがコメントを投稿されたりすると、みんな喜んで見ています。
「共感されるプレスリリース」を生む3ヵ条
では次に、私がプレスリリースを作成する中で、具体的にどのような点を工夫しているのか紹介します。
会社のメッセージとお客さまのニーズが重なる部分を見つける
プレスリリースを作成する前段階として、広報PR担当者の方に行ってほしいのが、経営者との認識のすり合わせです。広報戦略は経営戦略に紐づいている必要があるため、経営者が何を考え、どんな情報を発信していきたいのかを、しっかりとヒアリングすることが重要になります。
そしてもうひとつ行ってほしいのが、お客さまへのリサーチです。お客さまがなぜ自社商品を選んでくださっているのか、その理由を明確に把握しておくこと。それによって、情報発信が一方通行になるのを防ぐことができます。会社として発信したいことと、お客さまが求めていることとが重なる部分が広報PRで扱う領域です。それをいかに調理して伝わる形にするかが、広報PR担当者の腕の見せ所といえるでしょう。
自分が強く共感できるところを探す
実際にプレスリリースを作成するうえで、意外に重要なのが「自分が共感しているかどうか」という点です。自分が共感できていない情報は、いくら発信しても伝わりづらい。なぜなら、熱量が伝わらないからです。熱量を伝えるためには、自分が強く共感できるポイントを探すこと。可能なら商品の企画段階から参加できると、企画にPR目線が加わり、広報PRもスムーズにできると思います。
共感できるポイントを押さえたうえで、プレスリリースを作成する際には以下の要素を意識するようにしています。
<プレスリリース作成時のチェックリスト>
- タイトルをパッと見ただけで、情報の価値が伝わるか
- タイトルの最初の一文は、目を惹く書き出しになっているか
- 「なぜこの商品・サービスをつくったのか」を、わかりやすく説明できているか
- 「この商品・サービスが選ばれる理由」を、わかりやすく説明できているか
- 本文の内容をイメージできる写真や画像が入っているか
- 共感されづらい情報や、不要な情報を長々と書いていないか
配信後の反響を次の企画へ活かす
プレスリリースを配信したあとは、必ずメディアに掲載されているかどうかを見に行きます。掲載されている記事はすべて熟読し、メディアの方がどんな点を評価してくださったのか、どんな言葉を使って商品を紹介してくださっているのかをチェックして、次回プレスリリースを配信するときの参考にするんです。同じように、お客さまのSNS投稿や商品レビューなども細かく見て、言葉づかいや表現を次回の参考にしたり、そこからヒントをつかんで次の企画につなげたりしています。プレスリリース配信後のこういった取り組みも、広報PRの重要な仕事だと思いますね。
「キャッチーさ」にとことんこだわるPR施策
ここからは実際に配信したプレスリリースで工夫したポイントを紹介していきます。どの事例もキャッチーさや伝わりやすさにこだわって作成しているんです。
事例1.意外性をタイトルに。メディア視点を意識した「ねこずかん」
「ねこずかん」の発売を紹介するプレスリリースのタイトルでは、硬いイメージのハンコと猫のファンシーさとのギャップを表現しています。本文では銀行印として実際に使えることを伝えたり、ハンコの内容が一目でわかる画像を入れたりするなどの工夫をして、キャッチーさが伝わるようにしました。実はこのプレスリリースは配信前日に読み返して、大幅に情報を削除しているんです。こちらが伝えたいことをたくさん盛り込んでいましたが、「メディア側からすると必要だろうか?」と疑問になり、その視点で添削していくと、不要な情報を長々と書いていることに気づいたんです。こういう視点も、メディア掲載を目指すうえで大事だと思っています。
参考:事務的でお堅いハンコのイメージをくつがえす!?猫をこよなく愛するハンコ屋店主が作った、かわいいネコのイラスト入りはんこ「ねこずかん」。
事例2.社会性とおもしろさにこだわった「猫とこたつと思い出みかん」
食品販売の有限会社nakatxさまの広報サポートとして作成したプレスリリースでは、みかんを販促するための企画を一緒に考えました。みかんのおまけとして、猫ちゃん専用の段ボール製のこたつをつけるという企画です。売り上げの一部を保護猫活動へ寄付したり、ノーブランドのみかんを採用することで農家支援につなげたりと社会貢献性を取り入れました。社会貢献性と企画のおもしろさ、そしてかわいさのバランスが結果に結びついた事例です。
参考:ネコ好きに愛されて累計5,500箱突破!日本初の猫専用こたつ付きみかん『猫と、こたつと、思い出みかん』2月22日の「スーパー猫の日」に本年度の予約受付スタート。
事例3.独自性を追求した「ヘブンジャパン?知らんけど。ポスター」
女性下着メーカーの株式会社HEAVEN Japanさまのプレスリリースでは、会社の強みが社会に認知されていないという課題を解決するために、会社を紹介するポスターを作成しました。しかしこういう発信は一方的になりがちなので、それを避けるためにとことんキャッチーにしました。大阪の会社なので関西弁で訴えるコピーや、笑いの街・大阪らしいインパクトの強いビジュアルイメージを挿入するなどし、会社の独自性を伝えています。女性下着ブランドの多くはオシャレなイメージが多いので、このような広報PR施策で差別化できた事例です。
参考:「ヘブンジャパン?知らんけど。」そんな方にもクスッと笑いながら見てほしいー。大阪の下着屋さんがそんな想いで本気で作った10枚のユニークなポスターを公開。
まとめ:「伝えたいこと」と「求められていること」の重なりを見つけるのが広報PRの役割
1本のプレスリリース配信が会社の大きな転換点となったという岡山さんのお話から、広報PRの力をあらためて実感できたセミナーでした。
今回のセミナーにおけるポイントはこちらの4つです。
- 商品やサービスには、差別化と付加価値が不可欠
- 良い商品ができても、広報PRを通して知ってもらうことが必要
- プレスリリース配信は認知度向上だけでなく、新たなビジネスチャンスにつながる
- 自社が伝えたい情報と、お客さまが求めている情報を調査し、その重なりをうまく伝えることが広報PRの役割
中小企業にとっての広報PRのヒントをたくさん学ぶことができたのではないでしょうか。自社でできていること、これから取り組みたい課題に合わせて、ぜひ明日から取り入れてみてください。
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