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17年ぶりに人口の社会増。埼玉県北本市が市民と共創するプロモーション

「思うように地域の魅力を伝えられていない」このような悩みを抱えている自治体も多いのではないでしょうか。

プレスリリース配信サービスを運営するPR TIMESは、2023年7月13日に自治体向けの広報・PRセミナーを開催。

本レポートでは、人口が減少している地域が多い中で17年ぶりに人口の社会増を達成(令和2年時点)した埼玉県北本市のプロモーションについて、シティプロモーションを担当したパブリシンク株式会社の林さん、荒井さんにお話しいただいた内容をお届けします。

パブリシンク株式会社 代表取締役/合同会社LOCUS BRiDGE 共同代表

林 博司(Hayashi Hiroshi)

埼玉県北本市で公務員を12年勤め、情報政策・広報・財政・シティプロモーション・ふるさと納税担当を歴任。17年ぶりに北本市の人口増につながったシティプロモーションなどを担当した。現在は民間企業の立場から全国各地の広報・シティプロモーション・移住促進事業などを支援。著書「自治体ふるさと納税担当になったら」「公務員が定時で仕事を終わらせる55のコツ」も出版している。

合同会社LOCUS BRIDGE 最高マーケティング責任者/埼玉県立大学非常勤講師

荒井 菜彩季(Arai Natsuki)

2012年に埼玉県本庄市に入庁後、都市計画やシティプロモーションに携わった後、より良いまちづくりを目指して埼玉県北本市役所に転職。北本市のシティプロモーションとふるさと納税に携わり、2022年には「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2022」を受賞した。

転出率がもっとも多い20~40代へのアプローチ

埼玉県北本市「改善必要性の背景」

埼玉県北本市は東京まで電車で約50分と通勤・通学に便利なベッドタウンです。しかし、2009年(平成21年)末に70,278人だった人口は、2019年(平成31年)末時点で6万人6千人台にまで減少。特に生産年齢人口の中でも20〜40代前半の方の転出が著しいという問題がありました。

さらに2014年には、消滅指定都市に選出。北本市の将来を見据え、地元の人が北本市に愛着を持ち、住み続けたいと思ってもらえるまちづくりを行う必要性がありました。

mGAPで市民の愛着を図る

埼玉県北本市「mGAP」

そこで、市民の北本市への愛着を図る指標として、東海大学教授の河井さんが提唱するmGAP(エムギャップ・修正地域参画総量指標)を導入しました。

mGAPでは、市民やシティプロモーションの一環である事業(マーケットの学校・&green marke)への参加者に対し、アンケートを実施。広報紙の読了後や事業に参加後に、次の3つの意欲がどの程度変わったかを測定します。

【mGAPの測定内容】
1.地域を他者におすすめする気持ち=地域推奨意欲
2.地域をよくする活動へ参加する気持ち=地域参加意欲
3.地域で活動する人に感謝する気持ち=地域感謝意欲

これらの測定結果の3つの中で、もっとも低い項目を伸ばしていくべき重要項目として定めていたとのことです。

mGAPから得られる効果

埼玉県北本市「mGAP向上」

mGAPは、地域住民の意思を確認するだけでなく、データを活かして、次のような効果を発揮できることも立証されています。

  • 地域内での購買意欲の向上
  • 地域内での就労意欲の向上
  • 生活困窮者への支援意欲の向上

北本市の場合、西側地区のmGAPが高いのに対し、東側地区のmGAPが低いという結果が出ています。この結果は、西側は北本市の魅力でもある自然が豊かな地区であることに対し、東側は国道があり自然が少なめであることが影響していると分析しているそうです。これらのデータを活かし、東側地区のmGAPを上げるための施策を考えるヒントにしているとのことでした。

mGAPからわかる職員の想い

また、mGAPから市民の意欲を読み取るだけでなく、市役所職員の職場環境への想いを読み取る事ができることも立証されています。

  • 市役所職場環境への不満解消
  • 市役所の仕事に対しての前向きな意欲

実験データにおいて、職員のmGAPと仕事へのモチベーションが紐づいていることが判明。職員のmGAPが低い場合は職場環境への不満が大きく、mGAPが高い場合は仕事に対して前向き、などの傾向が出ています。

つまり、まずは市役所職員が地域を好きになることがシティプロモーションの第一歩ともいえそうです。

北本市を好きになってもらうために広報誌をリニューアル

広報誌は、住民に自分たちが住むまちの魅力やさまざまな事業などを知ってもらうきっかけになる重要なツールです。北本市民の方に「北本市いいな」と思ってもらうために、林さんが入庁2年目のときに広報誌のリニューアルを実施。

リニューアルのコンセプトは「きっと、もっと、きたもとが好きになる旬な話題をお届け」。広報誌をまず読んでもらうこと、そして行政課題を伝えてまちに興味を持ってもらうことを目的に、どのような取り組みをされたのかをお話ししてもらいました。

