身近な地元企業やメディアから広報PRに関する学びとヒントが得られる「そこで、PRゼミ!」。2024年1月30日には、「“選ばれる”企業への第一歩 愛知・東海の経営は広報PRで変わる」をテーマに名古屋で開催されました。
本レポートは、第三部で講演された「PRのゴール設定や評価の仕方」をお届けします。ユニークな施策でファンづくりに取り組む、春日井製菓販売株式会社の原智彦さんと株式会社Mizkanの田中保憲さんによるトークセッションです。
第一部:地域企業の魅力の引き出し方|株式会社地球の歩き方×テレビ愛知株式会社
第二部:BtoBメーカーのブランド力向上。社内外に変化をもたらす広報PR|株式会社ジェイテクト×側島製罐株式会社
春日井製菓販売株式会社 おかしな実験室 室長
オグルヴィなどの広告企業で培った強いブランドづくりの経験を基に、パンのアンデルセン、クリスピー・クリーム・ドーナツ、博多一風堂、ブルーボトルコーヒーでファンづくりに従事。2018年9月に春日井製菓に入社し、トークイベント「スナックかすがい」や、「おかしなメニューコンテスト」、「おかしなサマースクールin愛知」を立ち上げ、2022年2月にファンづくりの専門部署「おかしな実験室」を設立。モットーは「世の中をちょっと面白く」。
株式会社Mizkan 凹んでない課 課長
ミツカンに入社後、開発、工場、商品企画などを経て、2022年よりCRM推進部に所属。SNS、PRなどを通じ、商品を超えて、ミツカンという会社自体のファンを増やすためのマーケティング戦略立案と実行を主導。2022年11月、社内外に向けたコーポレートPR施策の一環として、凹んでない課を設立。
商品を人気者にした「スナックかすがい」のファンづくり
『つぶグミ』『キシリクリスタル』『グリーン豆』など長く愛される商品がある春日井製菓販売。しかし、原さんは入社当初、これらの商品も、それらを生み出している会社も、生活者から関心を得られていないと感じていたそうです。そんな原さんに当時のことを振り返りながらお話を伺いました。
──原さんは入社当初、ロングセラーとされる商品がありつつも、それらは関心を得られていないと感じていたそうですね。
原さん/春日井製菓販売(以下、敬称略):そうですね。「Googleトレンド」を使って、春日井製菓の社名と商品がどれだけ検索されているのかを調べたところ、社名だけでなく一番売れている『つぶぐみ』でさえ競合他社と比べてかなり少ない状況でした。それってちょっと寂しいなと思ったんです。
「おいしくて、安心して多くの人々に愛され続けるお菓子作り」を経営理念に掲げていますが、そもそも「愛され続ける」ってどういうことなのか。僕はこれを5段階のピラミッドで捉えているのですが、最上位の「愛している」の位置にいるお客さんは、周りに商品を薦めたり、SNSで魅力を広めてくれたり、うちの商品に愛着を持っている方たちです。この階段を一段ずつ上ってファン度が高くなってもらう取り組みをしていくことが、「愛され続ける」ことだと思いました。会議で「愛」なんて言葉を使うと「数字の話をしましょう」となりがちですが、経営理念で掲げているわけですから、それをフワッとしたエモい話にはせず行動に落とし込んでいくことを続けています。
当時、僕がいたマーケティング部は東京の「We Work」というシェアオフィスを拠点にしており、そこは入居者同士の交流が活発でした。イベントもどんどん開いてWeWork体験者を増やそうとされていたんです。そのため会場費が無料なだけでなく、ビールまでも無料だったので、これを使わない手はないと、おつまみにぴったりの豆菓子『グリーン豆』を用意し、「スナックかすがい」を企画したんです。
社内からは「そんなことをして何になるのか」という声もありましたが、参加者からのアンケートから、印象が確実に変化していることがわかりました。「スナックかすがい」の参加前後で、「特にイメージがない」という人が参加後にはゼロになり、「人に薦めたい」「面白い」「他と違う」のスコアがぐっと増えていたんです。
