プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは、2026年2月2日に「自社のニュースを社会のニュースに変える技術」をテーマとしたユーザー会を実施。ハフポスト日本版編集長を務める泉谷由梨子さんにご登場いただきました。
月間ユニークユーザー数2,430万人を持ち、20代から50代までの幅広い世代の情報源となっている同メディア。どのようにしてニュースのネタを見つけ、記事化しているのでしょうか。企業の情報発信で注目しているポイントなど、記者の視点でお話しいただきました。

ハフポスト日本版編集長
慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、毎日新聞社に入社。記者として8年半勤務。家族の都合でシンガポールで3年暮らす。東南アジアの移民女性を支援するNGOで広報職員として勤務。2016年に帰国後、ハフポストに参画。ジェンダー平等や働き方などのキャンペーン報道を手掛ける。2021年から現職。4歳と8歳の子どもを持つ。
記事づくり工程から自社のニュースを見いだす
「ミッション×読者のニーズ」を軸に
ハフポストは、「社会課題の理解と解決を促すニュースメディア」として、日々のできごとから社会課題まで、幅広いニュースを発信しています。そんな私たちが記事作成の際に大切にしているのは、「社会課題を解決する」というミッションと「読者のニーズ」を掛け合わせることです。
Webメディアは、パッケージとしてまとめて届けることができる雑誌や新聞とは異なり、一本一本の記事がそれぞれ単体で読まれる必要があります。また、どれだけ社会的に大切なテーマであっても、それだけで社会に届くわけではありません。どんな切り口なら関心を持ってもらえるのかを含めて考えています。
では、実際にハフポストで話題を集めた記事の中からいくつか例を挙げて紹介します。
事例1.身近な存在から社会問題を提起
ハフポストでは、温室効果ガスの削減や気候変動の問題、SDGsなどを、どのように読者に届けるのかを日頃から考えていますが、ストレートに記事にしてもやはり読者にはなかなか届きません。そこで、牛丼チェーンを展開する「吉野家ホールディングス」が、新たに化粧品事業をスタートしたニュースと絡めて、これらの問題を伝えました。生活者にとって親しみのある企業の力を借りて環境問題を訴えるという点で、うまく合致したと思います。
参考:吉野家ホールディングス、持続可能な未来のためにオーストリッチ(ダチョウ)に関する事業を開始
事例2.話題の商品をフックに、世の中の変化を可視化
建材・設備機器メーカーのLIXILから発売された、着脱式の布製浴槽を取り上げた記事では、多様性を伝えました。固定された浴槽を取り払い、普段はシャワールームとして使用し、入浴したいときにだけ布製浴槽を取り付けるというスタイルが、海外を含めて話題になっていることを紹介。住まいの間取りや若者の生活スタイルといった社会の変化を、話題の商品に絡めた事例です。
参考:今後の100年を創る、リムーバブルな布製浴槽を備えた「bathtope」を新発売
ニュースになる情報の共通要素は「意外性」
企業の広報PRの担当者の方から、「うちは今新商品がない」という相談を受けることがよくあります。しかし、販売から時間が経った商品であっても、「意外性」を打ち出したり、数字で売れ行きを見せたり、社会的な文脈を重ねたりすることで、きちんとニュースになります。
最近は、SNSやキュレーションアプリのアルゴリズムが個人に最適化されていますよね。そういったこともあり、ニュースの「時事性」は以前ほど絶対的なものではなくなってきたと感じています。今、起きたことだから読まれる、という単純な構造ではなくなっているのです。
つまり、「新商品がない」「BtoB企業なので生活者向けの商品やサービスがない」という場合でも工夫の余地はある。意外性をどうつくるか、どんな文脈に置くか。その設計次第で、十分に記事として成立させることができるはずです。
意外性は、「この価格でこのクオリティ?」というギャップや、「この企業がこんなアイテムを作っているの?」という意外な組み合わせ、生活者が思い描く「世間一般の商品像」とのギャップなどによってつくることができると考えています。

読者の「今の空気」にどう寄り添うか
SNSなどのコメントを通して「今の空気」を感じ取り、そこに合うテーマや切り口で記事を出すことも、大切にしているポイントのひとつです。
最近特に感じているのは、「本当に役立つものだけを買いたい」「無駄な出費は避けたい」ということ。自分にも社会にも本当に意味のあるものを選びたい、という姿勢がはっきりしているのを感じます。
もうひとつは、「びっくりしたい」という欲求です。ストレスは感じたくない一方で、どこかポジティブな刺激を求めている。「癒し」や「共感」よりも、「圧倒される体験」を求める傾向が強まっていると感じています。インターネット上におけるちょっとした「驚き」は、いわばインフレ状態になりつつあるかもしれません。
