コロナ禍の2020年8月に法人向けオンライン飲み会専用フードデリバリーサービス「nonpi foodbox™」を開始した株式会社ノンピさん。元々、法人向けの社内カフェテリア運営受託事業と社内パーティー向けのフードデリバリー事業を行っており、特にフードデリバリー事業は右肩上がりに成長を遂げていました。
ところが、新型コロナウイルス感染拡大により対面でのパーティーができなくなり、2020年の売上は昨対比95%減まで落ち込んでしまいました。
危機的な状況の中、巷でオンライン飲み会が生まれだした動きをいち早くつかみ「コミュニケーションフードデリバリー」として「nonpi foodbox™」を立ち上げ、2021年2月には累計食数10万食を突破するほどの急成長を実現。
ノンピの有する、時流を捉えた企画力や実行力の高さの裏側について、同社取締役副社長の上形さんにお話を聞いてきました。
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コロナ禍に立ち上げた新規事業。戦略の軸は広報・PR
── 上形さんは「食」を中心としたキャリアを歩まれているのですね。
上形さん(以下、敬称略):大学在学中に飲食店支援事業で起業してから、「食」に携わり続けています。家族や仲間と食事を囲んでいる時間って、すごく人間らしくて幸せな瞬間だと思っていて。この幸福感を広げていける場作りをしたいとずっと考えています。
コロナ禍で人と会うことへ制限が強いられましたが、顔を合わせて食事をする文化を大事にしていきたいと思っています。そのために「nonpi foodbox™」を立ち上げました。
── 「nonpi foodbox™」を立ち上げるにあたって、重視したことはなんですか?
上形:とにかく広報起点で事業を作ることですね。広報の効果は大きく2つあると考えています。認知拡大と信頼の確保です。僕らのサービスは利用者が食す、口に入れるものなので、ことさら信頼できるサービスであることが重要です。
実は、2020年2月末に資金調達を実施していたのですが、ちょうどコロナが流行し始めたタイミングだったので、あえて発表を控えていました。当時、コロナ関連のニュースで持ち切りだったため、このタイミングで発表するのではなく、コロナに対応した新しいサービスをリリースした際に、発表したいと考えたんです。資金調達についてのお知らせと合わせて発表することで新サービスリリースに対する信頼も確保できると考えました。
結果として、Webメディアや新聞を中心に7媒体に取り上げてもらいました。狙い通り、そこから一気に注文を獲得できました。
── 広報を戦略の軸に据えて、その効果がはっきりと表れましたね。
上形:そうですね。メディアは、世の中の流れやトレンドを伝える役割を担う存在だと考えています。コロナ禍で生活が激変した中で生まれた「オンライン飲み会」の動きをトレンドとして定着させたいと考え、広報・PRを常に重視し、スケジュール組みしています。8月にサービスリリースを決めたのも広報の効果を重視していたからです。
懇親会をオンラインへリプレイスした「nonpi foodbox™」にとって、絶対にはずしたくないビッグウェーブは年末に行われる忘年会です。そこに向けて徐々に盛り上がりを作る必要がありました。そこで世の中のイベント事から10月1日に行われる内定式に目をつけ、ここで「nonpi foodbox™」がオンライン懇親会にとって便利なツールであるという認知を広げたいと考えました。
ただ、新規事業として取り組む意思決定をしたのが5月中旬だったため、逆算するとサービスリリースを8月におこなわないと忘年会シーズンに向けた盛り上がりには間に合わないと気づき、大急ぎで準備を進めていったんです。
プレスリリースから逆算した意思決定
── サービスにとって肝となる世の中のイベント事を外さないよう意識されたのですね。
上形:はい。ただ、サービスリリースした8月は気温が高く食中毒が起きやすいため、リスクが高い時期でもあり、本当にそのタイミングでいいのかという議論はありました。ですが、逆に言うと、リスクが高い時期にやるからこそ衛生管理へ徹底的にこだわることができると考え、リリースすることに決めました。
結果的に、自信を持ってお届けできる品質に作り上げることができ、目標だった内定式プランでは40社、忘年会プランでは478社からの申込みをいただきました。この成功体験から今も、世の中のイベント事に合わせてプレスリリースを発表するよう心がけています。プレスリリースから逆算して企画を作っていくような感じですね。例えば、5月5日「こどもの日」であれば、その1週間前までには、PR TIMESでこんなプレスリリースを発表しよう、そのために商品を追いつかせよう、みたいな。
── 広報活動を進める中で、大変だったことや苦労したことはありますか?