参加者からの「売り場で春日井製菓のお菓子を探すようになった」「スーパーで『グリーン豆』と目が合うようになった」という声にはグッときましたね。『グリーン豆』は50年前から売り場にはあったんです。お客さんに興味関心を持ってもらえたら、目が合うようになるんですよね。そんな活動をしていきたいなと思いました。
「凹んでない課」が見いだしたMizkanの新たな顧客接点
──ミツカンの「凹んでない課」はネーミングがとてもユニークですね。どのような経緯で立ち上げることになったのでしょうか。
田中さん/Mizkan(以下、敬称略):製造業の多くが「国内人口の減少」や「製造業(ナショナルブランド)の脆さ」などの問題に直面していますが、ミツカンはそれに加えて「アフターコロナの調理離れ」「コア購買層の高齢化」を課題として捉えています。課題解決のためには、生活者との接点を強化してLTV(ライフタイムバリュー)を高めることが求められる中で、まずCRM本部が立ち上がりました。
これまで、大々的にCMを流したり、店頭でのポップの展示など、「知ってください」「買ってください」という一方通行のコミュニケーションを多く行ってきました。
CRM本部はそれを「仲良くなりましょう」というコミュニケーションに転換。商品だけでなく「ミツカン」というブランドのファンを増やすよう取り組んでいます。
また、長い間「お酢は健康にいい」というアプローチをしてきたのですが、今の若い人たちは健康に特に関心がないのでは、と気になりました。一方で心が元気ではない人が増えていると感じていたので、そういう部分にこそ食で寄り添っていくべきだと「凹(へこ)メシ」プロジェクトを企画。そのプロジェクトを推進する部署として立ち上げたのが「凹んでない課」です。
──「凹メシ」プロジェクトですか。
田中/Mizkan:「週明け」「小さな失敗」「〇〇ロス」のように、誰にでもちょっとだけ心が落ち込む瞬間があると思います。そのような時に寄り添う姿勢を示し、「へこんだらごはんを食べて元気を出しましょう」というメッセージを発信したんです。
表参道に出したポップアップストア「凹メシ食堂」もそのひとつ。「へこんだエピソードを持ってきてくれたら、鍋や素麺を一食プレゼント」というイベントを通じて、「ミツカンは面白い」「ミツカンはすごく寄り添ってくれる」と感じてもらうことを目指しました。
ポイントは単なる商品の訴求イベントにせず、あくまでも寄り添っている姿勢を示すことを大切にしました。
自社ブランドを育てる企画
──「スナックかすがい」「凹メシプロジェクト」どちらもユニークな企画ですが、求められる企画をつくるポイントなどあれば教えてください。
原/春日井製菓販売:僕らのやっていることは社内外で、「何が目的なんだ」と不思議に思われている自覚はあります。でも、その時点で大成功だと思うんです。うちのことを考えてくれたわけですから。お客さんにいかに興味や関心を持ってもらうのかが大切で、企画を考えるときにも、そのような接点をつくるように心がけています。
「売る」ではなく「買う」と言葉を変え、お客さんの側に立つということが大切ですね。
田中/Mizkan:今の時流にあったコミュニケーションの取り方を意識すること。野球で例えるならば、一方的なピッチングではなく、今はキャッチボールの方が大切だと思います。
例えば、「凹メシ食堂」は過去2回開催していますが、1回目はタレントを起用した発表会を行い、テレビを含めて多くのメディアに取り上げてもらえました。でもそれはどちらかというとタレントの話題中心の一方通行な露出で、生活者によってSNSに投稿されたものも多くありませんでした。
