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BtoB企業が「初めての対外イベント」に踏み出すとき広報PR・経営は何を考え、何を決めてきたのか|平田貴子

BtoB企業が「初めての対外イベント」に踏み出すとき広報PR・経営は何を考え、何を決めてきたのか|平田貴子

BtoB企業が対外イベントを実施する際のポイントについて、実例を踏まえて執筆いただいています。

平田 貴子のプロフィール画像

株式会社PRorder 代表取締役

平田 貴子(Hirata Takako)

医療広報を経て、フランチャイズ本部にて経営支援から広報立ち上げ・新規事業まで幅広く担当。その後、総合PR会社にて上場企業を中心に多様な業界のPRを担当し、2022年に株式会社PRorderを設立。現在は、人的資本経営を支援する組織開発・エンゲージメント向上領域をはじめ、大学・教育機関、製造業、観光業、美容・ライフスタイル領域などに対し、ブランディングおよび発信戦略の設計を軸に、調査・白書設計などのファクト構築・コンテンツ開発・動画ディレクション・イベント企画設計、メディア戦略の設計・実装まで一貫して支援している。また、企業や教育機関に対する広報人材の育成・研修にも携わり、東京商工会議所をはじめ各種講座への登壇のほか、執筆活動も行っている。支援先である香川県の取っ手メーカーのプレスリリースにて「プレスリリースアワード2021」パブリック賞を受賞。株式会社PR TIMES公認プレスリリースエバンジェリスト。

はじめに:なぜ今、BtoB企業のイベントが検討され始めるのか

プレスリリースやメディアリレーションを一定期間続けてきた企業が、ある段階で共通の問いを抱き始めます。

「情報は出している。露出も少しずつ増えている。しかし、事業の本質や思想までは、十分に伝わっていないのではないか」。

プレスリリースや取材は重要な広報PR施策です。ただし、それらは基本的に「編集された情報」として届けられます。受け手にとっては理解しやすい一方で、企業が伝えたい背景や温度感まで共有しきれないこともあります。

そうした状況のなかで、「対外向けに”場”をつくる」という選択肢が浮上してきます。

イベントの担当は必ずしも広報とは限りません。マーケティング部門、事業責任者、経営企画、あるいはプロジェクトオーナーが担うこともあります。

一見すると、露出機会を増やす施策のひとつに見えるかもしれません。しかし実際には、社内合意、予算判断、登壇者調整、文脈設計、そして「自社はどう見られているのか」という現実との対峙など、多くの論点を同時に抱える取り組みです。

本稿では、「その企業にとっての初回イベント」に焦点を当てます。イベント自体が初めてという意味だけでなく、そのフェーズにおいて新しい意味を持つ”初回”も含みます。3社の事例を通じて、文脈に即した設計と社内巻き込みの重要性を整理します。

私自身、複数のBtoB企業のイベント設計に外部から関与してきました。その経験から共通して感じるのは、「イベントをどう設計するか」以上に、「やると決める前に何を整理したか」が成果を左右するのではないか、という点です。以降では、そうした視点を軸に読み解いていきます。

イベント検討段階で必ず浮上する3つの論点

イベントを検討し始めると、多くの企業で共通する論点が見えてきます。

1.誰のための「場」なのか

最初に曖昧になりやすいのが、「誰を主な対象とするのか」という点です。

メディア向けなのか、既存顧客向けなのか、行政やパートナー企業なのか、あるいは将来の採用候補者なのか。対象を広げるほどメッセージは抽象的になり、絞るほど設計は明確になります

あるBtoB企業では、初の対外イベントを企画する際に「呼びたい人を明確に定義すること」から着手しました。すべての関係者を満足させる設計は現実的ではありません。優先順位を明確にすることが、イベント全体の一貫性につながったのです。

