麻布の鮨職人が開発した「旬瞬凍シンニギリ」。冷凍・真空技術が切り拓く、江戸前鮨の新たな可能性とは

開発ストーリー

2023年10月11日 11時10分 oto株式会社

「麻布鮨心」は、江戸前鮨職人である私、中村導昌が12年の修業期間を経た後、2008年にオープンした本格江戸前鮨店です。オープンからおよそ15年、心癒されると好評をいただいている江戸前鮨を「育成寿司」と称し、お客様に笑顔になってもらうため手間を惜しまず心を込めて提供しています。おかげさまでオープン以来順調に運営が続いていたさなか、2020年以降、コロナウィルス感染拡大により外食産業は甚大な被害を被り、私の「麻布鮨心」もそれまでのような営業状態を維持することが難しくなりました。この出来事をきっかけに以前から鮨心の運営の傍ら取り組んでいた冷凍鮨の研究開発と商品化に、一層本格的に取り組み始めました。その結果、2021年9月には最先端の冷凍・真空技術を駆使した「シン握り」の販売を開始。2022年10月には冷凍寿司事業を専業とするｏｔｏ株式会社を設立。商品もブランドもリニューアルし事業推進を加速しています。

このストーリーでは、冷凍江戸前鮨「旬瞬凍シンニギリ」の開発秘話と、私、中村導昌が思い描く江戸前鮨の未来の姿についてお話しさせていただきます。

麻布の鮨職人が思い描く、世界で愛される鮨の開発

ｏｔｏ株式会社は、私、「麻布鮨心」大将、中村導昌が開発した冷凍江戸前鮨「旬瞬凍シンニギリ」の販売を通じて、鮨の新たな市場の創出に挑戦しています。当然ながら私一人の力では限界があり、ｏｔｏ設立当初から専門性を持ったプロフェッショナルがチーム一丸となって取り組むことが不可欠であると考えていました。現在は、経営戦略・企業価値向上、マーケティング・ブランディング、ファイナンス、オペレーション設計・構築など様々な分野の専門家が事業に将来性を感じ、協力してくださっています。私たちは、世界中で本格江戸前鮨がより身近な食べ物として愛され、お鮨で世界が笑顔に満ち溢れている姿を思い描いています。「旬瞬凍シンニギリ」ならばそれを実現できると確信しています。

前代未聞の冷凍鮨開発。コロナ禍で強まった、お店の味を世界中に届けたいという想い

そもそも私は、冷凍江戸前鮨の第一弾「シン握り」が販売開始された2021年からさかのぼって６年ほど前から、江戸前鮨が冷凍で流通される時代が来ることを信じ、冷凍鮨の製造に関する研究を独自にすすめていました。その背景としては、私が鮨の世界に20年以上身を置く中で、一流を志す鮨職人の減少、気軽に江戸前鮨を食べることができる鮨店の減少を目の当たりにし、このままでは江戸前鮨の文化が衰退し続けてしまうのではないかという危機感をいだいていたからです。鮨心の閉店後に、寝る間も惜しみ試作品を製造し解凍を試みる、といった試行錯誤を一人で繰り返していました。当然ながら、当時冷凍鮨の成功事例は一切なく、独自に冷凍方法や解凍方法を学べば学ぶほど、難しい問題が山積みであることを感じていました。

そのような中、世界中でコロナウィルスの感染が拡大しました。私のお鮨を楽しみにしてくれている方々が日本国内外に多数いらっしゃるにもかかわらず、コロナ禍に直面し鮨心のお鮨を召し上がっていただくことができず非常に苦しい思いをしました。

「家族で毎年伺うのを楽しみにしていたのに残念・・・」

「今年は日本にも行けなくてミチのお鮨が食べられないのが残念だ」

「みちさんのお店で食べる鮨が楽しみで頑張っていたのに・・・」

「鮨心のお鮨が忘れられないよ」

みなさまから多くの声をいただきました。

「お店でしか味わうことのできないこの鮨を、世界中の誰にでもお届けすることができたなら」このただひとつの想いから、私は冷凍江戸前鮨の商品化に本格的に取り組む決意をいたしました。

解凍後の完成形から逆算した、握りたてのシャリ再現

冷凍江戸前鮨の商品化に際し特に大変だったのが、お米の白蝋化の対策、解凍後に握りたてのようなシャリの状態を再現することでした。一人では解決できない難題にいくつも直面しましたが、冷凍のプロフェッショナル、解凍のプロフェッショナル、真空のプロフェッショナル、各分野のプロフェッショナルからアドバイスをいただきつつ、最終的には解決するに至りました。

