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福祉とアート。ビジネスとして成立させ、社会に対するインパクトを|株式会社ヘラルボニー

「異彩を、放て。」をミッションに、日本国内はもちろん海外へ活動の場を広げている株式会社ヘラルボニー。福祉を起点とした新たな文化醸成を目指しながらも、あくまでもビジネスにこだわり、事業として成長を続ける同社の名前を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。

また、創業6年目を迎え、2024年度の「LVMHイノベーションアワード(※)」にファイナリストとして選出されるなど、より一層の発展が期待されています。

本記事は、ヘラルボニーの創業者であり、共同経営者でもある松田崇弥さんを取材。創業からの歩み、精力的な活動を伺う中で見えたのは、幼少期から変わらない想いの強さと活動を支える周囲からの協力でした。応援される存在となり、成長を続ける企業はどのように生まれたのか、そして経営者が考えるPRにおける大切な観点も伺いました。

※LVMHホームページより:2017年に創設されたスタートアップを表彰するアワード

株式会社ヘラルボニーの最新のプレスリリースはこちら:ヘラルボニーのプレスリリース

株式会社ヘラルボニー 代表取締役Co-CEO

松田 崇弥(Matsuda Takaya)

小山薫堂が率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、双子の松田文登と共にヘラルボニーを設立。異彩を、放て。をミッションに掲げる福祉実験カンパニーを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。東京都在住。双子の弟。世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。

創業5年、岩手・東京の2拠点から海外へ

──早速ですが、創業から歩まれてきた歴史、事業について教えていただけますでしょうか。

2018年に双子の文登(ふみと)と創業して、6年目を迎えました。岩手県に本社を置き、東京都と2拠点で活動していますが、今年からは海外にも挑戦していきます。事業としては、主に知的障害のある作家さんの作品の著作権を管理し、さまざまな形で展開していくIP(知的財産)事業を営んでいます。

その中で、私たちは作品がフェアな状態で世に出ていくということを大切にしています。知的障害のある作家さんは、自分たちで営業活動やSNSで広めていく活動をすることはなかなか難しい。また、実力通りにフェアな評価をされること自体、ハードルが高いんです。例えば、「障害者活躍」「CSR」という文脈が邪魔をしてしまい、適正な評価にならないときもあります。適正な実力がある人たちが、適正な評価を受けられるような構造をつくっていきたい、知的障害のイメージを変えていくことに挑戦していきたいと活動しています。

──「NPO法人」「社会福祉法人」ではなく、「株式会社」へのこだわりを聞かせてください。

そんなに深く考えていたわけではなくて。「NPO法人」や「社会福祉法人」であれば前例もあるので、成り立たせることはできたと思うんです。今ほど、思いっきりやるというような価値観ではなく、緩やかに成長できただろうという実感もあります。

ただ、言葉にされないだけで、「文化庁や厚生労働省のお金でしょう」「助成金でしょう」と感じる方もいると思いますし、すぐにコストカットの対象にもなり得ます。自分たちの足でしっかりと立ち、ビジネスとして成立させていくことは容易ではないですが、その姿を見せたほうが社会に対するインパクトもあり、おもしろいアプローチができるのではないか、と話し合って決めました。

──もう1点。ヘラルボニーは「福祉実験カンパニー」である、とありますが、これにはどのような想いが込められているのでしょうか。

福祉の領域は「間違ってはいけない」という雰囲気があると感じていました。うまくいったことも、全然だめだったことも発露していく、スタートアップとして挑戦する気概を「実験」という一言に込めています。

株式会社ヘラルボニー 取材01
撮影協力:京王プラザホテル

岩手だからできる世の中を変えるはじめの一歩

──海外での活動を視野に入れる中で、手掛けているどの事業に注力されていくのでしょうか。

事業としてBtoCとBtoBで分けているのですが、「どっちも」ですね。岩手も東京もですし、日本も海外も「どっちも」です。欲張りだけど、どっちもやっていかないと、と思っています

私たち兄弟は、昔からジャパニーズヒップホップが好きで、そのカルチャーに影響を受けています。例えば、KREVAは、KICK THE CAN CREWの活動で1997年に認知度は上がりましたが、それで終わりではなく、アンダーグラウンドシーンをけん引する人たちが注目する「B BOY PARK」という大会で1999年から2001年3年連続で優勝しているんですよね。大衆からかっこいいと思われているだけでなく、アンダーグラウンドシーンの人たちからもスキルがあると思われている。認知のされ方としてすばらしいとな、とベンチマークしているんです。