2.既存の広報PR施策との役割分担

次に整理すべきは、「イベントは何を補完する施策なのか」という点です。

プレスリリースや取材対応が担ってきた役割は何か。そのうえで、イベントでしか実現できない価値は何か。「露出を増やすためのイベント」なのか、「関係性を深めるためのイベント」なのか

この位置づけが曖昧なまま進めると、成果指標も不明確になりがちです。イベントを単体で評価しようとすると、費用対効果の議論に陥りやすくなります。

3.リスクと社内合意形成

BtoB企業においてイベントは、単なるプロモーション施策ではありません。技術情報や契約情報の扱い、登壇内容の確認、来場者管理など、複数部門にまたがる調整が必要になります。

特に初回は、社内にさまざまな不安が生じます。

  • どこまで公開してよいのか
  • 想定外の質問にどう対応するのか
  • 現場の負担は増えないか

これらを事前に言語化し、合意形成を図ることが、実施可否の判断に直結します。イベントを検討するプロセスは、組織としてのリスク認識を可視化する機会でもあります。

「やる」と決めるまでに整理すべき4つの観点

「なんとなくやったほうがよい」という空気感では、設計は前に進みません。ここでは「やる」と決めるまでに整理すべき4つの観点を紹介します。

1.目的の明文化

  • 何を伝えたいのか
  • どの関係性を強化したいのか
  • イベント後に何が起きていれば成功といえるのか

これらを言語化することが出発点です。

ある企業では、初の対外イベントに際して「事業の背景や社会的意義を、編集されない形で直接伝える機会を持つ」ことを目的に設定しました。露出数ではなく、理解の深まりを重視する設計です。

2.優先ターゲットの設定

来場者の範囲を広げすぎないことも重要です。メディア、行政、既存顧客、パートナー企業など多様なステークホルダーが存在するBtoB企業では、対象を明確にしないとメッセージが散漫になります。「今回は誰にもっとも来てほしいのか」という問いへの明確な答えが、設計の軸になります。

【メディア開拓という現実】

広報PRが主催するイベントでは、メディアがターゲットになることが多いと思います。一定期間広報PR活動を継続していれば、関係性の深い業界紙との接点はできているはずです。しかし、自社のプロダクトやサービス、企業理念を社会テーマとして広く届けるには、媒体の幅を広げる必要があります。

新規媒体へのアプローチは、事業の前提理解から説明する必要があるなど、既存リレーションとは異なる難しさがあります。場を設けることでタッチポイントを広げるチャンスでもある一方、思うようにいかないことも多い。イベントは、自社の”見られ方”を突きつけられる場でもあると感じます。それは同時に、自社を客観的にとらえ直し、どう世の中に情報を届けていくかを考える機会にもなります。

3.語らないことの決定

初回イベントでは「すべてを伝えたい」という心理が働きやすいものですが、情報を詰め込みすぎると焦点がぼやけます。

  • 今回あえて触れないテーマ
  • 別の機会に回す情報
  • 質疑応答の範囲

これらを事前に整理することで、メッセージの一貫性が保たれます。

4.成果指標の誤解を避ける

イベントの評価を、集客数や露出件数だけで測ることには限界があります。「メディア露出よりも既存顧客との関係性強化が想定以上の成果だった」と振り返る企業もあります。何をもって成果とするのかを、事前に合意しておくことが重要です。

初回設計で起こりやすい「想定とのズレ」

イベントは計画通りに進む施策ではありません。特に初回は、「想定」と「実際」のあいだにズレが生じやすくなります。

よくあるのは、成果の種類に関するズレです。メディア露出を主要成果と見込んでいた場合でも、実際には既存顧客やパートナー企業からの反応のほうが大きかった、というケースは珍しくありません。

一方、準備工数は想定以上だったという声も多く聞かれます。複数部門にまたがる確認、情報公開範囲の精査、登壇内容のすり合わせなど、イベントは外向きの施策であると同時に、社内調整力が問われる施策でもあります。

