特にここ近年で普及した「サステナブル」。トレンド化したこの言葉が耳に馴染む前から、エシカル(倫理的)な行動を追求してきた企業が、1995年イギリスで設立されたナチュラルコスメブランド「LUSH」です。
コーポレートコミュニケーションマネージャーを務める小山大作さんは、2014年にラッシュジャパン合同会社に入社。同社が大事にしている、サステナブルで終わらない「リジェネラティブ」な取り組みを社会に伝播しています。
「わたしたちがこの社会にいることで、よりみずみずしく豊かな状態の地球を次世代に残していきたい」と語った小山さん。「渡り鳥」が移動するルートの例を用いて、エシカルな環境・コミュニケーションの循環の秘訣を明らかにしました。会社が大事にしている本質を伝えていきたいと試行錯誤しているあなたに知ってほしいエッセンスです。
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ラッシュジャパン合同会社 コーポレートコミュニケーションマネージャー
1975年生まれ。PR会社を経て、2006年より米国系化粧品メーカーにて商品PRおよびサステナビリティを軸にしたコミュニケーションに従事。2009年よりデジタルマーケティングのコンサル会社にて、BtoB PRに従事。2014年、ラッシュジャパン入社。商品PRおよびブランド価値の認知向上を目的としたコミュニケーションをリード、2020年よりD&Iワーキンググループ参画、2021年よりチャリティ事業推進を兼任、現在に至る。
「渡り鳥」を追いかけて土地を再生
── 創業以来25年、「エシカルであること」を一貫して大事にされていますが、その目的や意義を教えてもらえますか?
小山さん(以下、敬称略):LUSHは、創立者6名が「化粧品ビジネスを通して、この地球上にいる人間と共存する動物が、ハッピーに自分らしく暮らせる社会になること」を願ってできたブランドです。
ブランド名のLUSHには、英語で「みずみずしい」という意味があります。LUSHのビジネスを通じて、今よりもみずみずしく豊かな状態の社会を次世代につなげていきたい。そんな創業から変わらぬ思いがあります。
そのスタンスを崩すことなく、25年で48の国と地域にビジネスを展開、全世界での店舗数は日本も含めて900店舗を超えます。エシカルでいることと、ビジネスを両立し続けてきました。
── 社会が消費において「サステナブル」を考えはじめるずっと前から、エシカルとビジネスを両立してこられたのですね。
小山:サステナブルは、諸説あると思いますが、2000年に入ってから重要視されはじめ、トレンドとして広まりはじめたのは、2015年頃にSDGsが国連で採択されたのがきっかけだと思います。
地球にある問題を解決するための共通言語として「サステナブル(持続可能)」が広まっているのは素晴らしいことだと思いますが、環境問題、そのなかでも特に気候問題は待ったなしの状態です。サステナブルだけの対応では、目の前に迫っている問題の解決は難しいと考えています。
LUSHでは、サステナブルの先を行く「リジェネラティブ(再生)」という考え方を大事にし、ビジネスを通じてその地の土壌やコミュニティ再生に貢献したいと思っています。「リジェネラティブ」をわかりやすく伝えるために、「渡り鳥」を追うなかで調達した原材料についてのエピソードを紹介します。
── 「渡り鳥」ですか……?
小山:LUSHのプロダクトには、新鮮な野菜や果物などの自然の恵が原材料に使われていますが、「渡り鳥」が移動するルートを実際に追いながら、原材料を調達することがあります。
「渡り鳥」のルートを追っていくと、ときに環境問題に遭遇します。従来、休憩地点だった場所が、森林伐採や環境汚染などにより環境が大きく変化し、水やエサを見つけられない状態になっているんです。そこでLUSHでは、渡り鳥のルートを追いながら、変わってしまった場所を、地域コミュニティの皆さんと協力してみずみずしい環境に再生させています。
そして、再生した場所で作られた原材料を購入させてもらうことで、その資金が地域経済の発展につながったり、地域コミュニティの自立につながったり……。「リジェネラティブ」の言葉の裏には、さまざまな意味合いが込められていて、持続可能な状態にするだけではなく、再生しながら新たな価値の創造につながっています。
── 渡り鳥が住める場所の再生が、あらゆる環境の循環につながるんですね。
小山:例えば、群馬県みなかみ町の「赤谷の森」では、イヌワシという絶滅が危惧されている鳥が生息しています。人工林が密集すると、上空から木の下に住んでいるエサを探せないだけでなく、太陽光が入りづらいので、動植物が生きづらく、木もやせ細ってしまうのです。
そこで狩場といって、イヌワシがエサを探せるように一部の木を伐採する取り組みが行われました。この結果、7年ぶりにイヌワシの子育てが成功することにもつながり、伐採した木でカスタネットづくりが復活されています。
またカスタネットを作るときに出る大量の木くずは、畑の肥料やお風呂を沸かす火種燃料として使われていましたが、それでも余っていました。そこに着目したLUSHのバイイングのメンバーが「何かに有効活用したい。木くずを和紙にして、ギフトボックスのラッピングペーパーに使えないか?」と提案してきました。
── 伐採した木の木くず……!
