メディアに取り上げられることは、自社の価値や魅力を世の中に知ってもらえる大きなチャンスになり得ます。一方で、社内調整を要することや問い合わせ対応に追われるあまり、理想的なメディアリレーションが図れていないというケースもあるのではないでしょうか。
株式会社PR TIMESが2026年2月10日に開催した「気合いの広報から仕組みの広報へ」がテーマの勉強会では、元ジェイアール名古屋タカシマヤの広報PR担当として、テレビや新聞など多くの取材に対応してきた犬飼奈津子さんが登壇。複数部署との連携をはじめ、社内調整が必要な取材を受け続けられる仕組みと体制づくりのヒントが詰まったお話を伺いました。メディア・現場・広報PRの三方が得をすることを前提とした「タスク・プロジェクトの管理術」について、当日のお話をもとにレポートします。

株式会社Wo-one 代表取締役
犬飼 奈津子名古屋駅の百貨店「ジェイアール名古屋タカシマヤ」で15年間広報を担当。『日本一露出する百貨店』を目標に、テレビ取材を年間500件近くへと導く。バレンタイン催事「アムール・デュ・ショコラ」では、PRで30億円の売上に貢献。自身も多数のメディアに出演し、情報番組出演時に「押しが強すぎると業界で話題」とテロップを出されるほどに。『広報PRの力で、人や企業のステージを上げたい』との想いから2023年6月に独立起業。取材対応実績1万件以上。企業広報内製化・広報担当者育成を伴走支援する他、KADOKAWA 広報・PR講座講師、中日新聞社ビズトレWEB社内報講座講師、社内報アワード審査員、亀山ブランドアドバイザー等を務める。2023年よりプレスリリースエバンジェリストとして活動中。現在、名古屋大学発AIベンチャーの株式会社トライエッティングの広報支援にも従事。著書に「Passion Relations」(KADOKAWA)
メディア取材で広報PRが直面する「3つの壁」
広報PRの仕事はプレスリリース作成にとどまりません。ニュース価値を高めるための情報収集、社内各所との日常的なコミュニケーション、取材決定後の調整や現場への配慮、さらには取材成果の可視化と社内共有まで、その業務は多岐にわたります。
百貨店の広報PR担当として、年間2,000件超のメディア掲出を実現してきた犬飼さん。こうした実務に向き合う中で、取材対応における「3つの壁」を感じたといいます。
1.属人化による進捗の不透明化
メディアリレーションズは、担当者に紐づく関係性が強みになる一方で、人事異動やジョブローテーションは避けられないもの。広報PRの業務が特定の個人に依存していると、取材案件の進捗がわからず、メディア対応に支障が出るケースもあります。
2.調整不足によるスピードダウン
メディアからの取材依頼は、詳細な企画書が用意されている場合もあれば、電話一本で概要のみを伝えられることも珍しくありません。依頼内容を十分に整理しないまま現場に共有してしまうと、確認の往復が発生します。
現場が企画書を読み込み、不明点を広報PR担当者に確認し、再びメディアへ問い合わせる。こうしたやりとりが重なることで、無駄なキャッチボールが増え、メディア側の手間にもなります。調整不足により取材対応までのスピードが落ち、結果として機会損失につながりかねない。犬飼さんは課題のひとつだと指摘します。
3.問い合わせ対応に追われる受け身の姿勢
問い合わせがひっきりなしに入る環境では、日々の対応に追われ、主体的な広報PR活動に手が回らなくなることもあります。本来は、社内のニュースを自ら拾いに行き、「攻めの広報PR活動」を目指したい。しかし現実には、寄せられた依頼に対応することが優先され、当たり障りのない内容をプレスリリースとして出すだけの「受け身の姿勢」に陥ってしまっている企業もあるのではないでしょうか。こうした状況は、取材が定期的に入る大企業や、複数名の体制で広報PRを運営している組織ほど起こりやすい課題だと犬飼さんはいいます。

