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仕組み化した総力戦で取材が途切れない会社へ。医療VRスタートアップ、ジョリーグッドのPR戦略

取材が途切れない会社は、メディアリレーションズをどのように考え、実行しているんだろう? そんな疑問を抱えるあなたと一緒に見ていきたいのが、株式会社ジョリーグッドさんのPR戦略です。

同社が2014年の創業以来手がけるVR事業は、教育現場や医療福祉現場での人材育成・デジタル治療に用いられ、テレビ東京系列「ガイアの夜明け」や「WBS」をはじめ、業界をリードする存在として大手紙・全国メディアに毎週のように取り上げられています

ジョリーグッドのメディア掲載歴
同社のメディア掲載履歴は毎週のように更新されている (ジョリーグッド社webサイトより)

代表の上路(じょうじ)さんにお話を伺ってみると、世の中目線での情報発信を徹底していて、事業開発側と広報担当者の役割分担が一体となってニュースバリューを見極め、磨き上げていく体制がありました。今すぐ真似できる工夫と合わせてお届けします。

株式会社ジョリーグッドの最新のプレスリリースはこちら:株式会社ジョリーグッドのプレスリリース

株式会社ジョリーグッド 代表取締役CEO

上路 健介(Kensuke Joji)

テレビ局、広告会社にて先端テクノロジー事業開発20年。
2011年から単身渡米しロサンゼルスを拠点に、北米、アジア各国で新規事業開発を統括。
2014年、株式会社ジョリーグッド創業。2015年に高精度VRラボ「GuruVR」を立ち上げ、テレビ業界トップシェアに。
2018年、VR×AI人材育成ソリューションを発表し、2019年には医療教育VR、発達障害向けソーシャルスキルトレーニングVR、介護教育VRを発表し、医療福祉業界でVR活用をリード。
2020年、精神疾患向けデジタル治療VR事業(DTx)を発表。累計22億円の資金調達に成功。映像技術・IT技術・先端テクノロジー事業開発、海外事業開発、企業経営が専門。

現場がニュースバリューを考え、CEOと広報担当者が磨き上げる

── 毎週のようにメディア掲載が続いていますね。どんな体制でPR活動を実施しているのでしょうか。

上路:PR活動は5名ほどのマーケティング戦略部の中に含まれています。広報を専属で手がけるのは2名ですね

── たった2名で、これだけ多くのメディアさんと定期的にコミュニケーションをとり続け、取材され続けるのは生半可なことではないと思うんです。秘訣を教えてください。

現場担当者が情報を整理した上で、広報担当者が発表資料の作成に着手することでしょうか。

当社では、ニュース発表を広報に依頼する際には、事業開発部門の担当者が専用フォームから申請することになっています。そのフォームの項目に少し工夫してあって。「ニュース性」「誘導先」の二つを現場サイドが明確にした状態で広報に上がってくる仕組みができているんです。

まずはニュース性。その情報で一番伝えたいことは何なのかを確定させます。それも自社目線ではなく世の中視点で考えることが重要。「発表すること」を目的とすると言いたいことを全部盛り込んでしまい、何を伝えたいのかがぼやけてしまいがち。だからこそ、五つでも三つでもなく、最終的には一つに絞ることを重要視しています

次に誘導先。そのプレスリリースを見た記者さんが、次にどんなアクションを取ればいいのかをはっきり決めます。プレスリリースで言及した社会課題の情報など、取材や記事化を検討するにあたって調べるであろう情報の入手先をわかりやすく明記するんです。基本的なことですが、極めて重要だと思います。

この二つが決まった状態で、広報担当者がプレスリリースやメディア向けの企画書の制作に取り掛かるんです。

── 事業開発側がニュースバリューを考え抜く。広報担当者との役割分担ができているんですね。

はい、そう思います。だからこそ、これまで多くのメディアさんに取材に入っていただけていると自負しています。

── しかし、日頃PRについて考えたことがないメンバーが、ニュースバリューを一つに絞るのは、難易度が高いように感じます。

ニュースバリューを一つに絞るということは、本質を見極めるということ。このスキルが求められるのはPRの現場だけではありません。例えばちょっとした会議の連絡や議事録の共有といったコミュニケーションの場面でも、一番伝えたいことは何なのかをシンプルに要約できるかどうかは社会人に求められる力の一つではないでしょうか

PRでは、そのスキルを世の中に向けた発信に活用しているだけ。プレスリリースなら、1行目の15文字メールの件名の10文字に何を詰め込むかが勝負です。社内のSlackでもプレスリリースでも、本質は同じですよ。

