大学時代にユナイテッドアローズ店頭で自ら声をかけ学生アルバイトとして入社し、現在29年目の山崎万里子氏。3つの部署を経験し、現在は人事本部長 兼 社長室担当副本部長を務めています。どの業界からも引く手あまたな人材を次々に口説き落としている背景をお伺いしました。
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株式会社ユナイテッドアローズ
1993年、大学時代に創業4期目のユナイテッドアローズ店頭で自ら声をかけ学生アルバイトとして入社。1996年、新卒採用として入社し「広告宣伝」部署で12年、初の企業広告やカタログ制作に携わる。その後、自ら手を挙げ「経営企画」に異動し、この間に同社女性初の執行役員に就任。事業本部でユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店のオープンを実現した後、人事本部。現在は人事本部長 兼 社長室担当副本部長を務める。
学生アルバイトから積み重ねた28年の経験
創業者の強い想いから創り上げた初の企業広告
── 学生アルバイトからのご経歴を教えていただけますでしょうか。
山崎さん(以下、敬称略):ユナイテッドアローズとの出会いは高校生のとき、まだ日本にセレクトショップが出始めたばかりのころでした。初めて店に入ったとき、「たくさんの知らないブランドの服が並んでいてかっこいい」と感じたことを今でも覚えています。そして、販売員の対応に感動しました。16歳の私に対して大人と対等な接客をしてくれたんです。そのとき、「大人になったらこういう世界にいくぞ」と決めましたね。
それからユナイテッドアローズに通い続けていて、大学2年生のときに偶然“週3からアルバイト募集”の張り紙を見つけて、その場で店頭の方に声をかけたんです。実は、今でもその方と一緒に仕事をしているんですよ。
大学2年生で自ら声をかけたアルバイトから始まり、大学卒業後新卒採用2期目で入社。それから気がつけば28年、ずっとユナイテッドアローズです。好きな店でアルバイトして、そのまま今まできています。
── 新卒入社後「広告宣伝」で最も思い出深い仕事はどのようなものでしょうか。
山崎:最初は「広告宣伝」と言っても予算ゼロで、いかに低コストで売上につなげるかいろいろやっていましたね。例えば、チラシや最寄り駅の出口の広告とか。その経験をしたからこそ一番思い出深いのは、上場して初めて企業としての広告を出したときでしょうか。創業者の「黒字転換したら会社として広告活動をしたい」という強い想いがあったんですよ。それが実現したのが1999年です。他にも海外のファッションデザイナー学校のスポンサーシップを行って、カリキュラムを一緒に手掛けたりしていました。そして後半の方はCRMを始めたころで、ロイヤルカスタマーの声を聞いていく仕組みも考えていましたね。
優秀な後輩たちと出会い、選んだ経営企画の道
── 経営企画に異動されたきっかけは何だったのでしょうか。
山崎:優秀な後輩たちがたくさん出てきたことですね。一緒に働いているなかで「広告宣伝やPRは彼らの方が優秀だな」と感じたときに、張り合うか別の道に進むか考えて異動を決めました。あとはマネジメントをやりたかったんですよね。ビジネススクールに通い、次に何をやりたいか尋ねられたときに何度も「経営企画」と伝えていました。
── 12年も広告宣伝の仕事に携わっていて迷いはなかったのでしょうか。
山崎:なかったですね。携わっている仕事に対して「常に今が一番楽しい」と感じていますが、全てやりつくしたという想いもありましたし、新しいチャレンジもしたかったので。でも実は、ビジネススクールに通い始めたのは当時各部門長と対等に渡り合うためというのもあり、それがすごく楽しくなってしまったんです。私、もともと細かい数字を見るのが得意なんですよ。
苦手なことを知れた営業本部の仕事から人事へ
── やりつくしたと思える宣伝企画の仕事とは反対に、苦労したご経験はありますでしょうか。
山崎:基幹事業であるユナイテッドアローズ事業本部での仕事ですね。経営企画のときに第一子を出産したのですが、産後1ヵ月ごろに当時の社長から「ちょっと会社にこられる?」と連絡がきて。「お祝いいただけるのかな」と思って行ってみたら事業本部への異動の辞令でした。
もともと「一度はPL責任を持った方がいい、事業責任者をやった方がいい」と言われてはいたんです。ユナイテッドアローズ六本木ヒルズ店のオープン、原宿本店ウィメンズ館の閉店、そして1,000人くらいのマネジメントにもう一人の執行役員と一緒に取り組みました。経験としてはすごくよかったですが、あまり貢献したとは言えないと私自身は感じていて。今まで培ってきた能力が活かせないことがよくわかりました。
<編集部コメント>
山崎氏のこれまでのご経験がよくわかるエピソードばかりでした。
ここからは、現在の人事本部長 兼 社長室担当副本部長という役職でのお仕事についてお伺いしました。
自らの発信が採用につながっていること
「はじめまして」と感じない面接
── 山崎さんが発信されていることで、採用におけるメリットはありますでしょうか。
