「すべての明日に、はなやぎを。」をコーポレートメッセージに掲げ、花とみどりを通じた豊かな社会実現を目指す株式会社日比谷花壇。業界で先駆けて花の宅配システムを導入し、全国の花店をつなぐネットワーク「イーフローラ」の設立や、花のサブスクリプションサービス「ハナノヒ」の立ち上げなど、創業150年を超える歴史の中で、時代に合わせた新たな価値を生み出してきました。
全国に約190拠点を構え、多岐にわたる事業を展開する創業150年を超える歴史ある会社です。しかし、そうした挑戦を重ねてきた同社が、広報PRに本格的に取り組み始めたのは、ここ20年ほどのこと。
本記事では、同社広報室の青木渉さんと中村友美さんにインタビュー。広報PRに注力するようになった背景や、そのあり方を模索してきた過程、各部署との連携、これから取り組んでいきたいことについて伺いました。
株式会社日比谷花壇(東京都港区):最新プレスリリースはこちら

株式会社日比谷花壇 広報室 グループリーダー
株式会社日比谷花壇に新卒入社後、リテール事業部にてフローリスト兼店長として複数店舗の運営を経験。全社プロモーション企画を経て、2021年より広報室に所属。現在はプレスリリースの作成やメディア対応を中心に、企業広報業務全般に従事。

株式会社日比谷花壇 広報室
個人顧客向けのプロモーション企画や複数の店舗勤務を経て、広報室に所属。季節の花や飾り方、贈り方の情報をメディアやSNSなどで発信。地域の小学校と連携した「花育」活動も担当。
「身近にある日比谷花壇」を広める広報室
──本日はよろしくお願いします。早速ですが、日比谷花壇の広報PRの体制を教えていただけますでしょうか。
青木さん(以下、敬称略):はい、よろしくお願いいたします。現在、広報室は私と中村の2人体制で運営しています。主に私は、メディア対応をはじめ、プレスリリースの作成から配信までを担当し、中村はXとFacebookの運用などを通じ、お客さまとのコミュニケーションを担っています。
また、日比谷花壇にはフラワーショップやEC・オンライン販売などの「リテール事業」のほか、商業施設の季節装飾やフラワーグラフィクサービスを手がける「法人事業」、ブライダルに携わる「バンケット事業」、ご葬儀に関する「ライフサポート事業」、全国各地の公共施設の管理・運営、地域創生を行う「地域創生事業」という5つの部門と、多数のグループ会社があります。それぞれに「広報委員」と呼ばれる担当者がいて、広報室と連携しながら情報発信を行っているのが特徴です。
中村さん(以下、敬称略):実は、日比谷花壇の広報PR活動の歴史は浅く、20年以上前には「広報」という概念すらありませんでした。その後、PR会社出身の方が入社したのを機に、ようやく広報体制の基盤が築かれ始めました。青木との2人体制になったのも、つい2年程前のことなんですよ。
──「日比谷花壇は単なるお花屋さんではない」というメッセージを見ましたが、広報PR活動においても意識されている点でしょうか。
中村:そうなんです。ありがたいことに、「日比谷花壇」という企業名は広く知られているものの、「高級なお花屋さん」というイメージが強いと思うんです。でも実際は、先ほど青木から説明させていただいた通り、大きく5つの部門でさまざまな事業を展開しています。OEMとして日比谷花壇という名前を出さずに運営しているものも多数あり、実はみなさんの生活の身近にいる企業だと思います。花屋以外にもいろいろな事業を展開していることを知っていただき、「花とみどりの総合企業」と思っていただくことが、私たち広報室の目標です。