判断ルートを最短化し、取材機会を逃さない体制を
属人化や調整不足による機会損失を防ぐために、犬飼さんが着手したことのひとつが「判断ルートの最短化」です。
そのきっかけとなったのが、広報PRに着任して間もない頃の失敗。テレビ局から「暑さの中で売れている商品はないか」と問い合わせを受けたものの、丁寧に対応しようとリサーチや確認に時間をかけた結果、回答が遅れてしまうことに。返答したときにはすでに他社が同様の情報を提供しており、取材機会を逃してしまいました。
メディアは常に複数の企業へ同時にリサーチをかけています。だからこそ重要なのは、迅速・正確・丁寧に、かつニュース価値のある情報を届けること。その体制を仕組みとして構築する必要があると痛感したといいます。
まず見直したのは「現場との連携フロー」。多忙な売り場担当者にとっては、広報PRからの依頼は「余計な仕事」と受け取られることも。そこで、現場負担を最小限に抑える体制へと転換しました。
- ブランド側と直接連携できる関係を構築
- 取材リサーチが入った段階で自ら各店舗を回り、商品をヒアリング
- 商品の写真を撮影し、価格や特徴を整理・リスト化してメディアへ
- メディアの選定後は、現場には決定事項のみを共有
ブランド側と直接やり取りを済ませ、売り場には「ブランド側へ依頼済みで、担当者の了承も得ています。資料を渡してください」と電話一本入れるのみ。売り場側は細やかな調整を行う必要がなく、本来の業務に集中しながら取材対応をできる仕組みです。
大切なのは、「取材は売り場にとってプラスになる」という認識を醸成したうえで、現場の関与ポイントを最小化すること。このフローを徹底したことで、取材の機会を逃さない体制を実現したといいます。
取材依頼書は「現場がすぐに動ける形」に
次に、犬飼さんが取り組んだのが「取材依頼書」の運用改善です。メディアから届いた企画書をそのまま現場に渡すのではなく、広報PR担当者が一度咀嚼し、現場にとって必要な情報だけを整理した「社内用の取材依頼書」として、項目をより細かく整えていきました。テンプレートを統一して共有することで、現場はひと目で「どのような取材で、何を準備すればよいのか」を理解できるようになったそうです。
例えば、企画書に「アナウンサーの試食」と書かれていた場合、箸やスプーンはテレビ局が持参するのか、それとも売り場で用意するのか。こうした細かな確認を怠ると、忙しい現場にとっては「余計な仕事が増えた」という不満につながりかねません。小さな行き違いの蓄積によって売り場からの協力体制は築きにくくなります。曖昧な表現を具体化し、必要な情報を整理したうえで共有することを徹底した積み重ねが、年間約500件のテレビ取材、新聞やラジオなども含めると年間2,000件ほどの取材対応を支える土台になりました。
そして、社内用の取材依頼書で特に重視したのが、メディアの言葉を「現場がすぐに動ける形」に翻訳すること。押さえるべき必須項目は次の5つです。
- 出演:担当者が出演するのか、インタビューのみか、作業風景の撮影か
- 日時:取材日時、放映・掲載日時、所要時間の目安
- 作業:事前準備や撮影内容、メディアが求める画の確認
- 質問:事前に届いている質問事項の整理
- 在庫:放映・掲載日に十分な在庫が確保できるか
出演については、現場担当者がテレビ出演を望まないことも。その場合は犬飼さん自身が代弁者として対応するなど、機会損失を防ぐために柔軟な判断をしていたといいます。特に注意が必要な在庫については事前確認を徹底し、放送後に商品が足りないという事態を起こさないよう慎重に進めたそうです。
メディアに選ばれる取材環境のつくり方
メディア視点で「取材しやすい環境」を整えることも大切です。常に意識していたのは、「現場で何が必要になるのか」を具体的に想像し、先回りして準備しておくことだったそう。
- 試食がある場合、箸はどちらが用意するのか
- 商品撮影の際、皿やカトラリーはあるのか
- 断面撮影に包丁は必要ではないか
- 撮影場所や背景は確保できているか
- 生中継の場合、売り場のBGMは調整できるか
撮影当日に備品が足りず慌てて準備することも多かったため、最終的には箸や皿、マット、背景用の幕などをまとめた「撮影キット」を常備。メディアが手ぶらで来ても、ひと通りの撮影ができる環境を整えたとのことでした。
また、メディアの立場に寄り添う姿勢も大切にしていたひとつだそうです。例えば、消費税増税時、大きなメリットが見込める取材でなくとも、「メディアとの関係構築の機会」と捉え、増税による変化に関する取材協力を決めたといいます。
しかし、増税対応に追われている現場にとって取材対応は大きな負担になります。それでも実現できたのは、広報対応が仕組み化されていたからこそ。プライスカードを印刷する時間や大型プライスボードの付け替え工事のタイミングなど、各売り場に丁寧にヒアリングを実施。それらの情報を整理したうえで、一本のタイムスケジュールに集約しました。
そして「何時に、どこで、どのような画が撮れるのか」まで明示したうえで、「増税に関する取材を希望するメディアの方は〇月〇日〇時にお集まりください」とメディア各社へ公平に案内。結果、10社ほどのメディアが集まり、同時取材が成功したそうです。
現場の負担を最小限に抑えながら取材を受け切る。この対応が信頼につながり、取材後には次の催事企画への提案も行うなど、継続的なメディアとの関係構築へと発展していったといいます。