自信がない人ほど、あれもこれもと詰め込みたがるんですよね。情報過多の現代において、本質的な部分まで削ぎ落とせるかどうかは、一番重要なスキルだと思っています。事業戦略でも営業でも経理でも同じ。毎週の全社会議で同じようなことを伝え続けてきているので、当社のメンバーには伝わっているかな、と思います。

ニュースバリューを見抜き、「記者が使える情報」に磨き上げる

── ニュースバリューを見抜く力を鍛えるために、できることはありますか。

そうですね……例えば、ニュースサイトを見るとき。自分がつい開いてしまうニュースのタイトルサムネイル画像を意識して見てみるのはどうでしょう。意外といろんな気づきがあると思います。

その上で、自社のニュースを「ついクリックしたくなる」情報にするためにはどんなニュース性を持たせるのがいいかを考えてみましょう。具体的にタイトルとサムネイル画像を考えてみるんです。

株式会社ジョリーグッド_上路 健介_21101202

── ニュースリリースや企画書は、どんな風に作り上げていくんですか。

広報の2人が作ってくれたものをベースに、私も現場担当者も膝を突き合わせて三者で丁寧に擦り合わせていきます。それしかありませんね。ときには喧々諤々の議論をしながら一緒に考えます。そもそもそのニュースの目的は何なのか、切り口は適切なのかまで立ち返ることも多いです。

直感的な分かりやすさも重視します。例えば細かい部分ですが、私たちのサービスではプレスリリースのサムネイル画像にVRゴーグルを入れるようにしています。これは、プレスリリースの内容を直感的に理解してもらうため。毎回入れていると「もう(出さなくても)いいんじゃないの」と言いたくなる時もありますが、世の中の視点で見直せばやっぱりあったほうがわかりやすいよね、と。

株式会社ジョリーグッドのプレスリリース
2021年5月12日配信のプレスリリースのサムネイル 
URl:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000121.000020924.html

記者さんの時間を無駄にしないという配慮から、情報を追加することも多いです。自分が記者だったら、と想像してみてください。1日に1000件以上のプレスリリースを受け取る中でたまたま最後まで読んだプレスリリースがあったとして、内容が自社アピールや製品の説明書きだけで終わっていたらどう思いますか?

それだけだと社会的に意義のある記事は書けないので、結果的にその時間は無駄になってしまいます。そうなることを防ぐには、「記事に使える」と判断してもらうための情報が必要です。信頼性のあるデータを添えるとか、何が新しいのかを明確にするとか、具体的に数字で伝える必要があります。一見すごそうに見えるニュースでも、裏が取れない情報はメディアとしては出せません。ただ「すごい」と言っていてもダメで、何がすごいのかをデータで示すしかありません。

例えば、うつ病患者向けの認知行動療法VRを開発することを伝えたプレスリリースでは、研究内容のみならず、冒頭に精神疾患とうつ病についての各種データを配置しました。こうすることで記者さんの下調べの手間を省きつつ、背景をよりご理解いただけるよう工夫したわけです。結果的に、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」や日本経済新聞などに取り上げていただきました。

株式会社ジョリーグッド_上路 健介_21101203
テレビ取材のようす(ジョリーグッド社提供)

── 個別のPR施策とは別に、年間計画や数値目標なども設計していますか?

まさに今、数値化を進めているところです。事業戦略とPRの連動は強く意識していますね。半年から1年くらいのスパンで計画を立てています。例えば、このテクノロジーをこの業界で使うのは初めてだからこの文脈で出そう、とか。

長期的な計画を立てる中で意識しているのは「うねり」です。

「この時期はこのプロダクトをこういううねりに乗せたい。だから連続でこういうプレスリリースを出していく」「この時期はこのプロダクトは一回寝かせておく」。

こんなことを考えながら情報発信全体を設計して、事業開発側から広報活動に落とし込んでいくことを重視しています。

地方テレビ局時代、自分で書いて送ったプレスリリースが会社を動かすきっかけに

── 上路さんは事業戦略上も、PRをかなり重視しているんですね。

事業を育てていく上で、社会とのコミュニケーションは避けては通れない道です。それは言い換えればPRそのもの。メディアリレーションズに限らず、講演活動やコンテスト出場など、情報を発信していくことで初めて世の中から評価を得られるんです。

私は、メディアは企業の「コミュニケーションパートナー」だと捉えています。私たちが良質なニュースを提供することで、メディアやその先の読者、視聴者にも喜んでもらえる……そんな関係を生み出すことを意識しています。そうすれば結果的に取り上げてもらえる機会が増え、世の中に注目される回数が10倍、100倍になっていくことも不可能ではないはずです。

繰り返し報道されることによって、事業自体の成長につながるのはもちろん、裏方を含む従業員のモチベーションにも大きく寄与します。「社会からこんなに興味を持たれている会社で働いているんだ」と再認識することで帰属意識も高まると思います。

── そのような考えを持つにいたった背景は?

