「広報」で地元に貢献したい。Uターン転職で鹿児島の本格焼酎を世界へ発信ーー濵田酒造広報・川野修郎

いつかは地元に戻って貢献したい。そんな想いがあっても、地方でも変わらず成果を出せるか不安に思うPRパーソンは多いのではないでしょうか。

大阪で大手ゲーム会社の広報IRを担当されていた川野さんは、鹿児島県にある焼酎メーカー・濵田酒造株式会社に広報として転職。約3年前に生まれ育った地元に戻りました。異業種、しかも地方へ転職しながらも、前職での経験を活かしたユニークな企画で商品の魅力を発信されています。

そんな川野さんに、PRパーソンがUターンする難しさややりがいをお伺いしました。

濵田酒造株式会社 マーケティング部コミュニケーション課 課長
川野 修郎(かわの しゅうろう)
鹿児島県出身。関西大学仏文学科卒業後、広告業界にて営業や制作業務に従事後、語学力を磨くべく北米へ渡る。日英バイリンガル情報誌(カナダ)や日系新聞社(アメリカ)の編集および営業を経験。帰国後は、大手ゲーム会社の企業広報等を経て、2017年にUターン。現在は、濵田酒造の広報担当として「攻めの広報」を積極的に実践し、企業や商品の認知度拡大のために奮闘中。故郷の本格焼酎を世界へ広めるのが目標と意気込む。

苦渋の決断だったUターン

ー まずは川野さんのご経歴を教えてください。

大学卒業後に、広告業界で営業やコピーライターの経験を積んだ後、英語でのコミュニケーションスキルを身に付けるために北米で働きました。カナダで現地初の日英バイリンガル情報誌の創刊に携わり、アメリカでは日系の新聞社で広告提案営業を経験。グローバルな視点でのコミュニケーションスキルを磨きました。

帰国後は、大阪に本社を構えるゲーム会社に入社し、海外PRや企業広報に携わりました。Uターン前の最後の仕事は、国内にeスポーツの魅力を広めるために東京に出張し、メディアキャラバンを行ったことでしたね。

ー 地元にUターン転職しようと思われたきっかけはなんですか。

祖母の体調不良の知らせを受けたことです。妻も同じ鹿児島出身なので、お互いの親や子供の教育環境など、将来のことを真剣に考える機会になりました。

当時の仕事がとても充実していましたので、新たな道を歩むことに戸惑いはありましたが、考えに考え抜いた末、当時の上司にUターンへの決意を伝えました。会社へ報告した後、気持ちを切り替えていく中で、「どうせ帰るのであれば、自分の広報スキルを活かして地元鹿児島に貢献したい」という想いが芽生えましたね。

ー Uターンを考えてから、広報職での転職先はすぐ見つかりましたか。

いえ、これが新卒時代の就職氷河期さながらに苦労したのが実情でした。

というのも、「広報」という機能は通常、企業の本社組織内にあり、当時の鹿児島には「広報」という部署のある企業が少なかったように思います。私は広報スキルで地元に貢献できる業界にこだわっていたので、広報職を募集している鹿児島本社の企業を探すことは容易ではありませんでした。

Uターン専門の転職エージェントに登録したり親族の紹介を受けるなど、あらゆる方法で転職活動を行い、本格焼酎などを製造販売する濵田酒造マーケティング部広告宣伝課で新たな人生のスタートを切ることとなりました。

ー 広報としての入社ではなかったのですね。

マーケティング職としての採用でした。私自身がこれまで培った広告業界での経験やメディアリレーションなどの広報経験を活かしつつも、「マーケティング」という新たな分野にも挑戦することで成長できるのではと思い、入社を決意しました。

なにより、私にとって本格焼酎は馴染みのある地元の銘品。幼少の頃、祖父が焼酎を飲む時に、私がお湯を入れてお湯割りをよく作っていました。そんな思い入れのある商品を世界に広めることに関わっていける。こんなに面白い仕事はないと思いましたね。

鹿児島県内には本格焼酎に関する情報は多く発信されていますが、県外にはまだまだ伝えきれていないとも感じていました。さらには世界から見ると、日本酒は「Sake」として認知されていますが、「Shochu」はまだまだこれからです。業界の発展には国内外への情報発信が不可欠だということを強く認識していたので、広報という手段に固執することなく、国内のみならず世界へも情報発信できるチャレンジングなポジションである点も魅力的でした

地方での広報活動に苦戦、できることから積み重ねた

ー 実際にUターンで転職されてみていかがでしたか。

酒類業界という新たなフィールドでの挑戦でしたので、企業や商品について学ぶことが多く、少しでも早く新しい環境に馴染もうと必死でした。

また、当時の社内は「広告宣伝」を重点的に活動していく体制だったため、「広報」という職種がどんな役割を持つのかが、十分に浸透していませんでした。地元の新聞社やTV局とのリレーションは構築されていましたが、全国紙や通信社などの鹿児島支局との繋がりがなく、自分が貢献できることがたくさんあると実感したのを覚えています。

ー なるほど、地元メディアとのリレーションが不十分な中、どのように広報活動をスタートさせたのでしょうか。

全国紙の鹿児島支局への挨拶まわりから始めました。私が入社する前から、新商品のプレスリリースは業界紙へ発信されていたので、さらにニュース性を加えるなど内容をブラッシュアップし、地元鹿児島でのメディアキャラバンを開始しました。

記者クラブや支局に訪問しながら、前職でも広報をしていたこと、Uターンで地元に戻ってきたことなど、まずは私自身を知ってもらえることを意識しました。「広報経験がある」ことでメディア関係者にも安心していただけました。県内には専任の広報担当を置く企業が少ないため、「広報の窓口があると、何か情報が欲しい時に連絡できる 」と好意的なお言葉をいただけた時はとても嬉しかったですね。

