広報PRといっても、やり方やこだわりはそれぞれ違うもの。広報PR活動をする中で、「私のやり方って正しい方向なの?」「広報PRに求められる役割って?」と悩むことも多いでしょう。
株式会社gumiの長瀬七夕さんは、今年で広報5年目。新卒入社したDMM.comでは「プレスリリースの配信作業をこなすことが精一杯だった日々から、広報部の立ち上げまで、広報の酸いも甘いも学んだ」といいます。そして、DMM.comのサービス広報を卒業し、gumiの投資先企業をサポートするVC広報へ。
長瀬さんは、どのような経験から、現在の広報スタイルにたどり着いたのでしょうか?
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株式会社gumi Strategic Investment & Alliance 広報
新卒で株式会社DMM.comラボ(現 ・合同会社DMM.com)に入社。広報部の立ち上げ及び新規事業の広報を4年間従事。2019年1月より株式会社gumi移籍。投資先のXR、ブロックチェーン企業の広報及びマーケティング、採用をサポートしている。石川県生まれ、趣味はフェスとキャンプと漫画を読むこと。
会社「らしさ」のベース作りから入ることも。VC広報として投資先企業をサポート
──まず、長瀬さんの広報としての業務内容を教えてください。
私は自社の広報ではなく、新規事業部の投資部門に所属して、gumiが投資しているスタートアップ企業の手伝いをしています。いわゆるベンチャーキャピタル(以下、VC)広報です。サービス広報や採用広報、マーケティングなど、アウトプット担当者として幅広くサポートしています。
投資先スタートアップ企業のジャンルは、VRやブロックチェーンといった新テクノロジー領域です。私がメインで入っているのは、VRゲームの開発会社。投資先企業によって長さや深さは異なりますが、現在は3〜4社ほど携わっています。
──投資先企業でどのような手伝いをされているのですか?
足りていないパーツ(職種)の穴埋めをするようなイメージです。広報担当者がいない企業では私が広報として入ったり、採用担当者がいない企業では採用広報として入ったり。「どうしたらユーザーに喜ばれるサービスを開発できるか」とマーケター目線で会議に参加することもあります。
ある日のスケジュールを挙げると、こんな感じです。
- 10時〜12時 A社の経営会議
- 12時〜13時 B社の海外マーケティング会議
- 13時〜14時 ランチタイム
- 14時〜15時半 C社の年間広報スケジュール会議
- 16時〜18時 A社のWantedly用写真撮影
──朝から晩まで忙しそうなスケジュールです……! 経営会議やマーケティング会議など、関わる内容の幅も広いのですね。
特定の役割や業務を担当するだけでなく、上流部分から関わっています。というのも、投資先企業はどこもスタートアップ企業なので、ビジョンやミッション、行動指針が決まっていないことも多くて。
その場合、経営陣やメンバーが大切にしたい考えを言語化し、「ユーザーファーストで考えよう」などと意思決定や行動のルールを決めています。その会社「らしさ」のベース作りという根本部分から、ガッツリと入っていますね。
──「らしさ」のベース作り……なんだかその会社の経営陣のようです。
一応、肩書きは「広報」なんですけどね(笑)。
上流部分から関わることで、会社やサービスに愛が生まれてくるので、積極的に取り組んでいきたくて。そもそも、広報は愛があるから続けられるものだと思っています。
ただ、最初から愛を原動力に広報をできていたわけではなかったんです。広報初心者の頃は、ただ単純作業をこなすだけ。泣きながらメディアに訪問したこともありました。そんな私が広報として成長できたのは、新卒入社したDMM.comでの経験があったからです。
生の声に触れて、愛を持つ。広報としてのターニングポイント
──DMM.comでの広報の経験について教えてください。
広報立ち上げ担当者に選ばれ、石川県から本社がある東京に上京したのが始まりです。当時、マーケティング部配下で、ひとりぼっちで広報活動をしていました。
広報活動といっても、事業部から届くプレスリリースの原稿を「PR TIMES」に入稿して配信するだけ。1日10本ほど、ひたすらに配信作業をしていました。もはや広報ではなく、プレスリリース配信担当でしたよ。
──一般的な広報の業務内容とはギャップがありますね。
当時はDMM.comで初めての広報だったので、上司も私も広報の仕事がわからなかったんです。正しい進め方を知らないから「このプレスリリースは売上に繋がるか」を基準にし、すべてのKPIを決めていました。
注目を集めやすいVRやガジェット系のプレスリリースは、どんどん配信する。「セッション単価×プレスリリースからの流入数」で売上貢献値を出す。一応数値は出すものの、届いた文章を配信するだけだから、画像やタイトルで効果を検証できない。すなわち、次に繋げられない。
本質的ではないことに気づいていたのですが、方向性が違うことを示せる証拠も、代わりになるKPIもありませんでした。だから、「なんでこんなことをやってるんだろう……」と、もどかしさを感じつつ、決められた業務をこなすだけ。そんな広報1年目でしたね。
──本質的ではなかった1年目から、どう広報としての在り方を変えていったのでしょうか?