こうした「想定とのズレ」は、失敗ではありません。むしろ次回設計のための重要な学習材料です。重要なのは、ズレを可視化し、何が誤算で、何が想定通りだったのかを整理することです。

イベントを単発で終わらせないための設計

初回イベントの終了後に問われるのは「継続するかどうか」です。定期開催するのか、テーマを変えて展開するのか、あるいは一度きりの機会とするのか。この判断は、イベント単体ではなく、広報PR施策全体の設計のなかで行う必要があります。

ある企業ではリブランディングの文脈と連動したイベント設計を行いました。単なる発表の場ではなく、ブランド再定義のプロセスを可視化する場として位置づけたのです。

また、カルチャーマッチした人材をいかに採用するかは今や経営課題のひとつです。多数が集まる就活会場ではなく、採用活動の一環として単独イベントを設計し、説明会とは異なる立ち位置を明確にしながら企業思想を体験的に伝える場とする事例も出てきています。

これらに共通しているのは、イベントが単体施策ではなく、リブランディング、採用、顧客関係強化といった中長期テーマと連動している点です。

イベントは「やること」自体が目的ではないと私は考えています。広報PR戦略全体のなかでどの役割を担うのかを設計して初めて、意味を持ちます。

イベントは「判断力」を可視化する施策

イベントは、やれば必ず成果が出る施策ではありません。ただ、検討プロセスのなかで浮上する論点は、その企業の広報PR戦略や組織の意思決定構造を映し出すことが多いと感じています。

これらの整理なくして、イベント設計は前に進みづらいのではないでしょうか。

初回イベントは、派手な演出よりも、判断プロセスの明確さが成否を左右するように感じています。

これからイベントを検討する立場にある方にとって、本稿が「やるかどうか」を決める前の整理材料となれば幸いです。

とはいえ、ここまでの話はどこか抽象的に感じられたかもしれません。ここからは、イベントに踏み出した3社の事例をもとに、実際の判断や設計のプロセスを見ていきます。

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事例編:BtoB企業3社のイベント実施事例

本稿では、水ing株式会社の取り組みをメイン事例として詳しく取り上げるとともに、Unipos株式会社および株式会社アルテジェネシス(Ash)の事例を補助的に紹介します。業種や目的はそれぞれ異なりますが、いずれも「初回イベントに踏み出すまでに、何を整理し、どのように意思決定を行ったのか」という共通の観点から読み解いていきます。

事例1.水ing株式会社|初の対外イベントにおける意思決定と設計プロセス
事例2.Unipos株式会社|リブランディングと連動した複層的なイベント設計
事例3.株式会社アルテジェネシス(美容室Ash)|採用イベントにおける言語設計

事例1.水ing株式会社|初の対外イベントにおける意思決定と設計プロセス

初めて対外イベントを実施する場合、多くの企業では「やるか、やらないか」という二択から議論が始まりますが、実際には、「やるかどうか」より先に整理すべき論点がいくつも存在します。

水ing株式会社は、水インフラの運営・維持管理を担う総合水事業会社です。同社は災害関連施策の体制強化を背景に、メディア向けセッションを初開催しました。本格的な対外イベントとしては、初の挑戦でした。

テーマは「激甚化する災害と”水”支援」。産官学の登壇者を招き、セッションと実機展示を組み合わせた構成です。

このイベントは、約2年にわたる災害支援体制強化の取り組みを社会にどう提示するかという「可視化フェーズ」として設計されたものでした。

参考:【激甚化する災害】国・自治体・企業の “水” 支援はどうあるべきか  能登半島地震後の教訓─“水BCP”と生活を守る仕組みの再設計

1.なぜ”今”やるのかを、経営文脈で整理できているか

BtoB企業において、イベントは必ずしも優先順位が高い施策ではありません。広告や営業活動と比較すると、直接的な成果が見えづらいためです。

対外イベントを実施するかどうかは、広報PR判断だけでは決まりません。経営として「今、社会に提示すべきことがあるか」。この問いへの答えが揃って初めて、イベントは選択肢になります。

