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【スタートアップ企業向けセミナー】感覚頼りから再現性ある広報PRへ|カウシェ×LayerX

【スタートアップ企業向けセミナー】感覚頼りから再現性ある広報PRへ|カウシェ×LayerX

スタートアップの事業を加速させるのに、欠かせない広報PR。

PR TIMESは2025年11月13日に、株式会社カウシェで広報を担当する原田七穂さんと、株式会社LayerXでPR・ブランディングマネージャーを務める山田聖裕さんをお招きし、「感覚頼りの広報を設計された再現性ある広報へ」をテーマにスタートアップ企業に向けたユーザー会を開催しました。

「脱シェア買い」を掲げた広報PR施策によってアプリダウンロード数累計500万を突破したカウシェと、年間127本(2025年11月時点)のプレスリリースを配信し「AIカンパニー」への認知転換を進めるLayerX。

本レポートは、両社のお話をもとに、BtoC・BtoBそれぞれに特化した広報PR戦略と、その具体的なノウハウをご紹介します。

株式会社カウシェ 広報担当

原田 七穂(Harada Nao)

大学在学中から越境ECのスタートアップ立ち上げに参画し、コンテンツマーケティングから実店舗運営まで経験。以降も一貫してスタートアップに携わり、キュレーションEC「Cart」や美容医療の口コミ・予約サービス「トリビュー」にてマーケティングや法人営業を担当。2022年よりカウシェの広報に従事。

株式会社LayerX PR・ブランディング マネージャー

山田 聖裕(Yamada Kiyohiro)

ブログなどCGMサービスを提供する株式会社はてなを経て、2015年にSaaSや経済メディアを提供する株式会社ユーザベースに入社し、コーポレートPRや採用広報、ブランディングなどをリード。2022年、株式会社LayerXに入社し現職。コーポレートPR、採用広報、事業PR、ブランディング、秘書チームなどを担当する。

定着したサービスイメージを塗り替える

カウシェ:認知を変える鍵は「脱・〇〇」の言葉選び

当社は、「日常に楽しさを」をミッションに、お買い物アプリ「カウシェ」を運営している会社です。2020年9月のリリース時は、複数人で一緒に食品や日用品を購入することでお得に買える仕組みを導入した「シェア買いアプリ」としてサービスを開始。硬いイメージを持たれないよう、「共同購入」ではなく「シェア買い」という言葉で表現し、アプリを浸透させ、私が入社した2022年には、「シェア買いと言えばカウシェ」という認知がすでに確立しはじめていました。

しかし2023年、シェア買いモデルの成長に限界が見えてきたことを受け、当社は「発見型EC × 野菜がもらえる」お買い物アプリへとピボットしたんです。新しい「カウシェ」は、ユーザーの皆さんがアプリ上の農園ゲームで育てた作物を実際にもらえたり、その時々の気分に寄り添った商品がフィードに流れてくるなど、わくわく感を味わいながらほしい商品が見つかる仕組みになっています。

ただ、一度確立した認知を変えるのは本当に難しくて。正直、2年経った今でも試行錯誤していますが、メディアに取り上げていただく際に「脱シェア買い」というフレーズを使ってもらう工夫を重ね、少しずつ手応えを感じているところです。

広報PR活動はBtoC・BtoB・採用広報の3つを軸にしていますが、近年は特にBtoCに力を入れています。「カウシェ」のユーザー層には自宅でテレビをつける方が多いことから、テレビへの露出拡大にかなり注力しているんです。

カウシェさま×LayerXさまレポート01

LayerX:「AIカンパニー」への認知転換を

LayerXは、「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに、複数のAI事業を展開しています。主軸である「バクラク」は、2021年に提供を開始したバックオフィス効率化のためのAIクラウドサービスです。請求書処理サービスからスタートしたのですが、経費精算や法人カードといった新サービスが公開されています。

そのたびに、「今期は経費精算の認知を取りに行こう」「次は法人カードで」と、半期ごとにOKRを設定してきました。広報PRの目的を漠然と「メディアに出たい」「バズりたい」と考える方もいると思いますが、大切なのは何を実現したいのかを明確にすること。私は経営陣や現場のメンバーへの丁寧なヒアリングを通して、自社のビジョンと、社会との差分を見立てることを大切にしています。