社内連携から生まれる持続的な発信
「〇〇の日」や季節性を重視し投稿内容を企画
──中村さんは主にSNSを担当されているそうですが、投稿内容などはどのようにして決めているのでしょうか。
中村:公式Xの投稿は、前月の月末に翌月のスケジュールを立てていますが、「〇〇の日」に関する投稿の反響が特に高いため、私たちの事業と親和性のある記念日をピックアップするところから始めています。また、私たちの会社は商材が「花」なので、季節感のある話題や花のお手入れに関する情報も欠かせません。さらに、各事業部からの発信依頼や、社内で予定しているさまざまな取り組みを組み合わせて、投稿内容を決めています。
また席にいるときには、「日比谷花壇」というワードでどのような投稿がされているかを常にチェックしていますね。即時性が高い分、日比谷花壇がどのような文脈で語られているのかをリアルタイムで把握し、乗り遅れないようにしっかりと反応しています。
各事業部からのネタ出しとフィードバックで発信力を強化
──最近ではプレスリリースの配信も増えていますよね。
青木:現在の2人体制になったタイミングで、まずは日比谷花壇がさまざまなことに取り組んでるということを世の中に知っていただきたく、「プレスリリースの配信数を増やすこと」を目標にしました。というのも、それまではプレスリリースの配信自体があまり積極的にはされていなかったんです。まずは、各事業部やグループ会社から情報をたくさん集められる体制を整え、連携しながら発信数を増やすことに注力。その結果、昨年は前年比で2倍以上の配信を実現できました。今年は次のステップとして、ただ情報を発信するだけではなく「質を高める」ことが目標です。
「いかに読み手の心に響くのか」、まさに「伝える」から「伝わる」への転換を意識して今まさに試行錯誤しているところです。
──「情報をもらえる体制」というのが、先ほどお話のあった「広報委員」ということでしょうか。
青木:そうですね。毎月1回、各事業部とグループ会社の広報委員数十人が集まる「広報委員会」を実施し、配信したプレスリリースと、その反響などを共有しています。皆さんからもらった情報がどのように世の中に出ているのか、どういう部分を強化すればもっと広がったのかを振り返っているんです。
また、各広報委員から事前に集めた情報の中から、詳しく聞きたいものをみんなの前で発表してもらっています。プレスリリースとして配信するのか、もう少しカジュアルにSNSでの発信にするのかは各担当者と決めていきますが、広報室と1対1でやりとりをするよりも、みんなの前で話をしてもらうことで、新たなアイデアや横軸での共創が生まれる可能性があると思うんです。
現場の「伝えたい」を「伝わる」に変える役割
──広報PR活動をするうえで、大切にされていることは何でしょうか。
中村:やはり、コミュニケーションが何よりも大切だと思います。広報室の仕事は、ひとりでは何もできないということを常々感じているんです。私たちは情報を社内外に発信する部署ですが、そもそもその「情報」を生み出しているのは各事業部やグループ会社。だからこそ、他部署の方たちといかに円滑にコミュニケーションを図るかが、とても重要だと感じています。
青木:そうなんですよね。特に、質の高い情報を発信するためには、商品やサービスの裏側にある思いや背景の部分、スペック以外の部分を引き出すことが必要です。そのためにも、日頃から事業部の方々としっかり話ができる関係づくりを大切にしています。
──おふたりは、店舗での勤務経験もあると伺いました。その経験が広報PRに活かされていると感じることはありますか。
中村:お店にいたときの現場感覚はとても大切ですね。花の知識がなければ、花の魅力を伝えることはできません。また、お客さまからよく聞かれる質問は、メディア関係者の方からの質問と重なることも多く、当時何百回、何千回とご説明してきた経験は、活きていると思います。
青木:私も「花の知識があるからこそ書ける文章」というのは、日々意識している部分です。例えば、他企業とのコラボレーション企画を行い、それぞれがプレスリリースを出す場合には、「花のこういう部分にこだわった」「この花にはこんな意味がある」など、私たちだからこそ書ける視点を盛り込み、花とみどりを通じて生まれる付加価値を届けられるように心がけています。

──会社として広報PRの歴史が浅いというお話もありましたが、苦労されたことや大変だったことなどもあったのではないでしょうか。
中村:そうですね。プロモーションと広報PRの考え方や視点の違いで、ギャップを感じたことはあります。プロモーションは、商品が売れることが最終的な目標ですが、私たち広報は「日比谷花壇が世の中にどう思われるか」ということに視点をおいています。お客さまに信頼していただいて、良いイメージを持っていただくために情報を発信しているので、その違いは大きいと感じていますね。
青木:あとは、「伝えたい」と思っていることと「伝わるもの」は別であるという感覚です。自分たちが「伝えたい」ものだけを発信していても、ステークホルダーには響きません。事業部の方々が「これを伝えたい」と持ってきてくれる情報のままでは生活者やメディアに届かないだろうな、と感じることもあります。私たち自身まだまだ勉強中ですが、「こういう切り口はどうですか」と方向転換をしたり、情報を引き算や足し算をしながら整えていくのが私たちの役割だと思っています。
──そうした視点を取り入れて工夫した事例はありますか。
中村:6月上旬に配信した「環境配慮型アレンジメント」のプレスリリースはそのひとつです。花業界では近年、花を挿すための石油由来の吸水スポンジの使用が環境へ負荷をかけるという点から課題視されています。そこで日比谷花壇では、吸水スポンジがなかった時代の知恵をヒントに、ヒムロスギという針葉樹を細かく切って器に詰め、そこに花を挿すという昔ながらの手法を再活用しました。器にはバイオマスプラスチック製のオリジナル花器を使うことで環境に配慮した商品として開発しています。
そのプレスリリースを作成する際、事業部からはアレンジが完成した画像が送られてきたんです。でもメディアや生活者の方々が知りたい情報というのは、ヒムロスギを取り入れた背景や、どういう構造になっているのかという部分だと思い、「器とヒムロスギが並んでいるところ」「ヒムロスギを器に入れたところ」「完成したところ」という3ステップで撮り直しをお願いしました。

