広報は、経営戦略を考えるうえで重要なカギとなるもの。しかし、広報担当者が役員となり、経営に参画するケースは国内ではまだまだ少ないのが実情です。
そんななか、広報部を立ち上げ、2020年4月に執行役員になったふたりの女性がいます。株式会社マクアケの矢内加奈子さんと、株式会社プレシャスパートナーズの北野由佳理さんです。
広報部の立ち上げから役員になるまで、おふたりはどのような道をたどりながら、自身のスタイルを築いてきたのでしょうか? 経営者目線をもったPRパーソンとして、土台になっている考え方とは。株式会社PR TIMESで執行役員を務める名越里美がお話をうかがいました。
株式会社マクアケの最新のプレスリリースはこちら:株式会社マクアケのプレスリリース
株式会社プレシャスパートナーズの最新のプレスリリースはこちら:株式会社プレシャスパートナーズのプレスリリース
未熟だったあの頃。広報担当ではなく“リリース担当”だった
──まずは役員就任おめでとうございます! わたしも現在PR TIMESで執行役員を務めており、同じ立場のおふたりに話をうかがうのが楽しみでした。
矢内:わたしも楽しみにしていました。特に北野さんは、ベンチャー企業で広報部を立ち上げ、今年4月から執行役員に就任したとのことで、共通点がけっこうありますよね。
北野:そうですね! 初対面ですが、親近感が湧いています。お互いにお酒も好きですし(笑)。
──広報役員になった今、おふたりの、そして広報部としてのミッションはなんですか?
北野:広報部のミッション、そして役員としてのミッションは「会社の未来を作ること」です。5年後や10年後を見据えて、未来への道を作っています。いますぐ数字になる動きよりは、将来の数字になるような動きをしていますね。
具体的には、SNSの運営やメディア対応などを通して、サービスや会社の思いを広めたり、経営陣とともに新規事業に携わったり。たくさんの業務を兼務してバタバタですが、そんな毎日が楽しくて充実しています。
5月に経営戦略室に1名入りまして、現在の経営戦略室はわたしとその方との2名体制です。
矢内:わたしのミッションは「『Makuake』をアタラシイものや体験の応援購入サービスとして認知拡大をはかること」です。
これまでは、クラウドファンディングサービスとして「Makuake」をPRしてきました。ただ、クラウドファンディングが世の中に広まるなかで、クラウドファンディングという言葉には寄付や投資といったイメージも強く、Makuakeの本来の利用とはかけ離れたイメージとなっていることも多くなってきました。
「Makuake」は、まだ世の中にない新製品や飲食店の会員権など、ワクワクするモノや体験が手に入る場所。そう認識していただけるよう広報のみならずマーケティング部門も管掌し、社内外へのすべてのコミュニケーション設計、メッセージ発信に関わっています。
わたしが今マネジメントしているのは、広報部メンバーの5名とマーケティング部メンバーの3名、イベント部メンバーの1名です。とはいえメディア連携や記者会見の設定など、引き続きプレイヤーとしても動いていますね。
──役員といえど、広報実務も担当されているんですね。広報部門の立ち上げから経験されているおふたりは、これまでどんなPRパーソンとして歩まれてきたのでしょうか?
矢内:これまでの歩み……なんだか、未熟さを感じてばかりだった気がします。
プロジェクト実行者さんの想いをより多くの人に知っていただきたいがゆえに「メディアにご取材いただきたい」という思いが先走ってしまうこともありました。逆に、メディアの記者さんに「そのテーマだと取り上げにくい」とご指摘いただいたことで目が覚めた経験もあります。
北野:あー、わかります。広報部を立ち上げたばかりの頃は、メディアに掲載されるかされないかで一喜一憂してましたね。「とにかく記事化してもらいたい」と、もはや広報担当よりもリリース担当になっていたというか。点と点でしか考えられていなくて、広報の本来の目的を意識できていませんでした。
ビジョンに立ち返る広報活動。そこで見たのは、シンデレラストーリーだった
──未熟さを感じていたおふたりが成長したのは、何がきっかけだったんでしょうか?
矢内:ターニングポイントは、会社のビジョンを改めて言語化したときですね。わたしは、人一倍強い信念で取り組むタイプだったんですけど、「マクアケの広報として何を目指すのか」を言語化できていなくて。
そんなとき、経営陣とマクアケのビジョンを整理することになりました。わたしも広報として意見を出すなかで、だんだん自分の原動力と会社の目指す先がリンクしていったんです。新しいビジョンが完成したとき「ああ、わたしがマクアケでやりたかったのはコレだったんだ」と腑に落ちました。
こうして目指す先が言語化されたことにより、現在はビジョンドリブンな広報活動ができています。
北野:行動一つひとつに対し、理念に立ち返って考えるのは大切ですよね。良いアイデアが出たと思っても、会社の理念と照らし合わせたら、自分たちが目指す先とズレていることもありますし。
──ビジョンに立ち返る広報を重視するようになった原体験はありますか?
