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信頼に距離は関係ない、手書き850枚の気遣いに裏打ちされた広報活動ーフェンリル 広報・藤本 陽子

地方に本社を構える企業の広報は、地元メディアのみならず東京のメディアにもアプローチをすべきか。期待通りの効果があるのか……そんな不安から、会社に広報活動の出張費用を打診するなどの行動に踏み切れない人も多いのではないでしょうか。

大阪に本社があるフェンリル株式会社の広報・藤本さんは多いときには週1ペースで東京へ出張するといいます。地方広報ならではの苦労ややりがい、メディアや他社広報との関係構築方法とは。地方企業の広報が、東京で行う広報活動についてお話を伺いました。

フェンリル株式会社(大阪府大阪市):最新のプレスリリースはこちら

フェンリル株式会社 ブランディング部 係長/広報

藤本陽子(Yoko Fujimoto)

神戸市出身。大手旅行会社、地元メディアを経て2014年にフェンリル入社。プロダクト、コーポレート両面から、メディアリレーションだけでなくイベント運営、SNS発信、広告など様々な側面から社内外の広報業務に携わる。サッカーと猫を愛する甘党。

露出の減少に危機感を覚え、自ら広報を志願

ー そもそも藤本さんはどのようなきっかけで広報になられたのですか?

元々は自社プロダクトのSNS担当として2014年に入社しました。

プロダクトファーストの会社だったからか広報は重要だという理解が経営陣にあり、広報担当者は創業当初から存在しました。ただし、重要さは理解されているものの、広報担当者の異動や退職により、リソースが足りない状況が続いていました。わたしが広報になる直前は、広報担当者の退職などによりメディア露出量は減少。そんな状況に危機感を感じ、自ら志願して2015年に広報になりました。

ー 歴代の広報前任者が蓄積した情報がある中、何から着手しましたか?

まずは歴代の広報担当者とお付き合いのあったメディアや掲載情報のリストをエクセルで整理し、これまであったデータベースの再整理をしました。点在する約10年分のリストを整理する中で、過去記事を読んだり署名記事を読んでどの記者さんがどんな記事を書いてくれていたのか、過去にどんな取り組みをしていたのかを把握し、自社情報のインプットにも役立ちました。

リストの整理が終わったら、メディアへ挨拶回りをしました。幸い、新しいプロダクトのプレスリリースを出すタイミングだったり、拠点が増えていたタイミングだったので、アポを取るきっかけになりました。まずは自分の顔と名前を覚えてもらうことと、自社の近況をお伝えするなど情報のアップデートに注力していきました

フェンリル株式会社_藤本 陽子_21020101

ー 東京のメディアへのアポ取りは苦労しませんでしたか?

その点、ゼロから始める他社の広報さんより恵まれていたと思います。

自社プロダクトのSleipnir(スレイプニール)という国産ブラウザを知っていてくださっている方は、その名前を出すだけで時間を取ってくださいました。そもそもメディアリストがあったので、関西からわざわざ来てくれるならと時間をあけてくだる方も多かったです。

また、弊社の初代広報はいま営業をしているのですが、広報担当時代にはネタがなくてもメディアさんを訪問してコミュニケーションを取るような人だったので、その流れを引き継いでメディアさんも快くアポイントを受けてくれたように思います。

対面や手書きで、地道に積み重ねた広報活動

ー どのくらいのペースで東京へ行き、どのような動きをされてたいのでしょうか。

IT系のネットメディアとのお付き合いがメインなので、月に2回は編集部のある東京へ出張し、メディアキャラバンを実施していました。プレスリリースを出す際は、メールではなくできる限り対面でご案内するように心がけていたので、多い時には毎週東京へ行っていました。やればやるほど出張の機会が増え、体調を崩すこともあり、ペースを掴むのに苦労した時期もありましたね。

わたしは人生なにがあるかわからないと考える方なので、メディアさんとのアポイントにはできる限り事業部のマネージャーなどリリースに関連するスタッフを帯同するようにしていました。プロダクトがスタートするタイミングなどでは、現場の人間から話をしてもらい、PR担当者だけがメディアさんを知っているという状況を回避していました。

ー 東京の広報担当者とも広く交友関係があるようですが、どのようにご縁を繋げていったのでしょうか。

メディアまわりだけでなく、月に1回は東京で開催されている何らかの広報関連の勉強会に参加して知り合いを増やしました。5年以上経って、いまでは関西と同じくらい、東京でも相談できる広報の仲間がいます。

いまは新型コロナウイルスの感染拡大防止のためになかなか出張に行けていないのですが、東京の広報仲間とも情報交換をしたり、メディアさんへ合同プレゼン会をオンライン開催したりと交流は続いています。

