SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回は、2020年6月30日に東証マザーズに上場した、株式会社グッドパッチさんの取り組みをご紹介します。
同社に上場承認が降りたのは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除された2日後のこと。ウィズコロナ時代の上場前後のPR事例として、多くの広報担当者が知りたい情報ではないでしょうか。前編では、上場承認前に広報チームがどんな準備をしていたか、裏側を聞きました。
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上場が見えて、最初に取り組んだのはチーム作りだった
ー まずは東証マザーズ上場、おめでとうございます。上場によって、社内は変わりましたか?
高野:どうでしょう。デザイン会社初の上場ということもあり、「デザインの力をひとつ証明する日」として、「デザインの力を信じる全ての人をエンパワーメントできる機会にしたい」と思って準備を進めてきました。でも実際は、世の中からの期待を肌で感じて、社員が大きくエンパワーメントされた出来事になったと思います。
上場を経て、やっとスタートラインに立たせていただいたという気持ちが強いです。『ONE PEACE』に例えるなら「グランドライン編」が始まるところ。デザイン会社初の上場企業として、いよいよこれからが本番なのだ、当社のミッションである「デザインの力を証明する」ときがきたのだと改めて背筋が伸びました。でも、それ以外はそんなに変わらないですね。
権平:そうですね。社内は、引き続き粛々と、ひとつひとつの案件に向き合っているというかんじです。
杉本:代表の土屋との距離感も変わらずですね。
ー 上場前の広報対応について教えてください。
高野:始まりはおよそ1年半前ですね。土屋からは「IPOをして大人の会社になる」という趣旨の発言をなんども聞いていましたが、この頃から、伝わってくる情報が明らかに上場を意識した内容に。
当社は8月末決算。2019年9月から始まる新しい期の全社OKRのObjectiveとして、企業ミッションである「デザインの力を証明する」が掲げられることが事前にわかったんです。「これは絶対にくる…!」と感じて、広報力を強化せねば、と。最初に着手したのはチーム作りでした。
杉本:もともと、高野と私で広報活動を手がけてきましたが、組織図上での正式なチームではなかった。改めて「広報を組織化しよう」ということになって、7月に採用活動を開始しました。募集開始から2週間で入社が決まったのが権平です。
権平:あれは本当に「ご縁」でしたね。もともと高野のことはX(旧 Twitter)でもフォローしていて。ベンチャー企業の広報って、メディアをはじめとする「外向け」のコミュニケーションスキルが注目されることが多い中、「広報という立場で組織に向き合い、組織崩壊から回復させた人がいるんだ……」と勝手に尊敬していたんです(笑)。
ー 新しいチームメンバーとして、外せない要件はありましたか。
高野:「組織に高潔である」ということです。たとえ自分が追い詰められても会社を守れる胆力のある人。そこに共感してくれる人に来て欲しい、という想いがありました。
権平:求人票は、企業のスタンスが現れる場所だと思うんです。この言葉をみたとき、自分が広報として大切だと思っていたことを綺麗に言語化してくれていて鳥肌が立ったのを覚えています。
ー 採用面談中は、上場間近であるということはどの程度知らされましたか?
権平:「IPOも視野に入れています」くらいですかね。それが、入社2日目の全社総会で一気にいろんなことが発表されて…「え、こんなにすぐくるの?!」と驚きました(笑)。
高野:新年度の組織図に「PR&PXグループ」というチームが設立されました。私はプレイヤーからマネージャーに。そこからスイッチをかえて、メンバー育成にフルコミットしました。
ー チーム作りから着手した、というのがすごく興味深いです。
高野:IPOの広報に関わらず、企業広報は一人ではやりきれないと思うんです。それにもかかわらず、スタートアップの広報は一人体制、という慣例のようなものがずっと残っている。どんな職種もそうだと思うんですが、強みやスキル、志向性も個人ごとに違いますよね。だからこそ、短期間にメンバーを育成して分業ができる体制に整えられたことで、やりたいことを諦めなくていい状況が作れました。
スタートアップの広報は「上場まで一人で対応した」という実績が評価されがちだと思うんですが、私はそういうことには興味が持てず……。それをチームでやることの方に価値を感じたんです。それは、グッドパッチがチームで働くことを大切にする社風だったから、ということも大きいかもしれません。
ー 具体的に、メンバー育成では何を重視しましたか?