矢内:3年前に「Makuake」で、折りたたみ式電動ハイブリッドバイク「glafit(グラフィット)」のプロジェクト広報をしたときです。
弊社の広報はサービスや会社のみならず、プロジェクトごとの広報も担当しています。glafitは、例えばバイクで居酒屋まで行き、帰りはタクシーの荷台に折りたたんだバイクを載せることができる、これまでにない便利なプロダクトでした。
そんなプロダクトを作るglafitの社長が、和歌山からバイクを担ぎ、わたしに会いに渋谷まで来てくれたんです。「100年後には、トヨタなどに並ぶ、日本を代表する車メーカーになりたい」という夢を聞いたとき、社長の掲げるビジョンや情熱に心を打たれました。
矢内:まさにこの時代に生まれるべきプロダクトだと思ったし、世の中に広がるべきだと思いました。だから、社長ととにかくメディア一社一社に赴き、魅力を伝え、記者会見も開催しました。
そして、実績ゼロから目標金額をはるかに上回る4266%を達成し、総額1億円以上もの応援購入額が集まり、国内記録を叩き出す結果に。大手カー用品店での販売や大手企業との資本業務提携も決まり、ビジネスが大きく動き出しました。
北野:国内記録、大手企業との提携……まさにシンデレラストーリーですね。
矢内:もう、まさに。この一件で、実行者さんの目指す夢とマクアケのビジョンがリンクし、世の中に大きな影響を与えていく瞬間を体感できましたね。わたしにとっての大切な原体験です。
現場の一員になったとき、広報としての大きな一歩を踏み出せた
──北野さんは、何が広報としての成長のきっかけとなりましたか?
北野:わたしがリリース担当から脱せたのは、考え方に現場目線を取り入れられたからだと思います。メディア関係者に提案するには、現場のことを知る必要があるので、広報をメインとしながらも、営業をしたり新規事業を進めたりしていました。
矢内:現場を知るのは大事ですよね。しかもベンチャー企業だと、人数が少ないから、広報以外の役割も担うことが多いですし。
北野:そうなんですよね。特に、わたしが現場目線をもつきっかけになったのは、事業部に広報目線を取り入れるために私がアサインされたチームでの新規プロジェクトです。
運営している就職支援サイト「アールエイチナビ」に、学生が社長に会いたいと指名できる「会いたいボタン」をつけようというものでした。
北野:事業部メンバーと話し合いを重ねるなかで、「みんなが現場でどれだけ思いを込めてやっているのか」が肌で感じられまして。わたしのなかで「メンバーの思いやサービスの価値が正しく伝わるプレスリリースを作らなければ」という思いが芽生えたんです。
心境が変化してからは、「なぜこのサービスや機能が世の中で必要なのか」という社会意義からプレスリリース内容を考えるようになりました。そうした広報活動にシフトしたことで、メンバーの思いや背景に対して、世の中の共感を得やすくなったと感じます。
実際に、「会いたいボタン」を搭載した当時は、学生が社長と直接マッチングする就活は、まだ一般的ではありませんでした。しかし今は、影響力のあるメディアに掲載される回数が増え、“社長就活”という概念がじわじわと広まっている感覚がありますね。
矢内:伝えたいことが正しく伝わり、世の中の声として返ってくるのはうれしいことですよね。
北野:本当にそうです。あのときプロジェクトに参加せず、広報部分だけを担っていたら……「こんな取り組みがあるんですけど、どうですか?」と記者さんに提案するだけだったと思います。
未経験でひとりで広報活動をはじめたので、それまでは行動量でスキルをカバーしてきました。それも必要な経験だったと思いますが、事業部の一員となり、現場視点がもてるようになったこのプロジェクトは、PRパーソンとしての大きな一歩でしたね。この経験があるからこそ、現在は経営に資する広報活動ができていると思います。
三方よしを考えて素材を調理することこそ、真の広報
取材中、印象的だったのは、「昔やっていた広報は『素材をそのまま提供』、今の広報は『素材と素材をかけ合わせた料理の提供』だと思っている」という矢内さんの言葉。
矢内:世の中が求めていることを満たせるように、メディアが取り上げやすいように、自社としての思いが伝わるように、それぞれの素材を鍋に入れてグツグツと煮込む。こうして三方よしを考えて料理を作ることこそが、真の広報ではないでしょうか。
……と話されていました。「メディアに記事化してもらわなければ」と明日の数字に囚われそうになったときは、一度深呼吸をして、周りを見渡してみてはいかがでしょうか? メンバーの顔、メディアの記者さんの顔、そして消費者の顔。いちばん伝えたい人の顔がはっきりと浮かんだとき、広報としてのあなたの答えが見えてくるかもしれません。
対談の後半では、「役員になってからの奮闘」についてお届けしていきます。
(写真:原 哲也、取材自体は全員リモートで実施しました)
PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法と料金プランをあわせてご確認ください。
PR TIMESの企業登録申請をするPR TIMESをご利用希望の方はこちら企業登録申請をする