PR TIMES MAGAZINEでは、広報PR活動に課題を感じている企業・団体向けに、日本全国の地域ごとにサービス導入の成功事例を紹介するインタビューを実施。
本記事では、プレスリリースの可能性拡大に貢献した企業と担当者を讃える「プレスリリースアワード2023」において、総エントリー数1,161件の中からインフルエンス賞(発信と活用により社内外へ最も広く好意的な影響をもたらしたプレスリリースに贈る賞)を受賞した、株式会社ヤッホーブルーイングの広報PR担当を務める渡部翔一さんにお話を伺いました。新規ファンを増やしつつ、既存ファンとの絆を深める同社の広報PRの特徴と、大きな反響を得た広報PR事例、今後の目標などについて語っていただいています。
株式会社ヤッホーブルーイング(長野県北佐久郡軽井沢町):最新のプレスリリースはこちら
株式会社ヤッホーブルーイング ヤッホー広め隊(広報) ユニットディレクター
東京農工大学大学院農学府修士課程を修了後、2017年ヤッホーブルーイングに新卒で入社。プロモーションユニットでPR起点の動画プロモーション「チーム“ビール”ディング」や、SNSを活用した製品プロモーションを担当。19年に広報ユニット(ヤッホー広め隊)に異動し、22年にユニットディレクターに就任。
ビールはエンターテインメント。楽しさや喜び優先でアイデアをぶつける
──ヤッホーブルーイングといえば「よなよなエール」「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など、個性あふれるクラフトビールが有名です。
100人に1人でいいので、その1人に「熱狂的に刺さり、喜んでもらえるもの」をつくってお届けしたいという考えが、当社にはあります。100人に1人のお客様が弊社のビールを買ってくだされば、ビジネスとして十分成り立つという考えがあるからです。クラフトビール市場は、大手メーカーを含めたビール市場全体でみると1%ほどのシェアに留まります。
ゆくゆくはクラフトビール市場を2%に押し上げてその半分にあたる1%のシェアを弊社で獲得していきたいと思っています。ただ、広告費も非常に限られているなかで、CMをドンドン打てる大手ビールメーカーと同じ戦い方をしても、お客様には、なかなか振り向いてもらえませんよね。だからこそ、当社ならではの色を出したビール開発に力を入れています。
──ヤッホーブルーイングが掲げる「ミッション」を教えてください。
当社には「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションがあります。このミッションには、ビール市場に新しいバラエティを提供して、ビールファンの皆さんに「楽しさ」や「幸せなひととき」をお届けしたいという思いが詰まっています。そのため、クラフトビールの製造メーカーといえども「美味しいビールをつくれればそれでよし」とは考えていません。お客様には、ビールと一緒に「楽しさ」や「幸せ」を提供させていただきたいと考えております。
そういったことから、事業ドメインを「ビールを中心としたエンターテインメント事業」と位置づけています。私たちが目指す先は、東京ディズニーリゾートを手がけるオリエンタルランドや日本の演劇を代表する劇団四季などです。例えば、こうしたエンターテインメントの分野では、パレードやアトラクションから、キャストの振る舞いまで、徹底的に演出を考え抜いていますよね。世界観をどこまでも追求して、お客様を楽しませている。そういった姿勢から多くのことを学べます。
──広報PRで大切にしていることも教えてください。
広報PR活動も、会社の「ミッション」を軸に行っています。企画を練る際には、お客様に楽しさや喜びを感じていただけるものをお届けしたいと考えています。また、「他社には真似できない、自分たちだからこそできる企画」をつくることも大切にしています。他社と差別化されたユニークなものを発信することをよしとする企業文化があるので、自由な発想でアイデアをぶつけ合っていますね。
配信後に反響があったプレスリリース
渡部さんに、配信後に手応えを感じたプレスリリースを教えていただきました。
事例1.テレビ報道・新聞掲載10件以上、Web記事288件を呼び込んだ「隠れ節目祝いセット」
参考:【授乳中は飲酒お休み】“卒乳”などの人生の節目をお祝いするサービス「隠れ節目祝い by よなよなエール」提供開始
こちらは、抽選で5,100名様にビールセットをプレゼントする販促企画のプレスリリースで、テーマは「隠れ節目祝い」です。私たちの人生には、就職、結婚、還暦などのよく知られた節目があります。その一方で、節目として認識されづらいものの、ついお祝いしたくなる「隠れた節目」もあります。具体的には、「卒乳した」「犬を飼った」「確定申告ができた」「シリーズ作品を読破した」など、人によってさまざまですよね。
