経営脳をインプットするには、代表の頭のなかに思考を巡らす──マクアケ矢内加奈子×プレシャスパートナーズ北野由佳理【後編】

広報は、経営戦略を考えるうえで重要なカギとなるもの。しかし、広報担当者が役員となり、経営に参画するケースは国内ではまだまだ少ないのが実情です。

そんななか、広報部を立ち上げ、2020年4月に執行役員になったふたりの女性がいます。株式会社マクアケの矢内加奈子さんと、株式会社プレシャスパートナーズの北野由佳理さんです。

前編のテーマは、広報部門の立ち上げから役員になるまで、PRパーソンとしての自分を築いたエピソードについてでした。後編のテーマは「広報担当者から役員にステップアップするため、経営目線をどう取り入れていったのか」

株式会社PR TIMESで執行役員を務める名越里美がお話をうかがいました。

株式会社マクアケ 執行役員
矢内 加奈子(やない かなこ)@canako18

1988年生まれ。2012年新卒でサイバーエージェントに入社後、2014年に創業1年の株式会社マクアケに参画。戦略広報本部の立ち上げに従事。アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」自体のサービス広報に加え、数千件にのぼる「Makuake」発のプロジェクトに関する広報・PRを手掛け、マクアケの成長・拡大に尽力。2019年12月東証マザーズへの上場を経験し、2020年4月に執行役員に就任。

株式会社プレシャスパートナーズ 執行役員CMO 兼 経営戦略室 室長
北野 由佳理(きたの ゆかり)@yk1117k

1990年11月生まれ。2013年に大学卒業後、新卒で株式会社プレシャスパートナーズに入社。大手企業を中心にアルバイト・パート領域の採用コンサルティング営業を経験し、2017年4月に広報部設立に伴い異動。経営戦略室室長を経て、2020年4月に執行役員に就任。現在は経営戦略・広報部門の統括などを担当している。

役員になって、目線が高くなった。経営方針に寄り添った広報活動

──おふたりは、役員になってから広報に対する姿勢は変わりましたか?

北野:そうですね。役員に就任してまだ2カ月ほどですが、以前よりも高い視点をもって広報活動ができるようになったと感じます。

役員は、誰かにマネジメントされる立場ではありません。そのため、自分がやるべきことは、自分で見つけなければならない。常にアンテナを立てながら「5年後に会社が生き残るため、今わたしは何をするべきなのか」を考えるように心がけています。

先を見据えられるようになって、一段ずつですが、経営陣への階段をのぼっている感覚がありますね。以前は、「会社のサービスや思いを広める」という目の前のことに必死でしたから。

矢内:その感覚、わかります。わたしは今まで、現場に落ちてきた経営方針をもとに広報計画を立てていました。しかし、役員になってからは、経営方針の決定という上流部分から参加できるので、経営目線をシンクロさせながら広報計画を立てられるようになりましたね

経営方針の細かい内容に対しても、すべて自分が納得したうえで進められるので、より会社が目指す先に寄り添った広報活動ができるようになったと思います。

矢内:あとは、経営陣とコミュニケーションを取る時間が増えたので、ほかの役員に広報目線での情報を共有できるようになりました

共有する情報は、メディアの記者さんと話して得た「人々に受け入れられやすいテーマ」とか、報道やSNSを見るなかで感じた「社会の動き」とか。「情報によって役員の視点が広がり、経営判断の材料が増えたのでは?」と感じています。

経営脳を鍛えて、代表の頭のなかに追いつけるように

──おふたりとも「経営目線を取り入れる」とおっしゃっていますが、そこにたどり着くまで、スムーズにいかなかったのではないかと思います。

北野:今まで広報部しか見ていなかったのに、そこから経営脳に切り替えるとなって苦労しましたね。

経営陣と同じ目線に立つためには「経営陣が考えていること」「経営陣が課題に感じていること」「経営陣が目指している未来」の3つをインプットしなくてはなりません。そのため、役員になるまでの半年間は、毎日のようにその3つを意識しながら代表とミーティングしていました

矢内:代表と話していると、なかなか代表の脳内に追いつけず、もどかしさを感じませんでしたか? 自分で考え抜いて出した答えを、代表の答えと照らし合わせてみると、代表はすでに数歩先を歩んでいて。

北野:わかります、わかります。自分の脳をフル回転させたのに、それでも力が足りなくて代表の考えと相違が生まれて……そんな自分が悔しかったですね。というか、今でも「ああ、経営者目線が足りていなかった」と思うことはたくさんあります。

──わたしも日々反省することばかりです。特に、「経営脳をインプットしてから、日々の行動に落とし込むまで」がとても難しくて。おふたりは、経営脳を行動に落とし込むため、何か工夫されていますか?