2025年は、「AIカンパニーとしての認知獲得」を目標として掲げ、その一環として、4月の行動指針「Bet AI」へのアップデートや、9月の150億円の資金調達を発表してきました。

参考:LayerX、行動指針を「Bet AI」にアップデート。AIをフル活用し、AIの社会実装を加速

参考:LayerX、シリーズBで150億円を調達。エンジニアの採用を強化し、AIエージェント事業をさらに加速

このほかにも、プレスリリース、オウンドメディア記事、Podcastなど発信を強化。数を増やすことだけが目的ではないですが、すべてを含めると月間100本ほどになります。プレスリリースに絞って数えてみましたが、2日に1本ペース、2025年11月時点で127本を配信していました。

カウシェさま×LayerXさまレポート02

BtoCはテレビ、BtoBは動画。認知拡大に成功した2社の実践例

カウシェ:消費者物価指数の公表日を狙ってテレビ取材を獲得

BtoC向けに力を入れているとお伝えしましたが、総務省から毎月発表される消費者物価指数の公表日に狙いを定め、その日のニュースに載ることを目標にしたことがあります。狙いはシンプルで、「物価高で節約疲れを感じる」「お得にお買い物したい」「そんなときにこんなアプリがある」という流れで、「カウシェ」を取り上げてもらおうというものです。

まず、帝国データバンクのサイト等で年間の値上げ動向を調べ、2025年は10月1日に2回目の値上げの波が来ることを確認。10月24日の消費者物価指数の公表日に向けて、調査リリースを出すことを計画しました。

アプリ上でアンケートを実施し、約1,000人から回答を得たのですが、8割が家計に負担を感じていることが明らかになったんです。そのアンケート結果をもとに、メディアにとってニュースバリューがある切り口を意識して、調査リリースを公開しました。

参考:【全国1,053人調査】続く「値上げラッシュ」で8割が家計への負担を実感

さらに、公表日までに取材や撮影で使えそうな素材を準備したり、ユーザーの皆さんと物価について語り合う座談会を開いたりしました。テレビ局から「PR TIMESを見ました」という問い合わせが2件あり、実際に『Nスタ』で放送されたんです。戦略的な情報発信がテレビ取材につながったのは、本当にうれしかったですね。

ちなみにカウシェでは、PRのKPIをアプリのインストール数に設定していて、テレビ視聴からの流入を計測する仕組みを独自につくっているんです。「広報PR」という枠にとらわれず、事業成長にアグレッシブに関わっていく。それがスタートアップの醍醐味だと思っています。

カウシェさま×LayerXさまレポート03

LayerX:動画で「温度感」を補完する立体的な情報発信

9月の150億円の資金調達の際、やってよかった施策があります。資金調達の背景や狙いを経営陣が説明する動画を制作し、YouTubeで配信したことです。2ヵ月経った現在、1.6万回以上再生されています。

それまでも情報発信には力を入れていましたが、テキストだけで伝えるメディアでは「人の温度感」というウェットな部分は、伝わりにくいと考えたんです。最近はAIの台頭で検索という行為をする人が減り、SNSからメディアへの流入も低下しています。こうした状況では、ユーザーとの新たな接点づくりが重要だと考えています。

一方で、こうした施策の成果を測るのがBtoBスタートアップの難しいところで、認知度調査をしようとしても、競合ブランドとの規模の差を加味して適切な結果に落とし込みづらく、調査費用も膨大になります。そのため、スタートアップの時期はアクション数にこだわり、営業がお客さまから聞く評判や、採用面談で候補者の方から聞く企業のイメージなど、現場での肌感覚を参考にするようにしています。「まだSaaS企業だと思われているな」と感じれば「AIカンパニー」としての認知獲得の施策を続けますし、「AIカンパニーとして認知されている」という手応えを得られたら次の目標を掲げる。PV数やシェア数、メディアからの問い合わせ件数といった数値も追いつつ、こうした定性的なデータを組み合わせて、世の中の見方がどう変わってきたかを確認してきました。