社内にノウハウがなかったので、他社の広報に関する記事を読み漁っていました。ちょうどその頃、実業家の家入一真さんが「社員が数人でも広報PRは入れるべき」と啓蒙したり、メルカリ社の成長には広報が大きく貢献したと言われたこともあり、広報業界全体の見られ方がガラッと変わったタイミングだったと思います。
そういった追い風もあり、他社の成功事例が増え、ノウハウやインタビュー記事を説得材料として、広報としてあるべき姿を上司にアピールしやすくなったんです。上司に読んでほしい記事を、意図的にFacebookでシェアしてましたね(笑)。他社の考え方を学びながら、少しずつ自分たちの広報活動に反映させていきました。
──具体的にどう活動を変えていったのですか?
試行錯誤しながらも、記事のアプローチ数や記者会見に参加したメディア数など、広報活動のPDCAが回せるような数字を見るように移行していきました。
そのなかで、ただサービスを広めるのではなく、自分自身もサービスに対して思い入れを持ちたいと考えるようになったんです。本質的な広報を追い求めるなら、現場でサービスを作っている人が追っている目標に沿うのがベストだ、と。
そこで、どういった目標を追っているのかを、現場の方と直接話す必要がありました。
──なるほど。ただ、DMM.comは規模が大きいので、現場の方と話をするのは一筋縄ではいかなさそうです。
確かに、従業員数が数千人規模で事業も多岐に分かれている会社なので、これまでは現場のエンジニアやデザイナーといったメンバーとはあまり関われていませんでした。フロアも4つに分かれていましたし。そこで、事業部メンバーに話を聞くため、それぞれのフロアをこまめにウロウロするようにしました。
事業部メンバーが通りかかったら、捕まえて時間を少しもらう。各事業部長や営業など、関わるメンバーが追っている数字や目標をヒアリングする。そして、数字や目標に対して、私たちの広報施策がどれほど貢献できそうか、またはできたのかを測定して伝える。
広報とSNSの 効果の「最大化」と「可視化」 from Nayu Nagase
長瀬さんが当時追っていた指標や測定方法(2017年7月にイベント #PRLT で発表)
こうやって現場の声に触れながら広報施策を練ると、フシギと自分のなかにもサービスに対する愛が湧いてくるんですよ。だって、事業部の数字や目標に寄り添うことにより、だんだんとメンバーが心を開いてくれて、現場の熱量をそのまま受け取れるから。
目標を一緒に追うことで生まれた愛を起点として、サービスを世の中のユーザーに広められることに、広報としてのやりがいを感じました。
──愛を起点として社内と社外の架け橋になれるのは、広報の特権かもしれません。
そうして自分らしい広報活動をするうちに、だんだんと数字がついてきまして。社内から広報に対しての協力も得やすくなりましたし、社長直下で広報室ができ、広報メンバー(公式SNS担当などを含む)が8名ほどに増えました。
そして、DMM.comで広報の酸いも甘いも知ったことで、「より裁量権を持てて、上流部分から深く関われる広報になりたい」と思うように。だから私は、DMM.comを卒業し、gumiという次のステージに進むことを決めました。
広報としての原動力は愛。大企業の広報からスタートアップ企業の広報へ
──大企業の広報からスタートアップ企業の広報をするようになり、どう変わりましたか?