水ingの場合、体制強化や取り組みの積み重ねが一定のフェーズに達し、”発信できる状態”が整っていました。だからこそ「体制強化の流れのなかで、社会に対してどのようなスタンスを示すのか」という経営文脈と紐づけて整理することができました。

イベントを「広報PR施策」として説明するのではなく、「スタンスを明確に打ち出すための手段」として再定義する。この整理があったことで、社内の合意形成が進みました。

【予算が先か、意義が先か】

初回イベントで必ず立ちはだかるのが、予算と稟議の壁です。コストが可視化されやすい施策だからこそ、慎重になる。一方で、「会社にとって意義がある」と腹落ちしたとき、組織は動きます。

今回も、担当者の強い問題意識と覚悟が社内合意を前に進めました。外部から伴走する立場でも、この熱量は変わりません。専門性や事例知は持ち込めますが、最後に組織を動かすのは「意義の共有」です。

2.何を見せるか、何を見せないかを決めているか

水ingのイベントは、セッションと展示の二層構造でした。

  • ホールでの講演(思想・政策・社会構造)
  • 屋外での実機展示(給水車・可搬式浄水装置・産官連携ブースなど)

思想だけでは抽象的になる。装置だけでは機能紹介に終わる。両方を設計することで、「面で支える企業」という輪郭が立ち、メッセージが成立しました。

また、産官学それぞれ立場の異なる登壇者が並ぶなかで、”役割・視点・課題感の違い”として整理するトーン設計も重要でした。それぞれの視点をひとつの文脈に収めるセッション設計のすり合わせは、担当者が慎重に積み上げてきた部分です。

3.準備の大半は「見えない調整」である

実際の運営は、当日よりもその前段階の調整が圧倒的に多くを占めます。

社内稟議・契約調整、部署横断での展示準備、登壇者との細かなすり合わせ、車両展示に伴う会場規定や天候リスク対応、社内運営メンバーへの説明と役割調整——。今回は屋外展示が伴うため、調整事項は想像以上に多岐にわたりました。

年末開催という日程上、自治体側の重要会議と日程が重なる事態も発生しました。そこで登壇予定者のビデオレターを制作し、写真や資料を組み込んだ形でメッセージを届けました。イベントは当日の進行だけでなく、伝達手段そのものを設計対象とする必要があります。

メディア招聘の面でも、追加対応や資料作成が都度求められます。メディアの事業認知が想定より低い、メインテーマだけでは媒体の幅が広がらないといった状況は、初回に限らずどのイベントでも直面することです。コストも期待値も高い分、メディアの反応が思うように返ってこないとき、じわじわと焦りが募っていく感覚は、担当者にしかわからないものがあります。

社名や事業への理解が十分でない媒体には会社概要資料を補完的に整備し、媒体特性に合わせてサブの切り口を再検討しながら、アプローチの幅を広げていきます。メインの「災害」というテーマだけでは切り口が限定されるため、経済視点からもアプローチできるよう、発信設計を後半で強化していきました。

イベント設計は、固定しきれない部分も残ります。特に社会性の高いテーマやタイミングを重視したコンセプトの場合、他社・他団体と文脈が重なることもあります。社内外にアンテナを張り、状況に応じて調整し続ける柔軟さが求められます。

4.役割分担をどう設計するか

イベントは、社内リソースだけでは対応しきれないことが多く、外部との連携が必要になるケースも少なくありません。外部パートナーがイベント演出やPR・メディアアプローチを担い、社内は各部署調整や登壇者対応に注力する——そうした役割分担で進める企業も多いと思います。

初回だからこそ、経験と専門性のあるサポート体制を整え、イベントの価値を高めることもひとつの選択肢です。

ロゴパネルや視認性の高いクリエイティブは、今後も活用可能な資産として残す設計を意識しました。広告など他施策とも連動させることで、文脈の一貫性と発信量も担保しました。