少し脱線してしまいましたが、両輪をうまく回していかなければならない、と。東京や海外などを狙うために多くのリソースを割きますが、そんな中で岩手に根差した活動を大切にし続けている理由のひとつです。両輪を回して、本当の意味で評価されるような取り組みをしていこうとよく話していますね。

──ヒップホップの影響があったんですね。岩手での精力的な活動は、多くのニュースからも感じています。

ヒップホップのHoodする(地元に根ざす)ってすごくかっこいい文化だと思うんです。生まれが岩手県ということもありますし、芯を食った活動ができるのが岩手だと思っています。

岩手県における売り上げは会社全体で見ると多くはないかもしれませんが、ヘラルボニーのギャラリーや店舗、アートをプロデュースしたホテルもあり、今後も多くの取り組みが決まっています。また、甲子園大会で地元の高校を応援するような感覚がスタートアップにもあって、岩手県知事、盛岡市長はヘラルボニーのネクタイをしてくれ、町の多くの人たちが応援してくださる。お金に換算できないけれど、その熱狂は周囲に伝わると思っています。ただ、なかなか言葉で説明しきれないところなので、悩みもありますが、非財務部分でのかっこいいところだと思ってやってます。

最近、おもしろいと感じているのが、工事現場の壁を美術館にする取り組み(工事現場の仮囲い)です。これまで全国70ヵ所ほどで展開してきました。

──70ヵ所もあるんですか。

そうなんです。当社から働きかけをしたわけではなく、県議会議員の方が「ヘラルボニーのアートを工事現場の仮囲いに使う」ことを工事成績評定の加点対象に、と議会で出してくれて実際に通ったんです。そうすると、アートがすてきだから買うのではなく、工事成績評定の加点を買う状態に変わります。

また、昨年末には盛岡市さんと包括連携協定を締結し、アートを活用したまちづくりを行っていく予定です。ヘラルボニーのアートがあることで、誰にでも寛容な価値観を市民が得られたり、建物などのハードが変わったり。それを事例にさまざまな都市に展開していきたいと考えています。

はじめの一歩を踏み出せる、実験都市。仕組みやルール作りから介入できるという点は、ビジネスとしてはもちろん、本当に世の中を変えるうえで大きなポイントですし、おもしろいと感じています。

娘の存在が挑戦心を駆り立てる

──創業からこれまで、順調に進んできていることが多いように思います。振り返ってみてターニングポイントになったことはありますか。

すごいラッキーだったなと思うのは子どもができたことです。会社ができて1ヵ月目、27歳の8月でした。その娘ももうすぐ、5歳になります。

「明日“会社”がなくなる」「明日“娘”がなくなる」。どちらを選ぶか、と問われたらもちろん娘がなくならないほうを選ぶわけですが、ここまで大切だと思える人、その人のために死んでもまったく問題ないって思える存在に出会えたのは、自分の中ではイノベーションでした。

会社は人生の優先順位の一番にならない。失敗したとしても再起できると思ったとき、「フルスイングで挑戦したほうがいい」という気持ちになったんです。娘という一番大切な存在が誕生したことは、挑戦心を駆り立てることにつながっているので、事業にとってもターニングポイントになったと思いますね。

株式会社ヘラルボニー 取材02
撮影協力:京王プラザホテル

世界中の人が訪れる機会に「HERALBONY Art Prize 2024」

──「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ)」についても教えてください。ちょうど締め切りが終わったところですよね。

はい。およそ1000名、2000点近くのアートが集まり、昨日は夜中まで、今日も朝8時から事前審査会を行うくらい、想像以上でした。難しいだろうと思っていた海外の作家さんからのお申し込みもたくさんいただいて、ありがたかったです。各国に障害のある人はいて、自分自身フランス、オランダ、香港を訪れた際は「HERALBONY Art Prize 2024」のことを知ってもらえるように自ら動きましたね。

参考:ヘラルボニー初の国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」を創設。異彩の日、1/31より作品の公募を開始

──どのようなアートアワードにしたいと考えていますか。

「国際アートアワード」として、多くの人から認知されている状態を目指しています。将来的に盛岡(岩手県)でアートアワードの作品が発露され、アートアワードの時期になると世界中から作家さんが来ているとすごくクールですね。