こうした空気の根底にあるのは、将来やお金に対する不安だと思っています。身の回りは穏やかでも、世界や日本の状況に目を向けると、どこか落ち着かない気持ちになるという人は多いでしょう。だからこそ、その不安にきちんと寄り添えているのかを、常に問いかける。読者の「今の感情」に寄り添って、緊張感を持って日々記事づくりをしています。
ハフポストが選ぶニュースの3基準
私たちが選ぶニュースの基準は「素材そのものが良い」情報です。
日本新聞協会では、ニュースの要素として、新しさ・人間性・社会性・地域性・記録性・国際性の6つを挙げています。広報PRとしては、自社の情報がこれらのどこに当てはまるのかを意識することが、ニュースとして成立させる第一歩になるのではないでしょうか。
では、私たち記者がどのような点に注目しているのか紹介します。
1.自社ならではの視点やデータがある
1つ目は、自社ならではの視点やデータがある情報です。例えば、マッチングアプリの「Tinder」は、大学生限定サービスの開始を伝えるプレスリリースの中で、若者のデート経験に関する調査結果を公開しました。若者の85%がマッチングアプリを使ってデートをしたことがあるという内容でしたが、まさに「自社ならではの視点」がつまった情報です。「ニュースそのものをつくる」という手法の好例だと思います。
参考:新学期、大学生の新しい出会いに自信を!共通点や趣味で自分らしくつながる機能「Tinder® U」が日本でも利用可能に 期間限定「Tinder Cafe」も渋谷で開催
2.社会課題に対する企業の「覚悟」が伝わる
2つ目は、社会課題に対する企業の「覚悟」が見える取り組みです。有楽製菓は、「ブラックサンダー」をはじめとする主力商品で使用するカカオ原料のすべてを児童労働問題に配慮したものに変更しています。
「児童労働」というテーマだけでは、多くの人に読んでもらえないかもしれません。しかし、世の中に親しまれている「ブラックサンダー」を入り口にしたことで、爆発的に読まれ、「児童労働」問題が広く知られることになりました。
主力商品の原料切り替えは、企業にとって収益構造全体にも影響しかねない難しい判断です。それでも実施に踏み出し、数年後には対象原料の100%を達成。企業の覚悟が伴っていたからこそ、ニュースとして力を持った事例だと感じています。
参考:2025年の達成目標を待たずして達成!ブラックサンダーシリーズを含む全商品スマイルカカオ率100%達成。有楽製菓㈱の使用するカカオ原料が全て児童労働に配慮された原料へ変更
3.社会課題を「自分ごと化」させる設計ができている
3つ目は、読者が「自分ごと」として考えるきっかけをつくっているかどうか、という点です。社会課題は、自分の身の回りで実際に困っていると感じられるものと、そうでないものがあります。いわば、手触り感がないテーマはニュースとしても扱いがとても難しいんです。気候変動もそのひとつではないでしょうか。何年か後には深刻な影響が出るとわかっていても、多くの人が日常の中では忘れてしまいがちです。
そうしたテーマとうまく融合させたのが、ラッシュジャパンが実施した「電気の原材料を選ぶ!エネルギーキャンペーン」です。「気候変動対策のために商品を買ってほしい」と訴えるのではなく、「店舗の電力をどの発電所から買うべきか」をお客さんに投票してもらう取り組み。プレスリリースの情報も非常にわかりやすくまとめられており、私たちは実際に店舗まで取材にも行きました。
気候変動対策という大きすぎる問題をそのまま提起するのではなく、「自分と関係のあるサイズ」に落とし込み、考える機会を差し出す姿勢が素晴らしいと思いましたね。このように、社会課題を「自分ごと化」させる設計ができているかどうかは、私たちが特に注目しているポイントのひとつです。
参考:『電気の原材料を選ぶ!エネルギーキャンペーン』3月28日(月)~4月14日(木) 日本全国のラッシュ店舗および、オンラインサイトにて実施持続可能な未来をつくるために再生可能エネルギーの普及を応援
企業の「本気」はどうすれば伝わるのか
SDGsが話題になったころ、とにかくいろいろな企業のプレスリリースのタイトルに「SDGs」という言葉が並びました。ですが実態が伴っていないものも少なくなかった印象があります。輝いていないものを無理に輝かせようとする発信は、むしろ信頼を損なってしまうため注意が必要です。
私が特に気になるのは、重い社会課題を掲げているのに、解決策があまりにも軽いという「実態との釣り合いが取れていない」ケース。実際の事例そのものではありませんが、わかりやすくテーマを差し替えてお伝えするのであれば、実質賃金の低下という深刻な問題を挙げながら、「副業をしないとやっていけない時代だけれど、当社の飲料を飲めば睡眠時間が短くても大丈夫」というように、根本的な問題の解決になっていない内容のプレスリリースも時々見られます。
今は情報があふれ、マーケティングの手法も広く知られています。生活者は「どうせこういうブランディングをしたいのだろう」と企業側の手の内を見抜いていることも多く、表面的な言葉だけでは届きません。
では、企業の「本気」はどうすれば伝わるのか。