メディアの方への普段のコミュニケーション方法は、メールやチャットがメイン。プラスアルファで対面だったので、コロナ禍で東京に行けない時も、スムーズに広報活動を進めることができたと思います。

ー メディアや広報担当者と、距離を超えて繋がり続ける秘訣はどこにあるのでしょうか。

フェンリルでは年賀状ではなくホリデーカード(クリスマスカード)を送る文化があります。このホリデーカードを通した交流が繋がりを続けられるひとつのきっかけだと思っています。

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その年会ったメディアや広報担当者、イベントでお世話になった方、クライアント様など、皆様にお礼の気持ちをこめてお送りしています。カードを見て近況をご連絡をいただける方や、SNSにカードを投稿してくださる方もいます。年1回でもこうしてやり取りしているからこそ、長らくお付き合いを続けさせていただいている方も多いのではと思います。

私は2015年に60枚発送したところから始まりましたが、250枚、400枚と毎年数百枚単位で増えていき、2020年末には約850枚のホリデーカードを発送しました。毎年送り先の皆様をひとりひとり思い浮かべながら、時間が許す限り、手書きでメッセージを添えてお送りしています

ちなみに2年前からホリデーカードのデザインは、社内のデザイナーの公募から選出しています。2020年は新卒で入社したデザイナーの案が採用されたんですよ。(画像左上)

ホリデーカード(左上)

困難があってもやり続けてよかった広報活動

ー BtoBの広報活動の難しさはどこにありましたか

BtoB広報のあるあるで、絵が取りにくいという苦労がありました。弊社はアプリ開発やクライアントワークが中心になるので、PCやスマホ内で絵が完結してしまう。クライアントさんの事例が増えていくと、どんなシーンを取材していただけるのか担当者からヒアリングをするなど、長らく提案内容を試行錯誤していました。

ー 他にも地方広報ならではの苦労はありましたか。

関西本社なので、東京にある企業より移動に時間を要します。対応するまでに時間がかかる点が苦労しました。また、出張を組むと宿泊費用や移動費用がかかります。アポイント1件あたりのコストを考えプレッシャーを感じるなど、その点では苦労していました。

ー 苦労してでも広報活動はやったかいがありましたか。

はい、当初の想像以上にやってよかったと感じています。

新しいプロダクトが始まることを社内で相談された時に、日頃からメディアさんとリレーションをとっているので「この媒体の○○記者に相談してはどうか」と、具体的に媒体の提案やメディアさんを紹介できます。地道な広報活動を続けていてよかったと思う瞬間のひとつですね。

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「メディア露出の影響で問い合わせがきたよ」とか、「記事見たよ、内容がとても良かったね」と社内からも反応があります。アウトプットがわかりやすい分、大変だけどやりがいが大きい仕事だなと思っています。事業に貢献できる活動ができた時も、やりがいを強く感じます。

ー 広報1年目の方にアドバイスをするとしたら?

どういう結果を出したいかによってもやることは変わると思います。メディアとのコンタクトや掲載数が多いほどいいということではありません。まずは目的を明確にして、企業だったり個人が大事だと思うことをコツコツやると良いと思います。

わたしも広報を含む仕事全般において、社内外で何かあったときに藤本陽子という自分の名前と顔を思い出してもらえる仕事をしたいと思ってやってきました。春から産休に入る予定ですが、復帰後もそこは変わらずに仕事をしていきたいと思います。

自分の名前と顔を思い出してもらえる仕事をし続けたい

前任者からの約10年分のメディアリストの整理から始まり、地道なメディアまわり。相手の顔を思い浮かべながら、手書きのメッセージを添えたホリデーカードを毎年何百枚も発送する。

ひたすら基本に忠実に、ひたすらに心をこめて誠実な広報活動を行った結果、大きく差が開く

藤本さんの広報活動にはそんなたゆまぬ努力を感じました。そして、地方を言い訳にしない圧倒的な努力を積み重ねている人だと感じました。

拠点が東京に無くても、メディアや他社の広報担当者から信頼される。そんな藤本さんは、今後もご自身の名前を思い出してもらえるような、心のこもったお仕事を続けられることでしょう。

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(撮影:三好 沙季)

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この記事のライター

永井 玲子

永井 玲子

東京・大阪でメディアリレーションを行う関西在住の広報パーソン。新卒でルート営業、2社目に入った会社で未経験ながら広報をゼロから立ち上げ、広報キャリアをスタート。2021年からフリーランス。自分が良いと思った「地方」の人・物・サービスを応援するために広報をやっています。日々頑張っている全国の広報パーソンが正しく評価されるよう、PR TIMES MAGAZINEで想いを紹介したいと思います。

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