カラー化

埼玉県北本市「広報担当初期」

リニューアル前は単色刷りだった北本市の広報誌をカラー化。さらに内容のリニューアルを行いました。

《リニューアル前》

  • 単色刷り
  • 行政情報の記載のみ

《リニューアル後》

  • カラー化
  • 毎月5~10ぺージの特集ページを導入
埼玉県北本市「広報紙リニューアル」

カラー化の1番の目的は、広報誌を手に取って開いてもらうことです。単色刷りではなかなか興味を持ってもらいにくく、写真から得られる情報が軽減しやすいことからカラー化を進めました。

また、リニューアルに際し、全国の広報誌をたくさん研究しましたね。研究する中で、まちのお子さんの笑顔の写真やまちの取り組みに関する特集が掲載されているほかの行政の広報誌を見て、広報誌は市への愛着を深められるツールだと実感。そこで、特集ページの導入に踏み切りました。

特集記事と制度の導入

広報誌リニューアルにあたり、特集記事の導入をした北本市。過去に反響があった特集記事と広報誌の活性化を目的にした制度を紹介してもらいました。

財政状況伝えるマン

埼玉県北本市「特集:財政状況伝えるマン」

財政状況の悪化や公共施設の老朽化に伴い施設の統廃合などをせざるを得ない中、財政状況を知らない市民から時に反発の声も。そこで財政状況を理解してもらうために、「財政状況伝えるマン」という特集を実施しました。

本企画のポイントは以下です。

  • 市役所の若手職員を起用したインパクトのある表紙
  • 読みやすいように財政状況伝えるマンの写真を入れた漫画で財政状況を紹介
  • 特集の最後にアンケートやセミナー開催情報を記載

財政状況について理解してもらったうえで行動してもらうことを目的にし、特集の最後に公共施設の統廃合アンケートや予算に対する意見を募集。興味を持ってもらい、当事者として考え行動してもらえる導線を意識しました。

結果、市ホームページの閲覧数が広報紙リニューアル前の9倍に増加。

予算編成に対する市民からの意見数
平成27年 0件→平成28年 20件

事務事業評価の意見数
平成28年 16件→平成29年 57件

上記のように、意見が集まるようになりました。

参考:財政状況伝えるマンの熱き取り組み

市民リポーター制度

埼玉県北本市「市民リポーター」

市民の方が取材・記事作成を通し、北本市のまちづくり参画や魅力に触れるきっかけを目指したのが市民リポーター制度です。

市役所の職員だけが魅力を伝えるのではなく、市民の方や地元企業の方からも魅力を発信してもらうためのひとつの仕組みとして導入。適宜「市民ライター育成講座」も実施しています。

元公務員アドバイザー起用

埼玉県北本市「実施例:元公務員アドバイザー起用」

人事異動があり、なかなか同じメンバーで広報誌の作成を継続していくのが難しい点も自治体広報の課題のひとつです。

そこで北本市では、全国各地にいる独立した公務員をアドバイザーとして起用。北本市の広報力のアップや人事異動があっても常にサポートするメンバーを確保するなど、広報力の強化の一環を担いました。

市民参加型シティプロモーションを目指す

北本市では、市民参加型のプロモーションを数多く実施してきました。市役所職員だけでなく、市民にプロモーション参加を促すのにはどのような理由があったのでしょうか。

本当に成果・価値を生み出すプロモーションを行うため

セミナーでお伝えした通り、北本市は20~40代前半の方を中心に転入者より転出者の割合の方が多く人口減少が進んでいる、という課題を抱えていたそうです。

人口を増やすために、市外の方に対して積極的にプロモーションを行うのもひとつの手段ですが、北本市自体を好きでなければ、長く定住してもらうのは難しいと考えました。

そこで、北本市が好きな人を募り、住民が北本市を盛り上げていくことを目的に市民参加型のプロモーションを展開することになったのです。

共同パートナーとして民間企業とのつながりを持つメリット

埼玉県北本市「シティプロモーションの担い手を域内に」

北本市では、地元企業に一部のシティプロモーションを委託。以下のようなメリットがあるそうです。

  • 北本市に愛着があるからこそのプロモーションが展開できる
  • 市民の雇用創出の機会につながる
  • 業務委託料が市内に残る

市外の広告代理店にプロモーションを委託する場合、SNSでプロモーション動画の再生数が伸び、反響を得るケースがあります。しかし、中には一時的な反響で留まるケースがある点も事実です。