ー その後、地方での広報活動はスムーズに進みましたか。

今もそうですが、「地方から全国への情報発信」の難しさを実感する日々でした。

大阪で広報活動をしていた時は、本社が大阪府内にあったこともあり、取材に来ていただきやすい環境にありました。しかし、地方が取材先となると物理的な距離があり、出張費用がかかるなどの理由から興味を持っていただいても取材になかなか繋がりませんでしたね。ただ、メディアキャラバンを重ね、福岡、大阪、名古屋、東京など、活動範囲を広げていくうちに少しずつですが取材していただける機会が増えました。

取材が決まったら、周りの協力を得ながら想定問答やプレスキットを用意してチーム全体でメディア対応したり、自治体や異業種のコラボレーションの企画を立てたり……こうして情報発信を重ねていくうちに、年々露出数が増え、徐々に広報体制の基盤ができあがりました。

前職時代から実践していた「攻めの広報」のマインドを常に持ちながら、とにかく社内でネタの種を探しては、現在もメディアに提案し続けています。

海外PRやゲームとのコラボなど、これまでの知見をフル活用

ー 地元にUターンされましたが、世界の酒類品評会の授賞式に出席するなど活動の幅が広がっていますね。

時には自社の広報活動の域を超えた仕事に携わってきました。2018年の創業150周年を記念して、ライチのような香りの本格芋焼酎「だいやめ〜DAIYAME〜」を発売し、酒類の国際品評会「インターナショナル ワイン&スピリッツ コンペティション(IWSC)2019」で焼酎部門の最高賞を受賞。現地からの情報発信の役割を担い、ロンドンでの受賞式に私も出席することに。

受賞した事実だけではニュースバリューは少なく、また国内メディアのロンドン支局はEU離脱の取材案件が多く、取材してもらえる確率は非常に低い状況でした。そこで、品評会を主催するIWSCへ「日本にIWSCの取り組みをアピールできれば、日本からの出品が増えるのでは」と提案して協力を仰ぎ、主催団体から情報をいただきながら、取材価値を高めるために記者への提案を続けました。

その結果、複数のメディアが授賞式を取材してくださり、ニュースが配信されると翌日のAmazonの日本国内酒類ランキングで上位にランクイン。企業や商品の認知度向上だけではなく、売上にも寄与する情報発信に繋がりました。

ー 前職での経験を活かしたプロモーション企画も手がけられていましたよね。

濵田酒造グループの薩州濵田屋には、「赤兎馬」や「呂布」などの三国志関連の商品ブランドがあります。今年、歴史シミュレーションゲーム「三國志」が35周年を迎えることから、三国志ブランドを持つ両社のコラボ企画を持ちかけました。

コラボ焼酎「薩州三國志」を発売したり、ゲーム内に実際の本格焼酎をアイテムとして登場させてバーチャル空間内に消費者とブランドの接点をつくったり。ゲーム会社での経験を生かした企画です。

この施策を通じて、ゲームファンと焼酎ファンの両方に訴求できました。しかも、ゲーム中に消費者とブランドの接点を創出した点が支持され、通信社やマーケティング系メディア、エンタメ番組などからも取材があり、結果的に幅広い層へリーチできました。また、アイテムコラボは、アジア言語にもローカライズ配信されたことから、海外メディアでも記事になり、国外へのブランディング活動にもつながりました。

参考:日経クロストレンド 2020年6月10日
この“焼酎”はゲームに効く コーエーテクモ「三國志」がコラボ

ー 今後の抱負をお聞かせください。

今年度から、部署名が「マーケティング部 コミュニケーション課」となり、これまで以上にステークホルダーとの対話が求められる仕事をしています。「社会」に向けたPR活動に取り組み、日本国内のみならず海外でも企業や商品の名前を知っていただき、焼酎王国鹿児島から世界へ本格焼酎の魅力を伝え続けていきたいと思います。

ー いつか地元に戻って、地元に貢献したいと思っているPRパーソンに向けてメッセージをお願いします。

Uターンを決意する理由はひとそれぞれですが、皆さんが地元を離れて経験してきた全てが働く糧となります。「自分のスキルで地元に貢献したい」という強い想いを忘れないでいれば、企業文化や地域性の違いなどのギャップに悩むことがあっても、さらに自分の限界を越えられるチャンスにも巡り合えるはず。自分を信じて、新しい環境の中で会社の魅力を発信し続けてください。

好きなものを伝え続けて世界に挑む

人とのコミュニケーションが好きで、広報も広告もメディアづくりの仕事も、語学力を活かしながら、国内外を問わず仕事をされてきた川野さん。25年振りに地元鹿児島に戻り、業界もエリアもいままでと違う環境下での再スタートから、地道な努力を積み重ねたことでいまに至っています。

Uターン転職を考えながらも一歩が踏み出せない人は、きっと少なくないはず。「地元の商品で世界を目指すというのは何にも代えがたいやりがいであり、無限の可能性が広がっています」。川野さんの頼もしい言葉と行動が、地元を愛するPRパーソンの背中を押してくれることでしょう。

(写真は濵田酒造さんおよび川野さんよりご提供いただきました)

この記事のライター

永井玲子

永井玲子

関西在住の広報パーソン。東京と関西を行き来しながらメディアリレーションを行っています。新卒入社の会社ではルート営業。2社目に入った会社で未経験ながら広報に任命され、ゼロから立ち上げを行ったことで広報のキャリアがスタート。自分が良いと思った人・物・サービスを応援するために広報をやっています。日々頑張っている全国の広報パーソンが正しく評価されるよう、PR TIMES MAGAZINEで想いを紹介できたら良いなと思っています。

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