2021年8月30日に資金調達のプレスリリースを配信した株式会社YOUTRUSTさん。PR TIMESでも10月1日時点で2,200以上のいいね!や、SNSで話題・いま話題・旬速ランキング1位を獲得。同社がすごいのは、資金調達というニュースバリューをプレスリリース配信日だけで終わらせることなく、継続的に新しい話題を出し続け、X(旧Twitter)上でのお祭り状態を一定期間作りだしたこと。
その裏側には、プレスリリースの価値が瞬間的に終わらないよう緻密に戦略のパズルを組み立てて実行に移した広報PRパーソンとマーケター、2人の存在がありました。
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資金調達リリースを契機に“宣言”を“ファクト”にしたかった
── 8/30に掲出した資金調達プレスリリースと、その前後に発表された様々な施策がありましたが、いつ頃から準備されましたか?
広報PR担当 /緒方さん(以下、敬称略):具体的に資金調達のプレスリリースを出す日を決めて走り出したのが6月末くらいだったので、約2ヵ月前からですね。資金調達の目処が立つ少し前から、今回の資金調達をフックにした話題作りで盛り上げていきたいという話は出ていました。
マーケティング責任者 /大前さん(以下、敬称略):今年4月に発表したiOSアプリリリースの際に、「iOSアプリをリリースします」というプレスリリースを出しただけでしたが、ユーザーを中心に盛り上がり、X(旧Twitter)トレンド入りや、新規登録者数の過去ギネスを突破しました。ただ、瞬間的に盛り上がったものの、徐々に熱が収束していく際の打ち手を用意できておらず、もっとできることがあったかもしれない、という反省が残りました。
そこで、今回の資金調達プレスリリースでは、この反省を活かし、YOUTRUST史上最大に盛り上げていくことを会社として決めたんです。認知獲得を目指す広報PRやマーケティングだけでなく、プロダクトチームやHRチームも含め、資金調達プレスリリースを起点とした関連施策に全社のリソースを集中させる意思決定をしました。具体的には、採用サイトの作成・公開、「ユートラ編集部」や「脳内メモ」といった新しい企画や機能の開発・負荷増を見越したインフラ対策など、各チームが主体となって準備に取り組みました。
── X(旧Twitter)トレンド入りだけでも十分に認知拡大を成功させたように思いますが、さらに上を目指される上で、どのように役割分担して取り組まれましたか?
緒方:資金調達のプレスリリース作成やメディアアプローチは広報PR担当として私が担いました。プレスリリース前に発表したYOUTRUST編集部設立や、同時展開したOOH(屋外広告)、「すごい研修」などは大前が担当しました。ただ正直、それぞれの役割をここからここまで、と明確には分けていませんでしたね。
大前:広報PRとマーケティングの境目をはっきりさせる意味はないと思っています。緒方と僕の関係は、テニスのダブルスでいうと、前衛と後衛のようだと思いますね。「同じ目標」のもと、同じコートに立っていて、一緒に試合に臨んでいる。僕が攻めることが好きなので、緒方が後ろで守備範囲広くカバーしてくれるような感じですね。
── 今回の資金調達プレスリリースにおける「同じ目標」とはどのようなものだったのでしょうか?
緒方:4月のiOSアプリリリース時に、それまでの「副業・転職のキャリアSNS」というサービスメッセージを「信頼でつながる 日本のキャリアSNS」にアップデートしました。ここで私達の目指すものは、副業や転職といった点の変化だけでなく、長く続くキャリアという線の変化に寄り添うことであると“宣言”したんです。
ただ、この “宣言”だけでは、パーセプションチェンジ(認識変容)を起こすまでには至りませんでした。そこで、今回の資金調達プレスリリースを「“宣言”を“ファクト”として見せる機会」と捉え、「脱・副業転職サービス」を目標に、一時的なバズで終わらせず継続的な盛り上がりを作る施策を連続的に打ち出す戦略をとることにしたんです。
自社リソースと市場におけるニュースバリューを冷静に捉えた戦略設計
── 「脱・副業転職サービス」を目標に、広報PR担当として緒方さんはどのような広報戦略を練り、実行されたのですか?