山崎:「フォローしてます」「本読みました」と最初に言われることが多く、話が弾みますね。本を出版したのも“大きな名刺代わり”という点も大きいんです。ライフネット生命保険の共同創業者である岩瀬大輔さんに「顔写真入り、帯に推薦者からのコメント入りで本を出版しなさい」とアドバイスいただいたのがきっかけです。
日頃の発信も、会社とは関係ない世の中で起きていることに対しての発信が多いんですよ。会社や商品のことについては広報や他の皆が発信してくれますからね。だからこそ、私という人間のことを知ってもらえる、考えがより届けられると思っています。
採用活動は、自分を商品とした企業ブランディングであり企業マーケティングです。採用の難度が上がっているなか、入社してもらうのは新規客開拓と同じ、優秀な人材を見極めリテンションしていくのはCRMと全く同じなんですよ。
条件に左右されない採用
── 山崎さんの採用に対しての考えを教えてください。
山崎:私が行っている採用は、求職者以外の方にユナイテッドアローズのことを知っていただき、そして一緒に働きたいと思ってもらうことです。現職で活躍していて、本人も報酬や待遇に不満が少なく、求職をしていない方々にアプローチしています。
先ほどお話ししましたが、普段の発信で条件以外の魅力を伝えています。他社よりも格段に良い条件、報酬や待遇などで1位になることはできません。
そして、直接お話ししする際も会社のプラスな面だけでなく、マイナスな面も全て隠さずに話すことも大事ですね。
例えば、私が主に採用しているのはIT人材が多いのですが、当社はかなりアナログな会社なんです。彼らにとっては、決して整った環境とは言えず、だからこそ変革型のリーダーを必要としています。期待することを伝え、「ここを変えていってほしい」と正直に言っています。
そして重要なのは、私たちの目的はIT化することではありません。「ITの力を使ってユナイテッドアローズの価値提供を拡大したい」という想いを伝えています。
これは、オファーレターについても同様です。
採用者の家族の心を動かすオファーレター
── 変革型のリーダーの採用、どのようなオファーレターを書かれているのでしょうか。
山崎:A4サイズ1枚。一人ひとり、その方に向けたラブレターを書いています。
IT人材のなかには、転職してキャリアアップする方が多くいらっしゃいます。
最近入社した地方出身の方もそうでした。その方のお母様は何度も転職する息子さんのことを気にかけていて、「また転職するのか」と心配で仕方なかったそうです。しかし、私のオファーレターを見ていただいたことで、「この会社に定年までいなさい」と泣いて喜んでくれたそうです。
面接や面談で直接お話しする際も、オファーレターも基本は同じです。変革型のリーダーは、マイナスな面を変えていこうと思ってくれるような人たち。プラスもマイナスも正直に伝えることです。
どんなに伝えていても、入社後“複合機の多さ”に驚かれたりしますけどね。
仕事において大切にしていること
会社のなかでは誰一人として取り残さない
ー人事として、大切にしていることはどのようなことでしょうか。
山崎:人事としてではないのですが、どの部署、どの仕事でも共通して2つの「見極める・見つける」ことに気をつけています。
1つ目は「成果を出している人を見極めること」です。会社は8割の成果を2割の人が出していると思っています。自身の努力できちんと成果につなげている、その2割を見極めることです。
2つ目は「一人で越えられない壁に立ち向かっている人を見つけること」です。経済の影響やブランドの流行、その他にも個人一人では変えることができない状況下にいる人たちがいます。どんなに努力しても成果が上がらないからと評価されない、そういう放置してはダメな人を見つけることです。
そして、私の力でできることをします。1つ目は、正当な評価をする。2つ目は、ポジションを変えたりすることで救えるようにしていますね。
また、社員の本音を聞くのも人事の役割です。
例えば、ご自身の病気や手術、ご家族の介護などを直属の上司に話すことで機会を損失するのではという懸念をする人がいます。上司にとっては配慮のつもりですが、当事者からすると、仕事の機会が減ってしまうのではないか、という不安につながるのです。
上司に言えないことも話してもらえるような関係性を築いています。
今後新たに行っていきたいこと
── 最後に。今後、新たにやっていきたいことはありますでしょうか。
山崎:ないですね、「常に今が一番楽しい」ので。ただ、辞令が出たら渋々受けて、いつのまにかその仕事が一番楽しくなっていると思います。これまでも、そのときの仕事が好きなので異動したくないと思っても、結果的には毎回前の仕事を上回って、一番楽しい状況になっているんですよね。
<編集部コメント>
どんなときもその当時の仕事が楽しくて仕方ないそう。「常に今が一番楽しい」「今の仕事が最高に好き」の連続。好きを仕事にしているというよりも、そのときの仕事が好きになっていっている印象でした。山崎氏だからこそ、会社の魅力や想いが伝わっているのかもしれません。
(撮影:近澤幸司)
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