私の最初のキャリアは、岩手にあるローカルテレビの放送局でのエンジニアだったんです。番組を制作しながら、インターネットを使った新しい取り組みに挑戦していました。当時流行っていたRSSリーダーのポッドキャストを全国のテレビ局の中でいち早く開始したんです。

でも、当時の担当者は私1人。周囲にテクノロジーに強い人もほとんどいなくて、その取り組みの意義を理解してくれず誰にも評価してもらえませんでした。そんなとき、さまざまなメディアに取り上げてもらったことにより社内で新しい挑戦がどんどん生まれていき、会社が動いたと実感できたのが、PRの力を意識することになるきっかけでした。

── エンジニアとして事業開発しながらプレスリリースも書いていた、と。

はい。そのプレスリリースがきっかけで、日経BPさんやIT mediaさん、アスキーさんなどがわざわざ岩手まで取材にきてくれて。その記事の反響を見て初めて、局内の上層部が「上路のやっていることはすごいことなんだな」って(笑)。

当時から、事業における新規性には人一倍こだわっていました。だからこそ、新しいことをやったらセットで情報発信をする。むしろ発信しないと意味がないと思っていました。今みたいにプレスリリース配信サービスなんてないので、一つひとつメディア関係者の連絡先を調べて……「ひとりPR TIMES」状態ですね(笑)。

自分が手がけている取り組みが、社会にどんな価値を提供できるのかを確かめるためにメディアにアプローチする。そして、メディアからの手応えを感じられた領域を事業でも意識的に攻める。これを繰り返すことで、会社を説得できたり、協力者が社内外に増えたり……さまざまな波及効果がありました。これが私の原体験です。

── 初めての広報活動での成功体験が今につながっているんですね。振り返って、当時うまくいった理由はどんなところにあったと思いますか。

「どうだ、この技術、すごいだろ!」という発信ではなく、そのテクノロジーが地域とどう結びついて、どんな風に貢献しているのかが記者さんにも伝わったのが大きかったと思います。

地方局だと、発信できるエリアが限られていますよね。でもインターネットやテクノロジーを使えばその壁を超えられる。地方企業にチャンスを与えられるんです。その窓口になろうとした、というところに、記者さんたちが共感してくれたのではないかと思います。

── 最後に、メディアリレーションズに悩むPRパーソンに向けて、アドバイスをするとしたら?

そうですね。メディアリレーションズを始めたばかりの頃の自分をイメージしてアドバイスするなら、やはり「ニュースは一つに絞れ」ということですかね。繰り返しになりますが、これが基本。一つに絞る勇気が出ないうちは、メディアに取り上げられることはありません。逆に言えば、一つに絞れるようになったら自然と興味を持ってもらえるようになるはずです

── ありがとうございました。

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今回の事例ポイント

  • 「ニュース性」と「誘導先」は事業開発者が決定する
  • 広報担当者は「世の中視点」と「記者視点」でニュースを磨き上げる
  • ニュースを一つに絞る勇気を持とう

地方テレビ局時代に、上路さん自身が事業開発をしながらプレスリリースを作成し、メディアリレーションズを行なっていた経験が今の経営にも余すことなく活かされていました。

メディアリレーションズがうまくいかないときは、社内の視点に引っ張られすぎて記者の視点を忘れていないか、ニュースを一つに絞れているかを確認してみると、違うアプローチ方法が見えてくるかもしれません。

(撮影:原 哲也、取材はリモートで実施しました)

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この記事のライター

青柳 真紗美

青柳 真紗美

ビジネス書の編集者から広報PRパーソンへ。AI系スタートアップや不動産テック企業のPRなどを経て、現在フリーランスで広報・PR支援をしています。メディアリレーションからオウンドメディアの編集まで「コミュニケーションを考える」のが大好物。特にニッチ領域のサービス・プロダクトが好き。「みんなが嬉しい広報・PR」をモットーにその企業の「らしさ」を届け、ファンを増やすお手伝いをしています。

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