初回だからこそ、「当日成功」ではなく「次に活きる設計」に視点を置くことが重要です

5.実施後に何が残ったか

12月、天候にも恵まれ無事に開催された水ing初のプレスイベント。外部からは大がかりな屋外展示と産官学連携の本気度が伝わり、「ここまでやる企業は少ない」という評価もありました。業界内での立ち位置や今後の取り組みへの意思が伝わったという反応も多く寄せられました。

一方で、社内の反応も印象的でした。イベントは同時配信とアーカイブ化を行い、当日参加できない社員や多拠点でシフト勤務する社員も事後視聴できる環境を整えていました。その結果、社員から「自社の事業に誇りを感じた」「継続すべき取り組みだ」という声がアンケートに多く寄せられました。

対外イベントでありながら、インナーブランディングとしての効果も大きかったのです。

イベントは露出施策と捉えられがちですが、実際には「企業としての輪郭を社内外で再確認する場」でもあります。

水ingのケースから見えるのは、イベントは思いつきや勢いではなく、整理の積み重ねで成立するという点です。

  • 経営文脈での再定義
  • 見えない準備の徹底
  • 役割分担の明確化
  • 実施後の資産化視点

これらを経て初めて、初回イベントは「意味を持つ施策」になるのではないでしょうか。

「イベントをやるべきか」を問う前に、まず「自社は何を整理できているか」を問い直す。それが最初の一歩だと思います。

水ing株式会社 屋外展示プレスツアーの様子
水ing株式会社 屋外展示プレスツアーの様子

事例2.Unipos株式会社|社内外を横断するイベントの役割

コーポレートロゴやミッションの刷新は、企業にとって大きな転換点です。それを「プレスリリース配信」で終わらせるのか、「場を設けて提示する」のかで、意味合いは大きく変わります。

Unipos株式会社は、ピアボーナス®「Unipos」をはじめとするHRテクノロジーと、経営・人事・管理職向けのコンサルティングサービスを両輪に、人と組織の力を引き出す事業を展開しています。これまでも大小のセミナーやイベントを継続的に実施してきた同社にとって、コーポレートロゴおよびミッションの刷新と統合した対外イベントは、初の取り組みでした。

事業成長に伴い提供サービスの範囲が広がり、社会環境や企業を取り巻く文脈も変化するなかで、「自社が果たすべき価値創造の方向性を改めて明確にする」ことが背景にありました。リブランディングは、表面のビジュアルを変えることではありません。方向性を示し、その意図をどう共有するかまでが設計の範囲です。その文脈のなかで実施されたのが、「Unipos Bridge」と名付けられたイベントでした。

このイベントの特徴は、発表の場であると同時に、接点をつなぎ直す場であったことです。メディアに対しては企業の未来像を示し、クライアントに対しては事業理解と関係性を深め、社員にとっては自らが担う意味を再確認する場でもありました。

参考:Unipos、新コーポレートロゴおよび新ミッションを発表

1.「方向性の提示」と「関係者への再定義」を同時に行う設計

プログラムには、新ロゴ・新ミッションの発表に加え、経営陣や有識者による登壇、オウンドメディア記事アワード、サービス導入企業アワード、企業同士がカルチャーを紹介し合う「Culture Port」企画、交流会が組み込まれていました。

リブランディングで示した「未来の方向性」と、「いま共にいる方々」との関係性を可視化し、横断的につなぐ構成です。

「Culture Port」では顧客企業が自社の組織文化を可視化する場を同時に設けることで、イベントは”発表の場”から”接続の場”へと拡張されました。

リブランディングは企業単体の宣言ではなく、”関係性の再定義”でもある。その思想が設計に反映されていました。

2.イベントを”単発の演出”にしないための仕掛け

イベントはオンライン配信とアーカイブ公開も行われ、セミナーパートは後日視聴可能な形で整理されています。また、新ロゴ発表前後での会場装飾の転換や招待状の仕掛けなど、クリエイティブ面でも一貫したストーリーが設計されていました。