大切なのは、社会課題をプロモーションの道具にしないことだと思います。きれいなキャンペーンも簡単につくれる時代です。「社会課題」は言葉にするとバズワードのように見えますが、その裏には本当に困っている人の苦しみがあります。その重さを忘れず、裏側の取り組みを地道に積み重ね、その姿勢をきちんと示すこと。遠回りに見えても、その誠実さこそが信頼構築やファンをつくることにつながるのだと思います。

【質疑応答】参加者からの質問に、泉谷由梨子さんが回答
ここからは、当日セミナー会場で寄せられた質問の一部を抜粋し、泉谷さんの回答とともに紹介します。
──「時事性が以前よりも薄れている」という点は、Webメディアならではの特徴でしょうか。それとも新聞や雑誌も含めてメディア全体的な傾向なのでしょうか。
新聞や雑誌でもWebを運営している場合は、傾向としては近づいてきています。ただし、すべてのメディアが同じというわけではありません。新聞社の中でも、どの程度Webを重視しているかによって濃淡があります。
今ももちろん時事性は非常に重要です。一方で、Webで勝負する方向に舵を切っているメディアでは、以前ほど時事性だけに依存していない印象があります。そのため、一概には言えません。各社がどこに軸足を置いているのかを見極めることが大切だと思います。
実際の露出傾向を確認しながら判断していただくとよいのではないでしょうか。
──プレスリリースを記事作成のネタとして活用されていますか。プレスリリース以外にも、参考にされている情報があれば教えていただきたいです。
プレスリリースはもちろん活用しています。ただ、以前のように一通ずつ丁寧に読み込むというより、今は検索ベースで使うことが多いです。
流れとしては、人に話を聞いたり、SNSなどを活用したりして社会情勢をキャッチアップし、そこから企業の発信を探しにいく。そして、その取り組みが今の空気感と合っているか、トーンがずれていないかを見極めています。
例えば、「疲労」が注目されていると感じたら、「疲労」という言葉でプレスリリースを検索し、どの企業がどんな取り組みをしているのかを探します。社会課題を先にピックアップしてから、企業の情報を取りにいくイメージです。
ですから、プレスリリースの一行目の表現に工夫を凝らすことはもちろん、適切なキーワードがきちんと入っていることが重要です。検索に引っかかるかどうかで、目に留まる確率が大きく変わると思います。
──書籍を手がけているのですが、ニュース性を出すとしたらどのようなアプローチが考えられるでしょうか。「何万部突破」「〇〇の記者が推薦」などの情報を盛り込んだプレスリリースを考えていますが、ありきたりに見えてしまうのではないかと迷っています。
「何万部突破」は、とても大事な情報です。売れているという事実は、それだけ世の中に求められているという証拠ですから、遠慮せずに出していいと思います。実際に売れている本からネタをつくることもありますし、どんな本が読まれているのかを見ることで、社会の関心が見えてくると思っています。記者は書店に足を運び、平積みの本を見ながら企画のヒントを探すこともあります。
大切なのは、「売れている」という事実をどう社会的な文脈につなげるかです。なぜこの本がいま読まれているのか。その背景にある読者の関心や時代の空気まで示せると、単なる実績報告ではなくニュースとして立ち上がってくるのではないでしょうか。
──SNSの反響は、どの程度あれば記事化の対象になりますか。
ハフポストでは、SNSの反響を記事にすることもありますが「バズっている」投稿と、記事になった時に面白いかどうかは別問題だと感じます。拡散数が多い投稿でも、記事にすると読まれないことがありますし、逆にそれほどバズっていなくても、大きな反響につながるケースもあるため、単純に数字の問題ではありません。
特に、Xには特有の空気感があり、その場では盛り上がっていても記事という形にしたときに同じ熱量が保てるかは別の話です。私たちが重視しているのは、そのネタを記事として再構成したときに、読者にとって本当に面白いものになるかどうか。数字そのものよりも、どう書けばニュースとして成立するかを見ています。

まとめ:社会の関心と掛け合わせてニュース性を見いだす
今回のセミナーでは、ハフポストがどのような視点で記事を選び、社会課題をニュースとして届けているのかをお話しいただきました。
押さえておきたいポイントは、以下の3つです。
- 意外性と文脈づくり:新商品でなくても、社会の変化や数字、組み合わせ次第でニュースにできる。何をどう掛け合わせるかがカギになる
- 素材の強さと3つの基準:自社ならではの視点やデータがあるか、社会課題への覚悟があるか、読者が自分ごと化できる設計になっているか。テクニックよりも「それ自体がニュースかどうか」が問われる
- 本気は裏側で伝わる:社会課題をプロモーションの道具にせず、地道な取り組みを積み重ねる。その姿勢こそが信頼やファンづくりにつながる
広報PRは、企業の活動を伝える仕事であると同時に、社会との接点をつくる仕事でもあります。どのような文脈で、どのような姿勢で発信するのか。その積み重ねが、企業の信頼やファンづくりにつながります。
今回のセミナーで共有された視点が、日々の情報発信を見直すヒントになれば幸いです。
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