カウシェさま×LayerXさまレポート04

【質疑応答】全部署のSlackチェック、生成AI対策

ここからは、当日セミナー会場で寄せられた質問や議論の一部を抜粋し、お二人の回答と合わせてご紹介します。

── プレスリリースのネタはどのように集めていますか。LayerXの、2日に1本という配信ペースの秘訣も気になります。

原田さん/カウシェ(以下、敬称略):私は、全部署のSlackチャンネルを毎日読み切っているんです。開発チームのチャンネルで新プロダクトの話題が出ていたらどんなものを新たに開発してるのか直接聞きに行きますし、営業の動きを見て新しい案件があると知ったら詳しく聞きます。オフィスでは立ち話から新たな情報を得て、オンラインではSlackを追うのが私の情報収集スタイルです。

山田さん/LayerX(以下、敬称略):LayerXはとてもありがたいことに、開発チームから「新しい機能ができたのでプレスリリースを出したい」という依頼が来る文化になっています。「情報を発信することで、より情報が集まる」という価値観が浸透しているのだと思います。

── 配信の間隔や量について、意識している点を教えてください。

原田/カウシェ:以前、記者の方から「カウシェ、半年間リリース出してなかったでしょ?何かあったのかなって。」とお声をいただいたことがあります。ピボット後は公開できない情報も多く、なかなかニュースをつくれずにプレスリリースを出せていなかったんです。「記者さんは見ているな」と実感しました。以来、公開できる情報はできる限り出すこと、間隔を空けすぎないことを意識しています。

山田/LayerX:「ここは注目してほしい」というタイミングを逃さないようにしています。例えば資金調達の発表時は、プレスリリースの公開日に合わせてオウンドメディアの記事やYouTube動画も公開し、並行して準備していたCTOの書籍予約開始日も調整しました。その1週間は、LayerXとしてのAI発信が毎日続くような状態にできました。一方、そうした大きな発表がない時期も、地道に発信を継続していくことも大切だと思っています。

── 言葉選びやトーンについては、どのような工夫をしていますか。

原田/カウシェ:BtoC向けアプリなので、「EC」ではなく「お買い物アプリ」と表記するなど、親しみやすい言葉を選ぶようにしています。社内で「KAUCHE / カウシェ」「お客様 / お客さま」などで表記揺れが起きないよう、外部発信用の表記ルールをつくって全社に公開しています。

山田/LayerX:今は大AI時代なので、生成AIに認識されやすい言葉遣いを意識しています。たとえば、プレスリリースでは会社名やサービス名に対して、「バックオフィス」「AI」「クラウド」といったキーワードを近づけて記載するようにしています。こうした日ごろの積み重ねもあり、今では生成AIで「経費精算でおすすめのAIサービスは?」「AI活用に積極的な企業は?」と検索すると、AI上で推薦してもらえることも増えてきているようです。

まとめ:2社に共通するのは「事業に貢献する広報PR」

広報PR歴は約3年と約15年、BtoCとBtoB。対照的なお二人のようですが、共通しているのは「事業への貢献」という明確な目的があることです。

今回のユーザー会でのお話から見えてきた、スタートアップが情報発信力を高めるうえで参考にしたいポイントは以下の5つです。

  • 消費者物価指数の公表日など、ニュースになりやすいタイミングを狙って戦略的に情報発信を行う
  • スタートアップは、情報発信が途絶えると「活動が停滞している」と見られやすい。定期的な発信を心がける
  • 会社の大きな節目には、プレスリリース・オウンドメディア記事・動画などを集中的に投下して注目度を高める
  • テキストでは伝わらない「人の温度感」を動画で補完する
  • AIに認識されやすいキーワードをプレスリリースに盛り込むなど、生成AI時代を見据えた言葉選びをする

一見「その会社だからできること」に見える取り組みも、自社の強みや課題に合わせてカスタマイズすることで実践が可能です。

今回紹介された実例から自社に合ったアプローチを見つけ、独自の広報PR戦略をつくる一歩としていただければ幸いです。

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この記事のライター

PR TIMES MAGAZINE執筆担当

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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