上形:コロナ禍で会食が規制され、大変な思いをしている飲食店もある中で、オンライン飲み会だけがイケてるみたいなメッセージは良くないと考えていたので、この露出時のバランスがとても難しかったですね。
僕らも、対面での飲み会文化を否定したいわけではありません。キャッチーになるからといって「居酒屋で飲むのは古い」「リアル飲み会は時代遅れ」等のリアルな飲み会を否定するような言葉はプレスリリースでの発信や取材時に使わないように気を配っていました。
── 自分たちが伝えたいことだけを言えば良いわけではなく、様々な角度で考えて伝えることが重要ということですね。
上形:そうですね。広報に注力する中で、社会の流れ、社会のニーズに目を配ることの大切さを改めて実感しました。社会の流れや社会のニーズをいち早くキャッチし、トレンドとして発信しているメディアに自分たちのサービスを取り上げてもらうには、どんな社会的ニーズに応えているのか、どんな社会の流れを捉えたのかを深く考える必要があるということを学びましたね。
メディアの反応を事業継続の判断指標に
── そもそも「オンライン飲み会」に着目したのはどうしてだったのですか?
上形:コロナ禍以前の主軸事業は、法人向けの社食事業と社内パーティー向けのフードデリバリー事業の2つでした。ところが、コロナ禍で対面でのパーティーができなくなってしまったため、新しい事業を立ち上げることでなんとかピンチを乗り越えたいと考えていました。
そこで「百試千改会議」という会議体を立ち上げました。コロナ禍で激変した生活の中、どんな市場があるのか誰も正解がわからない。だからこそ、100回試して1000回改善するような気持ちで、たくさんアイデアを出し合い、実際にリリースして反応をみる、ということを重ねていました。ユーザーの反応はもちろん、プレスリリースを出した時のメディア関係者の反応も、そのアイデアを継続して伸ばしていくかどうかの判断材料にしていました。
── メディアの反応を事業継続の判断材料にしていたんですね。
上形:今伸びる事業を選択して伸ばしていきたいと考えていたので、プレスリリースを出した時の反応は特に注視していました。
「百試千改会議」を始めてからだいたい1ヵ月後くらいに、「オンライン飲み会」が徐々に行われ始めているらしいという話が会議参加者からあがりました。ものは試しと思い、社内でオンライン飲み会を実施してみたところ意外と楽しかったんですよ。
その時にちょうど、フードデリバリー事業の顧客だった法人の担当者から、オンラインで送別会を実施するから、各社員宅にケータリングを届けることができないかという問い合わせをいただいたんです。そこで、各社員宅の住所を入力できるフォームをGoogleフォームで作成し、メニュー表を作り、当日は事業企画部長と僕が車を運転して配達しにいきました。
その時のお客さんたちの反応から「これは需要がある!」と確信し、集中して伸ばしていくことへの意思決定をしました。
── 今後、オンライン飲み会をブームで終わらせないために考えていることはありますか?
上形:コロナ禍でリモートワークが広がり多様な働き方が認められるようになりつつある今、組織のコミュニケーションを円滑にする手段としてオンライン飲み会は本当に便利です。コロナ禍以前のような対面の懇親会をやると言っても、リモートワークの普及によってさまざまな場所で働く人が増えているため、物理的に参加できない人も多くなることでしょう。
人は一度便利なものを体験すると元には戻れません。便利なオンライン飲み会に対するニーズも生まれました。そのうえで、僕たちができることは、より美味しく、より使いやすいサービスを提供していくことに尽きます。「nonpi foodbox™」だけでも、まだまだ着手していきたい改善事項はたくさんあるので、これからもよりよい食の体験をお届けできるように取り組んでいきたいです。
「Be the Diner. 食べる人の立場に立つ」
新型コロナウイルス感染症拡大という逆風を受けながら、それを追い風に変えたノンピ。季節に合わせた商品のみならず、サステナブルを意識した商品企画も行っています。ただ、いわゆるメディアウケを狙って取り組んでいるというよりも、本当に必要な「食べる人」がいるから、と上形さんはお話されていました。
心構えとして掲げる「Be the Diner. 食べる人の立場に立つ」を突き詰めて考えた先に、プレスリリースから逆算した商品設計が有益だという結論が導き出されたのだと感じます。
ノンピのトライアンドエラーを肯定する姿勢や、情報を届けたい人たちにいかにして届けるか考え抜く姿勢から、逆風をも追い風に変えるヒントが得られるのではないでしょうか。
(撮影:近澤幸司、取材はリモートで実施しました)
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