オーストリアのリンツ市で開催される「アルスエレクトロニカ」というテクノロジーアートの祭典があるのですが、世界中の企業が協賛し、たくさんのアカデミックな人たちが参加しています。そして人口20万人くらいの都市(※1)に、5日間で9万人近く(※2)の観光客が訪れるんです。人口28万人(※3)の盛岡市よりも小さな規模にもかかわらず、テクノロジーとアートの実験都市のような存在となり、毎年世界中から多くの人が訪れる状態はシティブランディングとして非常に忠実。受賞作家さんの作品で街を埋め尽くして、いつか盛岡に世界中の人たちが訪れるようなことをやれたらいいなと思ってます

※1 リンツ公式サイトより:オーストリア「リンツ」の人口212,538人(2024年1月1日時点)
※2 アルスエレクトロニカ公式サイトより:2023年は9/6~9/10に開催、訪問者88,000 人を記録
※3 盛岡市ホームページより:盛岡市の推計人口(2024年3月1日時点)

また、たくさんの企業の皆さんに応援いただいて成り立っています。現在も「ヘラルボニーカード」でご一緒している丸井グループさんはじめ計11社に協賛いただいており、今回の受賞作家さんのデザインは、その企業のサービスやプロダクトなどに採用される予定です。

賞金の授与、展覧会の開催などで終わりではなく、企業の皆さまと組んで、作品の販路まで用意することも大切にしています。

参考:ヘラルボニー主催、国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」に計11社が協賛!

HERALBONY Art Prize 2024

PRは「意思を宿すこと」が重要

──創業当初より、積極的に情報を発信されている印象ですが、松田さんが考える広報PRの役割や必要性を教えていただけますか。

意思を宿すことが重要だと思っています。プレスリリースも単に出すだけでは意味ないと思いますね。『プレスリリースアワード2023「Best101」』にも選ばれた経営顧問就任のプレスリリースは、手紙の内容を文面としてではなく、手紙すべてを出し、意思、肌感覚のようなところまで画面上から届けることを大切にしました。

また、コンテンツも単に露出すればいいものではないと思っています。私も前職は広告会社にいたので、広告換算値を出したりしていました。でも、計算上の「数百億円の経済効果」は、正直あまり意味ないと思っていて、それよりも本質的にどう伝わっているのかが重要です。適切な人に、適切な状態で、適切な情報を届けることはやっていかないといけないですね。

参考:6期目を迎えるヘラルボニー、ユーグレナCEO 永田暁彦が経営顧問に就任。「福祉実験ユニット」から「福祉実験カンパニー」へ

──最後に。一年前、「異彩を、放て。」の達成率を測るとしたら1%くらいとお答えしていたかと思います。一年経って、達成率はいかがでしょうか。

一年経っても正直、全然だめだと思いますね。売り上げも小さいですし、社会に対するインパクトという意味でも、今もまだ1%くらいでしょうか。

撮影協力:京王プラザホテル

まとめ:福祉を軸に大きなビジネスを手掛ける

「ミッション」は変えずとも「バリュー」は今のもので3回目。その時々で必要な変化を加え、今もっとも野心的な印象を受けるものになっています。このことを尋ねたところ、「まだまだ小さい会社だからと縮こまらず、やるときはフルスイングしていく」という想いを込めた言葉だと話してくれました。同時に、作家さんがいなければ成り立たないビジネスであり、根幹に福祉を置いているという意識を社内外に浸透すべく、バリューの上には傘になる言葉「誠実謙虚」を入れているそうです。

取材を終えてみて、ビジネスをスケールしていくための「野心的」な面と作家の方々や応援してくれる方々への「誠実謙虚」な面、常に両面が見える時間だったとあらためて感じます。

  • 根幹はぶらさず、スケールを狙うための両輪を回す
  • 世の中を変えるうえで大きいな仕組みやルール作りへの介入
  • PRは露出ではない、意思を宿し本質を届ける

松田さんのお話は、スタートアップのみならず学ぶべき点が多かったのではないでしょうか。岩手・東京・海外での新たな活動、より一層スケールしていく同社にますます注目です。

撮影場所:京王プラザホテル 本館47階SKY PLAZA IBASHO

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この記事のライター

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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