解凍後の完成形から逆算し、

シャリに最適な水分量やお酢の配合量を決める
冷凍のプロセスと解凍のプロセスを構築する
各プロセスにふさわしい技術を選定する

鮨の業界に入って24年、お客様が召し上がるもの、その瞬間に徹底的にこだわり続けてきた私は、「鮮度、旨味、体験」どれを取ってもお店でご提供しているものと遜色ないレベルにまで引き上げなければお届けはできないと何回も試行錯誤を繰り返してきました。その結果、2021年9月に冷凍江戸前鮨の第一弾「シン握り」の販売実現に至りました。さらに2022年10月には、特殊冷凍した鮮魚を私が考案した魚料理として毎月冷凍便でお届けする「すしやの定期便」も開始いたしました。

解凍時間の短縮と包装の簡易化で、冷凍江戸前鮨をもっと身近に

このような取り組みを著名なテレビ番組で何度もご紹介いただいたこともあり、番組放送からしばらくの間はかなりの数量を製造・販売させていただきました。一方で、本格江戸前鮨をご家庭でより気軽に、日常的にお召し上がりいただくには、一層の工夫が必要であることもわかってきました。その主なテーマは、①解凍方法、②お届け時の包装方法、③販売価格です。

まず、解凍方法としては、解凍時間を短縮することが求められました。当初、a. 自然解凍で3時間～3時間半、b. 熱湯を使う独自開発の解凍方法で40分、という方法をご提案していました。しかしながら「解凍されるまでに時間がかかりすぎる」という声をいただくことが少なくなく、お急ぎの方々のために、電子レンジと温水を用いて約10分で解凍する方法を考案いたしました。次に、お届け時の包装方法に関しては、ご家庭の冷凍室事情に配慮する必要に気づきました。「きれいに装飾、梱包してくれているが、たくさんの資材を捨てるのも面倒だし、もったいない」「冷凍室の空きスペースがあまり無いため大きすぎて入らない」などという声をいただきました。現在は見栄えよりも、a. 環境への配慮、b. ご家庭の冷凍室事情への配慮、を最優し、必要最少限の包装資材のみを用いて発送させていただくこととしています。最後に、販売価格に関しては、私共が考える商品の価値と、多くのお客様にご納得いただける価格水準とのバランスを重視しています。未だ正解を見出したわけではありませんが、提供側の一方的な都合ではなく、日常で気軽にお召し上がりいただくために許容され得る価格水準を仮説的に設定し、一方で事業を継続していくための努力をしております。

冷凍鮨が目指す、魚貝の価値向上と冷凍流通の技術革新

これまで様々な商品を展開しては来ましたが、リニューアルに伴い関係者と何度も話し合いを重ね、まずは「私が自らが目利きし、全国の産地から仕入れる季節の旬を瞬間凍結することで、場所と時間を超えてお客様へ本格江戸前鮨をお届けできる」という「旬瞬凍シンニギリ」の価値に磨きをかけ、ひいては江戸前鮨の未来に貢献することに注力すべきということを再確認し、事業に取り組んでいます。

「旬瞬凍シンニギリ」で使う旬の魚貝を市場や漁港から直接仕入れる中で、希少な魚貝と出会うことも少なくありません。そのような魚貝の中には上手に調理をすれば美味しいにもかかわらず現在の流通市場ではほとんど価値がつかないものも存在します。私たちは、そのような魚貝を使い「旬瞬凍シンニギリ」を製造・流通することでそれらの市場での価値を高めていきたいと考えています。

ここ数年、日本の食品市場では冷凍食品が注目を集めているものの、冷凍状態のお鮨が一般家庭で受け入れられるのにはもう少し時間がかかるかもしれません。一方で「本格江戸前鮨を冷凍状態で流通できる」ということは鮨文化においては大きな革新であると考えています。そのような強みを活かし、拠点間は凍結状態、その後お客様へ提供する最終段階では解凍が完了している状態で流通する、というような新たな流通の仕方も検討しております。

これまで馴染みのなかった地域の人々にも江戸前鮨を楽しんでもらいたい

当然ながら「旬瞬凍シンニギリ」であれば、これまでは、鮮度の良い魚貝が獲れない、または、江戸前鮨職人がいない、というような理由から馴染みがなかった国や地域の皆さまにも本格江戸前鮨を楽しんでいただけます。お鮨で世界が笑顔に満ち溢れている姿の実現に向け、海外展開も積極的に推進していきたいと考えております。