矢内代表の読んでいる本を読むようにしました。あとは、判断が必要なさまざまな局面で「代表だったらどう考えるのか」を常に自分に問いかけるようにしています。代表とわたしの考えを答え合わせする回数が増えるほど、代表の経営脳に少しずつ近づいている感覚がありますね。

北野:自分への問いかけ、わたしもやってます。代表の言葉や行動を観察しながら、「なぜ代表はこう思ったのか」「なぜわたしはこの視点をもてなかったのか」と。代表との考え方のギャップが大きいほど、得られる学びも大きいと感じます。

以前は、経営陣と意見が違うとき「経営陣が理解してくれない」と思うこともありました。しかし、広報の責任者になってから、相違を素直に受け取って差を埋めようと努力できるようになったんです。わたしがそう変化したのは「Why」を掘り下げるクセをつけたからだと思います。

そして、実際に自分が経営する側になって思うのは、現場から意見が上がっても、経営視点で見ると判断を下せない場面があるということ。当時から「経営陣がなぜそういう判断をするのか」と思考を深掘りしていたら、もっと早く経営思考をもてていたはずです。

矢内:あとは、代表をはじめとして経営陣との対話量を増やすように心がけています。対話といっても、必ずしも仕事の指示や経営についての話じゃなくていい。何気ない雑談をするだけで、経営陣の頭のなかをのぞき見できるので、自然と経営脳がインプットされていきます。

北野:そうそう、雑談は大事ですよね。今、社長と仕事のミーティングをするのはほとんどありません。1日1分のときもあり、「この判断でいこうと思います」と報告をすばやく済ませています。その簡潔な会話が成立しているのは、雑談のコミュニケーションを日々積み上げ、社長の考えをたたき込んだからだと思います。

すばらしいものでも、届かないなら意味がない。だから私は役員として広報をやりたい

──地道に努力を重ねて経営脳をインプットしてきたおふたりは、今後どんな広報役員になりたいと考えていますか?

矢内:「Makuake」を応援購入サービスとして広めるとともに、引き続き、実行者さんのプロジェクトを最大限に広める手伝いをしていきたいです。

今は、膨大な広告費を投下してテレビCMを打っても、その商品だけが市場を独占する時代ではありません。消費者は商品のウラ側にあるストーリーに共感するし、消費者の趣味趣向もどんどん多様化しています。「Makuake」では、作り手の企業サイズ関係なく、いいものであれば消費者に受け入れられ、広告費をかけなくても人々の手に届いていきます

さらに「商品の存在をいかに多くの人に知ってもらえるか」の行方を握るのが広報活動です。ただ、魂を込めて物づくりをする職人さんこそ、広報のやり方を知らないのが現状。本当は広がるべきプロダクトなのに、広報活動が十分でないばかりに、世の中に価値が伝わらないことが多くあります。

北野:いくらすばらしい商品やサービスであっても、人々に届かないのであれば、意味がなくなってしまいますよね。わたしは広報をするなかで、価値を広める重要性をいつも痛感しています。

矢内:本当に、そう。だからこそ、「Makuake」でプロジェクトを実行していただくことで、わたしたちが世の中にその魅力を伝える役割を担っていきたいと思ってます。

今までの知識を総動員し、自分が心から共感したプロジェクトの広報をして、届くべき人に届くようすを見るのはやっぱり楽しい。実行者さんにとってプロジェクトは大勝負ですし、責任は重大ですけどね。

その一つひとつの広報活動の先に、「Makuake」が応援購入サービスとして世の中に浸透していき、ビジョンである「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界」が実現した未来があればいいな、と思います。

北野:矢内さんのお話、共感します。わたしが広報をやろうと思ったのは、「会社の思いやサービスが世の中に広まりきっていない」と課題意識を感じたのがきっかけです。

広報部を立ち上げる前は、営業部に所属していまして。テレアポで営業をして「プレシャスパートナーズです」と伝えると、「え、どこ?」という反応をいただくことが多くありました。仮に、大手採用メディアだったら、「ああ、わかるわかる」となっていたはず。

そこで思ったんです、「誰かの手に届いたり誰かの目に止まったりして初めて、サービスの価値が生まれる」と。だから、広報部を立ち上げることで、会社の認知を広め、自分たちからアプローチしなくても自社を知ってもらえている状況を作ろうと決めました。

広報は、素敵な商品やサービスを広めるためのひとつの手段に過ぎません。今後は、役員として広報以外の分野にも視野を広げて、自分たちが誇れるサービスをさらに多くの人に届け、会社の未来を切り拓いていきたいですね。

役員は、一歩ずつ、地道に階段をのぼった先にある

前編と後編に渡って、広報部の立ち上げを経て経営陣の一員となったおふたりの対談をお届けしました。

ここまで読んでいただいた方のなかには「今はいち広報担当者だけど、いずれは会社の中核部分を担っていきたい」と考える方もいるのではないでしょうか? 同時に「いやいや、自分には素質がないから無理かもしれない」とも。

しかし、誰しも最初から役員としての手腕があるわけではありません。矢内さんと北野さんは、経営脳のインプットに苦労しながらも、一段ずつ確実に、経営陣への階段をのぼっていきました

壁にぶつかりながら地道に歩んできたおふたりの道は、広報が役員となる時代のロールモデルになるでしょう。

(写真:原 哲也、取材自体は全員リモートで実施しました)

この記事のライター

kashimin

kashimin

1994年生まれのライター・編集者。BtoBメディア運営会社とWebコンテンツ制作会社をへて、フリーランスに。企業の経営者や担当者を取材して約4年、ビジネス系の記事を中心に執筆しています。“働く人”のウラ側にあるストーリーを伝えていきたい。人生のBGMはサザンオールスターズ。散歩の時間と眠りにつく瞬間がだいすきです。

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