緒方:まず今回の資金調達について冷静に捉えると、スタートアップの2桁億円調達が珍しくなくなった昨今は、調達した事実や調達金額だけを声高に叫んでも話題性に乏しいと感じていました。とはいえ、私達にとってはとても大きな金額であることは間違いないし、このニュースをフックにYOUTRUSTをしっかりと認識させていきたい。ここのギャップをどうジャンプさせていくかが大きな課題でした。
この現状の課題とゴールをふまえて逆算すると、私達が強いチャネルはSNSなので、このSNS上でどう拡散させるかという「How」を念頭に戦術を組み立てる形がベストだと考えました。
── 冷静に自分たちの強みは何か分析し、それを活かす設計に落とし込んだのですね。
緒方:そうです。SNSのタイムラインをざっと見る人たちに対して、伝えたいメッセージをいかに伝えられるかが肝になると思ったので、一番にOGPの方向性を決めましたね。大前からも「そこは投資するところや!」と背中を押してもらい、パッと見て目に留まるクリエイティブを目指すことができました。
そこから、代表の岩崎や大前、各部門メンバーや副業PRアドバイザーの方々と、改めて私たちが実現したいことは何か?を徹底的に議論し、メッセージを研ぎ澄ませていきました。結果、今の日本型キャリアに警鐘を鳴らすことがポイントとなり、「日本型キャリアを、ゲームチェンジする」を新しく浸透させたいパーセプションとして、プレスリリースのタイトルやOGPにも載せていきました。
ただ、OGPやメッセージでどんなにかっこいいことを謳っていても、実態が無いと意味がないので、YOUTRUSTが向き合う「日本のキャリア市場」のマクロな課題感を、ファクトに基づいてプレスリリースに落とし込みました。私自身、広報PR担当になってからまだ9ヶ月で資金調達プレスリリースを作成するのも初めてだったので、他社の資金調達プレスリリースをたくさん読み込んで参考にさせてもらいましたね。
── 資金調達プレスリリース当日にも、複数のメディアに掲載されていましたね。メディアに情報共有する際に気をつけたことは何かありますか?
緒方:なぜYOUTRUSTが副業・転職サービスではないのかをご理解いただいて記事にしていただけるよう、丁寧なコミュニケーションを心がけています。その際、私達がやりたいこと、解決していきたいと思っていることを代表・岩崎と同じ脳みそで話すことを意識しています。
副業・転職サービスではないということをただゴリ押しても本質的な想いややりたいことが伝わらないと意味がないので、私達が向き合うマクロ環境の情報をまとめ、丁寧に伝えるようにしていますね。
戦略的・連続的な「熱源」づくり
── 大前さんはマーケティングの戦略をどのように練っていたのですか?
大前:マーケティング施策に限らず、今回全社として取り組みたいこと説明する時に使ったのが下記スライドです。
それぞれ補足すると、「熱源=話題の起点となる施策」「熱波師=話題を広げてくれる人たちの巻き込み(社員や副業メンバー)」「水風呂=盛り上がりを数字に直結させる、各組織のパフォーマンス」。
全社のあらゆるリソースで「熱源」を複数作り、YOUTRUSTに関わる社内外の人たち=「熱波師」が熱を拡散、その熱が確実にサービスのグロースに結びつく、つまり数字としてととのわせるための「水風呂」を準備しようという話をこのスライドを使って伝えていました。
── 今回の資金調達プレスリリース前後に連続的に発表していた施策は、このサウナの事例での「熱源」ということですね。
大前:そのとおりです。iOSアプリリリース時にトレンドを下降させてしまった反省を踏まえ、連続的な「熱源」を意識してたくさん作りました。どんな熱源をどのように配置していくか、まず僕が粗い状態の「たたかれ台」を持っていき、みんなでたたいて全体を設計していきました。熱源を発表する順番も非常に大事なので、直前に順番を変えたものもありましたが、納得のいく設計にできたと思います。
<YOUTRUST 資金調達前後のニュース一覧>
── ここまで緻密に設計されていたとは…… !パズルみたいですね。
大前:まさにパズル状態でしたね。ひとつでもピースがずれてしまうと全体設計が崩れてしまうので、それが起きないようにするのが大変でした。ただ、みんながそれぞれの持場でなんとか踏ん張ってくれたので、結果的にはひとつのピースも崩すことなく、やり遂げることができました。
丁寧な社内コミュニケーションによる「熱波師」育成
── ここまでたくさんの施策が連続してくると社内でも混乱しそうですね。
緒方:まさにそうなんです!拡散する熱源が増えれば増えるほど、社内が混乱してしまうと思ったので、社内への情報発信はとても丁寧に行うようにしていました。
大前:先程お見せしたサウナの例えみたいな大きな絵を僕が描いてみんなに説明し、実際にみんなに動いてもらうための細かいケアを緒方に担ってもらって、社内で情報を共有していましたね。