そういった節目にスポットライトを当てて、お祝いをすることを「隠れ節目祝い」と名付けました。そして隠れた節目を思い出深い記念日にするために、ビールと証書をセットにした「隠れ節目祝いセット」をプレゼントすることにしたのです。
──とても素敵なアイデアですね。今回のプレゼントのラインナップは「卒乳してビール飲めるねセット」「イヤイヤ期卒業乾杯セット」「お弁当づくり卒業乾杯セット」など、子育て中の方向けのセットが充実しています。
そうですね。今回の企画では「子育て中の方々」をメインターゲットにしました。そのきっかけとなったのは、妊娠を期に、やむを得ずクラフトビールの定期便「ひらけ!よなよな月の生活」を退会するお客様がいたことです。
一度退会したお客様は、赤ちゃんへの授乳が終わる「卒乳」のタイミングで、再び、ビールを楽しんでいることがわかりました。またビールを飲める日を心待ちにしてくださっているんですよね。そういった方々のためにできることはないか考えました。その結果、飲酒を再開する「記念日(=隠れ節目)」をお祝いするビールセットをお届けすることで、喜んでもらおうということになりました。
──実際の反響は、いかがでしたか。
とてもありがたいことに、多くのメディアに取り上げていただきました。PR TIMESのほか、自社のホームページや各種SNSなどで告知した結果、テレビから3件の取材が来ました。新聞では8件掲載されましたし、Webの記事も転載を含めて288件ありましたね。
Twitterでの爆発力もすごかったです。私のTwitterで「隠れ節目祝い」について発信したところ、「いいね!」を8,000件ほどいただきました。この投稿を通じて、Webメディアから取材され、それがYahoo!ニュースに転載されました。その際、300件近いコメントをいただいたんです。こうした拡散により、最終的には隠れ節目祝いセットへの応募は2.6万件以上に達しました。
──ものすごい反響ですね。予想をくつがえす反響が得られた一番の理由は何だと思いますか?
今回の企画で示した「課題の大きさ」と、その課題に対する「打ち手の少なさ」の、いわゆる「かけ算」の効果が大きかったことが、爆発的な反響につながったのだと思います。例えば、お子さんを育てているお母さんにとって「卒乳」は、人生においてとても大切なイベントですよね。それにもかかわらず、誰かが祝ってくれるどころか、本人すらも気づかないうちに卒乳の日を迎えていることが少なくありません。そういった現状に、ビールメーカーが着目して「お祝いさせてください」と声を上げたことに、共感してくださった方が多かったのかもしれませんね。
事例2.ファンのロイヤルティを一層深めた「新製品発売キャンペーン」
参考:10年ぶりの全国向けレギュラー製品「裏通りのドンダバダ」新発売
こちらは、クラフトビール「裏通りのドンダバダ」の新発売を告知するプレスリリースです。製品のコンセプトは「自分の好きに夢中で生きる」。今の時代は、自分らしく生きることをよしとする風潮がありますが、それには勇気がいると感じている人が多いかもしれません。そういったなかで「一歩を踏み出す勇気」と「自分の好きに夢中で生きること」の大切さを伝えたいとの思いから、この製品の開発に至りました。
──この新製品の広報PRキャンペーンの内容を教えてください。
先行発売の前に、クラフトビール「裏通りのドンダバダ」をプレゼントするキャンペーンを実施しました。表参道、渋谷、下北沢に設置した「架空のバーの入り口(扉)」に書かれた「特設サイトの合言葉」を、YONA YONA BEER WORKSの各店に伝えると、その場でビールがもらえるというキャンペーンです。
──実際の反響はいかがでしたか。
昔から私たちのビールを愛飲しているファンの皆さんが、キャンペーンに参加してくださったようです。Twitterなどで「扉を見つけたよ」などとツイートしてくださる方もいらっしゃいました。そのため、ファンの方々とのロイヤルティを、より一層深められたキャンペーンだったと思います。ファンとの絆を深めるためには「よなよなエールの超宴」など、フェス感覚のイベントを開催してきましたが、こんなロイヤルティの深め方もあるんだなと、再発見できましたね。
世の中を驚かせる広報PR企画を生むブレストとルール
──「広報PR企画」をつくる際に、取り組んでいることを教えてください。
当社が行う企画会議では「ブレインストーミング(ブレスト)」を行っています。ブレストでたくさんアイデアを出す「発散」と、アイデアを厳選する「収束」を行うことで、魅力的なアイデアを創出するものです。まずは企画メンバーでアイデアを持ち寄り、「新しいビールの楽しみ方を提案する企画だよね」「お笑い系のネタだよね」などといった具合にカテゴリー分けしつつ、アイデアを厳選しています。
──ブレインストーミングを行う際に、守っている「ルール」などはありますか?