そこで北本市では、北本市のことをよく知る地元企業にプロモーションを委託し、共同パートナーとしてプロモーションをともに展開しました。

【市民向け】屋外マーケットから得られる効果

数あるシティプロモーションを展開してきた中で、mGAP向上につながった1番の事業が「屋外仮設マーケット」。

ここからは、市民向け・市外向けそれぞれの施策に携わった荒井さんに説明してもらいました。

北本市のマーケットの特徴

北本市では約10年前から年2回マーケットイベントを開催。北本市の自然を堪能できるマーケットイベントの特徴は次の通りです。

  • 北本市の自然があふれる場所で開催(雑木林やキャンプ場など)
  • 市内の個人店が多数出展
  • 北本市産の食材を味わえる企画

マーケットでは飲食・音楽・ワークショップを主軸に実施。稲刈りをした後にご飯を炊いておにぎりを作る、雑木林で集めたどんぐりを使ったクッキー作りなど、自然豊かで地元の個人店が数多く残っている北本市だからこそできるイベントを展開しました。

マーケットイベントの主な参加者は、20~30代。イベント後のアンケートでは、愛着・親しみがわいたという声が75%、次回も参加したいと回答した方が77%と良い評価を得ました。

「マーケットの学校」開催背景と効果

屋外マーケットがシティプロモーションに有効であることが立証されたことから「マーケットの学校」を実施。マーケットの重要性、北本市にどのようなマーケットが必要かを話し合いました。

【マーケットの学校概要】

  • 講義編5回、実習編5回、計10回の市民参加型ワークショップ
  • 20~60代の北本市民20名が参加

全10回の講座を経て、ワークショップの総集編として北本市役所横の芝広場にて、マーケットを開催。8店舗の出店数でしたが、地元の農家の方が野菜を販売したり、親子で駄菓子屋さんを出店したりと、やりたいことを実現する機会に。

マーケット開催後のアンケートでは、参加者の意欲指標が向上していることが見受けられていたため、翌年2021年より月1回マーケットを定期開催する運びとなり、以下のような効果を得られました。

  • 民間団体主催でのマーケット開催が増加した
  • 市内の小学生向けにマーケットについての講座を実施する機会ができた

【市外向け】ふるさと納税

市民参加型のプロモーションを行う中で、同時に市外向けのプロモーションとしてふるさと納税も展開。

北本市の暮らしを寄付者に届け、市内の事業者がどのような思いで生産物を作っているのかをポータルサイトの記事や納税者限定のツアーを通して伝えてきました。寄付していただくだけにとどまらず、北本市のファンを増やす施策を行い、2023年度は寄付額11億円を突破しています。

市民提案型クラウドファンディング事例

埼玉県北本市「市民提案型ふるさと納税クラウドファンディング」

数ある返礼品の中でも、北本市が力を入れているのが、自治体が抱える課題解決に向けて寄付金を支援していただく「プロジェクト型(ガバメントクラウドファンディング)」です。

市民提案型ふるさと納税クラウドファンディングの概要

  • 北本市民・北本市内の団体が対象
  • 公益性・北本市の活性化・シティプロモーションにつながる事業が対象
  • 認定されたプロジェクトをふるさと納税のサイトに掲載
  • 集まった寄付金額を補助金として提供

北本市では2019年よりプロジェクト型を開始。これまで合計9事業が参加し、寄付件数691件、総額1,000万円以上の寄付をいただきました。

ふるさと納税と広報誌の親和性

市民提案型ふるさと納税の場合、広報誌を通じて「このような団体がクラウドファンディングに参加しています」と伝え、市民へプロモーションすることも可能です。

埼玉県北本市「市民提案型ふるさと納税クラウドファンディング」

プロジェクトが完了し寄付金額が確定後、実際にどのように寄付金額を使い活動に活かしたか伝える活動報告も広報誌内で実施。寄付金額が明瞭化されるので、市民も安心してプロジェクトに応援できる仕組みができています。

いま住むまちの人たちをどれだけ大切にするかが重要

転出率が課題だった北本市は、いま北本市に住む市民の満足度・市への愛着を高めるシティプロモーションが主軸。

  • mGAPを通して市民の愛着を数値化して把握する
  • 市役所職員だけが頑張るのではなく、市民と一緒にまちを盛り上げる
  • 市外向けのプロモーションと並行して市民向けのアプローチにつなげる

結果、北本市は2020年に17年ぶりの人口増加を達成。毎年増加を続け、2022年度は461人の人口の社会増となっています。中でも転出率が1番高かった生産人口である20〜40代の転入が多かったそうです。

市民とともに二人三脚で長く愛されるまちづくり、シティプロモーションを目指していきたい自治体の方にとって、目標となる成功事例だったのではないでしょうか。

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この記事のライター

笹まい

笹まい

専門商社などで営業職・営業アシスタントの経験を積んだ後、副業からライター活動をスタート。現在はフリーランスライターとして活動中です。広報・採用担当経験が浅い方にも伝わる、読みやすくてわかりやすい記事をお届けします。

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