小山:クリエイティビティがすごいですよね(笑)。イギリスのバイイングチームに「素晴らしい原材料を見つけたんだけど、和紙を作りギフトラッピングとして活用したい」と提案すると、すぐに実現が決まりました。
群馬県みなかみ町の「赤谷の森」の恵みからできた木くずは、「イヌワシペーパー」と呼ばれる和紙となり、いまではギフトボックスに活用されています。
LUSHには信念の一つに『たとえ失敗してすべてを失ったとしても、やり直せる権利がある』があります。たとえうまくいかなかったとしても、そこから学べることがあると信じています。リスクよりチャレンジすることを尊重する企業文化があるので、常に新たなことに意識的に取り組んでいます。
そのほかにも、準絶滅危惧種として登録されている渡り鳥「サシバ」を追うなかで、人間の手が入ることで作り上げてきた自然である「里山の考え方」に出会いました。生態ピラミッドの頂点にいる鳥が住みやすい場所は、他の動植物が住みやすい環境でもあり、里山に人の手が入らないと、生態系が崩れてしまいます。
ずっと昔から存在していた里山も、最近では衰退してしまう場所も多くありますが、LUSHではその土地のコミュニティと共に里山を再生させています。ある里山で育ったお米からとれた、米ぬかや米粉は原材料として仕入れ、商品に使用しています。
こうした調達ができるのは、LUSHの信念やエシカル憲章が土台にあるうえで、生物多様性を守る自然保護NGOとの連携や、仕入れ先の農家さんとの直接的な関係があるからこそなんです。化粧品業界では珍しい、生産者さんの顔が見える化粧品ですね。
── パンキッシュというか、本能的ですね。
創立者が聞いたらものすごく喜ぶと思います。イギリスはパンク発祥の地ですが、世の中の物事に屈しないんですよね。自分たちが正しいと思うことは誰がなんと言おうと突き進む。前進して変化を起こしたいと思う姿勢はパンクですよね。社員として言うのもなんですが、人間味があるブランドなんです。
店舗こそ最大のメディア。広告費ゼロの社外コミュニケーションのあり方
── 長年「エシカル」な取り組みを行われていますが、LUSHのサイトには「SDGs」の言葉は一切出ていないですよね。
小山:「SDGs」が出てくる前から、ブランドができた25年以上前から、わたしたちはLUSHの信じていることに取り組んできました。世の中の共通言語となって環境や社会を意識するのは素晴らしいことだと思いますが、LUSHではSDGsを意識しているわけではないんです。意図していないので、発信するメッセージにも含めていません。
SDGsやサステナブルは、社会のムーブメントではありますが、ブランドが大事にしている根本的な軸がそれをもとに変わることはありません。CSRという言葉もトレンドのように使われてきましたが、その時も、LUSHはその言葉を使わないどころか、CSRの活動はしていません、と言ってきました。
LUSHのビジネスは、倫理観こそが原動力となっています。ビジネスの成功のために、ある部分に目をつぶって倫理観を忘れることは、LUSHにはありません。
── 日本のLUSHでエシカルな取り組みを発信しはじめたのは、いつからですか?
小山:意識的に発信しはじめたのは、2014年からです。当時の主なブランドイメージは「カラフルさ」「ポップさ」でしたが、創業から一貫して行なっている、エシカルな取り組みなども含めて、本当の意味でのLUSHの良さを知ってほしいという思いがきっかけでした。
── LUSHは広告を使っていないと聞いていますが、なぜですか?