高野:各領域で自走できる広報になってもらわなければならない、ということで、プロジェクトマネジメントスキルを磨き込んでもらいました。個人的に、広報のスキルにおいて差が出るのはそこだと思っています。だから私はなるべく手を離すようにして、どんどん任せていきました。
杉本:自走できる広報として、私たちに求められたのは「ひとりでもプロジェクトを前に進められるようになること」。それをゴールとして自分で何が必要なのか考え、前進するために困っていることをどんどん相談して欲しい、と高野からはいつも伝えられていました。
「IPOという体験」をデザインする
ー 具体的な上場時期が見えてきたのはいつ頃でしたか?
高野:2020年の年明けです。そこから「IPOブランディングチーム」が発足し、動き出しました。私たちPR&PXグループのメンバーのほかに、クライアント企業のブランド構築などを手がける「ブランドエクスペリエンス(BX)チーム」から2名アサインしてもらいました。
権平:当時私たちは並行してコーポレートサイトのリニューアルプロジェクトを手がけていました。そのなかで、Goodpatchがこれまでやってきたことと、これからどういう存在であるのかを言語化していき、「Design to empower」というキャッチコピーが決まります。さらにこのプロジェクトを通じて「Stay blue(青いまま生きる)」という言葉も生まれました。
杉本:デザイナーがチームにいてくれたおかげで、言葉の力だけではなく、愛されるビジュアルデザインに落とし込むことができました。
今回の上場を記念して、上場日当日は社内でセレモニーを行い、全社員にノベルティを贈呈したんです。それらのノベルティや、投資家さまに向けた目論見書にあしらったのは「ブルーローズ」。もともとは「不可能」という花言葉だったそうですが、人々の努力により「夢叶う」という花言葉に変わったこの花をIPOストーリーを語る上でのモチーフにしていこうという構想は、土屋が長年温め続けてきたものでした。
ノベルティの準備も全てチームで。社内セレモニーはオンラインとオフラインで同時開催したので、オンライン参加者には事前に自宅へ送付しました。箱に入って届いた際に、「どんな受け取り方・開封の仕方をしたら感動につながるか」「どういう順番で出て来たらより良い体験につながるか」を考えながら、ノベルティを箱に入れる順番などを決めました。ヨーロッパオフィス宛のものも含めて200箱、みんなでマスクして箱詰めしました。
ー 200個の手作業…! ほかに、準備を進める上で大変だったことは?
高野:例えば目論見書は、納期が短くて……投資家さま向けの後半部分は事前にIRチームが用意してきたのですが、私たちIPOブランディングチームが担当した表紙と、前半のカラーページは実質1.5週間ほどで納品しました。
ただ、時間がない中でしたが、奇をてらいすぎずに「デザインの力を表現する」というこだわりは見せられたと思います。巻頭ページに「表紙のデザインコンセプト」が書かれている目論見書って他にないと思うんですよ。「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というミッションに合わせて、背表紙にもハートを入れたり。
杉本:目論見書を「欲しい」と言ってくださる方がいてびっくりしましたね。土屋がX(旧 Twitter)で呼びかけたところ、200人以上の方から問い合わせがあり、私たちも驚きました。
権平:私は主に社外向けの広報活動を担当しているんですが、この4〜6月は特に慌ただしかったですね。実は、クラウドワークスペース「Strap」という新プロダクトを約2ヶ月ほど前倒しして4月23日に発表したんです。
今回、他社の上場企業さんに何社かヒアリングして、上場時の広報について教えてもらったり各社の発表時の発信を調べたりしていました。その中で上場申請後には「沈黙期間」をつくることを知り、大きなニュースは各所と調整するようにしました。
ー 目論見書の提出後は「上場日までは粛々と、足元をすくわれないように」というのが常識みたいですね。
権平:そうなんです。そのため申請後に大きなニュースを出すのは避けようと、事前に時期をずらすことを広報から事業部に提案しました。その発表対応とIPO準備が同時進行で進んでいたので……。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で2月中旬から全社でリモートワーク体制になったこともあり、社内各所とはコミュニケーションを丁寧にするように心がけました。
高野:4月には新卒研修もあって、私は研修につきっきりでした。その間はPRの実務は2人にほぼ任せっきりでした。
ーありがとうございます。後編では、いよいよ上場承認当日の動きについて聞いていきます!
今回のPR事例ポイント
- 上場対応の広報チームに必要なのは「自走する広報」
- プロマネスキルの習得をPRの基礎力として徹底
- 言葉とビジュアル、両方のチカラを使う
(撮影:原 哲也、撮影は7月頭に実施しました)
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