取材フローを「見える化」するテンプレート
ここからは、今回のセミナーでも活用場面が挙がった、「Jooto」のテンプレートを紹介。現場の苦労を知っている犬飼さんならではの実務目線で設計された内容になっています。
実際のテンプレートはこちらからご覧ください。
1.全体進捗を見える化

このテンプレートでは、「取材依頼」→「取材依頼書生成」→「取材完了」とタスクを左から右へ動かしながら進捗を管理します。一番左側のリストに、取材依頼書などの雛形を置いておくと、複製して利用することができて便利です。また、チームでの対応ルールなど、共通認識として常に意識しておきたいものもここに保存する仕様です。
2.各取材の詳細を見える化
では、実際にメディアからの取材依頼が入った場合の流れを見ていきましょう。まず、取材依頼の電話やメールを受けた担当者が、「取材依頼」のタスクを作成します。

- まず押さえるべき一次情報である、「メディア名」「番組名」「取材日時」を視認性の高いタスクタイトルに入力します
- 次に、「基本情報」「取材テーマ」「取材当日担当者」「広報担当者メモ」などの詳細を入力します。必要事項はあらかじめ整理されているため、誰が受けても同じ精度でヒアリングすることが可能です
- 主管する担当者を選択後、テレビの生中継やラジオ、雑誌などメディアの種類をラベルでわかりやすく表示しましょう
- 入力した情報は、そのまま「取材依頼書」として自動生成して書き出すことが可能です
取材依頼から取材完了までのフローを定型化することによって、多数の取材を獲得できる仕組みをつくることで、質の高い取材対応の再現に近づけることができるのではないでしょうか。

まとめ:構造で成果を出す広報PRへ
年間500件ものテレビ取材に対応してきた犬飼さんがたどり着いた答え。それは、広報PR活動を「個人の力量」に依存させないことでした。
取材機会を逃さないために必要なのは、情報を正確に整理し、社内の連携を円滑にしながら、誰が対応しても一定の質を保てる状態を整えること。つまり、業務を「再現性のあるプロセス」にすることです。
取材依頼の受付から現場共有、実施、そして成果の可視化までを一元的に管理することで、確認の往復や属人化を防ぎ、スピードと精度を両立できる体制を構築。その積み重ねが、メディアから選ばれる広報PRへとつながっていくのではないでしょうか。
犬飼さん監修のJootoテンプレートは、「当時の自分にプレゼントしたい」と語るほど、現場の実務知見が詰まった設計になっています。
問い合わせ対応に追われる日常から一歩抜け出し、戦略的に発信できる体制を整える。本レポートが、日々多くの業務に取り組む多忙な広報PR担当者にとって、自社の取材対応体制を見直すきっかけとなれば幸いです。
Jootoは、PR TIMES MAGAZINEを運営する株式会社PR TIMESが事業展開しています。「Jooto」は、直感的に使えるレイアウトや親しみやすいシンプルなデザインを特徴とする、かんばん方式のタスク・プロジェクト管理ツールです。詳細についてはこちらをご覧ください。
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