誰かのアイデアに、意見するときには「『1.1力』の言葉を使う」ことが共通認識になっています。「1.1力」とは、「1.0」を基準とした場合、相手の気持ちをポジティブに傾ける力のことです。一方、相手を攻撃したり、ネガティブな気持ちにしたりするのは「0.9力」の言葉です。「0.9力」のフィードバックを避け、「1.1力」のフィードバックを増やすことで、意見が出しやすい場づくりを心がけています。
──そのほか、広報PR企画を生み出すために、大切にしていることを教えてください。
どんな企画をつくるときも「ターゲットはどう感じるのか?」を、注意深くチェックするようにしています。例えば「隠れ節目祝い」のキャンペーンを届けたいのは、子育て中のお母さん、お父さんでした。そのため、子育て中のスタッフを集めて「こういったメッセージを届けようとしているんだけど、どう感じる?」と聞きました。同じ当事者だからこそ、感じることや気づくことがあるからです。社内で受けたフィードバックを生かしつつ、企画をブラッシュアップするのは、当社でよく行われていることです。
今後は「攻めの広報・守りの広報」を両輪で大切に
──今後の広報における目標を教えてください。
中長期的な目標は「パーセプション・チェンジ」です。つまり、見過ごされてしまっている問題を可視化したり、これまでにない新しいものの見方を提唱したりすることを、ヤッホーブルーイングとして発信していけたらいいなと考えています。「隠れ節目祝い」の企画は、見過ごされていた人生の節目にスポットライトを当てるものであり、「パーセプションチェンジ」に類する企画だったかもしれません。
個人の広報PR業務としては「攻めの広報」と「守りの広報」に分解して、目標を設定しています。まず、「攻めの広報」としては、さらなる認知拡大を目指すことを目標にしています。知名度を拡大するには、広報部が企画の上流段階から深く関わり「どうしたら、世の中に伝わっていくのか」を綿密に設計することが大切だと思います。
「守りの広報」としては「危機管理」に注力していきたいです。製品や会社の認知が拡大するなかで、炎上などのリスクも高まっていくためです。今からコツコツと準備をして、トラブルが生じてもスムーズに対応できるような体制を強化していきたいですね。
今回の事例ポイント
製品開発だけでなく、広報PRにおいても、時代の一歩先を行く「革新的な発想」で、世の中に驚きを提供するヤッホーブルーイング。同社の広報PRには、既存のファンとの絆を大切にしつつ、新しいファンを増やすための心がけが随所に見られました。
- 他社には真似できない「自分たちだからこそできる企画」をつくる
- 「ターゲットはどう感じるのか?」を、注意深くチェックする
- 「隠れ節目」など、可視化されずに埋もれていた課題にスポットライトを当てる
ビールメーカーでありながら、自社のビジネスを「ビールを中心としたエンターテインメント事業」と位置づける同社。自由な発想と豊かなクリエイティビティから生み出される変幻自在の企画に、今後とも注目していきたいです。
なお、PR TIMES MAGAZINEでは、マーケティングの基礎や企画の立て方などについての記事も掲載しています。こちらもぜひ参考にしてみてくださいね。
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