これは「当日盛り上がればよい」という発想ではなく、リブランディングを時間軸で浸透させる設計です。イベントは点ではなく、線で設計する。その姿勢が印象的でした。

参考:【1/20配信】エンゲージメントと人的資本のこれからを問う 「Unipos Bridge 2025」

3.もっとも重要だったのは、準備プロセス

長時間かつ多岐にわたるプログラムを成立させるには、関与するメンバーの足並みを揃える必要があります。

イベントのオーナーはマーケティングや広報PRの一部ではなく、経営・事業を横断した社員一人ひとりが当事者として関わるものです。「なぜ今これをやるのか」を丁寧に共有し、説明の場を設け、巻き込みながら準備を進める。このインナー設計があって初めて、外向きのメッセージが成立します。

リブランディングは社外への宣言であると同時に、組織の内側を再接続する機会でもあります。その意味で、このイベントは”発表”ではなく、”再確認の場”でもあったと感じます。

参考:「カルチャー変革」を推進し、新たな組織文化を育む企業を表彰

参考:組織変革の最前線を照らす「UNITE Award 2025 powered by Unipos」受賞記事を発表

4.経験値があるからこその細部設計

Uniposはこれまでもセミナーや交流会を継続的に実施してきました。その経験値が、登壇構成の組み立て、アジェンダの緩急、懇親会の設計、空間演出といった細部に表れていました。

特に印象的だったのは、リブランディングという内向きにもなりがちなテーマを、“顧客とともに未来を描く場”へと転換していた点です。企業の方向性を示しながら、同時に関係者の成功事例や取り組みを前面に出す。このバランスが、単なる発表会との違いを生んでいました。

この事例が示しているのは、イベントを”ニュース化の場”としてではなく、戦略テーマを横断的に接続する場として設計することの重要性です。リブランディングという転換点において、イベントをどのように位置づけるか。その判断が、メッセージの浸透度を大きく左右するのではないでしょうか。

Unipos株式会社 リブランディングイベントの様子
Unipos株式会社 リブランディングイベントの様子

事例3.株式会社アルテジェネシス(美容室Ash)|採用イベントにおける言語設計

イベント設計においては、会場構成やコンテンツと同じくらい、「どう言語化するか」が重要になります。

アルテジェネシスグループは、首都圏と関西に約370店舗の多様な美容サロンを展開する企業です。フランチャイズも手がけており、消費者向けブランドでありながら本部としてBtoB的な役割も担います。メインブランドである美容室「Ash」は首都圏を中心に126店舗を展開しており、同社にとって単独の採用イベントは初の試みでした。

その初挑戦となったリクルートイベント「AshRUSH」のコンセプトは、「就活イベント未満の場づくり」です。

参考:【説明会以上、就活未満|履歴書なし・スーツなし】3/24@青山|美容学生向け体験型リクルートイベント「AshRUSH」

背景にある、業界特有の離職課題

ホットペッパービューティーアカデミーの調査によれば、美容師の初職就業期間が3年未満の割合は50.4%。さらにそのうち約半数は1年未満で離職しているというデータもあります。離職理由の上位には「自分が何をすべきかわからなかった」「指導や評価の基準が不明確だった」といった回答が挙げられています。

つまり採用よりも、ミスマッチの問題といえます。

Ashは近年新卒入社数が増加し、2025年は過去最高の238名を記録しています。次年度は採用数をあえて減らす方針ですが、それは「採用できなかった」からではなく、離職率が下がり過剰採用をする必要がなくなったためです。

今回のイベントは、単なる採用数拡大施策ではありません。「就職活動前にリアルを知ってもらう」ことでミスマッチを減らすことを意図した取り組みであり、イベントは集客の場であると同時に、ミスマッチを減らす”事前接点”として機能しています。