それを踏まえて、2回目は「あそべる凹メシ食堂」を実施。「へこんだエピソードと引き換えにコインをお渡しして、そのコインでゲームに挑戦していただきます。ゲームの結果によってスープやトッピングを獲得し、一人ひとりの体験結果に合わせたオリジナルのそうめんを80種類の中から無料で1食プレゼントする」という過程も楽しめる企画です。また、TikTokをコミュニケーション媒体として使ったところ、来店したお客さんが体験内容をショート動画に編集してTikTokで投稿し、それを見た人が来店するというキャッチボールが起きました。テレビ露出は少なかったですが、SNSを通して若年層への認知が拡大したイベントになったんです。
広報PRのゴール設定と評価の仕方
──広報PRはゴールの設定や評価の仕方が難しいといわれますが、おふたりはさまざまな取り組みをどのように評価されているのでしょうか。
原/春日井製菓販売:「効果測定」という四文字は誰もが叫ぶのですが、多くの人は「効果」を「売上金額」とだけ捉えていたりします。でも、何かをやってすぐに売上に直結する活動なんてそうそうないですし、あったとしても莫大な費用がかかるものが多い。「効果」にはいろいろあるってことを、このアンケート結果で示しています。でもこんなのは会議で自分たちの取り組みの価値を理性的に評価するものでしかない。
それよりも僕は、体験的な評価を大事にしています。「こんなことをして何になるの?」という人が実際にスナックかすがいを体験すると、「うちの会社のイベントにこんなに人が来てくれるのか!」とか「商品が愛されていて嬉しかった」とか、皆感動するんです。僕らは晴れ舞台をつくっているだけで、商品を生み出しているのは社員の皆なんです。この体験で、明日から働く動機が高まるなら、それはものすごい「効果」なはず。理性的にも、体験的にも評価することを大事にしています。
田中/Mizkan:やはり広報PRの効果を具体的に説明するのは難しいので、独自に定めた成果指標「推定LTV」を「コアファン増加人数×推定購買増額」という独自の方程式を用いて出しています。
コアファンの増加人数というのは、「届いた人の数×コアファンの割合」のこと。例えば「凹メシ」を知ってくれている人たちの数と、それを認知することによってどれぐらいファン度が変わっているかを掛け算したものです。一方、推定購買増額はPOS(Point of Sales)データを用いてファン度と購買額の相関を分析することにより算出されます。どのくらい事業貢献をしているのかを証明するのは難しい中でも、こうした指標を用いて、僕たちの活動は価値を生んでいることを伝えています。
原/春日井製菓販売:あと、広報PRのPRは「パブリックリレーションズ(公衆との関係づくり)」という意味ですが、わかりやすくいうと「みんなとつながる」ことだと思うんです。広報も経営者も営業も生産も企画も総務もつながるべきで、それはつまり経営そのもの。担当者だけが取り組むことではないので、みんながもっとつながりたくなるように声を挙げていくことも大切だと思います。
まとめ:春日井製菓販売×Mizkanに学ぶ双方向コミュニケーション
ユニークなイベントを通じて商品に対する関心を高め、ブランド認知を拡大する原さん(春日井製菓販売)と、時流に合わせ生活者の心に寄り添うアプローチによって顧客接点をつくる田中さん(Mizkan)。いずれも生活者と双方向のコミュニケーションを大切にした取り組みは、商品だけでなくブランドのファンを増やすことにも成功しています。
おふたりが広報PRで大切にされているポイントは以下の通りです。
原さん/春日井製菓販売株式会社
- 生活者の興味関心を喚起し、ブランドのファンを増やす
- 社内の人にイベントを体験してもらい、広報PR活動の理解を深める
田中さん/株式会社Mizkan
- 時流に合わせ、双方向のコミュニケーションをする
- 独自の成果指標「推定LTV」を用いて、活動の事業貢献度を表す
今回のトークセッションの内容を参考に、自社が情報を届けたい方はどんな方なのかあらためて考えていただくきっかけにしていただき、今後のコミュニケーション、情報発信に役立ててみてはいかがでしょうか。
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