参考:6月5日「環境の日」に合わせ、石油由来資源の低減を実現した新時代の環境配慮型アレンジメントを発表。渋谷のポップアップ「サステナチャレンジショップ」にて先行販売。
「環境配慮」と「ウェルネス」のリーディングカンパニーを後押し
──「環境配慮型アレンジメント」は、まさに受け手を想定された事例ですね。そのほかにもおふたりが取り組む中で反響が大きかった取り組みや印象に残った案件はありますか。
中村:東京都足立区に「舎人公園(とねりこうえん)」という、ネモフィラ畑で有名な公園があるのですが、ご存じですか。今年4月、この公園で開催された東京都のイルミネーションイベントを、日比谷花壇が受託しました。この広報PR活動は、手応えを感じた取り組みのひとつですね。
プレスリリースは、イベントの1ヵ月前と開催時の2回配信。予告の時点で複数のメディアから取材のお問い合わせをいただきましたが、開催当日の配信時には、それを上回る反響でした。このプレスリリースでは画像や動画にもこだわって、開催後のプレスリリースでは、実際のイルミネーションを撮影した写真や、イルミネーションスポットを空から捉えたドローン動画も用意したんです。
その結果、メディア向けに質の高いプレスキットを提供することができ、朝の情報番組では、用意した動画がそのまま放送されました。そのほか、多くの取材につながり、企画そのものに魅力があったことはもちろんですが、広報PRとしても大きな手応えを感じた事例です。
参考:「『花と光のムーブメント』舎人公園 ネモフィラの海に映るトネリの星たち」2025年4月11日(金)~29日(火・祝)開催
参考:4月11日(金)から足立区・舎人公園のイルミネーション「『花と光のムーブメント』舎人公園 ネモフィラの海に映るトネリの星たち」がスタート!
──動画を含めたプレスキットは、メディアにとってもありがたいですね。最後に、『April Dream』での発信も拝見しましたが、これから広報PRとして目指していくことを教えていただけますでしょうか。
中村:日比谷花壇は、コーポレートメッセージとして「すべての明日に、はなやぎを。」を掲げています。このメッセージには、「人々の暮らしの明日を彩り、豊かなものへと変えていく」という思いが込められているのですが、そのままでは抽象的で伝わりにくいのではないかと感じていました。そこで『April Dream』では、コーポレートメッセージをより身近に感じてもらえるよう、かみ砕いた表現で発信したんです。また、日比谷花壇は、もともと庭園業から始まった会社です。戦後の復興期には、「人々の心を花で癒してほしい」と東京都から依頼を受け、日比谷公園に花屋をつくったことが原点となっています。そうした歴史も踏まえて、「花を通して人の心を元気にしたい」という思いを、「花は心のビタミン」という言葉に込めて届けました。ビタミンは、人が生きていくうえでほんの少し必要で、体内では作られず外から摂取が必要な栄養素でもあります。花も同じように、「なくても生きてはいけるけれど、あると心が元気になる」、そんな存在でありたいというのが、私たちの願いです。
日比谷花壇が大切にしている「環境への配慮」と「ウェルネス(心身の健康)への貢献」の実現、「花とみどりの総合企業」で世界をリードする企業になるために、広報PR活動を通じてしっかりと貢献していきたいと思います。
参考:日比谷花壇は日本中に「会話に咲く花」をお届けし、花とみどりを通じて笑顔とはなやぎあふれる世界を実現します。

まとめ:社内の声をつなぎ、メディアや生活者に届く言葉へ
創業150年を超える老舗でありながら、時代の空気やライフスタイルの変化を鋭く捉え、先進的な取り組みを続けてきた株式会社日比谷花壇。広報室の青木さんと中村さんは、そうした同社の多彩な活動を丁寧に紡ぎ、社会へと発信しています。
印象的だったのは、「伝えたいこと」ではなく、「どうすれば伝わるか」を重視する姿勢です。店舗勤務で培った経験や知識を活かし、メディアや生活者の視点に立った発信によって、同社の魅力や取り組みを届けています。
- 現場や商品開発者の「伝えたい」を、生活者やメディアに「伝わる」形に再構築
- 各事業部門に広報委員を設置し、月1回の情報共有とフィードバックで各部署との連携を強化
- SNSは月ごとにスケジュールを作成し、「〇〇の日」「季節感」「即時性」を意識した発信を実施
- 「知っているから書ける」「感じていたから届けられる」内容を重視した広報PR
上記は、花業界に限らず、多数のブランドを展開する企業の広報PR担当の方、少人数体制で広報PRに取り組む企業の方にとって参考にしていただけるのではないでしょうか。
広報PR活動を通じて企業が目指す社会の実現への貢献を。これからの日比谷花壇の広報PRにも注目です。
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