当日はヘアショーやステージ演出、実践的な情報共有コンテンツも用意され、企業の価値観や空気感を”体験”として伝える設計です。これはBtoB企業にも応用できる視点です。企業の思想は、文章よりも場で伝わることがあります

広報PRとしての言語設計

本イベントをリリースする際の主目的は、美容学生の集客でした。

採用説明会の色を強めすぎると安心感は出るものの、参加の心理的ハードルが上がります。一方、単なるショーイベントに見えると企業の意図が伝わらない。このバランスをどう取るかが、人事担当者がイベント設計でもっとも重視した点であり、広報PRとしては「どこまで説明するか」がリリース設計上のポイントでした。

最終的に選んだのは、「まず来てもらうこと」を優先する設計です。

タイトルは条件列挙型で、「履歴書なし」「スーツなし」「説明会以上、就活未満」といった表現を採用しました。募集要項のようでありながら、就活色を抑えたトーンです。本文も、語りたくなる背景や企業の想いはあえて削ぎ落とし、「面白そう」「参加しやすそう」という印象を優先。改行を多用し、一文を短く区切る構成としました。美容学生×SNS文脈を前提に、ターゲットの情報接触スタイルに合わせた可読性を重視した設計です。

この事例が示すのは、イベント設計と広報PR施策設計は別物だという点です。

「イベントの中身」と「それをどう伝えるか」は、同時に設計する必要があります。企業が語りたいことと、ターゲットが受け取りやすい形式は必ずしも一致しません。

イベントというと、ついコンテンツの充実度に目が向きがちですが、実際には「どう見せるか」が参加率を左右します。この事例は、目的から逆算した言語設計の重要性を示しています。

株式会社アルテジェネシス クリエイティブステージの様子
株式会社アルテジェネシス クリエイティブステージの様子

おわりに:BtoB企業のイベント開催について

3つの事例に共通しているのは、イベントの成否が「当日の完成度」より前の段階で決まっていた、という点です。

水ingは「やるかどうか」の判断から、Uniposは「どう設計するか」の問いから、Ashは「どう伝えるか」の言語化から——それぞれ異なる入り口でしたが、いずれも場をつくることの意味を丁寧に言語化するプロセスを経ていました。

外部から伴走していると、その過程で担当者が何度も迷い、問い直す瞬間に立ち会います。その積み重ねが、当日の場の空気をつくるのだと、毎回感じます。

イベントは、本当に大変です。それでも担当者たちが踏み出すのは、「場でしか伝わらないことがある」という確信があるからだと思います。

初回だからこそ、完璧を目指す必要はありません。判断の軸を持って臨むこと、そしてその経験を次に活かすことが大切ではないかと思います。この記事が、これから一歩を踏み出そうとしている誰かの、小さな後押しになればうれしいです。

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この記事のライター

平田貴子

平田貴子

株式会社PRorder 代表取締役。医療広報を経て、フランチャイズ本部にて経営支援から広報立ち上げ・新規事業まで幅広く担当。その後、総合PR会社にて上場企業を中心に多様な業界のPRを担当し、2022年に株式会社PRorderを設立。現在は、人的資本経営を支援する組織開発・エンゲージメント向上領域をはじめ、大学・教育機関、製造業、観光業、美容・ライフスタイル領域などに対し、ブランディングおよび発信戦略の設計を軸に、調査・白書設計などのファクト構築・コンテンツ開発・動画ディレクション・イベント企画設計、メディア戦略の設計・実装まで一貫して支援している。また、企業や教育機関に対する広報人材の育成・研修にも携わり、東京商工会議所をはじめ各種講座への登壇のほか、執筆活動も行っている。支援先である香川県の取っ手メーカーのプレスリリースにて「プレスリリースアワード2021」パブリック賞を受賞。株式会社PR TIMES公認プレスリリースエバンジェリスト。

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