小山:はい、一切広告展開を行っていません。化粧品業界では、売上高における広告宣伝費の割合が非常に高いと言われていますが、LUSHでは広告費やパッケージに投資をするのではなく、できるだけお客様のベネフィットに直結する原材料に費用をかけたいと思っています。そして、表現したいことや伝えたいメッセージをどう伝えるか?を問うた時に、その手段は広告ではありませんでした。
その代わりに店舗が最大のメディアと考え、ショップのスタッフが、商品にある生産者の思いを伝えたり、時には社会課題について伝えています。それはどの国のLUSHに行っても変わりません。
LUSH商品の約半分はパッケージフリーですが、日本ではパッケージを使わないでどうお客さまに提供できるのかを、10年以上トライアンドエラーして販売できました。お客さまは衛生面を気にして、パッケージフリーの商品は受け入れられないのではないか……。
そんな不安がありながら、店頭に置いてみると、お客さまから返ってきた反応はポジティブなものでした。容器も100%リサイクルで、使い終わったら返却してもらい、新たな容器に生まれ変わるような循環型の容器返却プログラムを取り入れています。
── 商品もコミュニケーションも、エシカルを土台に循環しているんですね。
小山:お客さまからは、店舗について「優しさのオアシス」や「変革の拠点」と表現してもらったことがあって、どちらも違うトーンでなんですが、本当にそのとおりだなと思うんです。
お客さまがLUSHの魅力のどの部分に共感してくださったかはさまざまですが、LUSHの存在で「自分らしくハッピーに暮らせるようになった」と言ってもらえることが喜びです。
“聴く”社内コミュニケーションがイノベーションに
── お客さまによって、いろんな感じ方があるんですね。社内でのコミュニケーションはどんなことを意識されていますか?
小山:社内コミュニケーションでは、「自分の考えを持つこと」「強制しないこと」を大事にしています。自分の感じた気づきや違和感に、正解も不正解もありません。なので結論がなくてもいいから「自分はどう感じるのか?」を自分の意見を持ち、表現できる環境を作ることを大事にしています。
またLUSHが行なっている数々のキャンペーンへの参加も強制していません。動物実験反対などのキャンペーンも、強制ではなく、参加したい人が参加しています。一人ひとりの意見が出やすい、声が通りやすい環境づくりをとても意識しています。スタッフ自身が幸せであることが、お客様を幸せにする商品作りにつながると信じていますから。
── 自分の考えを言葉にしてカタチになった事例は何かありますか?
小山:いちスタッフの声がきっかけで、全世界のLUSHでキャンペーンをすることもあります。例えば、2014年、ソチオリンピック前に開催国のロシアが「同性愛宣伝禁止法」を成立させた頃、現地ではLGBTQコミュニティがひどい差別に直面していました。そこでイギリスのいちスタッフが、同僚がそのような環境に置かれているのを黙っていられないと声をあげて、全世界のLUSHで抗議を行うSNSキャンペーンを行いました。
日本では、トイレマークの色が赤・青と固定化されていることに違和感を持ったスタッフが声をあげて、すぐにトイレマークのデザインを変更した事例もあります。
「この地球上にいる人間と共存する動物が、誰もがハッピーに自分らしく暮らせる社会になること」が叶うために、聴くコミュニケーションも大事にしているのもLUSHの特徴ですね。
── それぞれのスタッフが、LUSHを作り上げているのだと感じます。最後に今後の目標を教えてください。
小山:LUSHが大事にしている本質を伝え続けることです。社員一人ひとりが、ブランドのストーリーテラーなので、それぞれが共感を持ったことを自分の言葉で発信し続け、LUSHに共感していただける仲間を増やしていきたいですね。
「渡り鳥」がいる環境を「リジェネラティブ(再生)」していくことで、土地や地域コミュニティが再生していくように、社内や店舗でもLUSHの信念に基づいたコミュニケーションの循環から、誰かのハッピーの連鎖をつくっていけたらと思います。
今回の事例のポイント
- 創業から揺るがない信念
- 前例のないことへのチャレンジ精神
- 自らの言葉で伝え、相手の話を聴く姿勢
取材中、印象的だった小山さんの言葉があります。
「人によっては、LUSHに対して『Love or Hate』で好みがわかれることがあります。それは、わたしたちが信じている事に対する行動やメッセージが時に強烈だからかもしれません。でも、賛否があっていいと思うんです。わたしたちは完璧ではないので、そこからまた考え直すきっかけが生まれますし、信念を原動力に行動することは変わりません。最高だと思えるブランドは、どこかパンクな側面を持っていることがあると思います」
大事にしたい信念や本質がしみ込んでいるからこそ出た言葉なのではと感じました。社会や組織の空気を読みながら、もしかしたら合わせすぎてしまっているあなたに、パンクに邁進するLUSHの姿勢は、これからの未来を照らしてくれるかもしれません。
(撮影:原 哲也、取材はリモートで実施しました)
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