スタートアップは、人数が少ないからこそ、自分も会社の方向性やサービスに対して一意見を言えます。予算もリソースもシビアですが、上流部分から関われるようになったことで、自分の思いも乗せながら広報活動ができるようになりました。
──長瀬さんがスタートアップ企業の広報をするにあたり、やりがいを感じる場面はいつですか?
今、広報としてのやりがいを感じるタイミングは、資金調達のプレスリリースを出すときです。
なぜなら、資金調達をするべく努力してきた社長を見てきたし、会社のステージが一段階上がってメンバーの士気が高まるタイミングだから。資金調達のプレスリリースを出すことで、「覚悟を決めて本気で取り組んでいきます」と社外に向けての決意表明にもなります。
そのため、最高の形でアクセルを踏めるよう、プレスリリースは気合いを入れて作っているんです。
──どのようにこだわっているのかを知りたいです。
文章はもちろんですが、私は写真の手間も惜しまないようにしています。写真で伝えられる情報は多いですし、視覚的に訴えられる重要なポイントですから。
使用する写真は、私がオフィスまで出向いて写真を撮影していますね。とある夏の日には、コンビニで棒アイスを買っていき、アイスを食べてるようすを撮影しました。明るく個性が光るメンバーが多い会社だったので、カラフルな棒アイスを持つことで、それぞれの個性が出るように、と。
こういったこだわりは、プレスリリース以外に、会社としてアウトプットする全てのものに反映させています。
あとは、ビジュアルに力を入れることも大切ですが、インターネットの海に「受け皿」を作っておくことも意識しています。
──受け皿、ですか?
はい。社名やサービス名で検索したときに、検索ニーズを取りこぼさず、正しい情報を伝える「受け皿(コンテンツ)」です。ユーザーが求める情報にふさわしいコンテンツがヒットする状況を作らなければなりません。
なぜなら、スタートアップ企業は、取材記事が少ないし知名度が低いから。検索結果に解を用意せず、情報が少ないままだと、よくわからない会社になってしまうのです。
だからこそ、Webサイトやnote、YouTube、Wantedlyなどのさまざまなチャネルを使いながら、上位表示に正しいコンテンツを置くことを意識しています。
──検索結果まで手を抜かず、質の高いアウトプットを追求されているのですね。
はい。言ってしまえば投資元と投資先ですが、利害関係を抜きにしても本気で成功を願っています。だから私も本気で取り組みたいし、仲間として受け入れてもらい、メンバーの一員になれるように努力は惜しみません。
こう話してると、私の広報としての原動力は、やっぱり愛なんだなと感じます。投資先企業への愛ももちろんですが、VRをはじめとした新テクノロジー業界も好きなんですよね。DMM.comで初めて広報としての成功体験を得られたのが、VRのサービスだったので。
──会社だけではなく市場にも愛を持たれている、と。
だからこそ私が今後、VC広報としてやらないといけないと思うのは、市場自体の引き上げです。新テクノロジー(XR、ブロックチェーン)業界はまだまだ不安定なので、投資先企業だけではなく全体を引き上げないと、市場が拡大しません。
そのために、「投資家やVCから注目を浴びている」とアピールできる資金調達のプレスリリースを、しっかりと発信し続けていくつもりです。自分が信じた市場で、自分が信じた企業が花開くときを心待ちにしています。
愛でつながる広報PRは、会社だけでなく業界も変える
広報の原動力は、愛。愛があるからこそ、会社やサービスを成長させるために本気で貢献したいと思うもの。
VC広報の長瀬さんは、利害関係を抜きにして、投資先スタートアップ企業の成功を願っていました。その本心から生まれる行動は、ときに広報の域を超えていく。現在は、本当に追うべき目標の策定やメンバーのモチベーション管理といった、土台を固めるところにまで広がっています。
長瀬さんの愛を起点にした広報スタイルは、会社だけではなく、業界自体の成長も促進させていくのかもしれません。
(撮影:原 哲也)
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