緒方:今回の資金調達に関する意義やYOUTRUSTの目指す方向性などを代表の岩崎や大前の肉声で伝える場を複数回設定しました。同時に目線を合わせておきたいワードについては、一般的な解釈だけではなく、YOUTRUSTとしての解釈や線引きをまとめた資料を作成し、何度も丁寧に共有して、大枠での共通理解を作っていきました。
その共通理解をもとにしつつ、メンバー一人ひとりが具体的な盛り上げアクションを取りやすいように、これだけ見ておけば大丈夫と思える拠り所づくりもおこないました。具体的には、NotionとGoogleカレンダーに情報を集約し、熱源ごとに、詳細やToDo、諸注意(拡散時につけてほしいタグなど)をまとめ、拡散してほしいタイミングでSlack上でアナウンスする、ということを地道に行っていましたね。
大前:まさに、僕がテニスの前衛として、全社に伝わる言葉の開発をどんどん進めて、緒方に後衛として細かなところをカバーしてととのえていってもらった連携プレーですね。
YOUTRUSTは、盛り上げのタイミングを明確に設定すると率先してSNSでの拡散を担ってくれる組織文化があるので、メンバーの拡散力を最大化する設計と拡散しやすい準備さえしてあげれば、強力な「熱波師」として機能してくれるという確信がありました。なので、社内への情報共有と盛り上がる土壌づくりは連携して特に丁寧に取り組みましたね。
── メンバーのSNS拡散力が強いんですね。その力はどのように育まれているんですか?
緒方:SNSをやること自体は義務や強制ではありません。投稿数やフォロワー数の目標なども設定していません。ただ、岩崎の名言に「X(旧Twitter)は本業」という言葉があって、業務時間も気にせずX(旧Twitter)やSNSは使って良いとはっきり言っています。その言葉の後押しもあって、メンバーみんなが楽しんでSNSを利用していますね。また、創業時から、SNSのお声をきちんと聞いて商品開発・改善に活かすという意識が文化としてあることも大きいと思います。
── 大変勉強になりました。最後に、広報PR×マーケティングでプレスリリースの価値を最大化させるためのアドバイスをお願いします。
大前:テクニカルな部分は様々なケースがあるので、コアな部分をお話しすると、自社のサービスを一番好きでいることだと思いますね。これは「理解する」ではなく「好き」というのがポイントです。このシンプルな感情が自然といろんなことを巻き込む時の熱量を変えるし、特にスタートアップのような小規模な組織ほど、レバレッジ効かせられると思いますね。
緒方:先程、私と大前の役割分担をはっきりさせているわけではないというお話させてもらいましたが、それぞれが広報PR脳とマーケティング脳のどちらも有しているからこそ、阿吽の呼吸で連携できているとは思います。
自分たちのサービスをより多くの人に愛してもらうにはどうするかを突き詰めて考えるという点では、マーケティングと広報PRの本質は同じですよね。「私は広報PRだからマーケティングなんてわからない」ではなくて、自社サービスへの愛を持って向き合うことで、それぞれの脳みそをインストールした状態で連携できるのではないかなと思います。ただ、広報PR脳=メディア関係者と仲良くなるスキル、と狭義に定義付けてしまっているとマーケティング脳は身につかないものなんだろうなとも思うのでそこは注意した方が良いかなと思います。
今回のPR事例ポイント
- 全社のリソースを注ぎ込み、連続的な盛り上がりポイントを設計することで実現したプレスリリース価値の最大化。
- 起こしたいパーセプションチェンジの言語化による目指すべきゴールの明確化。
- 社内の盛り上がりがそのまま社外にも伝播する。だからこそ、インターナルコミュニケーションは丁寧に。
- 広報PRとマーケティングは明確に線引きされるものではない。どちらの脳みそもインプットした上でサービスの成長に寄与できるように。
資金調達プレスリリースをフックに、全社リソースを集中して、パーセプションチェンジに臨んだYOUTRUST。結果、SNS上のお祭り状態を作り出すことに成功していますが、そこにはまるで前衛・後衛の関係でテニスコートに立つ広報PRパーソンとマーケターによる緻密な戦略があったことがわかりました。
ただ、その戦略を実行に移すための熱量は、シンプルにサービスを好きであるという気持ち。YOUTRUSTメンバーのSNS拡散力の強さも、サービスへの愛から生まれるものだと感じました。
YOUTRUSTのように、日頃から社内で育んでいる熱量が、自社のパーセプションチェンジや強固なブランドづくりにつながっていくものなのかもしれないですね。
(撮影:原 哲也、取材はリモートで実施しました)
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